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第4話 消えた二人

 それから、男爵邸の中は少し騒がしくなった。

 

 何の前触れもなく人が二人消えてしまったのだ。昼食時は男爵と来客者とは別に、メイドのメアリーと三人で食事をしたとの話で、外で作業をしていた庭師親子の話だと昼から外出した人物は誰もいないとの事だった。二人ともどこに行ってしまったのだろう。

 男爵には、心配だから一緒に探させて貰うよう話したが「お客様にその様な事させる訳にはいきません」と断られてしまった。男爵とメイドの二人で館の中を探しているが、四十分位経っても見つかった様子はない。

 「私たちも行こう」私はロジーに声をかける。

 「そうですね」そう言ってロジーは私と一緒に館を探してくれた。二階建ての男爵邸は、そこまで広くなく部屋数も少ない。二階を含めて全ての部屋を探しても、二人の姿は影も形もない。

 一階の玄関ロビーまで戻ってきた所で「どこに行ったのでしょうか」とロジーが不安そうに話しかけてくる。

 「他に探していない所ってないのかな」私がそう答えると、ランタンを手に持った男爵とメイドのメアリーが一緒に現れた。

 「ここに居られたのですか、応接間でお待ち頂いていて良かったのに。私共は今から地下室を見に行くところでして」

 地下室? 地下室があったんだ、この家。

「私たちも同行させてください」と私が男爵にお願いすると「地下室は、大変汚い所ですしそこにお客様をお通しするわけには・・・」男爵は断ってきた。

 「ゾフィが心配なんです」私が食い下がってお願いすると、少し考えて「わかりました。メアリー、ランタンをもう一つ持ってきてくれ」

 メアリーが言われた通りランタンを持ってきてそれぞれのランタンに火を付けたところで「では行きましょう。こちらです」そう言って、男爵は館の裏側にある地下室の降り口に案内してくれた。

 

 地下室の入り口には扉は無く、地下室の入り口付近までうっすらとではあるが光が届く。しかし中に入っていくと暗闇が深くなる。中は通路が一本あるだけで扉が見当たらない。すると通路の突き当たりの壁を向こう側からドンドンと叩く音がする。

 「お父様! エレーナ叔母様! メアリー! 誰かここを開けて!」女の子の声がする。

 ゾフィ? ここに閉じ込められていたのか!

 「ゾフィか?」と男爵が声をかける。

 「今開けるぞ!」そう言うと、男爵が何本も鍵がぶら下がった鍵束の中から鍵を探し始めた。そして一本の鍵を壁に向かってかざし「開け」と言った。すると、壁の一部がこちら側に開いた。

 秘密の扉と魔法の鍵! ファンタジーっぽい! と感心していると、中から黒髪の少女が飛び出してきた。

 「お父様!」涙でぐしゃぐしゃになった顔の瞳は赤と青のオッドアイ、埃で汚れた黒髪は背中まで長い。

 間違いないゲーム『キャンディデイト プリンセス』の主人公ゾフィだ。埃まみれで顔は涙でぐしゃぐしゃだが、ゲームのイラストよりも実物はもっともっと美少女だ。

 「ゾフィ、良かった」男爵は、ゾフィの身体に異常が無いのを確かめるとそっと抱き寄せる。

 「誰がお前をここに?」

 「わかりません。お部屋でエレーナ叔母様とお勉強をしていたら急に眠くなって、起きたらここに・・・。そう言えば、エレーナ叔母様はどちらに?」そう言うゾフィの背後に、靴を履いた人の足が見える。

 「ロジー」

 私は、ランタンの光が部屋の中を照らす様にロジーに無言で促す。ロジーはうなずき、ランタンの光をそっと足が見えた方に向けた。するとランタンの光の中に胸をナイフで貫かれた女性の姿が浮かぶ。その人物は、壁に頭をもたれ掛かるように壁際に倒れていた。口の端から血が垂れているのが見える。

 「ひぃ」思わず声が出た。その声に反応して残りの人の視線も、光の中に浮かんだ人物の姿に集まる。

 「エレーナ叔母様?」ゾフィがその姿を見て呟く。

 

 「い、嫌ァー!!」

 「キャー!!」

 ゾフィとメアリーの悲鳴がほぼ同時に部屋の中に響く。

 「エレーナ?」男爵がゾフィの身体を離して、ゆっくりと死体に近づく。

 次の瞬間ゾフィが今まで暗闇にいた恐怖と死体を見た恐怖が重なったのか、気を失い糸が切れた人形の様に膝から崩れる。

 「ゾフィ!」私は慌ててゾフィの身体を支える。

 「男爵、ゾフィが! 急いでここを出ましょう!」

 「わ、わかりました」男爵はそう言って部屋の外に出た。扉を閉めると、カチリと音がした。自動で鍵がかかった様だ。

 私はゾフィをロジーに預け、地下室の入り口を目指す。地下室から出て周りを見ると、残りの人たちも恐怖を目に浮かべて地下室から出てきている。

 「ロジー、気付け薬を!」私はロジーに言うと、ロジーは懐から気付け薬の入った小瓶を取り出し、ゾフィに嗅がせる。コホコホと咳き込みながらゾフィが目を覚ます。

 「何事ですか!」気付くと庭師親子を先頭に、数人の男性が集まって来ている。今日の会合の客だろうか。

 私はその中に、初老のウチの御者を見つけると「ソレスタ! 急いで守備隊の詰め所に行って人を呼んできて! 中で人が死んでいる!」と命じた。ソレスタは無言で数回頷くと、馬車まで走っていく。

 「叔母様・・・。おばさまぁ・・・」見るとゾフィがロジーにしがみついて泣いていた。かく言う私も、今になって足が震えてきた。メアリーに至っては、腰が抜けたのか立ち上がれないでいる。

 「なんでこんな事に・・・」男爵は呆然として立ちすくんでいる。

 いや、おかしい。この世界って『キャンディデイト プリンセス』のゲーム世界の中よね。ゲーム内で殺人事件が起こるなんてシナリオに無かったはず。

 何が起こっているの?

 恋愛シミュレーションロールプレイングが本格ミステリーアドベンチャーになるなんて聞いてないんだけど! 

 私は心の中で叫んだ。


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