第18話 エピローグ(諸々の後始末)
「マーガレット、あなたクルス家のお嬢さんをいじめてたって本当なの?」その日の夜、食事が終わり一息ついていたところで、母フレデリカに私はいきなり言われた。
「う、なぜその事を・・・」
「ロジーに全て聞きました。あなたのこれまでの所業も全部」
「そ、そうなんだ・・・」
「『そうなんだ』じゃありません! あなた何てことしてくれたの! クルス男爵家は古くは王家の教育係をしていた名家なのよ! 国王ともご友人としてお付き合いのある方だし・・・」
「いや、困った事をしてくれた」父ルーカスも困り顔で言う。
「だ、だけど今日ちゃんと行って謝って来たし、ゾフィの家で起きた事もちゃんと解決してきたし・・・。そうだ、ロジーはどこ? ちゃんとロジーに聞いてよ!」
「ロジーなら辞めました。あなたが悪いとは言え、主人の告げ口をするような事はしたくないし申し訳ないと言って。まあ残っても、あなたが彼女に仕返しをする事になるだろうから私もその方が良いと思ったわ」
仕返し? いや、そんなことしないって!
「まったく、これまで私が甘かったわ。あなたの横暴さは耳に入っていたけど、ここまでとは・・・」
「けど、ちゃんと謝ってきたし・・・」
「あなた一人が謝ったからと言って、全て解決するわけないでしょう! ああ、ルーカスどうしましょう?」
「とりあえず、時間を作って謝罪に行こう。話はそれからだ」
「そうね。それとマーガレット」
「は、はい?」
「覚悟なさい、今後はあなたのその腐った性根を一からたたき直します!」
「いや、ちょっと待って! 幼児虐待反対! もう二度としませんからぁ!」
「信用できるか! このバカ娘!!」その後、二時間弱に渡って二人からお説教が続き、私は学園以外への一ヶ月の外出禁止プラス反省文一日五十枚の罰が下ったのであった。ホント、昔の私のバカ!!
二週間後、私が自室で反省文を書いていると、突然母が部屋に入ってきた。
「マーガレット。あなた何をしたの?」
「え? 何もしてませんけど? 何かあったの?」
「お城から来るようにと言われたわ。すぐに支度なさい」
お城に着くと、私たち家族は王の謁見の間にすぐ通された。そこにはあの日、作業着姿だった国王様が今度は王冠をかぶり、正装した格好で玉座に座っていた。向かって右隣には王妃様もおられた。私たち一家はすぐに玉座の前でひざまずいた。
「急ですまなかったね」国王様は私を見ると微笑んでそう言った。
「陛下、今日はどういったご用件で・・・」父ルーカスが国王に跪き挨拶をすると国王は「いや、突然で悪かった。今日呼んだのは、クルス男爵の家で起きた事件の事でな。あの後どうなったのか、聞きたいだろうと思ってね・・・」と父に向かって言った。
「いやしかし、私は今でも信じられません。私の娘が事件を解決したとは・・・」
「私がこの目で見たのだから確かだよ。さて、あの後ガストン氏によって毒の解析が行われて、メアリーの体内の毒とレギウス公爵の剣に残っていた毒が同一の物だと分かった。そこでメアリー毒殺の件とヒルズ子爵夫人の件で彼を問いただしたところ罪を認めたので、ヒルズ子爵とレギウス公爵の家を捜査した。そしてヒルズ子爵家からはヒルズ子爵夫人の手による告発文と横領の証拠、そしてレギウス公爵の家からも横領の証拠と間者の遺体が数体見つかった。それらの証拠を下にヒルズ子爵は爵位剥奪および財産没収した上で王都追放、レギウス公爵は極刑に処したかったのだが、これまでの業績もあり極刑については反対する意見も多かったので、領土没収し北東の僻地に幽閉となった」
「まったく甘いですわ。あれだけの事をしでかしたのですから、極刑で良かったのに・・・」隣に座っているナスターシャ王妃が険しい顔で言った。
「あの、何がどうなっているのかよく分からないのですが・・・」私の隣にひざまずいた母が説明を求める。
父と国王から説明を受けた母は「信じられません。この子が事件を解決するなんて・・・。学園では文章を書かせると一行に三回はスペルを間違えて、先生方からは『歩く暗号製造機』と恐れられているのに・・・」
イヤ、すみません。こんなところで、そんな不名誉なあだ名公開しないで。明日から、いや今日から頑張りますから!
国王はそれを聞いてハハと笑うと「それ以外にも、フォーサイス嬢には礼を言いたくてね。あの後、マシューが久しぶりに私と話をしてくれてね。とは言え、ほとんど私に対する文句だったが。彼なりに私たち家族がどうなるか、不安だったらしい。弟にどう接したら良いか戸惑っているとも。その事について、私から謝罪もできたし今後についても話すことができた。そしてなぜ話す気になったか聞くと、君に諭されたからだそうだ。あの子が落ち込んでいるときに話をしてくれたそうだね。本当にありがとう」
あまりそういった意図はなかったんだけど、素直になって話ができたなら結果良かった。
「さて、この度の事件解決の褒美を何か君にはあげたいのだが、何か望みはあるかな?」
褒美ねえ、そう言われてもすぐには思いつかない。
「いえ、特にこれといった物はないので・・・」
「そうか。しかし、何もないというのもなんだ・・・。少し申し訳ないというか、しかし、これは褒美と言って良いのか・・・」なぜか、国王の言葉の歯切れが悪い様な・・・。
「父上!」すると突然、聞き覚えのある声が国王の後ろから聞こえた。王座の後ろに垂らされた緞帳の陰からDQNが姿を現した。
「何を渋っているのです。もう良い、自分で言います。マーガレット・ブライアント・フォーサイス! お前を俺の婚約者とする!」
ハァ? 何言い出すんだコイツ。頭でも湧いたか?
「お前が事件解決した褒美に、王子である俺の婚約者にするといっているんだ。どうだ、これ以上の褒美はあるまい。なんせこの俺は・・・」
「・・・お断りします」
「ヘッ?」
「謹んでお断りいたします。何でアンタみたいなのと婚約・・・ムグ?」ここで突然隣にいる母に口を塞がれた。
「ありがとうございます、マシュー王子。そのお話し喜んでお受けいたします。この子も照れてるだけですわ。ホントに素直じゃないんだから」
「ちょっと、母上。何なんです」私は小声で抗議する。
「お黙りなさい。フォーサイス家始まって以来の名誉なお話なのよ。素直にお受けしなさい」
「そうだろう。まあ、この俺は将来の国王だからな。その婚約者という事は、お前は将来この国の王妃になるって・・・」
「お待ちなさい、マシュー。まだあなたが国王になれると決まったわけではありません。ウィリアムがいるという事を忘れてないでしょうね」王妃がここで口を挟んできた。
「いや、しかし母上。アイツは正当な血筋じゃないし・・・」
「血筋など、国を維持するためには関係ありません。双子の兄弟である以上、優秀な方が王位に就くのは当然の事。加えて私はまだフォーサイス嬢をあなたの婚約者と認めた訳ではないのですからね」
「母上、そんな・・・」マシューが情けない声を出す。
私は思わぬ助け船に内心喜んでいた。だって転生してから一ヶ月も経たないのに、いきなり婚約だとか言われても理解が追いつかない。それにせっかく転生したんだから、王妃だとか責任の重い人生じゃなくのんびりまったりと貴族人生謳歌したいじゃない?
「あくまでも今はという話です。これからの努力次第では、その考えも変わるかもということです。わかるわね?」王妃はそう言うと意味ありげな笑みを浮かべる。
あ、そういう事ですか。マシューも私ももっと頑張れと。
そりゃまあ今後もこの世界で生きていくために頑張りますけど、それはあくまで王妃になるためじゃなく、のんびり人生を謳歌するために頑張りたいっていうか・・・。
このまま文章を書くのもスペル間違えだらけのアホのまま生きていくのもイヤだし・・・。
しかし、頑張りすぎるとコイツと結婚させられるということに・・・。この加減をどうするか悩ましい。
そういや、ウィリアム王子って確かゲームの中では最終攻略キャラだったな。黒髪の超イケメンだった様な・・・。そういやマシューってあのゲームの中で出てきたっけ? なんせ昔にやったゲームだったから(ゾフィの可愛さ以外の)記憶が曖昧で・・・。
マシュー・・・ ましゅー・あすとれりあ・・・ マシュー・アストレリア?
次の瞬間「アギ☆△○※ャ――――――!!」という獣が断末魔に出すような叫び声が謁見の間に響いた。それが自分の口から発せられた物だと気付くのと同時に、意識が遠のいていく。
「ど、どうした?」
「オホホ、この子ったら。今になって事の重大さに気付いたようですわ」
違う、そうじゃない。思い出した!
ゲームでマーガレットが試験に失敗した挙げ句地方に飛ばされた際、王家からも追放されて一緒になって反乱を起こして失敗し、一緒に処刑されるおバカキャラの名前が確か『マシュー・アストレリア』!
オマエ、六年後に出てくるモブキャラじゃなかったの?
何今出てきてんのよ!
しかも、婚約者って・・・。
超特大死亡フラグじゃない!
マズイ! このままいくと確実に死亡ルートに乗ってしまう!
この婚約、絶対に破棄して死亡ルートだけは回避しないと!!
私は薄れいく意識の中でそう固く決意するのであった。




