第17話 仲直り
地下室から外に出ると陽はすっかり傾きかけていた。辺りはオレンジ色に染まり木々の影と陰影を作り出していた。私はその光景に一瞬目を奪われた。まるで地下室での出来事が別世界でのことだったように感じられた。
地下室に入った残りの面々も、ゾロゾロと出てくる。国王がマシューの肩に手を置くと、マシューはそれを振り払い表の庭の方にかけていった。
他人の家庭の事情とは言え、中々面倒くさい事になっている。
「マーガレット様」ゾフィが私に話しかけてきた。
「うん?」
「今日はありがとうございました。おかげで父も私も助かりました」
「ああ、そうね」結構ギリギリだった気がするけど。
「私からも礼を言います。この子がやったと言い出したときにはどうなるかと思いましたが」クルス男爵が横から言う。
「ホントよ、ゾフィ。状況が悪かったとはいえ、あんな事言っちゃダメよ」でもそういう事ができる子なのよね。そこが彼女の魅力でもあるんだけど。
「はい、本当にごめんなさい。ところでマーガレット様、今日はどうしてこちらに来られたのですか?」
ウ、そうだった。肝心なことを忘れていた。
「お嬢様」ロジーも促してくる。
「実は、あなたのお見舞いに来たのよ。その・・・私の掘った穴にあなたが落ちたことも謝りたかったし・・・。その、今までも色々と意地悪してきたじゃない? それで、今回の穴のことも含めてあなたには色々意地悪していたことが申し訳なくというか恥ずかしくなってきて・・・。あなたに謝りたくなって来たの。その・・・今まで意地悪して本当にごめんなさい。今後、二度としません」そう言って私は頭を下げた。
「・・・そうだったんですか。私、今まで色々されるのは私に至らないところがあったからだと思っていました・・・」
「イヤイヤ、そんな事じゃないから。意地悪をしていたのは、全て私自身のせいだから。あなたは何も悪くないの。その・・・それでね、こんな事を言うのもおこがましいし拒否してもらって良いんだけど・・・」ホントに自分でも厚かましいとは思う。
「・・・その、お友達になってくれる? 今までのこともあるから、嫌だったら良い。けど、私は貴方とは本当の意味でお友達になりたいと思っている。今までのことを許さないって言うのならそれで良い。それでも私は・・・」
「マーガレット様」ゾフィは不思議そうな顔をして「私は、マーガレット様のことをお友達だと思っていますよ」と言った。
「ゾフィ・・・」私は感極まってゾフィを抱きしめた。
「今まで本当にごめんね」
「本当に気にしていませんから、マーガレット様」ゾフィ、なんて良い子!
「ありがとう。それでね、ゾフィ。ずっと気になっていたんだけど、私に『様』って付けるの止めてもらって良い?」
「エ? ですが、マーガレット様の家は伯爵家ですし、家格は私の家より上ですし失礼では・・・」
「私たち友達でしょ? 『様』は止めよう」
「えっと、・・・分かりました。マーガレット」今日一番の笑みでゾフィは言った。ヨッシャー! 任務完遂! 長かった、本当に長かった!
ゾフィとの仲直りが終わり、地下室のある裏口から表の玄関に回るとモースとエドガーが他の兵士達と一緒に馬車に乗り撤収するところに出くわした。モースは私を見ると「よう、お嬢ちゃん。お疲れ」と声をかけてきた。
「『お疲れ』じゃないわよ、モース。アンタどうしてお酒のことを黙っていたのよ」
「ま、言う前に色々あったからな。それに、あれだけじゃ宰相を追い詰めるのは弱かったしな」
確かにそうだ。
「今日は、本当にありがとうね。色々助かったわ」
「イヤイヤ、助かったのはこっちだよ。さすが、フォーサイス伯爵のお嬢さんだ。俺たちだけだと、ああはいかなかった」
そうは言ってくれたけど、時間さえあればコイツとガストンで事件を解決してたんじゃないだろうか?
「オイ、そろそろ行くぞ」エドガーがモースを促してくる。
「分かった、今行く。じゃ、お嬢ちゃんまたな」
「またなって『また』? いやいや、今日みたいな事何度も起こってたまるか!」
「ハハ、確かにな。じゃあな」そう言ってモースとエドガーは馬車に乗って去って行った。
そういやアイツはどこに行ったと思って庭を見渡すと、庭の隅の方でマシューを見つけた。一応、殴った事を謝っておこうと近寄っていくと「何だよ」と言って凄んできた。とは言え声にあまり力がない。
「イヤなんか、殴って悪かったなーと。一応謝っておこうかなって―」
「うるさい、そんな事どうでも良い。向こういけ」おお、一丁前に落ち込んでいる。
「しかし、アンタ王子様だったのね。そんな雰囲気まったくなかったけど」
「うるさいって言っているだろ」
そりゃ、ショックだろう。兄弟だと思っていたが弟が実は腹違いで、しかも父親の浮気でできた子どもだったというのは、受け入れるには重い話だ。けど正直あまり同情する気にはなれなかった。だってねえ、コイツの今までの態度ときたら・・・。おまけにゾフィに対する仕打ちも、私は許せなかった。
家族か・・・王族も一般庶民も複雑になると難しいよね、等と考えていたら私の前世での家族の顔がふと頭に浮かんだ。ごくどこにでもいる普通の家族だったと思う。私はその家で普通に育ち、普通に学校に通い、普通に就職した。考えてみたらそれはすごく幸せなことだったし、すごく幸運な事だったと思う。そして、今はもう会うことはないであろう家族の顔が頭に浮かんだ。遠くに来てしまった。二度と会えないんだなと考えると、もっと色々伝えておきたかった想いが頭をよぎる。
「まあ貴方も大変だろうけど、言いたいことはちゃんと伝えなきゃダメよ。家族なんて、誰でも選べるわけじゃないんだから。王族になんて生まれて色々言われるだろうけど、そんな外野の声より大事なのは自分の気持ちなんだから。ちゃんと話し合いなさい」
「うるせえ・・・」夕日が目に入ったのか、少しまぶしそうな顔でマシューは私を見る。
「うん、もう何も言わない。じゃあね!」そう言って私はもう行きましょうというロジーの声に応えて玄関に留めてある馬車に乗り込んだ。そして、ゾフィとまた学園で会おうね! と笑顔で話して男爵家を後にした。




