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第16話 真相

 一瞬、地下室を重い空気が支配する。


 「フッ」次の瞬間レギウス公爵は鼻で笑った。

 「実に想像力豊かなお嬢さんだ。実に面白い」

 「お話には続きがあります。こうしてエレーナ様を殺害したあなたは、次はメアリーを始末する事にしました。彼女は知りすぎていたからね。上の階に戻ったあなたはメアリーと密かに彼女の部屋で会い口止め料として金貨を渡しました。加えて酒好きな彼女に礼として酒を飲ませました。その際、酒の中に毒を入れました」

 「私なら毒が入っていると思われる酒なぞ飲まんがね」

 「ええ、ですからあなたは彼女が怪しまない様にお酒の中に入れても怪しまれない物・・・例えば氷を入れて飲ませたんです。氷には毒が仕込んであって、数時間後に毒で彼女は命を落とす」

 「ハハ、下らんな。大体そのメアリーとか言ったか、その女がなぜ私の言う事を聞くんだ?」

 「それは、あなたとメアリーが男女の仲だったからですわ」

 レギウス公爵が無言で地下室の中に入って来る。そして私の側で立ち止まった。

 「面白い、それで?」

 「実はあなたとメアリーは男女の仲だった。ほんの数ヶ月前にそういう仲になった。なぜ彼女とそういう仲になったのかというと、恐らく男爵家の内情を知りたかったから」私はレギウス公爵の目を見ていった。

 「なぜそんな事が知りたかったのか。それはエリーゼ様を殺さなければならなくなったから。あなたがエレーナ様の不倫相手でしょう?」ゾフィがハッと言うのが聞こえた。

 「恐らくエレーナ様とあなたの不倫は、エレーナ様がヒルズ子爵に嫁いでから始まったのでは? ヒルズ子爵はエレーナ様をあなたに差し出す事であなたとの関係を作りたかった。そして、あなたはヒルズ子爵と組んである事に手を染めた」

 「ある事?」エドガーが聞いてくる。

 「国庫の横領」私は答えた。

 「なぜそれを!」エドガーは驚いて言った。

 「外で聞いていたのよ。国庫の横領は、ここ二~三年ではなくもっと前から行われていたのでは? だけど近年額が大きくなってきたのでさすがに周りに気付かれてしまった。隠蔽しようとしたところで、あなた達が横領に関わっている事をエレーナ様に知られてしまった。彼女を始末する必要にかられたあなたは、同時に横領の罪を被せる人間も思いついた。それがクルス男爵だった」クルス男爵が驚いてレギウス公爵の顔を見る。

 「そこであなたはメアリーに接近して男爵家の内情を聞き出すのと同時に、この屋敷の鍵の欠陥についても聞き出した。そして、エレーナ様を地下室で殺害する方法を思いついた。この屋敷でクルス男爵にしか実行できない状況で人が殺されたら、世間は誰も男爵の言う事など耳を傾けなくなる。後は適当に証拠をでっち上げて男爵に罪を被せれば終わり・・・というはずだった」

 「だった?」クルス男爵が聞いてくる。

 「ゾフィも一緒に地下室に閉じ込められているという、予想外の事が起きてしまったから。本来いるはずのない彼女が、なぜかエレーナ様と一緒に地下室にいるという事が起きた。計画外の事が起き本来疑いがかかる男爵ではなくゾフィに疑いの目が行くという事態が生じてしまった」

 「では、誰がゾフィを地下室に・・・」

 「・・・それは恐らくエレーナ様かと。彼女は自身の身に危険が迫っているのを感じていたのと同時にクルス男爵にも危険が迫っているのを察知して、もし自分の身に危害が及んだときクルス男爵ではなく他の人間の関与があったという状況を作り上げたかった。そこで不本意ではあったでしょうけど、ゾフィを薬で眠らせて一緒に地下室に連れてきた」

 「叔母様・・・」ゾフィが悲しそうに言った。

 「だけどエドガーが男爵に疑いの目を向けた事で、公爵の思い通りになろうとしていたのだけど」

 「――フフフ。ハァ――ハッハッハ! 実に面白い娘だ。想像だけでそこまでの作り話を思いつくとは、実に素晴らしい才能だ。戯曲家にでもなってはどうかね?」レギウス公爵が腹を抱えて笑う。

そう、正直自分でも飛躍しすぎた話だと思う。しかし、前世で二十九年間女としてやって来た『女の勘』が言っているのだ。コイツが一番怪しいと。


 私は二十九年女として生きて来て、男は二種類いる事を学んだ。誠実な男とそうでない男だ。前世の私の外見は俗に言う『地味子』というヤツだった。そして保育士というこれまた地味な仕事をやっていたが、仕事柄子どもの保護者に接する機会も多かった。そこではもちろん男性の保護者と接する事もあるのだが、その中には勘違いしているとしか思えない、パートナーがいるのに私たち保育士にアプローチしてくる男の保護者が、数年に一人の割合でいたのだ。地味子の私にも声をかけてくる物好きもいた。同僚の中にはその誘いに乗ってしまい、身を破滅させた者もいた。そういった経験から、私は危険な空気を持つ男を見分ける様になっていた。


 で、目の前で腹を抱えて笑う男からはそういう危険な男の匂いがプンプンする。もちろん彼を疑う理由はそれだけではない。

 「あなたなら国の財政を動かすのも自由にできたはず。加えて、ここでの調査を打ち切らせようとしましたよね?」

 「確かに国の財政に近いのは事実だ。しかし、私が横領をしたという証拠はない。加えて調査を続行しても成果が出そうにないと考えたから、打ち切りを提案したのだ。騎士団ではなく一般の兵には荷が重すぎると思ってね」

 「では、男爵に書斎の部屋の鍵を開けさせたのはなぜです? 大した話をするわけでもないのに」

 「私はその必要があると思ったから開けさせただけだ。ここの鍵と連動しているなどと思ってもいなかったさ」

 まあそうだよね。実は怪しいというだけで具体的な証拠という物がここまで一つもないのだ。公爵がエリーゼ様やメアリーと一緒にいるのを見たという人間がいるわけでもないし、鍵の事は知らなかったと言われればそこまでである。

 内心、私はかなり焦って来ていた。

 「そこまで言うなら、私が二人を殺したという明確な証拠でもあるのかね?」レギウス公爵が勝ち誇って言う。


 私は賭けに出る事にした。


 「確かに、エリーゼ様を殺したという明確な証拠はないでしょう」

 「だろう?」

 「ですが、メアリーを殺した証拠ならまだ持っているかもしれない。私、あなたが腰に剣を差しているのがずっと気になっていたんです」

 公爵は腰に差した剣をとっさに掴んだ。

 「こういった話し合いの場に剣を持って現れるのって少し不自然じゃないかって。護衛を付けたくないっていうのが理由かもしれませんが、それにしても敵地じゃあるまいしあまりにも臆病じゃないかと」

 「私が必要だと思ったからだ! どこに何を持って来ようと私の自由だ!」

 「そうですか。ではその剣、少し調べさせてもらってもよろしいですか?」

 「な?」

 「メアリーは毒殺されました。しかし、犯人が毒をどうやってこの家に持ち込んだかが未だ分かっていません。氷に毒を仕込んで持ち込むにしてもその入れ物が必要なはず」

 「それがこの剣と何の関係がある!」

 「例えばその剣に仕掛けがあって、中に物を入れられる様になっていたとしたら?」私がそう言うと公爵は剣から手を離し険しい顔になった。

 「そこまで言うか小娘。言っておくが何もなかったなら只では済まさんぞ」

 「ええ、その覚悟はできています。それとも何か後ろめたい事がおありで?」なければ剣を調べさせるはず。あれば難癖付けて断ってくるはず。

 「――そこまで言うなら仕方あるまい。エドガー君、剣を調べたまえ」

 「剣を調べるのはエドガーではなくて、ガストン様ですわ。彼は毒を検知する魔法が使えるので」

 「・・・そうか」

 公爵はそう言ってガストンに剣を渡そうとした。


 ヤバい、素直に渡すの?

 やっぱり間違えた!

 私に推理なんて無理だったんだ!


 しかし、次の瞬間ロジーが「お嬢様!」と叫んで私に飛びかかってきた。それと同時に公爵が私に向き 直り「このクソガキ!」と叫んで剣を振り下ろしてきた。

 剣は私とロジーのほんの数ミリ先を通過して床にキンと鈍い音を立てて転がる。

 見るとレギウス公爵は後ろからモースに組み敷かれている。

 「大丈夫ですか? お嬢様」ロジーが心配そうに声をかけてくる。

 「ええ、大丈夫。あなたは?」

 「大丈夫です」幸いロジーも無事な様だ。

 「良かった。ガストン! 剣を調べて!」私はガストンに叫ぶ。

 「は、はい!」

 「あの小娘がいかんのだ! よりにもよって私があんな女共とできていると! ふざけるのも大概にしろ! 私は・・・」

 「悪いがアンタとメアリーをつなげる証拠ならある」モースがレギウス公爵を組み敷きながら言った。

エ、そんな物あった?

 「王家御用達のシェリー酒がメアリーの部屋にあった。確かアンタの領地の特産品だったか? アンタには珍しい物ではないかもしれんが、俺たち庶民にしてみればあんな高い酒、めったな事ではお目にかかれない。女の気を引くためとはいえ、あんな良い酒を渡しちゃダメだろ」

 「出ましたぞ!」ガストンの声が地下室に響く。見ると例の紫の光が床に転がった剣の柄の辺りから発せられている。

 「貸して!」エドガーがそう言って剣を床から拾い上げる。剣をあちこち調べて柄の辺りを回し始めた。キュルキュルという音を立てて柄を回すと剣の刃と柄が外れた。

 「そ、それは自害用の毒を入れておく為の仕掛けだ。毒の反応があってもおかしな事ではない・・・」  公爵は言い訳がましく言う。

 「・・・ではその毒はどこにあるのです!」エドガーは柄の空洞部分を公爵に向けながら言った。中は空だった。

 「そ、それは・・・」

 「ちなみにですな。毒で亡くなったご婦人の体液、例えば血液等があれば、剣に少量でも残った毒があれば同じ物かどうか鑑定することが可能です」ガストンが言う。

 ・・・うん『鑑定スキル』最強だわ。

 「ハハ、それだけは止めてもらおうか!」公爵が叫んだ。

 「な?」エドガーが絶句する。

 「エドガー君、私は誰だ?」

 「レギウス公爵閣下です」

 「そう、私はレギウス公爵。この国の宰相だ。私がいなければこの国は回らんのだ。そこらの連中とは訳が違うのだ!」公爵はいきなりマウントを取り始めた。

 「わかるな? エドガー。私が捕まりでもしたら今後のアストレリアはどうなる? 南方諸国との交渉などは全て私が取り仕切っているのだぞ! いわば私がアストレリア王国その物なのだ! いいか、今日ここで起こった事は全て事故と病気だ。それ以外何も起きてはいない。二人死んだが全て病気か事故だという事にしろ」

 「クッ・・・」エドガーが苦悶の表情を浮かべる。

 「分かったら私の上に乗っているこの男をすぐにどかせろ! 私は・・・」

 「おいおいエドガー、勘弁してくれ。まさかここまで来てコイツを見逃すって言うのか?」モースが不満そうにエドガーに言う。

 「モース・・・」

 「そこまで。ウェンストン隊長、その男を君の兄上に突き出したまえ」そう言って突然庭師が会話に入ってきた。

 「な? 貴様ごとき下郎が何を言っている? 私は・・・」レギウス公爵が驚いて庭師に言う。庭師はかぶっていた作業帽を取り口元の長く伸びた無精髭も取った。その下からはきれいに整えられた髪と口髭が現れる。

 赤毛の端正な顔つきをしたその人は「残念です。義叔父上(おじうえ)」と言った

 「国王陛下?」シュターケン侯爵が驚いて言う。国王? なんでこんなところに?

 ていうか、いくら何でもご都合主義が過ぎない?

 「なぜこの様な所にそんな格好でおられるのです?」シモンズ子爵が尋ねる。

 「園芸は私の数少ない趣味でね。とはいえ王宮の庭木を勝手にいじったら、王宮付きの庭師に怒られてしまうのでね。こうやって友達の家の庭木を剪定させてもらっているんだ」

 「・・・ばらしてよろしいので?」クルス男爵が国王に尋ねる。

 「構わん。私の数少ない友人の為だ。加えて私はこのような暴挙は見逃せん」

 「な・・・アダムス、貴様! オリビアとの不倫をもみ消してやった私のことを裏切るのか!」

 「その事については、感謝はしています。しかし、オリビア夫人との不倫は全て私に責任がある。十八年前この国に国王として迎えられて来て右も左も分からない頃、未亡人で同じ故郷の彼女には色々世話してもらっているうちに好意を持ってしまい、過ちを犯してしまった。本当に愚かな行為だった。彼女に子どもが生まれた後亡くなり、彼女の子どもをナスターシャが私とのことを知った上で引き取り、双子の王子として育てるという決断をしたとき彼女の事は二度と裏切らないと誓った。しかし・・・」国王がマシューをチラリと見た。

 「悪いことはできないもので、あれから十四年経ってマシューとウィリアムは母親が違うのではないかという噂が流れる様になってから、マシューは私とまともに口をきいてくれなくなってしまった。私はそろそろ罪に向き合い、罰せられなければならなくなってきた様だ。さて、話が長くなって申し訳ないウェンストン隊長。アダムス・アストレリアⅠ世の名の下に命じる。エドモンド・レギウス公爵を国庫横領およびクルス男爵邸における殺人の疑いで捕縛せよ!」

 「ハッ!」エドガーはそう言うと、モースと一緒にレギウス公爵を立たせた。

 「おのれ、恩を仇で返すか! 許さんぞ、アダムス!」そう言って国王をものすごい形相で睨む。そして私の方を見ながら「小娘! 貴様もだ! 貴様の顔は忘れんぞ!」そう言いながらエドガーとモースに地下室から連れ出されていった。

 うわー、逆恨みも甚だしい。

 「さて、諸君。我々は家に帰ろうとしよう」国王が皆に向かって言った。

 「国王、ここで見聞きしたことは・・・」シュターケン侯爵が言うと国王は「言いふらして構わんよ。言っただろう? 罰せられる時が来た様だと」とシュターケン侯爵に言う。

 「いえ、ここで起きたことは私共の胸にしまっておきます」シュターケン侯爵は静かに言った。


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