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白と黒の教室  作者: 三ツ沢ひらく
番外編
30/30

真エンド『真実』

 

 コーヒーの香りで満ちるその空間に、その人たちは現れた。


 僕は居住まいを正してその二人に頭を下げる。「かしこまるなよ」と声をかけられて頭を上げると、その二人は僕を挟んでカウンターに座った。


「ありがとうな、さつきくん。巴の仇を討ってくれて」

「いえ。これは僕の意思です……巴さんのお兄さん(・・・・)


 一人は細身の男性。眼鏡をかけ、ベージュのジャケットを着た若狭(のぞむ)さん。

 もう一人は屈強な体躯のラガーマン、若狭(かける)さん。

 二人は巴さんの実の兄であり、僕が持つ攻略本の書き手でもある。


「本当はレク中にアドバイスしに来たかったんだけど、研究が忙しくて」

「俺も試合が立て込んでてよ。ごめんなあ」

「いえ、いいんです。結果、なんとかなりましたから」


 僕が彼らに会ったのは、高校受験前だった。「ホームズ」に寄った際にたまたま二人がいて、マスターに紹介してもらったのだ。その時に僕は巴さんが嶺和学園でイジメられて不登校になったことを知った。

 そして時間がない中で二人に頼まれたのだ。

 巴さんが学校に戻れるようにすることを。

 けれど僕は二人に言われなくてもそうしていた。巴さんを思う気持ちは二人に負けない。


「言われたとおり、巴さんが学園に戻れる環境を作ったつもりですが……彼女は海外留学を選んでしまいました。僕のやり方じゃあ足りなかったみたいです。すみません」

「いや、十分だよ。そもそも嶺和学園に入ってくれたことから感謝しないとな。俺たちと話したことを巴にバレないようにしてくれたのも」

「しかしよく受かったよなあ。志望校変更ギリギリだっただろうに」

「お兄さんたちに巴さんの話を聞いてから、めちゃくちゃ頑張りましたよ」


 攻略本を巴さんを通して送ってくれたことにも感謝しないといけない。

 彼らは人気投票レクで最強とも言える立ち回りで"キング"や"ビショップ"の座を当然のように得ていたとんでもない切れ者だ。

 彼らの攻略本がなければ僕はヱ梨香に負けていた。そう伝えると二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。


「そのヱ梨香っていう巴をイジメていた相手が、まさか人気投票レク廃止に向けて動いていたとはなあ」

「巴をターゲットにしなけりゃさつきくんの協力が得られたのに。馬鹿というかもったいないな」

「ええ。最初はかなり苦戦しました。プレ投票で尻尾を出してくれて本当によかった」

「で、その強敵もいまや地下行きか。人生終わったな」


 翔さんの言葉に僕は首をひねる。地下教室に入ると卒業まで上階に出られないとは聞いたが、今後の人生にまで影響するような場所なのだろうか。


「あの……地下教室とは一体?」

「行ってみないと分からない、地獄の教室ってね。なんでも生徒は監獄のような地下寮暮らし、その中では犯罪が蔓延っているとか」

「ええ? まさかこのご時世に生徒を監禁じみたことなんて」

「表では特別進学コースってことになってるからな。生徒が自主的に選んだってことになっているらしい」


 それが本当だとして、そんなところに行く生徒は一体どんなことをしたのだろう。ヱ梨香のように人気投票レクで不正したのか、それとも他の校則を破ったのか。

 いずれにせよ学園への不信感が強まる。


「やっぱり嶺和学園は……おかしい」


 僕の呟きに二人がうんうん頷く。


「今さらよ。卒業生から見てもおかしいさ。そして自浄作用がない。生徒会は指定校推薦狙いの生徒ばかりで教師の顔色を窺ってばかりだからな」

「人気投票レクに教師は関与していませんでしたよね。なら一体誰があんなレクを続けさせているんでしょうか」


 僕の疑問に二人は顔を見合わせる。そしてまたニヤリと笑って見せた。


「そんなの決まってるだろう」

「え?」

「学園の運営側(・・・)だよ」


 僕は話についていけずにポカンとする。そんなに当たり前のように言われても、僕にとっては初耳だ。


「まさか人気投票レクが本当にただのレクリエーションだとは思ってないよな?」

「も、もちろんです。生徒同士が生まれ持つ権力で階級ができないように……」

「って言われてるけどな。実際はそうじゃない。人気投票レクを通して運営側が生徒をランク付けしてるんだ」


 僕は今度こそ思考が止まった。だって、学園の運営側が、生徒をランク付け? してどうなる? 一体それになんのメリットが、


「で、ランク付けした生徒とそのデータを提携企業に送ると……あら不思議、優秀な学生を即スカウトできる」

「人気投票上位はほぼ全員生徒会入り、指定校推薦で箔をつけて有名大学に進学させて、就活の時期に提携企業が甘ーい勧誘で一本釣りするってわけだ」

「なん、え? じゃあ人気投票レクは……自分たちの会社に入れる学生をふるいにかけるためのもの……?」

「ピンポン大正解。だから俺たちは嶺和の提携企業には絶対に就職しないって決めてる」


 背筋が凍りついた。僕たちがあんなに必死になってなくそうとしていた人気投票レクは、大人たちが学生をデータ化するための手段だったのだ。

 ゾッとする。あのレクでどんなことが起こっているかも知らないで。


「だからこの仕組みはなくならない。俺たちは諦めて卒業したよ。もう嶺和に関わらないと心に決めてね。ただ……俺たちがそれに気付く前に巴が受験してしまったのだけが悔いだな」

「もし、それでも戦うなら協力する。――どうする、さつきくん?」


 僕が今後生徒会長になっても、運営側が人気投票レクの廃止を邪魔してくるかもしれない。

 そして今度の相手は大人であり学園であり、――その先にある企業でもある。

 僕は瞬きを忘れて混沌と絢爛の学園を思う。


「――やります。僕は人気投票レクを終わらせる。この間違ったシステムを、止める」


 手元のアイスコーヒーの中で、カランと氷が鳴った。もうすぐ生徒会選挙が迫っている。













(NEXT... ?)

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