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白と黒の教室  作者: 三ツ沢ひらく
三、白と黒の青春
18/30

第16話

 夏休みに入っても僕のすることといえば喫茶「ホームズ」でのアルバイトくらいしかない。宿題は当然後回しである。夏休みが終わる二日前くらいに手をつけるのが僕には丁度いい。

 そんな中でも入っていた予定はというと、大津の試合の応援だ。外進生で話し合った結果、決勝を観戦することになった。これは人気投票レク関係なく、大津を応援したい気持ちからの行動だ。

 会場は隣の県なので、みんなで駅で待ち合わせをして電車で移動することになっている。先に待ち合わせ場所に集合した僕たち男子は山口を待ちながらそれぞれの夏休みについて話したりして時間を潰す。


「あー山口まだかなあ。男三人じゃむさ苦しいって」

「でも山口は女子一人で気まずくないかな?」

「大丈夫だろ。あいつ(いん)に見えて実はそうでもないし、結構交友関係も広いし」

「お、おまたせ……」


 話していると山口が合流した。やや控えめなゴスロリ服を着た山口の隣にはなぜか白いロリータ服を着た長崎日菜がいる。


「あれ、長崎も来たんだ?」

「き、急にごめんなさい。邪魔にならないようにするので……」

「いいじゃん! 一緒に行こうぜ」


 金沢が満面の笑みで長崎を迎え入れる。きっと女子が増えて嬉しいのだろう。「あと……」と山口は自身の背後に目をやった。

 そこには猫背をさらに丸めた香川真奈と、その両脇に仁王像のように立つギャル二人――工藤と左古屋の姿があった。


「クラスメイトの女子に声かけてみたんだけど……」

「うわー! ナイス山口!!」


 金沢が山口の手を掴んでぶんぶん振るのを横目に、僕は香川たちに歩み寄る。


「三人も大津の応援に?」

「まあね。山口さんに誘われる前から行こうと思ってたんだ」

「沙良ちゃんの勇姿を見にね」


 工藤と左古屋の言葉に香川がコクコクと頷く。もしかしたら大津と秋田の勝負を一番気にしているのは、大津に庇われた香川かもしれない。決勝戦を見届けたい気持ちもひとしおだろう。


「よし、それじゃ行くか」


 水戸の先導で会場に向かう。隣の県といえど急行で三十分もかからない。電車の中で特になんでもない話題で盛り上がっていると、工藤に小声で話しかけられた。


「そういえばアタシらプレ投票誰に入れればいいの?」

「ああ、そっか。ちゃんと決めておかないと」

「余裕かましてるとすぐに夏休み終わって期末試験だよ」

「そんで、期末終わったらすぐプレ投票だからね」


 左古屋も話に乗ってくる。僕はどうもまだ二学期制というものに慣れず、元来の先延ばし癖もあいまって、まだ大丈夫だろうまだ大丈夫だろうと思ってしまう節がある。

 二人に急かされてようやく「あれ? 大丈夫か?」という気持ちがわいてきた。水戸にヘルプを求める視線を送ると助け舟を出してくれる。


「票の入れ方はもちろんプレ投票までに決めるよ」

「うん、そうして。実際さ、クラスの女子の間ではもうやる気満々なんだよね。例の計画」

「秋田の周り以外はね」

「そうなの?」


 工藤と左古屋の言葉を僕は意外に思った。ヱ梨香の説得が上手くいったのか、女子の中での反発はなかったようだ。秋田は置いておいての話だが。


「委員長と清水も計画に乗ってるし。女子の票はほぼその二人が抱え込んでるわけだから当然ちゃ当然だよね」

「なるほど。そうなんだ」


 宇都宮はともかく清水はどういうつもりで協力してくれているのか分からない。気分次第で突然「やっぱりやめた」なんて言いそうで怖い相手だ。


「やっぱり僕は知らないことばっかりなんだなあ……」


 そんなことをぼんやりと考えていると、ギャル二人の視線が突き刺さる。


「な、何?」

「なんかさー。福島ってそういう感じ?」

「え?」

「しっかりしてそうに見えて実は何も考えてなくて、周りに助けられながら担ぎ上げられてる若様みたいな」

「はあ」

「それまあまあ正解」

「おい水戸までやめろって」


 若様なんてからかわれるのは心外だ。そう言うと左古屋が愉快げに笑う。


「案外親しみやすいってコト。外進生ってちょっと怖いイメージあったけど、うちのクラスは大当たりだね」

「外進生ガチャ大成功!」

「俺らガチャ扱いかよ……」


 金沢とともに肩を落としていると、山口と香川と一緒に座っていた長崎が突然意を決した表情で僕の目の前にやってきた。


「ふ、福島くん。あの、折り入ってお願いが」

「ん? どうかした?」

「あ、あああ」

「あ?」

「ID教えてくれませんかっ!?」


 そう言って長崎が見せてきたのはSNSのフレンド登録画面だった。僕は「ああ」と声を出して理解し、スマホで僕のIDを表示した。


「いいよ。はいどうぞ」

「ひぃ――……すぅ――はぁ――ありがとうございます……」


 長崎は僕を拝むようにしてからものすごい速さでIDを登録していた。ついでと言わんばかりにギャル二人も慣れた手つきで登録をしている。その流れを見ていた金沢がじっとりとした視線を送ってきた。


「さつきくん? ねえねえ。何か言うことあるでしょ? ねえねえ自分だけ?」

「ヨーシ、みんなでID交換しようヨ」


 背後霊のように金沢に取り憑かれ、僕は真顔でその場の全員に提案した。そんなことをしている間に会場の最寄駅に到着し、快晴の空の下、大津の試合が行われる競技館まで数分歩く。

 その後のことは多く語る必要もない。僕たちが見守る中、大津が見事に試合に勝って優勝した。

 フェンシングには詳しくないが、大津の圧勝だったのだと思う。表彰台に立ってこちらにピースする大津に向かって全力で手を振った。


「秋田は負けたそうだ」


 奇しくも同日に試合が行われていた秋田の結果はベスト4。それでも高校一年にしては見事な結果だ。

 しかし勝負は勝負。大津は勝った。試合にも賭けにも。僕は小さくガッツポーズをして、大津が見えなくなるまでその場で勝利を噛み締めていた。



 ♢♢♢


「そっかあ、クラスメイトの応援に。嶺和学園の運動部は本当に強いよね」


 アルバイト中にする巴さんとの会話が何よりの癒しだ。夏休みに入ってシフトを増やしてもらったので、巴さんに会える日が増えたことも嬉しい。


「本当は外進生だけで行く予定だったんだけど、内進生も合流して。帰りは珍しくカラオケ寄りました」

「えー。何それ青春じゃん。いいなあ。ま、私はそれどころじゃないんだけどね。留学準備もやらなきゃだし、勉強もしなきゃだし……」


 そう呟く巴さんは苦い顔だ。夏休みに入ってからもちょくちょく会ってはいるけれど、それでも互いの予定が噛み合わずに会えない期間が続くこともある。

 だからこうやって会えるだけですごく嬉しいのだけれど──確かに巴さんの言うとおり、忙しそうな顔を見せることが増えてきたなと感じることもある。


「一人で別の国に行くのって怖くないですか?」

「そりゃあ少しはね。でも、決めたことだから」


 巴さんのその言葉からは、強い意思を感じる。前に進むためにやるべきことをやろうとしている、そんな前向きな意思が。そんな彼女のことを応援したいし、同時に側にいたいという気持ちもある。


「でも青春羨ましいな」と口を尖らせる巴さんを見て、僕はあることを思いついた。


「あのー巴さん。もしよかったら一緒に」


 出かけませんか。と続くはずのその言葉が出てこない。自分がサラッとデートに誘っていることに気づいて、心臓が痛いくらいに跳ね始めたからだ。


「一緒にどこか、行きませんか……?」

「え?」


 そう絞り出した声は存外小さくて情けなかった。僕は返事を待つ間、巴さんの顔をまともに見れず、必死にカウンターを磨くことに集中した。

 巴さんは今海外留学の準備で忙しいから断られてしまうかもしれない。そんなことは分かっている。気持ちが勝手に声に出てしまったのだ。

 永遠にも感じる数秒の後、巴さんはいつもの明るい声で言った。


「うん! 行きたい」

「ほ、ほんと?」

「さっちゃんとお出かけなんて初めてじゃない? 子供の頃はよく劇団の帰り道で一緒に買い食いとかしてたけど。どこ行こっか?」

「僕はどこでも……。じゃあ日にちだけ先に決めませんか」

「うん、分かった」


 二人でシフトを確認して、四日後の午後に決定した。僕は午前中だけシフトが入っているので、バイトが終わる頃に巴さんが「ホームズ」に来てくれることになった。


「どこに行こっか。楽しみだねえ」


 笑顔を浮かべる巴さんを見て、僕はひとり胸を抑える。

 どうしよう、初デートだ。しかも初恋の相手と。どこに行けばいいんだろう。巴さんを楽しませなきゃ。

 そんなことを考えながら店の掃除をしていたら、いつの間にか周りがピカピカになっていて、買い出しから帰ったマスターにいっぱい褒められた。


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