96.どこか とおい ところ
《イエティ王奪還戦》5日目
C班:最前線部隊
【第38階層フリーズ:雪中模索】本拠点設営完了/完工
代表【夜明けの月】メアリーによる拠点防衛開始
物資供給状況87%
D班:イエティ王奪還班
第一陣・第二陣準備完了
イエティ130名準備完了
──当初の想定通り12時作戦決行
──◇──
【第38階層フリーズ:雪中模索】
「イエティ、いくぞ!おー!」
「おおー! ぶちのめす!」
「へしおる!」
「爪をはぐ!」
カンゴルの号令に盛り上がるイエティ達。
今回の作戦ではイエティ達が目くらましだ。彼らに紛れて第一陣がスフィアーロッドの巣に紛れ込み、クローバーやグレンがスフィアーロッドを陽動。隠密部隊であるゴーストとウルフが騒ぎに乗じてイエティ王を奪還する。
「あの臆病者のカスは我らが王から目を離さない! 表の魔物はイエティが何とかするから、洞窟内の陰キャハゲは何とか人間ではがしてほしい!」
「日に日に口が悪くなってないかカンゴル」
「ちゃんと俺を守れよグレン」
「後ろから刺すなよウルフ」
冗談を言い合うトップランカー。負ける気がしない。
「俺は突入と同時に"ホワイトルーク"を召喚し旋回して陽動する。他の第一陣はイエティに混ざって前進してくれ。本命の運び屋はフレイムさんだ。俺が死んでも任務に支障は無い」
「何言ってるんだマツバ君! このメンバーが揃っていて犠牲なんて出すわけがないだろう!」
うーん本当に頼もしい。
「実際このメンバーでダメなら第二陣でどうにかできるもんじゃなくなるしな」
「それもそうでおじゃる。さっさと奪って帰るでおじゃる」
クローバーの残弾も十分。スフィアーロッドと交戦できるだけの蓄えはある。
ここまで問題なく進めれたのならもう勝ち確と言ってもいい。
……が、なんか嫌な予感はするんだよなぁ。
「では《イエティ王奪還戦》第一陣、出発だ!」
無数のイエティと共に転移ゲートへと突入するマツバ達。
──嫌な予感が実現するまで、そう時間は掛からなかった。
──◇──
【第39階層フリーズ:孤高怪晴】
──それは誰もが想定していなかったイレギュラー。
転移ゲートは既に大勢の魔物に囲まれ──これは十分想定内ではあるが。
晴れを遮る巨躯に、我々の足は止まってしまった。
《随分と頑張ったな冒険者共よ》
──氷漬けの身体を無理やり動かす、巨大な操り人形。
光を失った瞳は、しかして俺達を睨み離さない。
ここにいない筈の存在。いていい筈がない。
──"呪氷の叛竜 スフィアーロッド" LV200
《早速だが、消えてもらおうか》
瞳が黒に染まる。
動いたのは──動けたのはクローバー。グレンも一手遅れて大盾を構える。
だが、呪竜が狙うは──誰も気付かず、スフィアーロッドにすら気付かず突っ込んできたウルフ。
《犠牲者は貴様だ》
白と黒の光がウルフを襲う。
その余波だけで、我々を吹き飛ばすには十分な力で──
──◇──
消えた。
消えた消えた。単体抹消技"データロスト"は成功だ。
ついでにイエティやら雑魚も吹き飛ばしてしもうたが。
「”ホワイトルーク”!」
「"マンモスタスク"!」
おや。大盾持ちが二人を隠しておったか。
巨大なマンモスと小柄な白竜。どちらも我に相対するには矮小ではあるが。
「お前は俺が相手だ、スフィアーロッド!」
意識が足元の大盾持ちに向いてしまう。これはターゲット誘導の能力であるな。
だが我は自我持ちし災厄よ。
《狙いはイエティ王であろう。"マンモスタスク"に乗じて我の足元を潜ろうと》
咆哮一つ。我の足を抜けようとする小さき獣使いを弾き飛ばす。
──むぅ、やたら頑丈だ。日光の下では力も出ん。
《億劫だが──逃がさぬ。ここで貴様らは潰す。そこじゃ》
配下の魔物を、その体ごと地面に突き刺す。
我の干渉を拒む魔物の位置なぞ一目でわかる。
《"ネビュラウィンドウ"──王の成り損ない。影に逃げられると思うな》
「目ざといな! せっかく近くにいたスワンと一緒に逃げられたってのに!」
"ネビュラウィンドウ"が両手にいるは2名。
世界からロストした反応は2名。これで全員か。
《貴様ら全員ここで消えよ!》
冒険者を全滅させられれば、わざわざイエティ王を抱える必要も無し。
そこな銃使いはかつて我を討伐せしめたが──レイドボスは不滅。ましてやこの魔物の数だ。
さぁ、怨敵が我を消すまでの暇潰しだ。せいぜい足掻けよ冒険者──!
──◇──
【第38階層フリーズ:雪中模索】
──────
[クローバー]:
『ウルフとゴーストがやられた。入って直ぐにスフィアーロッドがいる。来るな』
──────
どよめき立つ。そりゃそうだ。
太陽の下に出た事が無いスフィアーロッドが、わざわざ出待ちしているなんて想定できないだろうさ。
「いきなりウルフとゴーストがやられるとはな。とりあえず落ち着けお前ら。第二陣は出発準備──」
「ライズ!」
血相を変えてメアリーが俺の首に飛びついた。何事だよ苦しくはないが現実なら死んでるぞ。
メアリーは周囲の注目を浴びながらも、俺の耳元で小さな声で伝える。
(ゴーストの反応が【Blueearth】から消えたの。多分ウルフも)
──なんだと?
──◇──
【どこでもない空間】
──天地調のコントロールルーム
「やってくれましたねスフィアーロッド」
本来イエティ王が冒険者を迎え入れるはずのクリックが、開始段階でイエティ王を誘拐された状況までスキップされてしまった。玉座に誰も座っていない間は王の事を忘れてしまうメイドレ族、王を救出するまでクリックに帰らないイエティ族が悪いように噛み合い、この問題点を冒険者が理解できる状況にはありませんでした。
しかし行ってしまえばイベントが多少前倒しになっただけで致命的な問題は起きておらず。他に優先すべきバグ処理を優先したため、私も問題に気付かなかったのです。
レイドボスが自我を持つ例はある程度ありますが、スフィアーロッドがまさか今に至るまで自我を隠していたとは。私、騙されまくりです。
スフィアーロッドは外敵である私を排除するためにバグ側を強化したいのでしょう。ここでスフィアーロッドを削除すれば致命的なバグが発生する可能性は高い。
ですが、"データロスト"を使われてしまってはそうも言っていられません。一度発動したプログラムの解析は終わりましたから、もうロックかけたので使えませんが──
「最優先は消えた方の捜索ですね」
この時のために封印していた引き出しを開ける。
ここには【Blueearth】を運営するにあたり私が覚えてはいけない記憶が封印されています。
即ち”ロストデータ”を一時的に私の既知領域まで引き上げる。都合の悪いデータを【Blueearth】から切り離すにあたり、私の記憶に残っているとそこから干渉される可能性があるのでこうして隔離封印しているのです。
「──なぜ?」
ない。
ない、ない。
どこにも誰もいない!
「あれぇ?」
──◇──
【第39階層フリーズ:孤高怪晴】
「立て直すよ! 俺が攻撃を受ける!」
初見殺しさえ無ければトップランカー3人にセカンドランカー1人だ。対応自体は容易い。
問題は──ウルフとゴーストがどこにもいない事だ。
《アイスライク・サプライズモール》に帰還したとの情報も無い。あの攻撃が何なのかはわからないが、あれをもう一度やられれば恐らくは帰ってこれなくなる。
「グレンさん! さっきのアレ喰らったらお終いだ! 一旦退却しましょう!」
「いや2度目は無い。あの程度の速度なら見て避けられる! それよりフレイムとマツバさんは隙を見て奴を出し抜け! 今イエティ王はがら空きのハズだ!」
「──わかった。続行だ"ホワイトルーク"!」
せめてスフィアーロッドの意識を反らしたい。白竜に跨りスフィアーロッドの横から抜けようとし──
《それが分かっていて通すと思ったか!》
スフィアーロッドの黒い瞳がこちらを向く。
──狙い通りに。
"ホワイトルーク"の背から飛び降りるは"最強"──クローバー。
既に各種スキル発動済の本気モード。秒間千発の絶殺技。
「偉そうにしやがって。お前俺に負けただろうが!」
三ツ首の銃二丁から放たれる弾丸。クリティカル演出による黄金の輝きがスフィアーロッドの胴体を袈裟斬りにする。
《──馬鹿め。この高度から落ちればタダでは済まんだろう!》
「馬鹿はお前だ。うちのリーダー舐めてんじゃねぇよ」
落下するクローバーをスフィアーロッドの凶爪が襲うが──
「【チェンジ】!」
──スフィアーロッドの爪が虚空を振るう。
「馬鹿! ノープランだったの馬鹿!」
「運ゲーは勝確前提ってな。どうせ来るって思ってたぜ」
声は遠方──転移ゲートから。
そこにいたのは第二陣とメアリー。そしてクローバー。
【エリアルーラー】の力でクローバーを転移させたのか!
「スフィアーロッドの居場所さえ割れてりゃ遠慮する事は無い。第二陣全力で突入だ!」
「あたしは担当外だけどね! 規則は破るものよ!」
堂々としているが! あまりそういう事されると困るのだが!
──◇──
「偉そうにしているがグレンの"ターゲット集中"でスフィアーロッドはあそこから動けない! 今突破してるマツバが撃ち落されないよう航空兄妹は攪乱!」
「エンブラエルはもう行ってる。私は攪乱中心で行こうか!」
既に銀の飛竜がスフィアーロッド目がけて飛びこんでいる。キャミィは小型の血竜を次々作り出し、一匹に跨って飛んで行った。
「ミカンは戦場を区画分けしてくれ! 31階層と同じだ!」
「成程です。ミカンさんの力を見せてあげましょー」
残っていたキャミィの血竜一匹に跨り、ミカンも戦場を駆ける。
「【建築】──ついでにこれでもくらえです」
スフィアーロッドを避けるように陸橋が出現。そのついでに地上の魔物を分断する。
さらに片手間に、スフィアーロッドを抑えるように巨大な鎖が出現し拘束する。
《ぬ──小癪な!》
「動けなければこっちのもんだ。単体戦最強火力を舐めるなよ」
スフィアーロッド正面の橋には"最強"。
足元には二刀を構えたカズハ。
大剣を構えたグレン、斧を取り出したスワン。
《おのれ──甘いわぁ!》
攻撃を受けるより早く。スフィアーロッドは大きく吠える。
《我が身諸共! 吹き飛ばしてくれる!》
「──自爆だ! 総員退避!」
「間に合え──【チェンジ】【チェンジ】!」
スフィアーロッドの身体が白く輝き──
──爆音が39階層に鳴り響いた。
──◇──
──
─
【どこかとおいところ】
さて。
ボケドラゴンが見たことない攻撃するもんだから受けてみたが、どこだここは。
孤独な俺は、現在よくわからん家の壁に立っている。
重力が横方向に向いている。最初落下中に目覚めたが、偶然この家が見えたからなんとかなった。
上はでっかい亀裂。下は底無しの奈落。
上から物なのか何なのかわからないモンが降りまくってるが、この家は位置がいいのか安全地帯みたいだ。
「おーい。誰かいるかー」
人の気配は無い。こんな良くわからん場所に送られたのは俺だけか。
ううむ。俺は単独行動に向いてないんだよ。人数多いのがウリの【飢餓の爪傭兵団】にオールラウンダーはいらねぇから。俺は特に回復ができねぇ。詰んだか?
「つまんねぇやり方するじゃねぇかスフィアーロッド。だが舐めるなよ」
出入口はわからないが、重力方向的に上の亀裂まで行けば戻れるだろ。
「ウルフ」
小さな家の壁だ。気付かなかったじゃ済まないと思うが。
「ゴーストか。お前も着て──いやなんだその恰好」
メアリーにべったりのメイドだったと思うんだが、なんか全身黒のバトルスーツを着てる。なんか雰囲気も違う気がする。そこまで関わってないけどよ。
「ウルフ。戻りますか」
「何か知ってる風だな。戻る前に知ってる事話しな」
「ウルフ。戻らないんですか?」
「……いや、戻る。悪かった」
得体が知れない。
俺にとって世界は俺とそれ以外だ。他人の事なんて理解できない。
だがそれにしたって、今のゴーストは理解できなさすぎる。
「一応聞くが、ゴーストは無事だろうな」
「私がゴーストですよ」
「さっきまでのゴーストとは違うだろうが。ちゃんと元に戻っとけよ」
「……他人を良く見ている」
「あぁ?」
「ウルフ。優しい人。ここでのウルフは向こうのウルフとは少し違う。向こうに戻れば全て忘れる」
「忘れる……って……」
当たり前すぎて。
自然な思考すぎて忘れていたのか。俺は。
「ここは……【Blueearth】ってのは何なんだ! 俺はこれまで何をのんきにゲームしてたんだ!」
記憶が。現実世界の記憶があった。あまりに自然な本来の記憶が。
ならここはどこだ? それに……。
「お前は何なんだ……ゴースト」
ゴーストは──笑った。
表情筋死んでるのかって思ってたんだが。ここにいるゴーストは、生きている。
「ウルフ。本当に偶然ここに飛ばされた不運で優しい人間。私を庇ってくれてありがとう。
あの門を潜れば記憶にはロックがかかるから全て忘れるけれど──質問には答えてあげる。私は■■の■、■■■の■■■■──」
──◇──
「ああ、いけない。logが残ってしまう。不要なものは消さなくちゃ」
──◇──
date.delete
──
no.date
─
~ジョブ紹介【竜騎士】~
《寄稿:【コントレイル】SGMエンブラエル》
ドラゴン乗って空飛びたいよなぁ!?
だったらサモナー系第3職【竜騎士】になるっきゃないよなぁ!
そういうわけで、【竜騎士】を紹介するぜ。
サモナー系、特にライダーから派生した野生の魔物を操るいわゆる"ライダー系"のジョブはけっこうあるが、ハッキリ言ってこのジョブでしか従えられない魔物!みたいなのは、無い!
ただ【調教】の成功率に大きな影響を与えるんだよな。竜種と呼ばれる分類の魔物は、基本的にめっちゃくちゃ【調教】が悪い!が、【竜騎士】のみ成功率が爆上がりするって事よ。
他の特徴で言えば、魔物だけじゃなくて本体の戦闘能力も成長する点があるな。槍や弓を装備できる。
そうでなくても最強種である竜を操れるのだから気分上々だよなぁ!
・アビリティ
・”竜騎一体”
竜種に対する【調教】成功率の上昇と、ライド時の操作性能と戦闘能力の向上だな。
アビリティとは関係ないが竜種は食費がすっごいから要注意な!
・スキル
【ドラゴニックチャージ】
竜騎乗時にのみ使える突進攻撃! そのまま各属性のブレスをチャージしてノータイムで放つ事が出来るぞ!
【ドラゴンフライ】
騎乗時・槍装備限定で使える飛翔術だ! 竜の背から対象へジャンプし槍で打ち下ろし、その後また竜の背へ飛び帰るスキルだ。なかなか楽しいぞ!
・おすすめドラゴン
・"アイスエイジワイバーン"
生息:第32~39階層 レベル50~70 飛竜タイプ 氷属性
フリーズ階層に出没する竜種だ。冒険者レベル50近くになると野生で多く生息している竜種はまずこいつになる。
ポピュラーな飛行タイプの竜種で、背中が氷なんで冷たい事が難点だな!
ちなみに上位種に背中の氷が無い"メルトドラゴン"はかなり狂暴なので近づかないように!擬態タイプが擬態部分を捨てて成長してるって事はそれだけ強いって事だからな!
・”スピンスピノイドサウルス”
生息:第54~59階層 レベル90~99 海竜タイプ 水・氷・光属性
オーシャン階層に生息する海竜の機械生物だ。機械生物特有の電食機能で食費を浮かせられるのに加えて、機械生物の雷攻撃と竜種のブレスが合わさって攻撃性能がかなり高い。
ちなみに偵察巡回が主な役割なので意外と温厚だ。時間をかければ戦闘さえせずに【調教】できるかもしれないな。
・”ヘルガイア・イグアノドラン”
生息:第74階層 レベル110~115 陸竜タイプ 火・地・闇属性
ヘル階層の火山地帯にのみ存在する”イグアノドラン”の原種だ。本来の姿なだけあって竜種に分類される。
竜種きっての頭の大きさ、ひいてはブレス機構の強靭さが凄いんだ! ブレスの持続力も範囲も火力もピカイチの固定砲台だな。火山地帯に生息してはいるが泳ぐ事も可能なので、水中と空中以外は対応できる移動性能は"イグアノドラン"そのままだな。
ちなみにおなかの皮がめちゃくちゃ頑丈で、斜面を腹滑りで移動できる。これめっちゃ面白い。




