91.《イエティ王奪還戦》
【第0階層 城下町アドレ】
──酒場【祝福の花束】
「やぁやぁベルグリン。今日も今日とてお仕事ご苦労様ー。早速次のお仕事だよー」
受付には呑んだくれ。
俺達【祝福の花束】チーム"草原の牙"が! 第2階層まで行って夜通しリンゴを収穫して帰ってきたら! 受付で呑んだくれてやがる!
「ちと多すぎだろ! 最近になって【働き鶴】が追い付かないレベルでのリンゴ狩り! 死んだ顔でリンゴを運ぶ連中にはサイ爺も困惑してたぞ。何が起きてるんだ」
「あれー、ベルグリン知らないの? 【井戸端報道】がPRしてんじゃん」
「んなもん見てる暇ないわい。俺は"草原の牙"の人事管理に加えて【祝福の花束】と【蒼天】の外部経理顧問もしとるんだぞ」
「あーベルグリン何故か数字に強いもんねー。観察処分終わってからグレッグさんとアイザックさんに秒で頼まれてたよねー」
「俺もこんな才能があるとは思わんかった。……で、なんだそのPRってのは」
「これこれ」
渡されたデータからウィンドウを開き確認すると──【井戸端報道】らしい鬱陶しい派手な見出し。目がチカチカするわ。
「……第30階層で祭りだと?」
「そうだよー。色々インフラ揃った現代だからできるお祭りだよねー。ここまでの規模のものは歴史上無かったんじゃないかなー」
「察したぞ。俺たちのここ最近の仕事は【朝露連合】のためか」
「そーそー。【朝露連合】主力商品の一つにして、回復薬の材料でもあるからね。ここ暫く【ゴルタートル】の工場はフル稼働。【朝露連合】緊急経費を切って工場の増築までしたんだってさー」
ううむ、商人の企みに巻き込まれるのはもう勘弁と些細を聞かずにいた事が仇となったか。いや仕事だからいいか別に。
だが第30階層か……。確かライズ達もその辺なのではないか? いや第20階層の騒ぎの時期を考えるととっくに通過しているか。無駄な心配か。
「そういえば起案人は【夜明けの月】だってさー。もう何処行っても話題になるよねーライズ達」
うぉい。主犯かよ。
まーた何か企んでるのか。聞いてて飽きないなアイツも。
「──お、丁度今みたいだね」
ポーン、と通知の音が鳴る。
なんともまぁ、気苦労が絶えないだろうに。
奴らにとっては長い戦いが始まりそうだ。
──◇──
『緊急放送、緊急放送!
第31階層に"呪竜の手先"の出現情報あり! 《拠点防衛戦》を発令します!
【かまくら】に登録した参加者はウィンドウから参加表明をする事で直接31階層に参加できます!
繰り返します、緊急放送、緊急放送──』
──◇──
【第30階層 氷結都市クリック】
《アイスライク・サプライズモール》
『さァ始まりました! 準備は宜しいでしょうか!? 始まりますは《イエティ王奪還戦》! 一度入れば死ぬまで出られぬ史上初の超長期戦! 覚悟と気合いが決まりましたら!事前に配布されましたナンバーの所へ一旦集合願います!
グループ1は1F南西出入口アドレ兵拠前、グループ2はB1F【かまくら】前、グループ3は──』
全体放送と実況中継は【井戸端報道】バロンが担当する。あの状態のアイツは真面目モード入ってるからほっといて大丈夫だな。
「あのぅ、ライズさん」
「おっリンリン。その状態で喋っていいのか?」
フルアーマーのリンリン。周囲がドタバタしている中だが、一応声すら知られていない偶像だ。
「……あの、わたし、頑張りますから。一言だけ、下さい」
……罵倒を?
ドロシーに背中を突かれた。銃で。見えないけど多分銃突きつけられてる。
「……あー……リンリン。信じてる。絶対守ってくれ」
「……はいっ!」
「早く行きますよリンリンちゃん! ミカンさん達は設営準備です!」
「ふへへ、ごめんねミカンちゃん。では……行ってきますぅ!」
兜で見えなかったが……嬉しそうに、ミカンと一緒に消えた。
「危なかったですねライズさん。あそこで突然"卑しいメス豚が!"とか言ったら終わりでしたよ」
「流石にそこまでは言わない! ……けど、忠告サンキューなドロシー。どういう事なんだ?」
「本人が言わないから言いたく無かったですけど、ライズさんとクローバーさんはしくじりそうなのでこれだけ教えときますね」
聞き耳を立てていた【夜明けの月】メンバーがひょこっと顔を出す。そんな近くにいたのかお前ら。
「リンリンさんは"痛いのが好き"なんじゃなくて、"守るために傷付くのが好き"だったって事です。
それはそれとして普通に痛いのは気持ち良くなる身体になっちゃってますけど、心を傷付けるタイプの罵倒はダメですからね。乙女心分かって下さい」
「あー……そりゃあグレンも惚れるなぁ」
あの男が惚れる女だ。そりゃあ立派だろうよ。
……中身は普通の女の子か。そりゃそうだよな。
──◇──
《イエティ王奪還戦》1日目
【第31階層フリーズ:永遠雪原】
「"壁班"前へ!【建築】開始!」
31階層を7つに分ける壁を設営。本来なら10以上に分けますが、今回は人数が多いので一つあたりの区画を広く設定します。
「ミカンさん! どないでっしゃろ!」
「よろしいです。長期間維持しなくてはならない壁です。デザインよりも材質よりも安く分厚い壁にした所も素晴らしいです。立派になりましたね皆さん」
沸き立つフロア。泣き崩れる部下。なにやら勘違いしていますですね。
「こんなもんで満足するなです。私は第1パフォーマンスが終わるまでパフォーマンス会場の飾り付けと救護所休憩所アイテム保管所を作成してから32階層へ向かいます。"壁班"各位は壁上の監視台へ待機しなさいです。壁の損傷は3秒で直す事。できますね?」
「「「了解!マム!」」」
「はいよろしい。うっかり褒めてしまいましたが、この長期戦で最後まで壁を維持する事は【キャッスルビルダー】としての前提です。もし持ち堪えられなかったならば、その時はお仕置きですので。
ミカンさんは絶対帰ってきません。泣きつく相手はいない事をしっかりと肝に命じなさい」
「勿論です。もう俺たちだけでもやってのけてやりますよ!
ミカンさんも好きにやっちゃって下さい!」
「……生意気なガキ共なのです」
施設の一つでも作れるようになってから言えと思いますが。
連中なりにミカンさんを気遣ったのでしょう。要らないなどと見栄を張って。可愛らしいのです。
──◇──
【第31階層フリーズ:永遠雪原】
──第7区画:"無敵要塞"独壇場
わたし──"無敵要塞"だけの区画。
第1区画がパフォーマンス会場。32階層に繋がる転移ゲートから最も遠い位置をそうしたらしい。
パフォーマンスを売りにする以上、その区画の人数は多くなる。"人数比は是正するのではなく利用するもの"とは【マッドハット】のセリアン社長のアイデアです。流石やり手の社長は素材を活かすのがお上手ですぅ。
第1区画を最も広く、そこから端っこの第7区画まで幅は狭まっていきます。最も人気の無い第7区画には普段通りわたしによる単騎防衛。後ろには日替わりでセカンドランカーの方々が魔物討伐を請け負ってくれます。わたしはここでひたすらに耐えて、後ろに効率良く魔物を流すだけ。
孤独。記憶を取り戻すまでは、どこか納得できなかった痛み。でも今なら大丈夫です。
──遠くから魔物の走る音。まだ敵は動いていないので──味方の魔物達ですね。
「行くぞC班"拠点設営部隊"、D班"イエティ王奪還部隊"! 手早くイエティと合流して32階層へ進むのだ!」
音頭を取るはマツバさん。大量の魔物が、大量の荷台を引き摺っての雪中行軍。クリックでは若手の【金時塔】を始めとした、色んな階層のライダー系列がこれでもかと31階層の雪を踏み荒らしています。。
今回の計画は、イエティをもう運んでしまえというものだそうです。少しでも時間を短縮するため、大量のライダーでイエティ達を送り届ける。勿論階層が進む毎に数は減りますが……。
「──リンリン!」
C班D班がわたしの横を通り抜ける中、聞こえたあの人達の声。
──【夜明けの月】が、私に声を掛けてくれた。
メアリーちゃんが、荷台から身体を乗り出して、細い手を伸ばしてくれます。
「命令よ! 絶対守ってよね!」
「──はい、はい! お任せ下さい、リーダー!」
一瞬だけ装備から小手を外して──メアリーちゃんとすれ違い様にハイタッチ。
それでも痛かったみたいで、メアリーちゃんは手を軽く振ってから引っ込めちゃいました。
じんじんと響く手の痛み。
心に染みる悦びは、その痛みからではなく。
「必ず守り通します。わたしが守っていいもの全て、守り抜いてみせます!」
──守る相手がいるのなら、どんな痛みも気持ちいいのです!
──◇──
【第31階層フリーズ:永遠雪原】
──第1区画:パフォーマンス会場
『さあさあ遂に始まりますよぉ! オープニングパフォーマンスは豪華で派手に!出し惜しみ無く!我らがトップランカー【真紅道】の登場!です!!!』
ハイここで爆炎!
……火力高すぎ! うちの団員が1人逝っちゃいました! おばか!
舞台装置をせり上げて、最初に【聖騎士部隊】と"鉄仮面"フレアさんが登場!
「──【建築】」
赤絨毯が空中に敷かれ、飛び出すは"最強の獣操士"フレイムさんによる巨牛操作! 観客の頭上を牛に引かれて【真紅道】達が戦場へと向かいます。
そして全員が着地。赤絨毯の上に整列し、最前衛に着地するは──最強の騎士、団長グレンさん!
そのカリスマ凄まじく、姿が見えただけで方々から歓声が上がります。流石正義の【真紅道】。ヒーローが嫌いな男の子はいないですね。
『本日のファーストパフォーマンスを務めさせて頂く【真紅道】の団長、グレンだ! どうか──』
社会性が高くて人望もある。まさに最適な配役。あとは数時間ほど魔物討伐をするだけでも大盛り上がりってもんです。
……なんですけど、私は【パーティハウス】の座長。予想通りの項目なんて欠伸が出るってなもんです。
「はい、マイクどうぞ。親分で大丈夫なんです? ……みんな首を振ってます。あ、相応しい立場の人が不在ですか。では致し方無し」
スペシャルゲストの登場です。ツカミはでっかくやらないとです!
『なぁにヌルい事言ってんだ馬鹿野郎。イイ子ちゃんは俺達に任せて引っ込んどきな』
ここで暗転!
【真紅道】にスポットライト当てといて!
そして壇上をライトで注目!ステージせり上げて!
『悪ぃな。悪びれちゃいねぇけどよ。【真紅道】の時間は──』
どよめく観客。プログラムを確認してる人もいますね。無駄ですとも。完全にプログラム外のアドリブですから。
『──この【飢餓の爪傭兵団】が乗っ取ったァ!』
はいここで爆発! 1人逝った! おばか! 下手か! 人手足りなくなるでしょうが本部言ってシフト変わってきなさい!
壇上へ上がるは無数の兵士。【Blueearth】史上最前線でしか見られない豪華ゲストが揃い踏み!
『ご紹介しましょう、飛び入りゲストの登場です!
最前線斥候部隊隊長"最強の復讐者"ファルシュ!
情報班総司令"三重返し"ブラウザ!
拠点防衛部隊隊長"夢遊病"サカン!
そして三大幹部──今は二大幹部!
"絶対王権"キング.J.J!
"四枚舌"クワイエット!
更に更に、滅多に人前に出ない"絶対王権"を超えるワガママ!"三重返し"を超えるふてぶてしさ!"四枚舌"を超える適当発言!"夢遊病"を超える神出鬼没!
【飢餓の爪傭兵団】のトップに立つに相応しい、【飢餓の爪傭兵団】総頭目!
──"軍頭の孤狼"ウルフ!!!!
【飢餓の爪傭兵団】の乱入だー!!!!!』
[グレン]:
『やってくれたねマスカット君! また面倒な連中を呼んでくれたものだ!』
チャットが荒れております! 仕方ないもん! これ企画投げたら却下されそうだったからぶっつけ本番でやるしか無かったんだもん! 悪いのは比較的マトモで真面目だった会議室の連中だもん! あとライズさんにこっそり聞いてみたら頷いたもん!
絶対この方が面白くなるもーん!
[マスカット]:
『ごめんなさい! 古巣に脅されて仕方なく!』
[ファルシュ]:
『ってノリノリで依頼してきたのマスカットちゃんやないかーい! かなわんわ!』
げっ。関係者チャットに割り込みだ! どうせブラウザあたりの仕業でしょう。チッ。
まぁいいや。だって祭りは止められない! 観客が盛り上がるなら何でもOKなのですよ!
『さあ【真紅道】! 今日も今日とて潰し合おうや! どっちが多くの魔物を狩れっか競争だ!』
『……いいだろう。この【真紅道】、【飢餓の爪傭兵団】の非道には真っ当から迎え撃ってきたとも! いつも通り一捻りだ野良犬共!』
『吠えてろ上品な飼い犬共! 庭から出たら野良犬のテリトリーだっての!』
パフォーマンスは上々。フロアは熱狂。我慢できずに隣の区画で同時並行討伐に向かう者も。各区画の壁には第1区画のパフォーマンスが常に投影されているので抜かり無しです。
さあさあ盛り上がりましょう! 命果てるまで大騒ぎ!
『改めまして! これより!
──《イエティ王奪還戦》開・幕・だぁー!!!』
〜ギルド紹介【バッドマックス】〜
《執筆:【井戸端報道】記者T》
今回紹介しますは老舗ギルド【バッドマックス】!
現在セカンド階層を攻略中です。
黎明期のトップランカーの一角であり、殆どのメンバーが初期メンバーのままというかなり珍しいギルドです。
現在はセカンド階層の攻略に手間取っておりトップランカーとはかなり差を付けられていますが──しかし、その実力は本物です!
ギルドマスターである大兄貴、"大玉花火"のマックスさんは喧嘩屋と名高いトラブルメーカー!
気に入らない事があればとりあえず手が出る乱暴者!
そんなマックスさんはウォリアー系第3職【ヴァイキング】になると大きな変化が!
手の代わりに花火が出るようになりました。射程と被害が広がっただけですね。ハイ。
粗暴な男と恐れられる事も多々ありますが、実際は忠義に厚いみんなの兄貴分です! 黎明期から今までギルドメンバーに代わりはほぼありませんが、ギルド外に彼を慕う者は大勢いるんです!
【アルカトラズ】に拿捕されて謹慎処分を喰らいまくってなお当時の最前線に食いついていたという異様な攻略速度のギルドです! セカンド階層になって勢いこそ低下しているものの、いつかその爆発力を見せてくれると信じていますゥ!
ギルドメンバーも粒揃いです。15名いるメンバーは以外にも多彩なジョブを持ち、希少ジョブを使いこなしてマックスさんをサポートしています。
基本戦術は好き勝手暴れるマックスさんを他全員でカバーするという極端なものですが、突破力は凄まじいです。何より戦いに華があります!
しかし現在は少々動きが悪く、先日正式に攻略の一時中止が発表されました。暫くは気分転換に務めるそうです。またあの派手花火を見たいものです。
まぁ花火は遠くから眺めるものですけどね!巻き込まれるのは勘弁ですねェン!




