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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
氷結都市クリック/フリーズ階層
84/507

84.誘い込み袋叩きは世の鉄則

【第31階層フリーズ:永遠雪原】


「トリガーハッピーでおじゃる! トリガーハッピーでおじゃる!」


悪魔を従えてライフルぶっ放つ平安貴族バルバチョフ。

文字面が異様すぎるのよ。


「我が臣下"めーのふ"”もーちょふ””やぎちゃふ”も疼いておるわ! 麿(まろ)はあと2枠はいけるぞよ! 賊を回せいミカン!」


羊頭の悪魔、牛頭の悪魔、山羊頭の悪魔がそれぞれ、ゴーストやカズハさんと同様に専用の通路を割り当てられて戦っている。そこの上から容赦なく狙撃するバルバチョフ大殿。

めちゃくちゃふざけてる感じだけど、精度が半端ない。ノールックでヘッドショット決めてるのはかなりキモイ。

大人数を上手く捌いているリンリンとミカンも凄いけど、それでも魔物の方が足りなくなってるのはバルバチョフがこの戦法と噛み合いすぎてるから。

【デビルサモナー】は契約した悪魔を操作できる……代償さえ払えば飼育する必要が無くなった【ビーストテイマー】のようなジョブらしい。そして本体が暇なのをいいことに射撃へと走ったのが平安貴族(ゴルバチョフ)

階層攻略同率4位をキープし続ける【月面飛行(ムーンサルト)】の元メンバー。目立つ欠点が見当たらない安定した強さを見せてくれるわね。でもやっぱり全てにおいて平安貴族ファッションである必要は無いと思うの。


「はよう次を呼ぶのじゃ妖怪!疾く働け!」


「焦るんじゃァねぇや! 誰のおかげで満員御礼だと思ってやがる!」


ミカンのラビリンス外、入口である北の先には、なんとも独創的なカラフルマッチョの像が建設されている。なんで?


「クリックにゃ色が足りねぇ! ここいらが限界だ!」


プロメロ(プリティ☆メロン)さんは芸術品を作り上げるクリエイター【幻想絵筆(アーティスト)】。曰く、"色"を材料に特殊効果のある芸術品を描きあげるらしい。

今作成しているカラフルマッチョは魔物を誘き出す効果があるようで、上手く配置する事で魔物を列に並ばせていた。


[プリティ☆メロン]:

『数が必要ならもう一か所入口を作ってくれ。西側なら2分でリカバリーできるぜ』


[ゴルバチョフ]:

『1分でやるのじゃ』


[ミカン]:

『今回はお試しなので、次のウェーブで中断です。門を閉めるだけなので像は壊さなくて大丈夫です』


[リンリン]:

『ではゴルバチョフさん側に捌く割合を増やします』


[カズハ]:

『最後中央広場で【一閃】しちゃおっか?』


戦い慣れしている、セカンド以上経験者たちによる会話。チャットでの連絡はもう前提技能なのね。




──お試し期間が終了し、前門閉門。中央広場にて全員が合流した。


「どうでしょうリーダーメアリーちゃん。上手にわたし達を使いこなせますかー?」


「うん。そうね。凄い心強いわ。流石の実力者たちね」


いやいやそんなー、って照れる熟練者5人。仲いいわねアンタら。


「こんだけできるならあたしも容赦しないわ。ライズ式レベリングの申し子を甘くみないでよね?」


──何かを読み取ったように青ざめる5人。遅いわ。ドロシーはもう回復薬の準備に入ってるわよ。


「門は6方向に作ってもらうわ。2門はリンリン、2門はアイコ、2門は中央広場まで繋げてあたしとドロシーがやるわ。

 リンリン班はゴルバチョフさんの悪魔2人とゴーストとジョージ。アイコ班はゴルバチョフさんの悪魔一人とカズハお姉ちゃん。中央広場殲滅部隊はゴルバチョフさん本体に援護してもらうわ。

 全方向のヘイト管理はプリメロさん。全員の消耗を確認して回復薬を補給するのはミカン。門を閉めるだけ時間がもったいないから今から10時間程度ぶっ通しでやるわよ」




──◇──


──ゴルバチョフは後に語る。

「まだセカンド階層の《拠点防衛戦》の方がマシだったでおじゃる」


──◇──




【第39階層フリーズ:孤高怪晴】


フリーズ階層で唯一晴れる、奇妙な明るみ。

太陽を恐れるように、魔物は洞窟に隠れ潜む。

それはまるで太陽が、大いなる魔を封じ込めているかのように。


「調査隊点呼ー。1」


「2!」

「──」←両手を挙げてアピール

「3……あ、4デス」

「5」


クローバーと共に40階層から逆戻りでやってきた39階層。"スメラギ"を除いてもう2人ゲストをお招きしている。

【草の根】クリック支部班長のエンテさん。どっしり防寒服に身を包んだ登山者って感じの女性。

そして【マツバキングダム】GMのマツバ。まさか団長直々に来てくれるとは思わなかったが。


「日中は擬態系の魔物以外は外にいない。目的のものは地下洞窟の奥だ。その入口は巧妙に隠されているが……」


「例によって、ライズさんが第一発見者デス。白い体毛を広げて雪原に擬態する獣系の魔物”雪化粧”。壁や岩に張り付いて翼の表皮を凍らせる事で氷山氷塊に擬態する”アイスエイジワイバーン”。おなじみ移動する樹木"フリーズトレント"。これらによって39階層の一部は地形毎日々変化していますデス」


「とはいっても入口の場所が変わるわけじゃない。俺は探索する時は座標で記録してるからな。見た目誤魔化しても無駄だ」


「流石だぜライズ。んで、どうする?」


40階層への転移ゲートと38階層への転移ゲートを繋ぐ直線ルートから大きく外れた荒地を進む。一見すると魔物一匹いないが……。


「ここだ。後一歩踏み出せば"雪化粧"が擬態を解いてクレパス真っ逆さまの即死トラップだ」


今回のメンバーは、俺という存在の価値をよく理解している大人ばかりだ。クローバーでさえ俺の指示を守って俺の歩いた道から外れずについてくる。


「"スメラギ"が先行しない。つまり確かにそこに地面はない。間違いねぇぞ王子」


「んん……疑っていた訳ではないが、久方ぶりのはずのフリーズ階層でここまで正確な情報を……」


「【三日月】解散に伴い消滅した多くの調査文書。一端でこうなのデスから、とんでもない価格で売れるのでは?」


「そこが【三日月】のヤバい所だ。こいつらは金に困ってない。ライズさんなんて商人でもないのに指折りの大富豪だしな。つまりは情報を買う事はできない。全部ライズさんの気分次第だ」


「だからこうして無償で提供しちゃう事もある。値段を気にするならこれは【夜明けの月】の誠意だと思ってくれ」


元【夜明けの月】の簡易ハウスの中、ハヤテの部屋にはこれまで各階層で俺が調査した記録、それを利用した会議の議事録が貯められている。それを俺が持っているからもう情報の独占状態になっている。

と気付いたのはメアリー。「簡易ハウスで一番情報公開しちゃいけないのは倉庫じゃなくてこっち!」とのお触れにより、ハヤテの部屋にはロックを仕掛け厳重態勢。実際バーナードもこっそり覗こうとしていたらしいし、危ないな。


「さて、こっからがラインだ。レイドボス"スフィアーロッド"はこの辺の魔物を使役している。こっから前に出ると襲われる。ってなわけで頼むぞマツバさん」


「任せろ。狙いはあの断崖のど真ん中だな?」


「そうそう。あそこに"雪化粧"の大型種が張り付いてるから、接近してクローバーが撃ち抜く」


「おけおけ。任せなー。スキル【乱撃錯乱】【速射準備】セットオッケーだぜー」


マツバの隣に、美しい白竜が降り立つ。

──サモナー系第3職【竜騎士】。魔物の中でも最上位であるドラゴンに騎乗できる特殊ジョブ。


「"ホワイトルーク"の機嫌もいい。さぁ乗れ。飛ぶぞ──」


白竜"ホワイトルーク"の背に全員乗り、飛翔。

それを侵入と判断した()()()()()

大地はめくれて立ち上がり、木々は嗤い、崖壁は飛び立つ。

魔物の群れが立ち塞がる。激しい出迎えだ。


「相手してる場合じゃない。エンテさん」


「お任せデス。【爆音ノイジースピーカー】!」


ゴロッと防寒服の中から飛び出したのは巨大スピーカー。長いコードで吊り下げながら魔物の嫌う周波数を放ち、攻撃を牽制。

──クリエイター系第3職【エンジニア】。【鍛治師】の上位職らしくアイテム作成の熟練度が物を言う。エンテさんはクリックの《拠点防衛戦》緊急避難用に魔物避けのアイテムを作っていたので、資材を提供して最高級品を作ってもらった。


「レアエネミーには効きまセン。お願いします"最強"!」


「っしゃ任せな!」


崖壁へ突撃する"ホワイトルーク"。岸壁は迎撃すべく動き出す──岸壁全てを覆っていた白銀の巨大獣"冬将軍"が襲いかかるが──相手が悪い。


光の奔流に呑まれ、何する事も無く打ち滅ぼされてしまう。


「何の耐性も無いなら0.5秒もいらねぇな。楽勝楽勝!」


「速すぎて見えませんデス……。なんなんデス今のは」


ギミック付きの耐性モリモリの"ガーディアン・オブ・ロスト"でさえ耐性ガン無視で2秒いらないんだ。デカいだけのレアエネミーには1秒すら長すぎる。


「入り口が見えた。突進するぞ!」


マツバの号令に"ホワイトルーク"が一吠え応えると、洞穴に向かって急降下。

移動・牽制・速攻火力が揃えばここまで楽になるのか。俺何もしてないな?


──兎角。これで第1関門は突破した。


「んじゃー始めますか。第一回ドワーフ王捜索隊。いくぞー」


「おおー。……エンテちゃん前開いてるけど大丈夫? 寒く無い?」


「アイテム仕舞うための服デスので。前開けても閉めても寒さは変わらなくないデス?」


「あー、そうだよな。そうだそうだ」


クローバーまた現実と混同してしくじったな。本人の自制心は結構強いんだが、こういうふとした感覚のミスで口を滑らす事はよくあるよなー。




──◇──




氷の洞窟を進み、最奥に到達する。


「ある種、最も竜らしい存在だな」


金銀財宝、食料、魔物……。

何もかもを氷漬けにして、我が物だと言わんばかりに抱きかかえたまま眠る氷の竜。


──"呪氷の叛竜 スフィアーロッド" LV200


自身の身が凍っているのは、"アイスエイジワイバーン"のように擬態しているわけでは無い。

この竜は、竜ではない。


「中身を失った伽藍堂(がらんどう)だ。凍土に押し潰された数多の怨念が、抜けた魂の隙間に潜り込んで動いてる──()()()()

 本人()がどう思ってるかはわからんが、頑張ってドラゴンらしいアピールをしてるのかもな」


この最強の竜の中身──魂は、先の階層のレイドボスとして今も楽しくやっている。取り残された肉体が、怨念によって凍結し、無理矢理操られている。それがスフィアーロッドの正体だ。


「メイドレ族を求めているのもフリーズ階層の魔物の総意だから。魔物を操るのも魔物達の怨念の塊だから。最強の肉体が操り人形とは泣けるがな」


「俺がかつてこの階層に定住しようと思ったのはこいつを調伏させたかったからだ。上っ面だけ求めて中身を重要視せず……。【飢餓】に従い、デカいだけの店を構え、遂にはこいつと対峙するも、竜ですらない置物だった。俺はこいつと同じ伽藍堂だな」


スフィアーロッドは表の魔物をけしかけて来た。起きているはずだが……動かない。


「なーにが空っぽだよ。そりゃお前、()()()()()()()()()()()ってやつよ。

 いつでもスフィアーロッドに手を伸ばせる所まで来たからこそ悩むんだろ。次の一手で夢が終わっちまうから。葛藤か飽きか知らねぇが、そこまで登り詰めたんだ。

 登山は登頂してからが本番だろうが。好きにやれよ」


クローバーは既にスキルを再発動。いつでもスフィアーロッドと交戦する準備はできている。

──外でもここでも"最強"であるクローバーなりの考え方か。幾つの山を登ったんだろうなコイツは。


「……そうだな。さぁやるか。レイドボスは基本的に討伐できない。追い払うのが精々だな。本当に一人でいけるのか?」


「任せろ。"最強"だぞ俺は。Any%(なんでもあり)なら1時間いらないぜ!」


スフィアーロッドは起き上がる。こちらの意思を理解したのか、クローバーを敵として認めたのか。




──"最強"と呪竜の戦いが、ひっそりと始まった。



~【満月】回遊記:現状記録~

《記録:【満月】記録員パンナコッタ》


報告。

【鶴亀連合】よりドーランの利権を奪い取り吸収した【朝露連合】。

その商業線を拡大し【Blueearth】の商業を支配すべく階層攻略を開始した分隊が【満月】である。

【朝露連合】は大本としては【夜明けの月】と同盟関係にはあるが、あくまで独立した一連合として活動している。

また、その利権は【井戸端報道】と半々で分け合っているが【井戸端報道】は最大の商会【マッドハット】と手を組んでいるため、

【満月】は建前上は"【朝露連合】の半身であるベル社長が単独・独断で行動している"という事になっている。

私は元【井戸端報道】だが、関連性を疑われないようにするために脱退させられた。つらい。


構成員は現在5名。ギルドマスターは小柄な大物ベル社長。あまりに大きすぎる態度で好き放題攻略しながら商売している。

サブマスターに元【飢餓の爪傭兵団】大幹部のサティス。脱退に伴い、【飢餓の爪傭兵団】との干渉を禁止された。【朝露連合】には【飢餓】傘下の【ダイナマイツ】も存在するため、建前上【朝露連合】と無関係な【満月】にて活動している。

構成員に元【ダイナマイツ】のレン。【飢餓】傘下のままサティスに同行していると上記の禁止事項に抵触するためクビになった。

そして新入りのアゲハは元【金の斧】だったが、過去に暗殺ギルド【暗夜鎌鼬】にいたことが判明し、【金の斧】に不利益を生まないよう脱退してこちらに加入した。


【朝露連合】の目的は、最強の商業ギルド【マッドハット】の打倒、および商業権の強奪。

商業における"強み"としては、大きく分けて三つ。

一つは【第2階層ウィード:アドレ果樹園】にて市場を独占しているリンゴ商売。

一つは【ゴルタートル】によって作成される高品質低価格の回復薬。

この二点は改良の必要は無く、現時点で【マッドハット】と真っ向勝負可能な状況である。

最後の一つが強化武器販売。

【マッドハット】の商業戦略に鍛冶が無いため、鍛冶も内包している【朝露連合】はそこに着目。

最前線の基準となっている強化値を優に超えた、最前線でも通用するオーバー強化装備を目玉商品とする方針とした。

基本的にはライズから押収した装備を売買し、同格の装備を自前で作成する為に鍛冶場と鍛冶師の確保を検討。


強化武器製造ラインとして、鍛冶大国ルガンダを取り仕切る【金の斧】ナメロー氏と接触。

ただひたすら鍛冶ができる環境を確保し、異常鍛冶愛者ハゼを監禁することで【鍛冶師】として鍛える事となった。

なお、ハゼの異常性は【鶴亀連合】当時から有名だったからか、同類の鍛冶狂いが4名ハゼに付き従っている。

今後はこの5名の技術練度育成を待ち、製造ラインの完成を待つ形となる。


次の狙いは【第30階層 氷結都市クリック】。

遂に【マッドハット】のお膝元への殴り込みである。

建前を上手い事重ねたが、向こうもこっちの動きは理解しているだろう。

現段階では敵う相手ではないが、ベル社長はどうお考えなのか。

……全面戦争も喜んでやるような人な気もするが。

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