80.透明の証明
《アイスライク・サプライズモール》
──ドロシーside
僕の特殊技能、僕の奥の手。【Blueearth】を生きる冒険者の意識外を撃つ、有効射程範囲100mの外からの狙撃──かつての通称を流用して"神の奇跡"。
初期装備両手銃【ライフル】の構造が現実のそれと一致している事を利用して、ゲームの武器として装備しないで使用する。武器ではなくアイテムなので、その射撃の有効範囲は100m制限を突破する。
アイテムの衝突になる以上はダメージはほとんど出ないけど……触れるとスタンする《スタンシード》を当てる事はできる。
"理解"した相手なら500m。僕の射程はこれが限界。
「……ショッピングモールにライフル置くのは目立っちゃいますね」
仕込みと呼んだこの作業。《スタンシード》付きライフルは用意する瞬間に僕自身もスタンしてしまうので、時間のあるうちにあちこちに仕込まないといけない。
ルガンダは薄暗かったし市街地裏やら屋上やらに。ドーランの時も其処彼処に隠して置いていました。
ですが《アイスライク・サプライズモール》は清掃の行き届いた施設。突然ライフルが置かれたら目立ちますよね。
……監視の目もありますし。ちょっとやりますか。
突然走って《関係者以外立ち入り禁止》の戸を潜り、後ろの尾行を惹きつける。
戸が開く音がしたので──
「はい、少々お話を聞かせて下さいね」
既に待機していたアイコさんが確保。
黄色い服の……《巌窟大掃除》で会った事のある人。
「どうもイエロータスクだ。ドロシーちゃんは昨日ぶりだ」
……そういえば昨日、メイド喫茶にもいたなあ。
「【マツバキングダム】とは停戦で手を打ってませんでしたっけ?」
「いやいやそんなことは言ってない。あくまで本家【飢餓】との敵対はチャラって話だ。
商業としては【朝露連合】との関連性も切ってるようだし【マッドハット】とも敵対はナシ。
だが【マツバキングダム】としては警戒対象だ。アドレでの【象牙の塔】ブックカバーとの交戦、ドーランでの【鶴亀連合】陥落、ルガンダでのクローバー関連と【飢餓の爪傭兵団】との敵対……。
なんか暴れ倒してるお前らを警戒しないってのはナシだろ?」
「うーんその通り。しかし流石に無断の尾行は推奨できません。こちらもプライバシーがあります」
「正論だ。俺の負けだ。殺せよ」
「潔すぎる……」
さてどうしたものでしょうか。この人を"理解"できれば【夜明けの月】に貢献できるかな。
クアドラさんをきっかけに、一日で"理解"をある程度まで進める訓練をしてきました。今回も同様に──
ビー! ビー! ビー!
「な、なんのサイレンですか?」
「っと、これは……早いな」
アイコさんはイエロータスクさんを解放し、僕と合流して警戒態勢。
イエロータスクさんは逃げるわけでもなく、慣れたように立ち上がった。
──◇──
──数分前、場所は変わって──
──◇──
───
─
──メアリーside
4F 魔法研究ギルド【象牙の塔】研究拠点最奥
【ジオマスター】研究区画/三賢者アザリの研究室
「【至高帝国】の一員が元【象牙の塔】の【エリアルーラー】だったって事?」
「今はダイヤって名乗ってるんか。やーやー出世したもんだなあナギサちゃん」
──クローバーが出し渋り、ルミナスさんが口を滑らせかけてアザリさんに止められた話。
トップランカー【至高帝国】の一員の情報は、うかつに口外すればえらい事になる。クローバーがルガンダで起こした騒動がそのいい例よね。
だからここまで奥まった場所でなければ説明ができなかったと。
「感覚肌のナギサ先輩は間違いなく【エリアルーラー】を使いこなしていましたけど~、誰でも使えるよう言語化するのが【象牙の塔】の仕事なので。ナギサレコードを解読する翻訳班が大変そうでした」
「【至高帝国】はそんなダイヤを奪ったようなもんだから恨まれて当然だと思ってんだがなぁ」
「今幸せならそれでいいぜぃ。無論戻ってくれんなら歓迎するじゃんよ」
ブックカバーさんだったらブチ切れてクローバーを追い出してたのかもしれないわね。
変な人だけどアザリさんがまともでよかったわ。
「ところでアザリさんも戻ってきたんですね~。三賢者はまだセカンド階層に籠ってると思いましたけど」
「スランプ中よぉ。一旦ホームに帰らせてくれって頼んだわけよ。いいかげん【ジオマスター】を使いこなしたいんだがねぃ」
おおきなため息。ブックカバーさんが言っていたけど、【ジオマスター】は相当使いにくいらしい。
「だけどよぉ。俺っちはクローバーに元気付けられたぜぃ?
まさかまさかの【ラピッドシューター】が"最強"なんてすげぇじゃんよ。マイナージョブの革命児だねぃ」
「あー……それちょっと違うぞ。俺は【ラピッドシューター】で"最強"になろうとしたんじゃなくて、"最強"になるなら【ラピッドシューター】を使うしか無いって結論付けたからやってんだ。
アンタ達みたいにジョブに誇りは持ってないぞ。悪いけどさ」
ぽかんと目を見開くアザリさん。
何かに納得したように頷き、自分の頭を撫で上げる。
「……視点が違う! 俺っちは【ジオマスター】でいる事に縛られすぎたかもしれんな。
流石は"最強"。ファンになりました。サイン下さい。腕とかに刃物で」
「やべー奴目覚めちゃったよ。助けてギルドマスター」
「ファンサはちゃんとしなさいよ有名人」
「厄介ファンは事務所がブロックしてくれてたからなぁ」
なんともしょうもないじゃれあいが始まったのであたしはルミナスさんから頂いた資料に目を通そうと──
ビー! ビー! ビー!
唐突なブザーが鳴り響く。こんな奥地まで聞こえるって事は、階層自体への放送なのかしら?
──◇──
──数分前、場所は変わって──
──◇──
───
─
──ライズside
B5F フードコート
現在、諸々の問題を解決する為にある人と会合中である。
ジョージは同席しても脅威と思われない外見だから選んだ。何せ──
「うん。久しぶりに会話できて嬉しいよライズさん!」
白金の鎧、燃えるような赤髪。
トップランカー【真紅道】団長、グレンが俺の目の前でハンバーガー食べてる。
「お前はなんかこう……"王道"って感じだったじゃん。何でこんなストーカー紛いな事してんだよ」
【飢餓】が目に余る横暴を繰り返しているのもあって、【真紅道】の人気は凄まじい。特にその秀でた人間性が評価されているのがグレンだ。
「恋は盲目!
……冗談だよ。ただリンリンさんは、無理やり連れだして欲しがっているように見えたんだ。
眼は確かだと思っているのだが、恋で狂ってしまったかな!」
「うーん……本人の口から言われない事にはわからないな。かといってはっきり言葉で言うようなタイプでもないだろうが」
「リンリン君の事を気にしての行動なのかい? 君自身の"好き"を装飾するための言葉ならば、男として好ましくないな」
「う……手厳しいが、このグレンの胸に突き刺さったよ。
そうだね! 本心からリンリンさんを愛している! それで十分だ!」
「勝手に盛り上がるなー。なんで焚きつけたのジョージ」
「つい……。
妻に言われたんだ。『家庭の事情だとか立場だとかどうでもいいから本心の"好き"を言え』って」
ほな仕方ないか。
いや仕方なくないが。軌道修正は俺の仕事かこれ。
「随分と経験豊富な方だね! 参考になります」
それで納得するのか?
……というか、見た目幼女のジョージに対し敬語で接してるが、本当に記憶無いんだよな?
「それはそうと相手の気持ちも考えないとダメだとおもうぞ。一緒に食事したりとかそういうところから入ってだな……しらんけど」
「ううむ……引っ込み思案なリンリンさんと接触する事自体ができないんだよな。ミカン君もいるし」
「……というか今更だが、いいのかこんなところにいて。トップランカー様だろ」
「【至高帝国】のゴタゴタの余波でトップランカーは疲弊していてね。新しい拠点階層の調査を中心に休憩中なんだ。かといってずっとはいられないがね!
だから時間は貴重だ。もう一度リンリンさんの所に行ってくる!」
「ああちょい待て……」
ビー! ビー! ビー!
グレンを引き留めようと立ち上がると、階層全体に響くブザーの音。
これは──
「──《拠点防衛戦》の合図か」
──◇──
『緊急放送、緊急放送!
第31階層に"呪竜の手先"の出現情報あり! 《拠点防衛戦》を発令します!
【かまくら】に登録した参加者はウィンドウから参加表明をする事で直接31階層に参加できます!
繰り返します、緊急放送、緊急放送──』
──◇──
【第31階層フリーズ:永遠雪原】
ひたすらに広がる銀世界。
曇り空が地平線を隠し、天まで続く雪道を作り上げている。
「……どうしよう。一旦【夜明けの月】で集まる?」
「多分そんな時間無いな。3時間だけだ。普通に参加しようぜ」
その場で参加表明をした結果、近くにいたクローバーは元より……ルミナスさんとアザリさんも巻き込んでしまった。
「まあ気晴らしよな。将来有望な【夜明けの月】のリーダー様に、良いとこ見せてやんよ!」
「アザリさん、ほどほどにお願いしますね~。どうせ3時間程度で終わりますから」
……ううん、なるほど。
慣れている人はもう"3時間で終わるもの"で扱ってるから、この3時間でここを探索する人がいないのか。
とはいえあたしも探索とかできそうにないけど。
だってもう凄い量いるもの。全体的に白色で背景と同化して見にくいけど、もの凄い数の魔物が雪崩みたいに来てるもの。
──【スキャン情報】──
《ホワイトアウトラビット》
LV52
弱点:火
耐性:氷
無効:
吸収:
text:雪に擬態し、死角から飛びつく巨大ウサギ。
奇襲に成功すると撤退し再び潜伏する。撤退後仲間を呼ぶので一度逃がすと大量に相手する必要がある。
炎を嫌う習性があり、潜伏を暴く際は火属性魔法を野に放つといい。
稀に即死攻撃をする《デスウサギ》が出現する。
────────────
──【スキャン情報】──
《バイススケルトン》
LV53
弱点:光
耐性:闇
無効:
吸収:
text:過酷な環境に追いつけず死滅した亡霊が白骨死体に憑依した。
人間の形はしているが憑依しているのは魔物なので、脚を失っても肋骨などで歩き始める。
物理攻撃を受けると骨が分離するが、残骸に再度攻撃しなくては残骸同士で合体し増殖する。
────────────
──【スキャン情報】──
《バイススカベンジャー》
LV70 ※レアエネミー
弱点:光
耐性:闇
無効:
吸収:
text:《バイススケルトン》の残骸が集合して発生した大型の骸骨獣。四足歩行の形状を取っているが、既に魂は生き物の名残を失っており、四肢が無くとも浮いて移動する。
接触時に分離する残骸の対処を怠ると《バイススケルトン》になり復活する。
機動力は失っているが、遠距離に骨塊を何回かに分けて投げる事で移動するので注意。
────────────
……【スキャン】仕切れないわね。
地平線を埋め尽くす大量の魔物。これ3時間耐えるの?
「こういう時は【大賢者】だよね~。アザリさん、お先に失礼! 【サンブラスター】!」
ルミナスさんの正面に太陽のような光球が出現し、光線が魔物をなぎ倒す!
……詠唱早いわね。
接近までにかなりの魔物を蹴散らしたけど、単純に数が多い! 結構近くまで接近してきたけど──
「クリエイター部隊前へ! 今日はミカン様は欠席だ! 俺たちで抑え込むぞ!」
「「「「「応!!!!!」」」」」
突如出現するレンガの壁。壁と言っても魔物の正面に出るわけでは無く、魔物の群れを分断するように大量に出現した。
遠くに見える複数人は【キャッスルビルダー】かそれ相当のジョブ? どうやらこの壁の犯人達みたいだけど。
「ああやって群れを分断しないと混戦になっちゃうからね~。小分けにすればクローバーさんやアザリさんみたいな単体に強い人も戦えるって作戦なのよ~」
「おっし。せっかくだから実践すっか。ルミナスちゃんは補助と記録頼んでいいとも?」
「お任せを~」
アザリさんが槍を構える。長杖みたいに使ってたけど、ちゃんと武器として使うのかしら。
魔物の群れに向けて切っ先を向け、何かを測っているようだけど……
──◇──
【ジオマスター】の戦術は、魔法との兼ね合いが悪いんよ。
槍を使ってるのは俺っちの趣味だが。しかし理にかなってはいるとおもうんよねぃ。
「──【スターレイン・スラスト】!」
敵陣真ん中まで突進術で詰め寄る。ここからが検証だ。
「【位相転換】! さぁ暴れるぜぃ!」
視界を覆う──膨大な"色"。
本来純白の31階層は【ジオマスター】の練習にピッタリだ。
──大地の氷属性15%を槍に転換。槍の氷属性38%。
《バイススカベンジャー》が骨腕を振り下ろす。
──属性は氷7%、闇31%、地22%。
大振りの攻撃なんて当たるか。回避し槍の先端を掠める。
──《バイススカベンジャー》の氷属性7%を槍に転換。槍の氷属性45%。
「ちょっと足りてないねぃ! あばよ!」
回避と同時にそのまま逃亡。あのウスノロは自分を投げないと移動できないからな。
丁度いい所に他の魔物がいるな。頂いていこうか。
──《バイススケルトン》の氷属性2%を槍に転換。槍の氷属性50%。
──《ホワイトアウトラビット》の風属性18%を大地に転換。大地の風属性22%。
──《デスウサギ》の闇属性55%を槍に転換。槍の闇属性64%。
準備完了。ウスノロもこっちまで移動してきた所だ。
「【位相転換】! 属性を逆位相に変更する!」
──槍の闇属性64%を光属性31%に変換。
槍を大地に突き刺し──属性を大地へ注入!
──槍の氷属性45%を大地に変換。大地の氷属性60%。
──大地の性質が変換。"凍土"へ移行。
一瞬にして凍り付く白の大地。魔物たちは足から凍り身動きが出来ない。
とはいっても《バイススカベンジャー》は身を投げるが──
「【位相転換】!」
──大地の風属性22%を《バイススカベンジャー》に転換。地属性22%と相殺。属性消滅。
──槍の光属性31%を《バイススカベンジャー》に転換。闇属性31%と相殺。属性消滅。
──《バイススカベンジャー》の全属性の消滅を確認。
骨塊が直撃するが──もう効かないもんね。
「これでお前は"純無属性"になったぜぃ!」
【ジオマスター】のアビリティ、《無色証明》。
"純無属性"となった存在からの一切の攻撃を受けず──"純無属性"への特効効果を得る!
「ぶっ飛べ。【スターレイン・スラスト】!」
突進の威力の増加は、そのまま他の魔物にも有効。
壁ごと全てを吹き飛ばして──
「──クローバーも吹っ飛んだか? わりーわりー」
威力の調整が出来ないのが難点だねぃ。
~【満月】回遊記:ルガンダ編3「迷子の蝶」~
《記録:【満月】記録員パンナコッタ》
前回のあらすじ。
ルガンダで商売をするために、行方不明のアゲハを探す【満月】なのであった。
ベル社長は罠を張ると言うが……?
「罠って、まだこの辺にいるとは限らないんじゃないっスか?
俺みたいに攻略したいだけで【飢餓】に参加してるのは多いっスから、先の階層とかに行ってんじゃないっスか?」
「結構いい視点ね。でも大丈夫よ。その辺にいると思うわ」
「ナメローさん、"うちの団員"って言ってたからね。ギルド脱退はしていないから、なんかこう……戻りにくい感じなんじゃないかな」
「そもそも外部の私達に依頼してんのよ。そこまで難しい仕事じゃないはずよ。
無茶難題するほど悪い取引はしてないし。"ついでに雑用してもらおう"程度の考えよきっと」
随分と舐められたものね、と苛立つ社長。
誰でもできる雑用をさせるというのは、格付けとして優秀な役割を果たす。しかもメリットまである。
流石はナメローさんだ。敵に回したくない、が、敵なんだよなぁ。
「して社長、罠とは」
「ここに事情を説明したら協力してくれる事になった【金の斧】、アイアン8さんがいるわ」
「よろしく」
いつの間にかいた西洋鎧の大男、アイアン8。
「で、こうやってぐるぐる巻きにするわ」
「うんうん」
サティス氏は指示通りにアイアン8さんを縛り上げる。
社長の手には──油。
「全体によくまぶすわ」
「ほいほい」
「事前の話では縛るだけでは?」
「気が変わったわ」
社長の手には──松明。
「アゲハ! あんたの同僚の丸焼きよ!」
「うおおおおお!!! 姉御!助けて!普通に殺される!」
「社長!《敵対行動ペナルティ》ついてます!」
「殺さなきゃ安いわ。おらーさっさと出てきなさい! 着火!」
「有無を言わさず! うおおおおお姉御ーーーー!」
「ちょっと待ったーーーー!」
たまらず飛び出してきた、ビキニに着物を羽織った派手雅な姿。
捜索対象のアゲハだ。見た目に特徴があるとわかりやすくていい。
レンがすかさずアイアン8を消火し、縄を解く。
「でたわねアゲハ。ナメローのところに行くわよ」
「そうだぞ姉御。ナメローさん待ってるぞ」
「ちょっと待てし! いろいろおかしいでしょ!」
やや焦げたが平然としているアイアン8さん。でもさっきの絶叫は演技ではなかったよね。
「ウチは、前科持ちじゃん。【暗夜鎌鼬】にゃ血の制裁とかないけどさ、暗殺ギルド経験者とか、もう【金の斧】にいられないでしょ」
「脱退するにしてもGMの承認がいるでしょ。グダグダ言ってないではよ来い」
容赦ないです社長。
アイアン8によって捕縛されたアゲハ。なんか想像してたキャラと違う。
「やーだー。もうちょっとだけ! あとちっと考える時間ちょーだい!」
「馬鹿に時間はもったいないわ。アイアン8、連行なさい」
「うす」
もはや配下のように扱っているが、先ほどたまたま通りかかっただけである。
──◇──
というわけで。
「下手人を捕らえたわ」
「うちの部下が町中で火あぶりにされていた件については?」
「必要な犠牲よ。死にまでは至ってないわ」
なんとまぁ今日も不遜な我らが社長。
ナメロー氏もこれには苦笑い。
「さて、アゲハちゃん」
「……はーい」
「私はよく闇ギルドとの関連を疑われているのですが、これでいて真っ当に生きているつもりです」
そりゃそうだ。が、その見た目からそういったウワサが後を絶たないという事もまた事実。
「君の経歴はその疑いを助長してしまうかもしれない」
「そう。だからアゲハちゃん、脱退しないといけないのに。
……ヤだったから、逃げちゃった。ごめんなさい」
深々と頭を下げるアゲハ。
"堕としのドクガ"といえば黎明期に都市伝説としてウワサされ、暗殺ギルド【暗夜鎌鼬】の知名度を確立したある種伝説の人物。
その高い知能が成すべき行動を理解させても、心が従わなかったという葛藤だろう。
「そうですね。脱退、させないといけませんね」
「ん。すっごい楽しかったよギルマス……ナメローさん」
「はい。私も。……ですが、うん。やらなくては。
アゲハ。貴女を、現時刻を以てして──【金の斧】から追放します」
「よし。【満月】に入りなさいアゲハ」
社長ーーーーー!!!!!
今すごいしっとりしてる哀しい場面でしたよ社長!
この人感情をインストールし忘れたサイボーグかなにかなの?
「建前上の話ならウチは凄いわよ。建前上【飢餓の爪傭兵団】と接触できないサティスの為にギルドを分化したんだし、
建前上【井戸端報道】がいたら今後不利になるから脱退させられたパンナコッタは今も【井戸端報道】と普通に連絡取り合ってるし、
建前上【飢餓の爪傭兵団】傘下を抜けたレンもドーランに戻ったら普通に【ダイナマイツ(飢餓傘下)】のところに顔出すし」
「あー。つまり、【満月】に入ってればいつでもルガンダに顔出しできるよって言いたいんだよね」
碌でもないエピソードを上手い具合に昇華するサティスさん。本当にこの人いないと話が進まないな。
「……ナメローさん」
「そのあたりはアゲハちゃんの意思です。好きにしてください」
「……うん。じゃあ、アゲハちゃん【飢餓】抜けまーす!
よろしくね、ベルちゃん社長!」
「舐めた口利くんじゃないわよ」
「あっはっは!かわちー!」
「高い高いやめなさい。ちょっと怖いから」
「あ、ごめん」
……新たなメンバーを確保。これで5人目。旅が賑やかになる事請け合いである。
「じゃあナメロー。アゲハのいるギルドよ。もっと優しくしてよ」
「それとこれは別問題です。それより設計しましょう。これが一番楽しみです」
「同感。サティス。みんな連れてレベリングしてきなさい。宿の確保も忘れないでよね」
もう既に"ドワーフ向け大衆鍛冶場""個室鍛冶場"の設計に頭を切り替えている両頭。
なんだかんだ似た者同士ですね。
──その後完成した鍛冶場は複数階の構造だったが、2F丸々【朝露連合】専用の豪華仕様になっていた。
ナメローさんもナメローさんで不器用な人のようだ。




