78.《アイスライク・サプライズモール》
クリックの原住民メイドレ族にとって最も働きやすい、即ちクリックで最も栄えている店とは何か。
──そう。メイド喫茶だ。
メイド喫茶こそがメイドレ族の戦場。クリックには100以上のメイド喫茶があり──その頂点10店舗こそが、《アイスライク・サプライズモール》に出店できるのだ。
俺の名前はイエロータスク。【マツバキングダム】に所属する冒険者だが……今は一介の"ご主人様"に過ぎない。
──《アイスライク・サプライズモール》
B4F メイド喫茶【萌え萌えQ.E.D】(ランキングNo.1)
本日は緊急イベントの気配を感じ、急遽休暇を取り馳せ参じた次第。
この【萌え萌えQ.E.D】では不定期に《叫べ!メイド愛》というイベントを開催する事で有名だ。そしてそこに登場する謎の男もまた有名。
しかしイベントはここ暫くやっていなかったが、果たして……?
「ご主人様ー! 注目ー!」
中央のアイステーブルに、店長"ひやむぎ"ちゃんが登壇。
水色と白色の和風メイド服が本日も眩しい。
「今日は伝説の日になるよー! なんとなんと! 救世主が現れたのだー!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」
なんと、救世主とな。湧き上がるフロア。尚当店は湧き上がる熱意でメイドレ族の皆様が溶けないよう、常に室温5°cをキープしている。
「《叫べ!メイド愛》の優勝景品である正統派メイド服【バトルドレス】。それを身に纏った者現れし時、新たな世界が開かれるだろう──」
「アンタはメイド仙人! いつもイベントで2位に落ち込んでいるメイド仙人じゃないか!」
「その噂なら俺も聞いた事があるぜ! でもこんなイベントで優勝する奴にメイド服着てくれる女友達なんていねぇだろバカヤロー!」
「うるせー!だから今日まで現れなかったんだろーが!」
「という事はあの謎の優勝者はリア充って……コト!?」
「ゆるせん」「ゆるさん」「ほろぼす」
「はーいご主人様達、注目! 今日限りの最強メイドを3人、ご紹介だよ! どうぞー!」
──"光"だった。
現れたのは、全ての男の理想の体現。そびえ立つ漆黒の"美"が、2人の天使を引き連れて現れた。
ゴシックなミニスカメイド──ニーハイに繋がるガーターベルトは一筋の光。あそこに現金挟みたいのだが宜しいでしょうか。恥ずかしそうにスカートの裾を握りしめて震えている様が"愛い"ですな。
対するは"ひやむぎ"ちゃん同様の和風メイドだが──生足丸出しの、おセンシティブな超ミニメイド。派手な赤が生足の"白"を引き立てる。相方と対照的に堂々とした立ち振る舞い。
そして──流れる艶やかなる黒髪をたなびかせ、漆黒にて毅然と立つ──正真正銘"メイド"たる、その姿。
二人の天使により引き立つ長身。しかし威圧する事も無く、媚びる事も無く。そこに"顕現"せし"神"の如き存在──!
黒髪ロングストレートクールメイドが現れた!
言葉一つ発さぬままに沸き立つフロアは最高潮。もう我々の存在で地球温暖化が止まらない!
「さぁさぁ、撮影禁止!おさわり禁止だよー!
整理券配るよー。チェキ9000L、指名18000Lからー」
「うおおおおおぼったくりだああああ!」
「おれは倍払うぜ!」
「なんだと俺はその倍だああああ!」
これは……いけない!
こんなに盛り上がっては警察が来る!
これを止めてこそ【マツバキングダム】! 颯爽と立ち上がり──
「俺は100,000L払う!」
……ま、今日の俺は一介の"ご主人様"なんで。
──◇──
──
─
──数分後、オーナーの介入で【萌え萌えQ.E.D】は数日の活動停止処分を受け、後に"伝説の1時間"と語られる事となる。
そしてイエロータスクはサボりがオーナーにバレて3ヶ月無給労働となった。
─
──
──◇──
《アイスライク・サプライズモール》
2F ゲームコーナー
俺の名前はレッドキャップ。
【飢餓の爪傭兵団】傘下は【マツバキングダム】の古参メンバーで、ガワが小さくて舐められがちなマツバに代わり声のデカいチンピラ役を演じている。
そんな事をしていたらマジモンのチンピラの世話係に任命されて涙と哀愁の日々よ。
んなこたぁどうだっていいんだぜ。
今俺ぁ非番だったんだが、急遽イカれたチンピラからチャットで指令が飛んできたんだ。
─[chat]──
[プリンセス・グレゴリウス]:
『赤いの。ゲーセンにクローバー来てるわよ。見張れ』
──────
おのれ牛乳女め。ちょっと俺より強くて顔と体が凄い良くてなんだかんだ面倒見が良くて目が離せない所があるってだけの癖に、一丁前に俺に命令しやがって。
まぁいいがな。何せ俺はこのゲーセンの覇者。20種目中18種はランキングTOP3入りしてるし、9種ではランキング1位なんだぜ。つまりは言われなくともゲーセンには行くつもりだったんだぜ。
お上品なトップランカーの様子でも見てやるか! 後方腕組みしながらな!
『──何という事でしょう! シューティングゲーム3種完全制覇! ランキング1位三冠達成! 何者だこの男ーーー!』
沸き立つフロア。未だかつて無い観客の多さ。
僅か30分で俺の記録が破られてしまった。おのれクローバー。なんだその不満そうな顔は。
ええい耐えられん!
「待てぃクローバー! シューティングはテメェの十八番だろうが、他はそうはいかねェぜ! 俺と勝負しなァ!」
俺のシマで好き勝手やられちゃ困るぜ!
……なんでそんな笑顔なんだ?
──◇──
その後数時間に渡り対戦ゲームの相手として連れ回されたレッドキャップ。20種全てのランキングを塗り替えられて自信喪失した挙句クローバーを見失い、罰としてプリンセス・グレゴリウスからデコピンをくらう。
レッドキャップは瀕死になった。プリンセスは"敵対行動ペナルティ"を受けた。
──◇──
《アイスライク・サプライズモール》
5F ギルド用レンタルルームエリア
【マツバキングダム】信号機ことグリーンシールです。
オーナーからの指示でライズさんを監視する事になりました。
さてライズさんはどこだろうかと探していたところ、まさかの正面合流。
ライズさんに監視の件を見抜かれ「じゃあもう案内役してくれよ。その間監視してくれ」と言われました。
いいのかなぁ。
「しかしライズさんは無類のメイド好きだと聞きました。真っ先にメイドカフェに行かれるかと思いましたが?」
「君さてはメイドカフェ区画で張ってたな? 流石に風評被害だ。先に確認しなくちゃいけない事があるからな。
それに【萌え萌えQ.E.D】の永年フリーパスあるしな。午後にでも時間作って行くさ。メイドカフェは逃げないからな」
……少し失礼な事をしたかもしれません。
メイドカフェ周辺でライズさんを捜索させている【マツバキングダム】10人にはチャットで解散させましょう。ライズさんもまさか捜索班全員がメイドカフェ周辺で包囲網を敷いているとは思いますまい。
「ライズさんのお探しのギルド……階層探究ギルド【草の根】は確かにこちらに常駐しています。本隊はセカンド階層にて攻略中ですが……宜しいのですか?」
「この階層で研究してる連中と話がしたい。【夜明けの月】も《拠点防衛戦》の解決が目的だ。研究・探究・捜索の観点は俺の主戦場よ」
【草の根】はライズさんが攻略を辞めた後に本格的に活動を始めたギルド。ライズさんほどイカれた捜索技能はありませんが、それでも数という力であらゆる発見をしていきました。
ライズさんに影響された、ライズさんを尊敬している人によってできたギルドです。歓迎されることでしょう。敵か味方かもわからない【マツバキングダム】よりは確実な情報を入手できるとの考えでしょうか。
──◇──
《アイスライク・サプライズモール》5F
【草の根】クリック支部
「エマージェンシーエマージェンシー! 幻獣"底舐め"が出現! 警戒レベル"S"!」
「なんで今日来ちゃうんだよライズァ! 塩撒け塩!」
「ひどない?」
めっっっっちゃ歓迎されてますね。
変な道具やら置物やらが乱雑に積まれた、ハッキリ言って汚いお部屋。貸している側としてはあまり酷いなら勧告出さなくてはなりませんね。
【草の根】メンバーはスクラム組んでライズさんと距離を取る。ライズさんも困惑である。
「なんだなんだお前ら。初めましてだろうが」
「不本意ながらお前の顔はよく知ってるんだよ。肖像画が掲示されてるから」
「正直普段だったら歓迎するけど今日はダメだ! 今日は隊長がいらっしゃるんだぞ!」
わちゃわちゃと騒ぐ面々。
……おお、そういえばそんな時期でした。
色んな階層に点在する【草の根】の情報交換会。定期的に開催されますが、今日はクリックが会場でしたか。
「君達、何をしているのかな」
扉の方から──凛とした、勇ましい女性の声。
ウルフカットの男装の麗人。しかし鋭くも優しい瞳は慈愛に満ちている。顔のいい"王子様"だ。
肥溜めに鶴……は言い過ぎか。しかしその美しさには、周りが霞んでしまうのも無理は無い。
「……た、隊長!」
「お客さんに酷い事を言ってはいけないよ。すいません、せっかく来て頂いた……の……に……」
「ああ。……どした?」
ライズさんの顔を覗き込むや否や、硬直する隊長さん。
すこし震えているが──カッと目を開き、ライズさんから一歩引く。
「ま、まさかライズさん!? 嗚呼どうしたものか、全く想定していなかったよ! とんでもないサプライズだ!
初めまして、私は【草の根】のギルドマスターを務めさせて頂いています、スワンと申します」
手早く膝をつき、ライズさんの手を取るスワンさん。手の甲にキスされそうになり、ライズさんは慌てて手を引っ込める。
それを無礼とするでもなく、スワンさんは至って平静に──
「……さて、それでは結婚しましょう!」
──◇──
《アイスライク・サプライズモール》
3F ブティック区画
「んぁ、なんか騒がしいですわ〜」
「賑やかなのね。毎日こんな感じなの? グレ子さん」
「んやぁ流石に騒ぎすぎですわね。度が過ぎるようなら突撃しなくてはなりませんわ〜」
──メアリー、アイコ、ミカン、そしてリンリン。
4名の監視としてわたくしプリンセス・グレゴリウスは後を尾けていたのですが……。
しゃらくせぇですわ〜! 直接見てる方が手っ取り早いですわ〜! わたくしも混ぜて〜!
と言う事で一緒にショッピングですわ。
はぁ〜女の子との買い物バチクソ楽しくってキマりますわ〜。
「……というかリン……リンゴちゃん様。どういうスタイルしてらっしゃるの。なんぞその乳は。お化け?」
「ふぇぇ……」
あの激烈ゴツい重装備をキャストオフしたリンリンさん──身バレ防止のため適当な呼び名としますが──は、地味ィ〜な黒のインナータイツとジーンズというシンプルな格好ですが。
背が高ぇ。乳がデケぇ。尻がデケぇ。怪物か?
わたくしも体格いい方ですが、素の身長抜かされたのはアイコ様に引き続き二例目ですわよ。
「あまりリン……リンゴちゃんを虐めないで下さいです。
オラさっさと歩け。遅いですよ」
「ふへっ、ミカンちゃん厳しい……気持ちよくなっちゃ」
「外でそれやるなです」
「ふみっ」
リンリン様に飛びつくミカン様。愛らしいですわ。
さりとて、身バレ防止は重要です。リンリン様はクリックでは"無敵要塞"と呼ばれ、《拠点防衛戦》で長らく活躍して頂いていますのよ。フルアーマーなので皆顔も知られていませんが……逆に名前は有名ですから。あまり堂々と呼ぶのは憚られますわ。
「さってと。どこから行くアイコ〜?」
「そうですねぇ。ミカンさんも着せ替えちゃいたいですねぇ。リン……さんとグレゴリウスさんは私と同じ高身長なので、多分同じ店で揃える事になりますよね〜」
「高身長でも着られる服ならば【TITAN】がオススメですわ〜! あそこにはシロナもいますから、顔合わせに行きますわよ〜!」
……なんか不穏なチャットが届いていますが今楽しいので通知切っておきますわ〜!
──◇──
《アイスライク・サプライズモール》
3F ブティック区画
大型服飾店【TITAN】
グレ子さんに案内されて来たのは、なんかドーラン味のある樹木の中みたいなデザインの服屋。なんか落ち着く雰囲気のいい店ね。
「へいらっしゃい!!!!!!!」
「ラーメン屋か」
うるっさい。
なんでこんな落ち着いた店舗に鉢巻巻いた店員が出てくるのよ。比較的高身長で背筋正しいからかなりデカく見える女の人。
「こちら【TITAN】の店長で、クリックの【マッドハット】総指揮店長でもあるスズ=シロナですわ」
「よろしくお願いするね!!!!!!!!」
「うるっさ」
いやうるさい。すごい声量。
「【夜明けの月】ギルドマスターのメアリーよ。今日は普通に客として来てるからあんまり構えないでほしいわ」
「ウチはデケぇの以外も売ってるよ!!!!!!
メアリーちゃんもミカンちゃんも是非見ていっておくれよ!!!!!!!」
「聞こえてる聞こえてるって」
「おっと、うるさくしすぎたね。可愛い子が沢山来たから盛り上がっちゃったよ。
【夜明けの月】はドーランの【朝露連合】と深い関係なんだよね? 【マッドハット】は先代の【鶴亀連合】の時代から取引させてもらってる。仲良くしようじゃないか」
急に大人しくなった。
……【朝露連合】……というかベルは商業拡大を狙っている。
そして【朝露連合】を立ち上げたのはあたし達【夜明けの月】。つまりこのままだと【マッドハット】と衝突する事になってしまう。
流石に不利益なので【夜明けの月】は【朝露連合】から除名しているけど、実際は部下のように扱ってもいる。なんともグレーゾーンな話ね。
「商業の話はちょっとわからないわね。ともかく今後とも宜しく」
「……商人相手には正しい対応だね。よろしく」
固い握手を交わし、面倒事はさっさと投げ出して楽しいショッピングをするわよ。
「あ、新しいお客さん。
らっしゃっせぇ!!!!!!!!!!」
うるさい!
~【満月】回遊記:ルガンダ編1「最初の戦い」~
《記録:【満月】記録員パンナコッタ》
私は【朝露連合】新天地捜索班【満月】の記録員パンナコッタ。
現在、過去最高に脱退したいと思っている。
眼前に鎮座するはルガンダの商業を取り仕切る【金の斧】GMナメロー氏。
額を歪めるのは皺か傷痕か。小さな呼吸さえ耳に入るほどの静寂。
「……ライズさんにゃ縁はありますが……恩までは無い。むしろ怨が生まれたとこです。
【朝露連合】が【夜明けの月】に関係しているのならば、協力はできませんね」
重圧。
もはや殺意に至る、致命の威圧。
ライズら【夜明けの月】に先日加入した新メンバー──クローバー。
元【至高帝国】の一員、最強の冒険者。
何が起きたか【至高帝国】を脱退し、【夜明けの月】に加入した。
ルガンダの一連の騒動を通して【飢餓の爪傭兵団】への敵対行為と判定され、現在【夜明けの月】は【飢餓の爪傭兵団】と敵対中である。
──【夜明けの月】由来でありながら【飢餓の爪傭兵団】と取引している【朝露連合】はグレーゾーンである。
とはいえ、そんな事言える雰囲気ではない。言ったら殺される。
「【飢餓】と取引してるのよウチは。何を偉そうに判断してんのよ」
言った。
人の皮を被った宇宙人ですか社長。クソ度胸すぎでは。
「交易品で脅すつもりはないわ。それは従来通りしましょう。そっちが嫌でないならね。
こっちのお願いは、ルガンダでの鍛冶商売を許可してほしいってだけよ」
ルガンダ──ドワーフの鍛冶技術は現状【Blueearth】一。
特に対冒険者用の鍛冶強化ギルド【架け橋】は最前線からの武器強化依頼も受けている超有名ギルド。
故に、ルガンダで【架け橋】を通さず鍛冶をしようというのは命知らず。指の一本二本じゃ済まないんじゃないか。
「【鶴亀】……いやさ【朝露連合】には、うちの武器もいくらか交易させて頂いておりますが……。
確かに【朝露連合】になってからは輸出量が減っていましたね。武器を自作するつもりで?」
「私が【鍛冶師】だからね。【マッドハット】と戦うにおいての主力武器になる予定よ」
「ほう──」
平然と、商人界のタブー──【マッドハット】に踏み込む。
第30階層以降の商業全て──未だ辿り着いていない最前線でさえ──を取り仕切る、【Blueearth】最大の商業ギルド【マッドハット】。
社長は本気でそこを荒らす覚悟で来ている。ここで怯む暇はないということか。
「ウチの売りは高品質低価格の回復薬と、市場を制圧しているリンゴ。そしてライズから持ち出した、最前線に通じる超強化装備。
でも最後のやつはマニア向けの超高級品で数が少ない。だから鍛冶業を拡大しないといけないのよ。
その為に最も手っ取り早いにはルガンダブランドを手に入れる事よ。ここで鍛冶してるってだけで品質の最低保証がされるんだからね」
「成程。過剰強化は不要という風潮がありますが……レベル差を武器性能で覆すライズさんが広告塔となっているわけですか。
【夜明けの月】は装備の強化値+50くらいは当たり前という異常なギルドですからね」
「そういう訳。元よりうちへの武器輸入はそこまで収入割合高くないでしょ。
むしろここに拠点を構えさせてくれればうちのアイテムに割引かけるわよ」
「ほうほう。お断りします」
一刀両断。
しかし軽く流したようなものではなく、言葉の節々に凄みが乗ったような。
「【マッドハット】は【飢餓の爪傭兵団】と密接に関わる【Blueearth】の大黒柱。
瓦解するにせよ、貴女達が踏み潰されるにせよ、何かがっては事なので」
「んじゃあ協力しないとね。【マッドハット】が崩れた時、柱を継ぐのはウチよ」
なんで煽るんですか社長。特にレンは【飢餓】抜けてるから消えそうなほど縮こまってる。
「……商業を統一しようとしているのは【マッドハット】も同じよ。手を組まないとやがて吸収されるわ」
「アタマ張るのが【マッドハット】か【朝露連合】かの違いでしょう。なら規模の大きい方を選ぶのが自然では」
「連中は鍛冶を甘く見ているわよ。武器の強化値が重視されない風潮も連中が作った」
「私は根っからの鍛冶師ではないので。ドワーフとの友好の一環として始めたギルドです」
「そこよ」
社長の目が光る。悪い事考えてる目。
「ドワーフは鍛冶好き。仕事以上に鍛冶をする事そのものが大好き。なのに冒険者向けの鍛冶は【架け橋】がやってるのは何故?」
「御存じでしょう。強化値+10を超えるとドワーフ達では強化できません」
「一部のドワーフはできるわ。できないのは【架け橋】が仕事を奪ったからよ」
「鶏か卵かの水掛け論です。何が言いたいのか理解しかねる」
「ドワーフ向けの鍛冶場を開くわ。無償で鍛冶を好き放題する場所を提供する」
少しだけ、ナメロー氏の皺がほぐれたように見えた。
ナメロー氏はドワーフとの友好のために奔走した偉人。目的がドワーフとの友好であれば断れないとの判断か。
「鍛冶は回数を重ねれば強化値の上限と成功率が広がっていく。冒険者ができるならドワーフはもっとできるはずよ。
常に好き放題鍛冶をさせて、不用品はこっちで引き取ってドワーフ印の装備品として売るわ。
やがて強化上限を突破したドワーフを雇って、【架け橋】の人員増加に使えばいい」
「……その話、【朝露連合】が主体で動く理由にはなりませんよね。アイデアだけ貰ってウチでやるって事もできますが」
「それならウチの【鍛冶師】をそこで遊ばせてほしいわ。こっちが必要なのは良質な鍛冶場と経験の方だから」
「商売敵になるとわかってソレ許すと思いますか?」
「じゃあ手ェ組みなさいよ。今すぐじゃなくてもいいわ。【朝露連合】が軌道に乗ってからでも歓迎するわ。
商人にとって最もおいしいのは選択肢でしょ。どう転がっても得をして損をしないなら乗らない手はないわ。
どちらにせよ、冒険者が"完全に冒険者が利用できない設備"を建築する事はアドレ法律上できないわ。利用者を限定する事で疑似的にならできるかもしれないけど。
《大衆鍛冶場》ってとこ? もう作る気はあるみたいだし、勝手に利用させてもらうわ」
いつの間にか社長が優勢になっている。
でも内容的には妥協と譲歩の結果の惨敗な気がする。本当に鍛冶場が欲しいだけなわけない。
「……商人の提示する無償ほど恐ろしいものはない。
いいでしょう。《大衆鍛冶場》は【朝露連合】と【金の斧】の共同開発として利権は半々。これでいかがか」
「いいの? 突っぱねない理由がないと思ったのだけど」
「一応条件は提示します。【朝露連合】の為、冒険者が集中的に利用できる《レンタル鍛冶場》を併設しますのでそちらを利用下さい。
【朝露連合】の作品は全て、ルガンダ内での販売を禁止します。リサイクルによる利益は生まれますので、無償の破棄でしたら受け入れます。
利権は半々、建設費用はこちらそちらで6:4としましょう」
【架け橋】の技術は渡さない。隔離された場所で、場所代払ってならやってもいい。
ルガンダ内で利益を出してはいけない。そしてその上で諸々の開発建設費を4割担保しろ。
つまりはそういう事。かなり不利な状況ではあるけど、これでいいのか社長。
「そしてあと一つ。この問題を解決してくれたならば、快諾致しますとも」
更に条件を重ねてきた。厳しいけど、社長はもう後には引けない──それをわかっているのだろう。
「行方不明になったうちの団員を──アゲハちゃんをここに連れてきてください。それならば4:6まで譲歩します」




