75.洞窟を抜けた先は
「ではウチ……私は、これで。今後の取材は……メッセージ取材になるかと思いますが。どうか、今後ともご贔屓に!」
半泣きのタルタルナンバン。今生の別れでもあるまいし……。
アイコとドロシーに任せたけど、どうやらちゃんと折り合いつけたみたいだし。変に気負って無さそうで良かったわ。
「第30階層は明日にする。今日はログハウスで休むが……一泊してくかお二人さん。サービスさせてもらうぞ」
「……いや……クローバーの抜けと俺の不在で……そろそろ【飢餓の爪傭兵団】が何かする頃だ。ここで失礼する。
……それはそうと、簡易ハウスの改良については起案を投げておく。世辞抜きに……あまりに充実した息抜きになった。……もう普通の風呂に入れんかもな……」
「では僕もこれにて。【ダーククラウド】とハヤテを今後とも宜しくお願いしますね、【夜明けの月】の皆様」
バーナードさんもエリバさんも見送って、ログハウスへと帰る。
次の階層は目の前だけど、朝に行く方がいいという事で今晩は休む事に。
ルガンダでは色々とあったけど、"最強"のクローバーを迎えて【夜明けの月】も7人。なかなか大所帯になってきたわね。
……心配事もあるけど、今の所は上手くいってるわよね。
記憶の事とか、運が良かっただけだもの。
ライズは恐喝しようとして失敗。
アイコは向こうからの歩み寄りで成功。
ドロシーは……成り行きで、大失敗。
クローバーの時はもう意地で、運良く成功。
……例えば、これから絶対に思い出させちゃいけないような記憶を持っている子がいたとして。
あたしはその子の記憶を戻すのかしら。
「メアリーさん、行きますよ」
「これから第30階層のお勉強会だそうです。その前にお風呂に行きましょうね」
ドロシーが先頭に立ち、アイコさんがあたしを担ぐ。
ものあつかいをなめなさーい。あたしゃギルドマスターだよ。
……とか、憎まれ口は……今日はいいや。
──◇──
《【夜明けの月】のログハウス》ロビー
お風呂上がり、就寝前。
これまでは行き当たりばったりだったけど、今回は目的がある。ライズは酒瓶片手に真剣な表情でソファに座る。
「次の階層は凄いぞ。何度も言っている話だが、とにかく戦闘慣れしてる前衛の宝庫だ。【聖騎士】も【フォートレス】も【グラディエーター】も選り取り見取りだ。
ここで最低1人は仲間を増やしたい。てか可能なら3人拾って10人ギルドにしたい」
階層が進む度に冒険者の総数は減り、ソロでの攻略は厳しくなる。つまりはギルドが増える。
そうなると引き抜く事が難しくなる……というのは前々から言われてたけど。
「【第30階層 氷結都市クリック】はかなり特殊だ。ソロもギルドもわんさかいる。狙いは──」
「──そういえばスカーレットが言ってたわね。《最強の重要塞》、元【真紅道】の【フォートレス】……リンリンって子がいるって」
そして【真紅道】団長グレンがずっと求婚しているとか。変に手を出せば【飢餓の爪傭兵団】に引き続き【真紅道】まで敵に回すかもしれないから、慎重にならないと。
「よく知ってるな。候補の一人がそのリンリンだ」
「知ってて言ってるのか? クッソ面白ェ。俺賛成。
やっちまえライズ。野獣から姫を救い出せー」
「ふざけんなコラー。本気で悪目立ちしすぎよ最近」
「はっははは元凶。で、どうすんだ? クリックは結構面白いらしいぞぉ。ずっと《拠点防衛戦》してるからな」
「そうだな……まずはクリックについてだ」
ライズもまた、現状の【夜明けの月】についてよく考えてはいるはず。それでも欲しい人材って事ね。
「1週間に1度以上のペースで《拠点防衛戦》が行われている化け物階層だ。一度の防衛戦は3時間程度だな。
終了条件も発生条件もよくわからん。とにかく冒険者はこの《拠点防衛戦》を中心として生活している。
今一番通り抜け辛い階層だな。なんでか分かるか?」
「えっと……冒険者の数が多くて競争相手が多いからとかですか?」
「いや、違うわね。攻略途中で《拠点防衛戦》が始まるとクリックに戻されちゃうからでしょ?」
ルガンダの《巌窟大掃除》はイベント中にイベント参加者以外は攻略階層に入れなかった。
これは内部データ的に階層のコピーをイベントに使っていたからだと思うわ。
《拠点防衛戦》も同様のシステムなら、階層攻略を狙う場合は3〜6日くらいで9階層を踏破しなくちゃいけない。
1階層徒歩で半日。ギミック付きなら更に伸びる。足があっても厳しい期間ね。
「正解だ。大抵の冒険者は《拠点防衛戦》に参加しながらタイミングを見て大急ぎで攻略しなくちゃいけない。だからまぁ……俺達もいい感じに勧誘したら程々に《拠点防衛戦》参加して、大急ぎで突破する事になる。
レベル目標は75。デスマーチでのレベリングはしない。だからこれまでとは違って長めの滞在になる。覚悟せい」
「こんばんわー」
「answer:いらっしゃいませ天知調。こちらの席にどうぞ」
「あぁどうもありがとーゴーストちゃん。賑やかになりましたねぇ」
……なんかぬるっと出てきた!
【Blueearth】の元凶、天才にして天災、あたしのお姉ちゃん──天知調。
なんかもう普通に入ってきたけど、ゴーストは普通に迎え入れちゃうし。
「おぉお久しぶりです調さん。クローバーは初めましてだよな」
「んにゃ先行体験会で"TOINDO"本社に行った時に会ってる。お久しぶりです調さん。【Blueearth】楽しいです」
「……あ、ありがとうございます。流石世界一のゲーマーさんですね。一言目にソレとは」
お姉ちゃんが押されてる。なんかお姉ちゃんが通用しない変人ばっかり集まってくるわねウチ。ジョージ以上はないでしょうけど。
「それでですね、今回は少しお願いがありまして」
こほん、と小さく咳払い。
「──【第30階層 氷結都市クリック】にてバグが発生しています。どうかご協力を」
──◇──
……任務遂行。
レベル上限突破クエストのディスカバリーボーナスの実在を確認。情報の独占には失敗したが……。
クローバーの戦術の要である銃弾の確保、武器の強化ラインは全てライズ1人で代用……あるいはかつてより強固なものへと変異している。ここは注意点となるだろう。これからのクローバーはこれまで以上に手強くなる……。
ハヤテの部屋の資料捜索は失敗……。メアリーに完全にマークされていた……。どうやって勘付いたかはわからんが……。
しかし大倉庫は立ち入り自由だった……。こっちで満足しろと言われているかの様だ。
……正直お飾りのギルドマスターだと思っていたが……どちらがより重要なのか把握しているとは。かなり賢いな、メアリーは……。
……さて。
「……何の用だ? エリバ」
転移ゲートを前にして、お互い動かない。
得体の知れない【ダーククラウド】の……希少な【仙人】。俺は顔が広い方ではないが……身元が不明すぎる。
「それを言うならバーナードさんこそ。僕に聞きたい事があるのでは?」
……答え合わせの時間という事か。
考えがわかりにくい……。本意は何だ……?
「……気になってはいた。【夜明けの月】と……エリバ。お前達だけで通じている会話がある……。
アイコの戦闘能力といい……【夜明けの月】の異様な攻略速度……【ダーククラウド】も攻略速度が相当早い。人員の引き抜きもな……。
貴様らは……何を知っている?」
【夜明けの月】も話題ではあるが……今【Blueearth】を引っ掻き回しているのは【ダーククラウド】の方だ。ギルド名が出た時点で警戒してしまう程には……。
「先日は【コントレイル】のキャミィ氏がそちらのギルドへと移ったと聞く……。あの誠実で自他に厳しいキャミィ氏が金で懐柔される事も無かろう……。
それほどまでにライズの知識は偉大か……? それとも……それ以外に何かあるのか?」
「考えすぎですよ。……と、誤魔化すつもりでしたが」
転移ゲートが光る。誰かが来た──?
「……貴方は決して思い出してはいけない人ですが。我らがギルドマスターきっての望みとあれば仕方ありません。ちゃんと責任取ってくださいね、ハヤテ」
──件のギルドマスターは、何故かリモコンをこちらに向ける──
「おはようございます、バーナードさん」
──◇──
《【夜明けの月】のログハウス》
大天才天知調を交えて、【夜明けの月】は初めてのゲームマスターからの依頼を受ける。
「バグ……テンペストクローの時みたいな事が起きると?」
かつて俺とゴーストとメアリーは【第6階層ウィード:枯れ木野原】で"天候上書きバグ"に巻き込まれ、本来は《拠点防衛戦》でしか動かない《テンペストクロー》との交戦を余儀なくされた。
最終的にはメアリーのハッキングで更に天気を上書きする事で《テンペストクロー》の発生条件を崩した訳だが……。
とにかく原因も元凶もわからなかったんだ。バグらしい、という話だがあまりに人為的すぎるし。
……デュークがヒントのようなものを渡してきたし。誰かしらの思惑が絡んでいるのだろう。
「いえ、予知予防の話では無く……現在進行形で発生し続けているのです。ライズさんやクローバーさんは察しているかもしれませんが」
……うん。この話の流れ的に、アレの事なんだろうなぁ。クローバーもこっち見て頷いてるし。
「クリックの《拠点防衛戦》は、バグのせいで防衛失敗し続けています。
どうか防衛を成功させて欲しいのです」
──◇──
──翌朝。
お姉ちゃんは一晩泊まった後、朝ごはんまで食べて帰った。
肝心の依頼については、"できたらやる"程度の返事だったけど……。
──────
『正確にはもうバグってはないのです。本来起きるイベントがスキップされている状態なのです。
これを解決するにはクリックの冒険者さん達の協力が必要なんです。どうかお願いします』
──────
ライズは素っ気ない返事だったけど、どうせ乗り気なのよね。あたしがちゃんと手綱を握らないと。
──次の階層へ繋がるゲートの前に立つ。
戦乱の世界、極寒の地。
しっかり気合いを入れないとね。
「いいか? 行くぞ」
「ええ、どんと来いっての!」
全員でゲートをくぐり、そこには──
──青空と雪と氷の世界。
道を成すように並ぶは──氷像のような美しさに、燃える髪を携えた──メイド服を纏う謎生物。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様ー!」」」
……どういうこと?
〜【夜明けの月】は今日も仲良し③〜
《ドロシーと各メンバーの絡み》
・ライズ
頼れるお兄ちゃん、珍しく同性扱いしてくれる男性。
アイコさんが喜んでくれるし自分でも可愛い服が好きだから女装しているだけだけど、変に気を遣ってもらうのは申し訳ないので早めにカミングアウト。
ライズはすっっっごい他人を気遣うんが、気遣いすぎて本人に聞けないので誤解したままな所がある。そういう所はサポートしてあげたいと思っている。
・メアリー
お姉ちゃんであろうと努力してくれているお姉ちゃん。
ドロシーには、弱々しくも誇り高い内面と、それを覆い隠さんとした毅然たる外面の両面が"凄い普通の人間"に見える。環境や立場を考えればなぜそんな"普通"なのかとてもわからないけど、周りの異常性に振り回されていて可哀想だと思う。特に内心傷付いてるのに隠そうとする癖があるので、"理解癖"全開でサポートしている。
・ゴースト
"普通の女の子"。ゴーストが機械的な対応や会話をしているのがただの演技だと思っている(あくまで真偽は不明)。
実は【夜明けの月】メンバーが周りにいないで二人きりの時は、人間的感情についての説明会をしたりしている。
なんとなく妹みたいだと思っている。
・アイコ
ドロシーの全て。記憶が無いながらも"理解癖"と根源的な他者への軽蔑・諦念があった中、いくら"理解"しても悪いところが見つからないマジの"聖人"だとわかると超依存する。
(その段階では"理解癖"を内心に住み着く悪魔のように思っており、転じてアイコを神聖視する事で自分を卑下し自我を保っていた)
今は色々と折り合いも付けたが、それでもこれほど清らかな心の人は見た事が無く、神聖視ほどではないがかなりの好意を持っている。恋愛感情なのかどうか悩み中。
・ジョージ
底が見えない。化け物。
そもそも"理解"するための観察がバレて拘束される。事情を把握してからは観察を許可されるが、とにかく立ち振る舞いから内面が見えない。底知れない凄みとかじゃなくて、訓練とかで意図的に隠しているのだろう。
一つだけわかるのは、家族が大好きな事。これだけは間違い無く本心だと読み取れてからは一気に信頼し、特別風呂同士仲良くしている。
最近は狙撃の練習を見てくれている。
・クローバー
尊敬するべき"最強"のゲーマー。"理解"してみると結構何も考えてなかった事がわかった。
そしていくら"理解"してもゲーム感覚までは盗めない。言ってる言葉は理解できるけどそんなの実践できるかー!って感じ。
クアドラインストール【サテライトキャノン】のように超集中でのなりきりもできるかもしれないが、集中しすぎて死ぬ可能性があるので自粛している。
普通にファン。




