69.暗雲に隠れた月
【第21階層ケイヴ:カミサマの通り道】
──《【夜明けの月】のログハウス》
12号室(クローバーに割り当てる予定の空き部屋)
「さて、どこから話したもんか……」
ドアに鍵を掛けて、準備完了。
タルタルナンバンにお願いして、ロビーでクローバーとバーナードに対して取材をして貰っている。つまりは暫く立ち入り禁止という事。
今この場にいるのは、現実の記憶を持った者──俺、メアリー、ゴースト、アイコ、ドロシー、ジョージ。
──そして、木原エリバと名乗るこの人。
「済まない。諸々の腰を折ってしまうが、先ず最初に俺から聞きたい。
エリバ君。俺の娘を【Blueearth】で見たか?」
珍しく押しの強い、余裕の無いジョージ。
警察としての立場だ正義だは建前で、ジョージは自分の娘を探しに【Blueearth】に入ったんだ。これを邪魔する権利は俺達には無い。
エリバはジョージの(今となってはとても小さな)肩に手を触れ、目線を合わせ──見た目通りの小さな子供をなだめるように、微笑む。
「大丈夫です。譲二さん。娘さんは──瞳ちゃんは無事です。今は一人ですが、安全なところで生活していますよ」
「──そうか。そうかぁ。良かった……良かった」
力無く泣き崩れるジョージ。嬉し泣きだが。
【Blueearth】に突入した目的は達成できたわけだ。素直にめでたい。なんかメアリーまで泣いてる。……俺も目頭が熱くなってきた。
「──まずは譲二さんの潔白を証明しなくてはならなくなりましたね。改めまして、僕は木原エリバ。現実では18歳の、何の取り柄も無い高校生です。
瞳ちゃん──譲二さんの娘さんとは同級生で、小学生の頃からの親友です。その繋がりで譲二さんと知り合っています。譲二さんは潔白ですよ」
まだそんなに話して無いのに、エリバからは優しさと冷静さを感じた。
情緒が落ち着かないジョージに代わって俺達に説明するだけでなく、謎の記憶持ちと関わりがあるジョージが疑われないよう真っ先に弁明するとは。多分、信じていい人だ。が、より正確に判断したい。
「ドロシー。どうだ?」
「──一応、嘘かどうかまでは読める程度に"理解"しました。今の言葉には嘘も、故意に騙そうといった意図も無いと思います」
「うん。引き続き頼む。
──エリバ。あんたの礼儀正しさに応じるために言うが、ここにいるドロシーは世界一可愛い嘘発見器だ。アンタへの疑問が全部潰れるまでは、疑う事を許して欲しい」
「ええ、勿論です。それ込みで手を貸すようにとハヤテからも言われています」
うん。次はそこだよな。
「よし、ちょっと待て。
ジョージ。アイコ。頼む」
「はい」
「わかった」
話を聞く前に、2人に俺の両脇に立ってもらい、俺を鎖で縛ってもらう。
ジョージ。ちょっと痛い。縛りすぎ。
「えっと……一体それは?」
「ハヤテの話になると冷静でいられなくなる可能性がある。前科あるんで、予防する事にした。
これでも尚アンタに襲いかかる事があればこの2人が俺を気絶するまでボコボコにしてくれるんで安心してくれ」
「それ襲う側が言うセリフじゃないですよね」
「ライズ君。エリバ君は俺の娘と仲良くしてくれた、ほぼ俺の子供と言って差し支えない。加減できそうにないから必死で耐えてくれ。俺だってライズ君を殺したくはない」
「わかった。命の危機がある方が必死になれるだろ。がんばる」
「なんでこの人はこんなに冷静に自己分析できてるんですか?」
「変態なのよ。しかも治らないやつ」
失礼な。割と真剣だぞ俺は。
「──では。僕の所属するギルド【ダーククラウド】は、現在【第130階層 風雅楼閣サカズキ】を攻略中のセカンドランカーです。ギルドマスターはハヤテ。……実質的には、僕はライズさんの後輩に当たりますね」
【ダーククラウド】。
それがハヤテの今のギルドの名前。
最前線が160階層である事を考えると、かなり先に行ってるみたいだな。
「僕は記憶持ちですが、全員が全員記憶を持っているわけではありません。なので運営側での問題事が起きた場合は【ダーククラウド】で解決するより、【夜明けの月】も頼りたいと思っています。その時はどうか手を貸して頂けたら」
「……天知調関連の指令だったら持ち掛けなくても直接こっちに来ると思う。確認なんて取らなくても共闘する事にはなるだろうな」
ハヤテ率いる【ダーククラウド】は、予想通り全員が記憶持ちというわけでは無いらしい。元々【三日月】がそうだしな。
しかしそうなると【ダーククラウド】はあくまで階層攻略をするためのギルドで、天知調直々のミッションはハヤテが個人的に受ける事になるんだろう。そしてその時は、メンバー全員が記憶持ちの【夜明けの月】の方が扱いやすい。
……そう。【夜明けの月】はメンバー全員が記憶持ち。
「クローバーの事考えてるでしょ」
「おう。あいつの記憶もまた一つの問題だよなぁ」
現実では"世界最強のゲーマー"檜佐木宗一/アシュラ/クローバー。
間違い無く最高戦力なのだが──だからこそ、リードを繋ぐ術が無い。ノーリードで放し飼いしているライオンだ。今は本人の気分で小屋に入ってくれてるだけで、その気になれば脱出も容易い。そんな感じだ。
「クローバーに記憶が戻れば間違いなく【Blueearth】で最強の戦力になる。だが同時に、逃げられた時の被害が尋常じゃない。かといって記憶無しじゃあなぁ。
あいつ勘が良いからそのうちボロが出ちゃうと思うんだよなぁ」
「記憶無くても"最強"ですから、思い出させなくともよいのでは? こちらとしてもイレギュラーな記憶持ちは可能な限り減らしておきたいですからね」
「だそうだが、どうするメアリー」
「──思い出させるわよ勿論。変に仲間外れにしてつまらなくさせたら逃げられるでしょ」
もっともな感じで言うが……メアリー的にはまぁ、仲間外れにしたくないのが本音か。言わぬが花だが。
「うん。ギルドマスターの仰せのままに。
で、エリバ。アンタは【ダーククラウド】で、サティスの知り合いなんだな?」
「はい。今回はサティスさんの依頼が先にあって、その行き先が偶然【夜明けの月】だったという話です。ハヤテに説明したところ、"行くのはいいけど殺されないようにね"と釘を刺されました」
「俺は猛獣か」
「その姿を見ると、はいとしか言えませんね」
うん。鎖でがんじがらめだからね俺。
「──よし。疑って悪かったエリバ。改めて、アイコの指導を宜しく頼む」
「そうそれよ。やっとスタートラインに戻ったわね。
アイコの第3職を指導してくれるのよね? 【サテライトガンナー】をドロシーに教えたクアドラみたいに」
そもそもはそういう話だ。それでアテがあるってサティスが連れてきたのが、偶然【ダーククラウド】のエリバだったんで拗れたんだよな。
「そうだな。こっからは他の連中集めて話してもいいだろ。ロビー行くか」
──◇──
《【夜明けの月】のログハウス》ロビー
「どひゃぁ」
ロビーに行くとタルタルナンバンが倒れている。
【真紅道】でガンガン攻略中、対面取材とか不可能なレベルの有名人、バーナード。
話題の中心。全てが謎だった"最強"。気まぐれ大魔王クローバー。
この二人と対面取材してるんだから疲れ果てるわな。しくじったら記者人生終わりという縛りも付けてるし。
「まーそのまま聞いてくれ。今日はもう夜も遅いから、明日から攻略を開始していくつもりだ。陣形や戦法のためにエリバとバーナードは軽く能力を説明して欲しい」
ナンバンは一度参加してるからもういい。そこで寝といてくれ。
「──では、改めまして。エリバです。ジョブはヒーラー系第3職──【仙人】をしています」
【仙人】。これこそ、アイコに薦めたいジョブだ。
「……珍しいな。最前線でないのに【仙人】とは……」
「その言葉はアイコさんが相応しいと思いますよ。彼女なら間違い無く昇格できますから」
バーナードが反応するように、【仙人】はかなり希少ジョブだ。その要因は、入手条件にある。
「"悪を成さない純なる心"の持ち主しか辿り着けない裏拠点【到仙境】。もう道が閉ざされて長いが、一度通った事のあるエリバなら通る事ができる」
「"悪を成さない純なる心"って何? あたしも純粋なんですけど」
「巨悪じゃねぇか。……ともかく、システム上の問題だ。
【Blueearth】ではこれまで、ある階層で中立キャラの虐殺を強要されていた。だから【仙人】は最初に通り抜けた一部の冒険者しかなれなかったんだよ」
「──ドーランの事?」
カメヤマら【鶴亀連合】の策略によって、第10階層に辿り着いた冒険者はエルフへの討伐を強要されていた。正確には殺してはいないが……とにかく、ここで"悪行ポイント"とでも呼ぶべき内部ステータスが加算されてしまったのだ。
「そう。だがアイコは、アイコだけはエルフもドリアードも、てか冒険者相手でも優しく接していた。条件を満たしている筈だが──そもそもの入り口が閉ざされているんで、経験者経由じゃないと入れないんだよ」
【到仙境】は多分、全ての冒険者の"悪行ポイント"の比率とかを見て入り口が開閉する。暫く門が閉じて以来ずっとそのままだ。
「【仙人】はですね、武器を持ちません。非暴力ですね。素手と闘気で殴り倒します」
秒で矛盾するのやめてもらっていいか?
「──素手?」
「そう、素手。ピッタリだろ?」
アイコとジョージ、フィジカル無双チームの課題は"【Blueearth】が肉弾戦拒否してる問題"にある。
ジョージはそもそも肉体そのものをナーフされているため肉弾戦ではリミッターを解除するしないのギリギリで戦っているが──アイコは別だ。
アイコだけは、全盛期の肉体を遺憾無く発揮している。素手だとダメージが入らない【Blueearth】ではダメージ源が無かったが、それでも合気道や柔道で敵の攻撃を躱し流したりとレベル差を無視した大活躍をしていた。
「より正確に言うと、"仙力"と呼ばれる身体から出るエネルギーを操ります。そのエネルギーが武器になりダメージ判定になるんですね。
ですから、極限まで薄い"仙力"を纏えば実質素手で戦える、というわけです。
僕は"仙力"を使った近中距離戦闘ですが、アイコさんなら完全近距離格闘も可能でしょう」
【仙人】の知り合いは俺にはいない。どうしても見つからなければデュークにでも頼むつもりだったが、サティスのお陰で想定より早く済んだ。今度お礼をしないとな。
アイコは珍しく嬉しそうにしている。肉体が血を求めている──とかそういう格闘家のアレではない、と信じたい。
「では明日に僕とアイコさんは【到仙境】へ向かいます。今日は夜も更けていますから……」
「え?」
「え?」
エリバをお姫様抱っこするアイコ。
ああそうか、エリバは俺のこと詳しくないよな。
「今から行くんだが? 明日の8時にはデスマーチ始めるからそれまでに帰ってこいよアイコ」
「はい。勿論。エスコートお願いしますね、エリバさん」
「──流石はあのハヤテを悩ませた曲者。あはは、わかりました。行きましょうかアイコさん。降ろして頂けます?」
「この状態でも私が走った方が速く移動できますよ」
「うーん効率的。異論無し。ではこのまま行きましょう」
割と対応力あるなエリバ。
ドアを開け、外へ飛び出すアイコ。いってらっさい。
「──じゃあ今日は解散。クローバーは部屋案内するから残ってくれ。バーナードは……ドロシー。風呂まで案内してやってくれ」
「あいよ」
「はい。では男湯に案内しますねバーナードさん」
「……!?……?……!??」
「あ、凄い混乱してる。ごめんなさいバーナードさん、僕男です。案内できる男性が僕しかいなくて」
「……?????」
もっと混乱するから。
~あのキャラどのキャラ~
《天地調の備忘録》
今回はルガンダ編です!
・アイアン8さん
──出原 哲也(16)
スポーツ強豪校のピンチヒッター。基本的には帰宅部だが、スポーツ万能でいろんなスポーツで結果を残していた。
割と目立ちたがり屋。一つの部活に集中するよりいろんな競技に出た方が注目されやすいと思っていた。
ゲームもかなり好きだが、基本的には話題になっているゲームしかせず、広く浅いタイプ。
"てつや"なので"てつ-や"。
──どんなスポーツでも対応できる肉体はもちろん、かなり早くルールを飲み込む頭の良さも併せ持っています。ただ元のスペックが高すぎて、理想のハードルが天井知らずだったようですね。
・ナメローさん
──滑川 座一郎(55)
警視庁組織犯罪対策第4課の管理官。かつては対暴力団などとガチガチにやりあっていた。
新たな犯罪に使われやすい"新しいもの"のチェックを欠かさない。【Blueearth】も初報から追っていた。
新しいものに対する先入観の無さ、なんでも受け入れる柔軟性が長所。
逮捕したかつての友人の家族に資金援助をしており、節約のために酒もタバコもやめた。
──警察関係者ですが、ここに来たのは完全プライベートです。ルガンダの自治に大いに役立ってくれて感謝しています。
・アゲハさん
──夢野 小町(18)
至って普通のJK。ギャルグループのリーダー的ポジションで、読モ兼ファッション系ストリーマー。
父親が反社会勢力の構成員でアゲハが幼少期の頃に逮捕され、それ以降はある刑事さんからの資金援助で生活している。
容姿、性格、学生というブランドをフルに活かして未成年ながら生計を立て、あしながおじさんへ援助された資金を返却する事が将来の夢。
母親はマネージャー。【Blueearth】は危険性をなんとなく感じ取っていたが、ストリーマーの立場上やらざるを得なかった。
明るい外面に反して、冷静合理的な内面を持つ。
──冷静冷酷合理的な面が最初は暗殺ギルドという点で発揮されてしまったのが残念です。でも何しても上手くやる人の典型例ですね。




