67.後の祭りのお祭り騒ぎ
【第20階層 地底都市ルガンダ】
──中央広場 20:15
『結果発表〜〜〜!!!!』
全ての参加者が転移し集められた中央広場。ライズさんの指示で、【夜明けの月】は素早く集まりました。そんな指示なくてもすぐ合流しましたけどね。なんだかんだ仲良しなので。
「ドロシー。今回はよく頑張ったわね。夜逃げの準備は?」
「はい。一応ホテルは一旦チェックアウト済みです。仕込みも済ませました。いつでも逃げられますよ」
メアリーさんが撫でてくれる。さっきまで頑張ってたのに、メアリーさんは部下を褒める事を忘れない。いい上司だなぁ。
「……それで、ライズさんは何してるんですか?」
「不貞腐れてるのよ。アイコセラピー終わるまで近付かないであげなさい」
頭を抱えて座っているライズさん。この世の終わりみたいな表情してるけど、隣にアイコさんが座って話を聞いてくれている。
この構図、実は割と見た。ライズさんが落ち込んでる時って結構あるんですよね。色々と背負うものが多い人が、勝手に背負いがちなんですよ。
『──2位はチーム"穿孔"4052ポイント! 最終日の追い上げ凄まじく、正に【飢餓の爪傭兵団】面目躍如といったところか!?』
発表が進む。今思えば、割と早い段階でイベントすっぽかしてたなぁ。
壇上のサティスさんがマイクを握りしめて立ち上がる。あの人もまぁ楽しそうにやってるなぁ。写真撮ってベルさんに送ってあげよう。
『そして栄光の第1位は!
──獲得ポイント7202! チーム無所属! クローバーだぁぁぁ!!!!』
歓声、悲鳴、時々怒号。
──そう。そうなんです。
あれだけやったのに、【朧朔夜】まで持ち出したのに。
クローバーさんはライズさんどころかミドガルズオルムすら撃退し、無所属のまま優勝しちゃったんです。
「…… 【焔鬼一閃】のデバフ受けた上でやりやがった……なんなんだあいつ」
おかげでライズさんは自信喪失。いやはや、"最強"の恐ろしさ。同じ銃使いとして恐ろしさを感じます。
『おら景品だ。さっさと帰れ疫病神』
「ひでぇ言い様じゃん」
サティスさんは非常に嫌そうな顔で、クローバーさんに景品の【双頭の狂犬】を授与。
結局、今回の作戦は失敗寄りの終わり方でした。まぁクローバーさんに覚えて貰えればヨシ!でしたが……やっぱり勝ちたいものは勝ちたい。ですよね、ライズさん。
「ちょっとマイク借りるぜ」
クローバーさんはサティスさんからマイクを受け取ると、壇上から僕たちを探してる……と思う。
ので、小さく手を振ってアピールしてみた。クローバーさんがこちらに気付き、大きく手を振る。
『いたいた。約束だからな。決めるぜ【夜明けの月】、【バレルロード】』
近くにいたスカーレットさん達も何事かと頭を上げる。
ライズさんも注目が集まるとひとまず立ち上がる。
クローバーさんはいつも通りの笑顔のまま。
『俺は【夜明けの月】に入る事に決めたぜ! 宜しくな!』
──今日一番の爆弾が投下された。
──────
『誰か俺を仲間にしてくれー』
──────
──────
『じゃあイベント最終日に俺が気に入った方に入るってのはどうだ?』
──────
クローバーさんは、もしかして。
混乱する皆さんを無視して、クローバーさんは"スメラギ"さんを使い僕たちの目の前まで移動。
……多分、理解が追いついているのは僕だけだ。
「──仲間っていうのは、チームの事ではなくて……ギルドの事だったんですか?」
「あれ? 言ってなかったか?
そうなんだよ。【至高帝国】クビになったんだよ俺」
爆弾を連投しないで。
──◇──
【第161階層デザート:氷晶砂界の第一幕】
「ちょっとスペード。どういう事だし」
「すまんスペード。口が滑った」
胸ぐらを掴むダイヤ。申し訳無さそうに謝る山羊頭。
くそぅ。しくじったな。もう少しは誤魔化せると思ったんだけど。
「何でクローバーを脱退させたし! あいつ何かした?
毎日毎日弾丸いじってんのがキモかった? それともナチュラルノンデリな所がウザかった? あーしも謝るから、呼び戻せし!」
「違う違う。それ聞いたらクローバー泣いちゃうから本人の前では絶対言ったらだめだよ」
がくがくと首を揺するダイヤ。彼女、やたらと力が強い。首外れちゃう。
「クローバーを脱退させたのは一つの戦略。それも一時的なものだよ。結構長くなるとは思うけど、必ずまた元通りになる。
でも──その時に君達がどうするかは、君達の自由だよ。けっこう派手な事するつもりだから、共犯にしたくないのは事実だ。いつ逃げてもいいからね?」
「ばか。今更だし。あーしの居場所はここしかないし!」
泣いて逃げ出してしまったダイヤ。
……これは、まずい。
肩に乗せられたハートの手は、"同情"ではなく"逃がさない"の強さ。
「我らがリーダーよ。オレ様はここの居心地が良いから残っていた。この道が悪であろうと心中するつもりではあるとも。
頼むからもうダイヤを泣かせるなよ。次やったらオレ様は貴様の敵になる」
「……うん。ごめん。ちゃんと説明すればみんな幸せだったかもだけど、そうなると僕が耐えられそうになくて、勝手しちゃった。
クローバーを追放なんて、したくない、からね」
「……損な役回りだな。ダイヤはハンバーグカレーが好物である」
「うん、作っておくよ。ケアお願いね」
「俺様はスペードの手料理なら何でも好きだぞ。まだ味は未熟だがな」
うーん男前。変態な事以外は完璧な漢だなぁハートは。
……うん。
敵対確定しちゃうね、コレ。
いやだなぁ〜〜〜〜。
──◇──
【第20階層 地底都市ルガンダ】
「クローバーがフリーならよォ! 【飢餓の爪傭兵団】に拉致すりゃァ戦力補充になるよなァ! 行くぜ最前線戦斥候部隊! 最悪殺せェ!」
「おっ殺るか〜?」
「殺るな応じるな! "PKペナルティ"はともかく、"敵対行動ペナルティ"くらったらルガンダから出られなくなんだぞ!」
祭りの余韻も味わえない。
クローバーの仲間発言。メンタルやられてた俺だが、ドロシーが手早く説明してくれたおかげで復帰した。嘘。全然立ち直ってないけど立ち上がらざるを得なかった。
一瞬で情報が最前線に渡るや否や、当然のように【飢餓の爪傭兵団】最前線本体が襲撃に来る。
こいつらはペナルティ考えてないのか。
「おっしゃぁクローバー! ここでリベンジや! 【リベンジャー】だけに……ってほぎゃー!」
問答無用で襲い掛かるは【飢餓の爪傭兵団】斥候部隊隊長ファルシュ。しかしその速度を捉え、空中でスタンする。
「な、ん、やぁ……?」
「【夜明けの月】秘密兵器、"神の奇跡"だ。今後とも宜しく!」
騒ぎになる前にゴーストとドロシーは別行動。人力TAS移動が可能なゴーストがドロシーを抱えて狙撃スポットまで逃げてもらった。
……もしもを想定してルガンダのあちこちに"スタンシード"付きライフルをセットしておいて良かった。まぁ今の"神の奇跡"はファルシュじゃなくて俺を狙ったのだが。
「あかん、ファルシュちゃんが口では言えへん事されるー!」
「隊長! ふざけてないで追いますよ」
「隊長! でけぇケツが邪魔っす」
「隊長! 今日は焼肉がいいです」
「お前らはよ追わんかい!」
「「「へーい」」」
……コントしてるけど、あいつら全員レベル150勢だ。こっちから攻撃できず、あっちから攻撃できるのはズルだろ!
「私が止まりましょうか?」
「あいつらマニュアル操作のプロだ。アイコとタイマンで勝てる奴なんていないだろうが、複数人相手じゃ無理だと思う! 少なくとも"敵対行動ペナルティ"は避けられない!
お前が人質に取られても負けだ! 今は逃げるぞ!」
「……わかりました」
アイコは"聖母"だなんて持て囃されているが──その実、割と交戦的というか、"有事の際は暴力もやむなし"なタイプだ。特に【Blueearth】ではレベル差を無視する格闘能力を有しているからこそ、戦力差に疎いところがある。
肉体としては雑魚が何人群がっても容易いだろうが、その雑魚どもは【Blueearth】では触れたら即死レベルの力量差がある。アイコに任せる事はできない。
「あっはははは! どうするライズ!」
「まずは撒く! そんで【アルカトラズ】を待つ! 変にペナルティ受ける前に21階層に逃げる!」
「定石だぁ! だがファルシュ達はしつこいぞ! さっきのスタンの詳細も気になるが、そう連発できるもんじゃないんだろ?」
「その辺は考え中だ! 俺たちのリーダーがな!」
「無茶振りぃ〜〜! 考えるけど!」
アイコに抱っこされてるメアリーは、必死に考えている。
こっちには切れないカードが多すぎる。被弾=即死で、こっちから攻撃できないのはキツい。
「思ったのだが! ドロシー君のアレは"敵対行動ペナルティ"にはならないのか?」
「アレはアイテムでアイテムを押し出した、自然の落石と変わらない判定だ! 言っておくけど普通に投石するとペナルティ付くからな!」
「あー"神の奇跡"ってそういう原理? ドロシーが犯人か」
「出来るだけボカして話してんのに察するの"最強"だなオイ!」
「褒めるなよ〜」
「──相わかった。擬似"神の奇跡"、ご覧に入れよう」
ジョージはアイコを足場に、跳躍。
アイテム化したハンドガンを持ち──
「そことそこだな」
武器屋。立て掛けてある武器の落下防止チェーンを破壊。
雑貨屋。積み重なった木箱の一部を発砲で不安定に。
崩れる武器と木箱で道を塞ぐ事に成功した。
「よし、逃げるか」
「女児ちゃんやるねぇ」
「ジョージだ。今後とも宜しく」
「待てやぁ!」
障害物を飛び越えるのは──ファルシュ。
スタンで出遅れた分、状況を見てから対処したか。
「これはもう応戦しないとな!」
「思う壺だ! "最強"なら非殺生で逃げてみろ!」
「ぬあーそれは面白そうだ」
クローバーをコントロールしつつ、飛び掛かるファルシュへの対抗策は──俺が受けるしかないか。
アイコとメアリーの前に立ち、両手を広げる。
ノリのいいファルシュならこっちを狙うだろ!
「ええやん。お姫様をちゃんと庇っとき!」
「っ、来い!」
「──呑みこめ、"黒蛍"!」
──視界が揺れる。
一切警戒していなかった、下方向からの奇襲!
視界の端には──アゲハ。
だが、親指を立てている。
「──このまま逃げるぞ!」
見てから逃げられるジョージとアイコへの指示。二人は理解したのか、そのまま《グリーンホール》へと落ちる。
「任せたぞ」
「──かしこまり!」
そこに立つのは、アゲハなのかドクガなのか。
どちらにせよ、短いながらも一緒に旅をしたあの女である事には変わりないか。
──◇──
「どないしてくれるんですか、ドクガ先輩」
かつての後輩は、武器を構えたまま。
レベル差じゃ絶対負けるわけないのに、ウチを警戒してくれてるのは敬意?
「アンタ、【飢餓の爪傭兵団】の傘下でしょうが。何逃しとんすか」
「ウチはもう【金の斧】に戻らないから。ウチの好きにするだけだよん」
「──あないにルールに厳しい先輩やったやないですか」
「今はファルシュちゃんだっけ?
あの後【井戸端報道】に入って、今や【飢餓の爪傭兵団】本隊だなんてね。庇った甲斐があった」
「今そういう話ちゃいますねん。どうケジメ付けるんかって聞いとりますねん。
まさか足抜けして無罪なんて……許されると思っとりますの?」
殺し屋らしさが板についてきたねファルシュちゃん。
いや、今は殺し屋じゃないんだっけ。
「昔っから変わらないねー。ちゃんと裏取ってから動けっつったよなアタシは。また誰か豚箱に捨てるの?」
「ぐっ……考えるの苦手なんやもん。それ先輩に言われたらおしまいやん……」
双剣をしまってくれた。よかったよかった。話わかるじゃん。
「ありがとね」
「"逆らったら一生付き纏って殺す"って目が言っとりましたよ。下位階層に遊びに行く事も出来ひんくなるんはごめんなんで」
よろしい。
……実力ではこっちの負けなんだけど、【闇夜鎌鼬】のスパルタ上下関係教育がちゃんと効いてるわね。
「多分、そろそろ公式発表があると思うから。戻っても怒られない系だと思うよ」
「なんか知っとんすか?」
「"お姫様"がなんかしてたから。多分【真紅道】が動くよ」
「あー……ほな飯食って帰るかぁ。この辺美味い焼肉屋あります?」
「部下思いじゃん。行こ行こ」
「えぇ先輩も来るんやったらもうちょいええとこ行きましょうや」
「やだ焼肉たべたい」
──じゃあねライズっち。
アゲハとして、借りは返したよ。
〜魔物図鑑:《ネビュラウィンドウ》〜
《ジョージの魔物観察記録》
人魚のような外観だが、その姿は影のように黒塗り。顔面と思われる位置には銀河のような模様が投影されている。
実態はあるのかないのか不明。触る事はできるが、強く握るとすり抜ける。
しっとり冷たいが、触れて濡れるわけではない。
言語発生機能は無い。言語を理解できる知能はあるが、むこうからこちらへ必要以上にコミュニケーションを取る必要が無いと判断しているのだろうか。
何を栄養源としているのかは不明だが、こちらから与えるアイテムは腹に直接収納している。
性質として、影となって地上を泳ぐ事が可能。手の数まで同行させる事ができるので、二人まで移動可能。
【ライダー】系が直接操っていない魔物は戦闘指示ができないが、《ネビュラウィンドウ》については元より移動性能のみに特化しているため問題ないように見える。
が、かなり性格に難ありといえる。コミュニケーションを受け取るかどうかは向こうの気分次第。時に気まぐれに影の海に連行される事もあるようだ。
クローバーのように何でも楽しめるような性格でもないと扱いきれないだろう。




