61.最終問題1億点のパターン
──《巌窟大掃除》2日目
──7:25
【第23階層ケイヴ:緑の地底湖】
発光する苔によって生み出された、緑に輝く地底湖。
不安定な陸地を少しでも増やすよう、ドワーフ製の橋が散見されるが──凶暴な魔物によってあちらこちらが壊されている。
今となってはドワーフ達も寄りつかない、もう一つの神の根城。
「ごちそーさま。料理スキル相当高いなライズ。最前線で通じるぞ」
クローバーを交えた朝食が済み、8時からの《巌窟大掃除》2日目に備える。
ジョージは"まりも壱号"と"スメラギ"の世話をしてもらっている。餌は誰でも与えられるが、体調チェックや治療、装備荷台のセット改修は【ライダー】系列にしかできないからだ。
「料理はそこまで重視してないがな。最前線はどうなんだ?」
「勿論、シェフ雇う余裕なんてないからな。全員が全員戦闘要員だし。テキトーに持ち回りでやってんな。
人数のいる【真紅道】や【飢餓の爪傭兵団】は料理上手も数人抱えてるから、よく集りに行ってる」
「──え、敵同士じゃなかったの? 一緒にご飯するの?」
「まぁそりゃ協力しないととても攻略できないからな。飯もよく一緒にするし、情報共有もする。馬鹿みたいな回数【決闘】してきたから最前線メンバーの手の内なんてお互い知り尽くしてるから隠す事も無いしなぁ。
ただ、最前線以下の情報は別だ。最前線に追い付けば"未知の戦力"を確保できるから、【飢餓の爪傭兵団】も【真紅道】も必死に低階層から勧誘してるんだよ」
──バチバチだと思っていたトップランカーだが、一周回って最前線では争う理由が無いという事か。それはそれとして【決闘】はするが、そこに抑止力としてクローバーがいたわけで。
「今回みたいにちゃんとどこかに隙があれば【ギルド決闘】仕掛けたりはするけど、一々ギスギスしてたら保たないからな。
んでもって恐れてるのは赤の他人の参入だ。均衡が崩れたらどうなるかわからん。だから【井戸端報道】使っての情報公開は慎重にしてんだよな」
「なるほどねー。【飢餓の爪傭兵団】のやり方が顕著だけど、あくまで"自軍が"追いついて欲しいわけね。追いついてきた奴を勧誘するんじゃなくて、もっと下の段階で勧誘しとかないとダメってわけ」
「最前線に追いつく奴なんて覚悟キマってる連中だしな。セカンドランカートップの【月面飛行】と【象牙の塔】とか絶対勧誘しても無駄だし、【マッドハット】に至っては平等条約締結してるし」
……うん。なんとなくセカンドランカーが追い付けない理由がわかった。
【Blueearth】最強の3ギルドが手を取り合ってやっと攻略できるってレベルの階層を、攻略法は公開されず、実力で劣るセカンドランカーが追いつけるわけがない。
むしろ迫れ逃げられの万年4位【月面飛行】はめちゃくちゃ凄いんだろうな。
「追いついたわよ【夜明けの月】!」
現れるは疲労困憊の【バレルロード】。宙を泳ぐ木造ボートに乗って滑ってきた。
船守の骸骨が会釈する。こいつは第60階層に出現する《カロン》だな。【バレルロード】の移動手段か。
「おはよう【バレルロード】諸君。パンとスクランブルエッグとサラダくらいなら分けてやらん事もない」
「あったかいスープもね。ライバルなんだからこのくらいで満足しなさいよね。ゴースト、用意してあげて」
「consent:ドリンクは紅茶とコーヒーと緑茶がありますが」
「そちらの骸骨氏は俺が診よう。そちらには【ライダー】系はいないのだろう?」
「優しすぎぃ! 全面的にお願いします! 私は紅茶ァ!」
競争時間外に争う必要は無い。
こっちは食後だが、片付け前だったし丁度いい。
──◇──
「ご馳走様でした。この礼はイベント後にちゃんとしますので」
「そりゃどうも」
深々と頭を下げるスカーレット。基本的に礼儀正しい子なんだよな。
「──で、クローバーもいるのね。もうそっちのチームに入っちゃったの?」
「んにゃ、チームにゃまだ入ってないぞ」
今の所、まだ好奇心の範疇。
入ってくれればランキング圏外の俺達でも一気にトップになるんだから慎重になっているのだろう。
……そんな事考えてないか。面白いからだろうな。
「まぁいいわ。メアリー。ズバリあんたの狙いがわかったわ! 手っ取り早く勝負しなさい。逃げられる前にそれを伝えに来たのよ」
ビシッと指差すスカーレット。メアリーはゴーストの淹れた紅茶を優雅に飲んでいるが、内心驚いてはいるな。
「──狙い? 何のことかしら」
「シラを切るつもり? いいわ、説明したげる。
アンタ達は【飢餓の爪傭兵団】が序盤階層を牛耳るところまで読んで、最初から奥の階層に行くつもりだった。あるいはそう勘違いさせるために動いていた。
私も騙されたけどね。まだそんなに【飢餓の爪傭兵団】が配置されてない22階層まで急いで通り抜けてるあたり、目的はもっと先にあると見たわ」
「──って気付いたのが昨晩で、急いで徹夜で追う事になったんだよな。わはー寝不足」
「やかましいわフェイ。気合いで乗り切りなさい」
「【真紅道】流根性論だー」
──ここまでは、確かにその通り。《巌窟大掃除》のルールを把握しているナメローが指揮官なんだから、【飢餓の爪傭兵団】がこう動く事くらいわかってた。それが1番確実にポイントを稼げるからな。
「注目したのは執拗に連呼されてるのに具体的な数値が説明されない"ポイント制"、それと4日間という長すぎる"期間"! 当たってるでしょ」
「おー凄い凄い。スカーレットでも頭回るのねー」
「ぐぬっ、ムカつく。
……ポイント制は、ケイヴワームが0点にするためのものだと思ってたけど。それって"ドワーフの独断で点数が決められる"って事だって気付いたのよ。つまり、ドワーフが嫌いな魔物のポイントは凄い高いってこと。
じゃあ一番嫌われてる魔物って何よって話になるわよね」
──────
『邪魔ばかりしてきて部品も素材にすらならん憎き古代兵の輩もおりますしな』
──────
メアリーが作戦を立てる際に俺に聞いた質問は、そのものズバリ。
──────
『ライズ。
29階層のエリアボスって、古代兵だったりしない?』
──────
「──第29階層のエリアボス《追憶の岩塊 ガーディアン・オブ・ロスト》。こいつが一番ドワーフに嫌われてる。きっと破格のポイントを持っている。違う?」
階層攻略は、一つの階層につき半日程度。
ケイヴ階層は複雑な階層が少なく移動が他より早く済む。
4日あれば、29階層まで徒歩でもギリギリ追い付く計算になる。
イベントが4日ある理由。
メタな話をしてしまえば、いくら倒しても魔物が減る訳ではない。同じ事を4日繰り返したところで意味があるのか?
──つまりは、こいつを倒して欲しいのだ。
「お見事ねスカーレット。大当たりよ。
ここまでよく辿り着きました。それで、どうするの?」
「言ったわよね。手っ取り早く勝負よ。
ここまでわかれば、結局は《ガーディアン・オブ・ロスト》争奪戦でしょ」
「んじゃゲームだな!」
割って入るクローバー。やっぱこいつ遊び好きなんだな。イキイキしてる。
「目的が決まったなら、後はルールだな。景品俺だもんなぁ。
じゃあ3人チームになって、《ガーディアン・オブ・ロスト》を討伐したチームに俺が入る事にするか。スカーレットちゃんのとこから1人抜けて、ライズんとこの3人と合流しようか」
「いや、脱退はできないルールだぞ」
「そのあたりはわたしが抜けるから大丈夫よ」
名乗り出たのはプリステラ。昨日の気迫はどこへやら、いつものセンシティブ清楚を取り戻していた。
「もうそろグレ子も追ってくるだろうし。わたしが相打ちに持っていくわ。それでいいでしょう」
違った。依然として猛犬だ。性的じゃない意味で猛獣だ。
「──じゃあこっからはレースだな。俺とメアリーとジョージのチーム"夜明けの月A"と、スカーレットとコノカさんとフェイさんのチーム"バレルロード"で先に29階層までかけっこだ」
「あたし達そんなダサいチーム名だったの?」
「そこ気にするな。んじゃ、気を取り直して──」
時刻は、7:59。
──8:00。
「クローバー争奪戦、開始!」
《巌窟大掃除》2日目──開始。
──◇──
《巌窟大掃除》
1日目ポイントランキング
1位:クローバー(無所属)
──1021ポイント
2位:チーム"穿孔"
──562ポイント
3位:チーム"バレルロード"
──452ポイント
──────
圏外:チーム"夜明けの月A"
──20ポイント
圏外:チーム"夜明けの月B"
──15ポイント
〜"最強"調査記録〜
《ライズの記録帳》
今回予期せぬ形で接触した【Blueearth】"最強"の冒険者、クローバー。
その実力をできるだけ詳細に記録しておこう。
・ジョブ
レンジャー系第3職【ラピッドシューター】
ぶっちぎり"最弱のジョブ"として有名なハズレジョブ。
攻撃数が2倍になるが一発あたりのダメージが3分の1になる義務教育が泣いて逃げ出すイカれた仕様。
銃弾の方に追加効果を付与して確立を上げる、デバッファーとしてぐらいしか使い道が無かったのだが。
クローバーはこのジョブの利点である「攻撃速度」と「複数ヒット」を利用しているわけだ。
・戦術
ジョブ・武器・スキル・アビリティ全てを駆使して確定クリティカルヒットを連打する、防御不可の超高速超連続攻撃を叩き込む。タイマン最強ってのも納得だ。こいつとヨーイドンで戦う場合、早すぎる初撃を受けてそのままお終い。
ダメージを肩替わりするアイテムもあるが、ダメージ量肩替わり系は連続クリティカルのダメージを受けきれず、回数肩替わり系は秒間24発の弾丸に文字通り秒殺。クソゲーすぎる。
少しでも確立を上げるため、レベルアップボーナスは全てクリティカル率に関係するlackに全振りしているようだ。
ダメージ源は別口で確保しなくてはならないため、装備を強化している様子。
・武器
【地獄の番犬】
通常攻撃が3発になる激レア片手銃。しかも二丁。
単純に攻撃回数を6倍にするクソ強装備。クローバーの戦術との噛み合いが凄まじい。
戦術の都合上この武器をずっと使い続ける必要があるため、俺ほどでは無いにせよめちゃくちゃ強化されている。二丁あるが強化値は+69と+58。なかなかぶっ飛んでる。
・アビリティ
《クイックドロー》
【ラピッドシューター】専用アビリティでカスタム不可枠。そう、カスタム不可。絶対装備されるアビリティ。こいつが全て悪い。
ヒット数2倍、ダメージは3分の1。おばか。
《陽炎のガンマン》
攻撃のヒット数が倍化するアビリティだ。こっちはダメージ半減。これは正しい。
そしてこのアビリティがあるからこそ【ラピッドシューター】じゃなくてもよくない?ってなる。
クローバーは両立させる事で4倍ヒットさせているが、ダメージ効率は寧ろマイナス。
《ダブルアップ》
ロックオンした相手にクリティカルが発生すると以後3秒間のクリティカルダメージが2倍になるが、クリティカルが発生しなければ追加3秒間クリティカルが発生しなくなるデメリット付き。
クローバーにとっては3秒なんて悠長すぎるわけだ。ダメージソースその1。
《ジャックポット》
ロックオン対象にクリティカルが3回発生した場合、以降のダメージ7倍。猶予時間は7秒。ダメージソースその2。
この辺のダメージソース系のアビリティで低い攻撃力をカバーしているわけだ。
《ハッピートリガー》
クリティカル発生時にクリティカル発生率を増加する、連続クリティカル戦法の要。あの光の壁と見間違うクリティカル乱打はこのアビリティありきだな。
・総括
馬鹿すぎる。
だがその戦術は理論的で、即ち"試行回数稼げば運要素は排除できる"の極地のような戦法だ。
本人も無意識だろうが、この戦術に追いつけるだけの反射神経や感覚……手っ取り早く言えば"ゲーム勘"みたいなものがあってこその"最強"だ。適当に真似だけしたところでロックオン外れたり何だったりと上手くいかないと思う。
本人が全然隠そうともしないのも納得だ。こんなん真似できるか。




