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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
地底都市ルガンダ/ケイヴ階層
59/507

59.獣2匹、坑道に吼える

【第21階層ケイヴ:カミサマの通り道】


《巌窟大掃除》

14:45


「降参です」


【サテライトキャノン】の光の元へ到着すると、ドロシーとナシノツブテ。

どうやら威嚇射撃だったようで、ナシノツブテさんも両手を挙げて降伏。こんなド派手な技を目の前で落とされたらな。


「よし、さっさと行くぞドロシー。アゲハは【ビーストテイマー】だからな。すぐ追いつかれるぞ」


「はい! ……あの、ナシノツブテさん。手加減してくれてありがとうございました!」


「……はは。まさか。いやほんと、本気で仕留めるつもりだったんですけどね」


「でも後ろから撃てましたよね? 徒歩と騎馬ですよ。流石にわかりますよ」


「まぁ……うん。本当は適当に追って逃がそうと思ってましたが。見晴らしの悪いところに誘われたからの射撃銃撃戦になってからは完全にそっちのペースでしたよ。文句なしの負けです」


挙句【サテライトキャノン】まで落とされたらたまらないわな。

ドロシーを荷台に乗せて出発する"まりも壱号"。

ナシノツブテさんは馬から降りて、手を振って見送った。




──◇──




「いやーしかし、悪路は触手。そうでなければ回転。《フォレストテンタクル》は移動手段として最適だな」


「ああ。レアエネミーはいい目玉になるかと思って確保したが、好転するものだ」


ジョージは平然と言うが、"まりも壱号"の捕獲はあらゆる要因が重なった偶然だ。

ジョージの肉体検証・実戦訓練、【調教(テイム)】による敵の無力化戦法の確認、レアエネミー捕獲という話題性作り。それを全て同時にやってのけたわけだ。


「度々思うが、ジョージも結構ゲーム脳だよな。飲み込みが異様に早い」


「男は誰だって遊び好きだろう? 今は女だが、子供も誰だって遊び好きだ。

 それに最強と持て囃されると万能を求められる。色んなゲームのイベントとかにも参加したことがあるよ」


──"人類最強"谷川譲二。

物々しい称号だが、名に相応しい男。

世界を変えた"特異点"天知調が、唯一肉体に処置を施さざるを得なかった怪物。

肉体と戦闘技能だけではなく、知能・判断力・コミュニケーション能力……全ての人としての力を持っていると言ってもいい。


それでも、ゲームのプロではない。


舞台が違うと言えばそれまでだが、求められる技能はそこまで変わらない。

求められるのは刹那の判断力。膨大な知識と、それをアウトプットできるだけの知能。

──果たして、"最強のゲーマー"檜佐木宗一──アシュラ/クローバーと、どちらが強いのか。


「……ところでドロシー君は?」


「そこで横になってるわ。まーた"クアドラ化"したわね。

 威嚇射撃には派手すぎるでしょ」


「ナシノツブテさん、騎馬で弓構えながら追ってる時の迫力凄かったので……。本気で殺らなきゃと思いまして。確実に()()()()ためにはクアドラさんでやらないといけなくて……」


超観察能力を活用した"なりきり"。

実体験していない技術すら使えてしまう超能力といって差し支えないドロシーの大技。しかし尋常じゃないほど精神を消耗してしまう。


……リミッター解除で一晩スタンするジョージ、集中力使い切って倒れるドロシー。

身を削る戦術多すぎだな。今後の課題だ。


「真似しなくても撃てるように練習だな。現実の記憶無し+独学の二重縛りでライフル狙撃を習得したドロシーなら不可能じゃないぞ」


「そうよそうよ。あと少なくともこのイベント中は"クアドラ化"禁止するからね。イベント後でお姉ちゃん(天知調)に調べてもらうから。ジョージの時みたいに修正入るかもしれないし」


「ゆっくり休んでくださいドロシーちゃん。襲い来る敵は私が叩き潰してあげますからねー」


説得力の塊。

うちのメンバーで唯一、体格差と素の筋肉を全力で活かせるのはアイコだけだ。スキル発動を許さない"起こり"を読んだ合気に加えて、先の戦いではスキル発動中のアイアン8君を背負い投げしたとか。それは流石に筋量的にジョージでもできない。


……うちのギルド、化け物揃いだな。俺浮いてる?


「……ライズさんは一番変な人ですよ」


「ありがとうドロシー。ん?褒めてる?」




──◇──




17:45

【第22階層ケイヴ:ドワーフ坑道】


ミドガルズオルムによって切り拓かれた鉱山洞。

ドワーフの技術によって作られたトロッコやレールは置き去りのまま。次々と坑道は生まれ、その度に坑道は移る。

──ここは置き去りの廃坑道。


「流石に"まりも壱号"じゃ通れないな。ここからは陸路だ」


「ここで【飢餓の爪傭兵団】が待ち構えてるって聞いたけど……」


「へいへいへいへい! そこの道ゆく兄ちゃん姉ちゃん! 止まりな!」


……いた。

3人の男。赤黄緑。信号機と名付けよう。


「俺達ァ【飢餓の爪傭兵団】傘下【マツバキングダム】特攻(ブッコミ)隊! お時間取らせて申し訳ないけどちょっと失礼するぜ!」


「遅かったな【夜明けの月】! 【飢餓の爪傭兵団】に歯向かうったァ良い度胸だ! すごいね。こちら第30階層(クリック)土産のマツバまんじゅうです」


「現在22階層ではうちの姫が暴れておりますので。レベリングは更に先の階層を狙った方がいいと思います。まぁその間ポイント稼げないのは仕方ないですがね」


なんかガラ悪いのかいいのかわかんない連中だな。

疲労困憊のドロシーをアイコが抱えて、いつでも逃げられる態勢にはなっているが……。


「姫?」


「普段はまだ理性的なんですがね。因縁の相手と接触してしまったので……」




「オラァァァ! どこじゃプリステラ! 出てこんかいですわァ!」





響くドスの効いた怒号。

正面から現れたのは──青のドレスで着飾った、正に姫たらんとする女性。

……が、青筋立てて暴れてらっしゃる。物騒な釘バット引き摺って。


「あ? ……あぁ【夜明けの月】ぃ! ブラックリストで見た顔ですわ〜!

 わたくしは銀河最強のお姫様! 【マツバキングダム】の特攻(ぶっこみ)隊長 プリンセス・グレゴリウスですわ〜!」


「どうも。ちょっと横通るぜ」


「あら失礼。




 ……いや無視すんなですわ〜! 不敬!」




ちっ。流せないか。


「【飢餓の爪傭兵団】で、しかもあのプリンセス・グレゴリウス様だろ? 敵わないわぁ。これは23階層に逃げるしかないなぁ」


「あらあら。聡明ね。

 そんな賢い奴が堂々と【飢餓の爪傭兵団】に喧嘩売るわけありませんわ〜! さっきからライズさんに隠れてる元凶(メアリー)! 不自然に大人しいのが怪しいですわ〜!

 狙いを白状なさいませ!」


こいつ賢くね?

まぁ腐っても隊長か。面倒だな。

ちなみにメアリーは人見知り発動してるだけです。


「敵対してるとわかってるなら狙いなんて聞けないと思わないか?」


「敵対しているのならこのままフルスイングされるとは思わないんですの?

 わたくし、対話するなら言葉より暴力派ですわ〜!」


物騒。暴走機関車かよ。


「……因縁といえば、【バレルロード】はもう通ったのか?」


「──そうでしたわ。連中が去る前に見つける必要がありますわ〜! あの(アマ)わたくしから逃げやがりましたの! 逃げても碌にポイント稼ぎにならないってのにムカつきますわ〜!」


逃げた。

……もしかして、狙いが同じか?

いやスカーレット達が気付く事はないと思うが。勘か?


「ライズ君。これは利用できるぞ」


ジョージが袖をくいくいと引っ張る。

……なるほど。


「【バレルロード】はまだ22階層にいるのか?」


「ええ。連中がポイント稼ぎに集中できないように徹底的に妨害してましたの。見失いましたが、まだ次の階層には行ってないはずですわ」


「──じゃあ、交渉だ」




──◇──




──第22階層に最速で来たのはいいけど。

プリステラの旧相棒、プリンセス・グレゴリウス率いる【マツバキングダム】の執拗な嫌がらせに、私達【バレルロード】は追いやられていた。


「コノカ。大体のルートは確認したわね」


「うん。マッピング終わったよ。待ち伏せ無しで23階層まで行くルート立てたよ……!」


「わはー。やっと進めるのか? 待ちくたびれたぞー」


フェイの地雷設置もある。ルートさえ立てれば行けるわ。


「……スカーレットちゃん。ずっと【飢餓の爪傭兵団】に追われてるけど、ポイント稼ぎ大丈夫かな?

 【夜明けの月】のみんなと全然会わないけど、先を越されてるんじゃ……」


グレ子(グレゴリウス)の妨害こそあったけど、私達は間違い無く最速で22階層に来たわ。先を越されてるって事はないと思う。

とにかく【飢餓の爪傭兵団】がいない階層まで行くのが重要よ。私達ならできるわ」


……あと心配なのは、うちの()()ね。


「プリステラ。因縁あるのはわかるけど、もう噛みつきに行かないでね?」


「……うふふ。もちろんよ。もうあの(アマ)に心揺らぐわたしではないわよ。うふふふふ」


"眠れる獅子"プリステラ。

かつてグレゴリウスと共に【赫十字】というギルド名で暴れ回ってた狂犬共。

直接喧嘩で叩き潰したら大人しくなったけど、それぞれキャラ変して不自然な感じになってんのよね。

グレゴリウスがここで出てくるなんて思わなかったから困るわ。案の定出会ってそうそう全面戦争。一時撤退を余儀なくされたけど……。




「見つけましたわ〜【バレルロード】!」




線路を走る鉄の轍。

ガラガラと坑道に鳴り響く金属音。

それを掻き消す甲高い声。


「神妙にお縄につきなさいプリステラァ!」


「ばかなの?」


現れたのはグレゴリウス。と、ジョージ。


トロッコを全速力で走らせて、釘バットを振り回しながらやってきた──!


「全員逃げるわよ!」


「そうねぇ! グレ子馬鹿! ほんと馬鹿! ばーか!」


「おっほほほほ! 無様に轢き殺されなさーい!」


高低差の無い第22階層でここまでの速度で自走できるトロッコなんてない。あれは魔物。

ジョージがいるって事は、捨てられたトロッコに憑依した怨念、《トロッコゴースト》を【調教(テイム)】したの?

てかなんで組んでるのよ【夜明けの月】と【マツバキングダム】が!


「スカーレットちゃん! あの馬鹿の狙いはわたし! ここはわたしが生贄になるわ」


「おばか。迎え撃てばいいのよ! こっちにゃ天才がいるのよ! コノカ!」


「はいっ……!」


コノカは射撃の天才。移動しながら弾丸を的確に命中させる、異常な命中精度を持っているわ。

【サテライトガンナー】は慣れないと使いこなせないけど、これまでの経験が活きる普通の射撃なら、逃げながらでも弱点に当てられる──!


「うげーっ! 魔物倒されとりますわ〜!」


「姫。受け身できますか?」


「そんなもんいらねぇですわ〜!」


トロッコゴーストを倒すと、同時にグレゴリウスが飛び出してきた。

──特攻隊長すぎるでしょ!


「グレ子ォ! あんたお姫様ってんなら大人しくしてなァ!」


「じゃかァしいプリステラ! お清楚なんてふざけたキャラしやがって鼻が曲がるわァ!」


冒険者魔物問わず噛みつきまくる猛犬【赫十字】。

その実態は仲良しで犬猿の仲の、この2人の喧嘩だった。

こいつらぶつけると碌なことにならないのよね!


「ここで交戦するわよ! 総員戦闘態勢!」


「では我々は先に失礼する」


──着地したジョージが再度飛ぶと──後ろから来た《トロッコゴースト》に着地する。

ライズ。メアリー。刹那で見えたのはこの辺だけど、多分全員いる。

【夜明けの月】は、これが狙いなのね!


「じゃあねスカーレット! おっ先ー!」


「──っ、絶っっっ対追いついて泣かせるから! 首洗って待ってなさい!」


メアリーの誇らしげなドヤ顔が腹立つ。

あいつら、グレゴリウスを利用したわね。


後ろから【マツバキングダム】の信号機トリオも来る。4vs4なら私達が負けるわけないでしょ!




──◇──




「いやぁ見事に出し抜いたな。このまま行くぞ」


トロッコを走らせ、22階層を後にする。目的を考えたら今日中には23階層に辿り着きたい。


「ここまでメアリー君のプラン通りに進んでいるね。多少遅れはしているが」


「まさか。アゲハの妨害は完全に想定外だったわ。おかげで22階層に【飢餓の爪傭兵団】が配置されちゃったし。

 本来はまだ配置する前に抜け出しておきたかったのに」


……そう。俺たちの狙いは先の階層に行く事。それもごく自然に。できるのなら【飢餓の爪傭兵団】の狙い通りに行ってる方がいい。だから進みすぎてもいけない。


「《簡易ハウス》は移動中は使えないからな。今晩は交代で見張りと操縦をしながら休憩だ」


「そうね。寝込みを襲われる事はないけど、外で待ち伏せされる可能性は十分あるからね。ペース下げながらでも移動はした方がいいわね」




「シビアだなぁ。もうちょっと楽しもうぜ」




──ごく自然に。

その男は、いつの間にかトロッコに乗っていた。


「──クローバー!」


「よ。様子見にきたぜ。

 ……驚かせて悪かったから、この幼女をなんとかしてくれーい」


──ジョージに組み伏せられながら。

俺たちが気付くより早く行動してるのは流石だが、お客さんだ。手加減してさしあげろ。


「どうするメアリー君(ギルドマスター)。折るか?」


「んげー嫌な予感。何を折るんだよぉ。助けてー」


「解放してあげなさい」


「ありがとよぉ。命の恩人だぁ」


……情け無い"最強"だなぁ。



~ベル社長日誌~

《記録:元【井戸端報道】記者:パンナコッタ》


ベル社長、サティスさん、レン君、私ことパンナコッタ。4名の正規メンバーが集まり、会議を執り行う。


「ギルド名どうするの?」


「いいじゃないの【朝露連合:攻略組】とかで」


「せっかくだから凝ったの考えようよ。【飢餓の爪】だって元はといえばベルが言い出しっぺじゃないか」


……記録のおさらい。

かつてベル社長、サティスさん、そして現【飢餓の爪傭兵団】総頭目ウルフさんは、黎明期にギルド【満福天】を立ち上げている。原初のギルドの一つだ。

解散後、ウルフさんとサティスさんで【飢餓の爪】を樹立。その後最大規模の傭兵組織が解体した際に人員を吸収し現在の【飢餓の爪傭兵団】となっている。


「じゃ【満福天】でいいでしょ。私とアンタが組んでるんだから」


「うーん、それもそうだ。聞き覚えのある名前ならウルフもひょっこり出てくるかもね。登録しに行こうか」




──◇──




【アドレ兵拠:ドーラン支部】


「その名称は登録済ですなあ。記録の都合上、同じ名前は使えません」


「ぬぬぅ」


役所仕事につき門前払い。どうにも、しっかりかつてのベル社長が解散届を出していたようだ。


「まあ新しい名前にすればいいじゃないか。何にする?」


「個人的には気に入ってるんだけど。んー……じゃあ、【満月】でいいわ」


即決にして、思ったより単純な名前。でも"月"は……


「もしかして【夜明けの月】から取ったっスか?」


「やかましい。社長を詮索するのはギルド規則により罰則とするわ」


「横暴っス!」


照れ隠しの悪態。まだ数日しか同行していないが、想像よりも人間味があって可愛い方だ。




──◇──




「ところでパンナコッタさん。サティスさんの刀、【瑜伽振鈴(ゆがしんれい)】って鈴が付いてるけどベルさんモチーフなんスかね」


「おお、確かに。……【飢餓の爪】って名前はウルフさんイメージでしょうか」


「……仲良しすぎるっスね」


「サティスさん、露骨に鈴のアクセサリを【瑜伽振鈴(ゆがしんれい)】に付けましたからね。アピールが奥ゆかしすぎる」


「うあー。甘酸っぱいっス」


「コーヒーいります?」


「御馳走されますっス」

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