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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
地底都市ルガンダ/ケイヴ階層
58/507

58.蝶のように舞う毒蛾

【Blueearth】において、誰かを殺すというのは無駄な事。


それでも、どうしても誰かを殺したい。そういう願いは……少ないけど、ある。


それを解決してくれる闇ギルドは幾つかある。【闇夜鎌鼬(あんやかまいたち)】はその中でも老舗だ。

依頼を受けて、観察役の裏取りが済んで、間違い無く殺すべき存在ならば。PK(プレイヤーキル)ペナルティを負おうが関係無く殺す。何度も殺す。心が折れるまで殺す。折れても殺す。

でもそれは人材を使い過ぎる。そこでウチは考えた。


──相手が勝手にウチらに殺されたと思ってくれれば、別にウチらが殺す必要はないよね?


ウチは【サモナー】を選んだ。

魔物をけしかけて、契約解除して野生化。そのまま襲わせた。

あるいは魔物で魔物を扇動したり。相棒のグリーンホールで魔物の巣に飛ばしたり。

とにかく、直接手を汚さない殺し方をいっぱい考えた。




「──判決。被告人ドクガを一年の《禁獄》送りとします」




ドジった仲間を庇って、ついに【アルカトラズ】に捕まった。

やってた事自体は、裁くべきではあるものの事前調査の徹底と死の軽さから情状酌量の余地ありとして、僅か1年の投獄。

……暇だったな、監獄。看守ちゃんが可愛くて好きだったけど元気してるかな?


出所したウチを迎えにきてくれる仲間はいない。それでいい。闇ギルドが迎えにきちゃったら問題になるわ。


こっちとしても足を洗うチャンス。どうせ一年も空いてる今、レベルを上げたところで殺し屋としての仕事には追いつかないし。

オシャレをしよう。蝶のように華麗で、見る人みんな笑顔になるような子になろう。普通の女の子になろう。


──それで、気付いたらルガンダに辿り着いてた。




「【ダイナマイツ】から評判は伺ってますよ。とても明るい良い子。【金の斧】でも活躍を期待しています」




ギルドマスター、ナメロー。その顔忘れられる訳ないでしょ。

ウチの後輩がヘマしたターゲットじゃん。

えぇ……どういう巡り合わせよ。

あの時は観察役が適当こいて殺しそうになっちゃって、それを止めるためにウチが出てきて、それで捕まっちったんよね。

ちょっと顔合わせらんないわ。さっさと次の階層に通り抜けちゃお。


「では今後ともよろしく、()()()さん」


「──アゲハちゃん、ですけど?」


「あっ。……言い間違えました」


嫌味なく、ごく自然に。

覚えてんじゃん。終わったわ。




でも、なかなかどうしてウチは【金の斧】に気に入られたみたいで。

仕事人の血が騒ぐってのかな? コンスタントに仕事をするナメローのスタンスは、ウチも気に入ってる。


……さっさと次に逃げればいいのに、"盛り上げ隊長"なんて自称しちゃってさ。ダサっ。


とにかく。


ウチは【金の斧】のアゲハ。

或いは【闇夜鎌鼬】のドクガ。

どっちにせよ、殺る時は殺る女だよ。




──◇──




──戦況分析。

ジョージ(フィジカル無双)ライズ(最高戦力)が離脱。

グリーンホールはあたしの見た奴よりデカい。しっかり育ててるじゃないのアゲハ。仲間にも隠してたのね。


アイコとゴーストはアイアン8とタツタダさんの方へ。

ナシノツブテさんはドロシーを追いかけた。

あたしは──


「じゃあ、殺すねメアリー」


「……言葉に余裕が無いわね、()()()()()


──たった一人で、やらなきゃならないのね。

上等。ここにいる全員はゴースト以外50レベル。対等な勝負よ。


「【セット】!」


あたしの声に反応して飛び下がるアゲハ。

残念。これ自体は攻撃魔法じゃないわ。


「距離が欲しいならあげるよ!

 やりな"黒蛍(くろほたる)"!」


鞭の音に反応して、穴の魔物──グリーンホールが足元に出現する。

突然の浮遊感。()()()()()()()()()()──


「【チェンジ】!」


瞬間。視界から全てが消える。


「うげっ」

「っ!?」


アゲハの後ろの岩とあたしの位置を【チェンジ】したけど、着地に失敗して声が出る。

気付いたアゲハがあたしと距離を取る。グリーンホールは地面に擬態し、姿が見えなくなった。


「いてて……臆病じゃないのアゲハ。いつもの陽キャは演技?」


「アレもウチだよ。今はお仕事モードってわけ」


「あっそ。じゃあこっちも容赦なくいくわよ」


「こっちのセリフだし。もうわかったからね、その魔法。ウチには通用しないし」


……レベルは対等だけど、明らかに動きが素人じゃない。

暗殺ギルド【闇夜鎌鼬】……ドーランでも狙われてたらしいわね、あたし達。こんな所にもいるなんてね。


肉体を鍛えられない【Blueearth】ではコツとか立ち回りでしかフィジカルを補えない。なのにアゲハは身軽で運動神経が良かったのが気になってはいた。

アゲハは露出度が高いから手足が良く見えたけど、とても筋肉が乗ったような肉体じゃなかった。お風呂で抱きついてきた時にも思ったけど、凄いスタイルがいい。スタイル維持とかはしてるかもだけど、鍛えてるような肉体ではない。

だから【Blueearth】中で運動のコツを掴んだんだろうけど、だとしたらこんな低い階層にいるのが不思議だった。


懲役一年。なるほど、ただレベルが低いだけの凄腕の殺し屋って訳ね。きっついわね。




──◇──




log:

レアエネミー《グリーンホール》の出現により【夜明けの月】の分断を確認。

マスターの救援を最優先事項に設定。

最短ルートを計算します。


敵は前衛2名──アイアン8、タツタダ。

こちらも前衛──ゴースト、アイコ。


plan:背面30m先のマスターへ最短経路で救援

→《グリーンホール》の妨害への対処不可。アイコの負担増加。認識外のナシノツブテによる妨害の可能性

→却下。迂回ルートを選定。


plan:迂回しマスターを救援

→却下。位置不明の《グリーンホール》とナシノツブテの不確定要素を解決できない。


直線:却下。

迂回:却下。


……選定。模索。考案。

解決策を検索──


「ゴーストちゃん。メアリーちゃんの所、行く?」


アイコからの質問。

回答しなくては伝わらない。意思伝達は必務。


「answer:行きたいです。しかし方法が……」


「そう? じゃあ私に手伝わせて下さい」


アイコの提案を受理。詳細は確認できず。

アイアン8、タツタダが戦闘体制に移行。


「──俺も腹を決めた。ここで負けてもらうぞ【夜明けの月】」


「アゲハちゃんにあそこまで決められたらねぇ。お姉さんもやらなきゃってもんよぉ」


槍と盾のアイアン8。両手槌のタツタダ。

双剣の私。片手槌か素手のアイコ。


接近戦しかできないこのメンバーならば、最善は──


「action:skill:【リベンジブラスト】」


「【スターレイン・スラスト】!」


唯一中距離で届く魔法攻撃。

を、読まれました。

光線を真っ直ぐ突き進み襲いかかるアイアン8の槍。

──スキル中は、動けない。回避不可。


「【聖騎士】の魔法防御力なら、死ぬことは無いっ!」


「そのようですね。アイアン8さん」


──味方の攻撃には巻き込まれる事は無い。

アイコが【リベンジブラスト】に隠れてアイアン8の──腕を掴む。


発動したスキルは、基本的に止められない。

アイコが普段行っている攻撃妨害はスキル発動前の"起こり"を止めたり流したりして、スキルが発動できない体勢にしている。

今回は既に発動している。動きを変えることはできない。


「大丈夫ですよ、ゴーストちゃん」


──スカーレットちゃんがやってましたから。


log:

スカーレットは【デスパレード】発動中、身体を力尽くで捻じ曲げ、攻撃方向を曲げた。

突進・行動確定スキルは、基本的に本体の態勢依存である。


アイコはアイアン8の腕を掴み、回転。


「んなっ、ば、かなっ!?」


腕と身体の進行方向を曲げ、そのまま……背負い投げ。

アイアン8は後方──マスターとアゲハの方向へ飛んでゆく。


「一本、です。

 さあ本番ですよゴーストちゃん」


【リベンジブラスト】判定が終了。

タツタダが武器【銀河飛翔(ギャラクティカ)ハンマー】を構え突進。


「あんたらも吹っ飛ばしたるぁ!」


タツタダは初撃に打ち上げを選ぶ確立が高い。

予測し、跳躍する。


「いい度胸だねぇ! 吹き飛びなぁ!」


──振り上げ攻撃。予測通り。

空中で身を翻し──【銀河飛翔(ギャラクティカ)ハンマー】を、踏む。


「……っらぁ!」


ダメージは大きい。しかし倒れるほどではない。

そのまま、中央の危険地帯を飛ぶ。


「行ってらっしゃいゴーストちゃん!」


タツタダを抑えるアイコの音声を認識。


「──answer:いってきます」


擬態した《グリーンホール》の位置は不明。

しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ん、まさか……ぐげっ!」


──先程吹き飛ばしたアイアン8の顔面を、強く踏みしめる。

あと17m。

高く。高く跳躍する。

《グリーンホール》が擬態を解除する。

私の着地地点に出現。狙いは私。

あと15m。()()()()に到達。




「action:skill:【襲牙】」




空中で突進スキルを発動。

《グリーンホール》を飛び越え──マスターを狙った鞭を双剣で打ち払う。




「目的地に到着。マスター。怪我はありませんか」




──◇──




──攻撃が、弾かれた。

確実に仕留めるつもりだった。擬態した"黒蛍(くろほたる)"がいればこちらには誰も来れないだろうと思っていた。

テッパチが飛んでんのは見えたけど。アイツなにしとん。


「目的地に到着。マスター。怪我はありませんか」


ストっち。メアリっちを助けに来るタイミングで"黒蛍(くろほたる)"で飛ばす予定だったけど、流石に甘かった。テッパチ踏んでくるとは思ってなかったわ。


「──でも流石に、タタタンの一撃は効いたみたいね。瀕死じゃね?」


「【リベンジャー】よ。不利でナンボでしょ」


「ふーん。これでも?」


鞭を鳴らす。

ここにはいない【調教(テイム)】済の魔物──機動性の高い《ブースターオオイモリ》を、()()()()

イモリを追っていた魔物が、次に近いウチらに向かってやってくる。これを探している間にテッパチ達が単独行動したんよね。


──レアエネミー《黒曜剣山》。黒曜の棘が全身に生えた巨大ハリネズミ。それも二体。


「ウチは相打ちでいいんで。一緒に死のうぜメアリっち!」


「口調、元に戻ってるわよ! 【セット】!」


メアリっちの使う【チェンジ】は、【セット】で設定した空間を入れ替える? たぶん。

なら動いてれば大丈夫。そんで相手も動いてもらうし!


「動かないと狙われるし! 《黒曜剣山》は遠距離攻撃持ちだし!」


「──ゴースト! 頼むわよ!」


「consent:お任せ下さい」


ストっちがウチに向かって来る。先に明確に敵意のあるウチを潰す感じ?


「【チェンジ】!」


っ、しまった、ウチを追い越すつもり!?


──ストっち、動かず。

──メアリっち、動かず。


「……騙したぁ!?」


「言っただけだもんねー」


ウチの横をすり抜けるストっち。

スキルの宣言をブラフに使うなんて、恐ろしい事考えるじゃん。

見えない空間交換に、その宣言が嘘か本当かわからないってとこまであったらもう何も信じられないじゃん。


「でもメアリっちのガード解いたらダメだよねー!」


切り替える。【夜明けの月】の核であるメアリっちさえ倒せば終わるんだから──


「甘いわ──【チェンジ】」


──【セット】は宣言する必要すら無かった?

もしくは前の【セット】の段階で設定してた?

とにかく、メアリっちの姿が消えた。

どこ?


後ろでは、ストっちが2体の《黒曜剣山》に突進。

自分で削ったHPを活かして、火力を極限まで高めた状態で、攻撃を掻い潜りながら射程圏内へ。


「action:skill:【双月剣舞】」


ストっちがロングスカートを翻しながら、鮮やかな回転切り24連斬。

でも、まだ倒し切れない。腐ってもレアエネミーだし。


メアリっちがどっか行ったのはもういいとして、ストっちだけでも倒す──




「後は任せなさい! 【風花雪月】!」




上──!


メアリっちは、自分と頭上の空間を入れ替えたわけね!

落下しながら詠唱を済ませて、上級魔法を撃ってきた!


風が黒ハリネズミ達とウチを巻き込む。──メアリっちの味方のストっちは喰らわない。


あー、やられた。

でもウチしってる。これやられてもギリ耐えられる。

本人はどうやって着地するつもりなのか知らないけど、着地を"黒蛍(くろほたる)"で吸わせて分断まではできるはず。


──氷の華が開花する。ハリネズミ共は情けなく敗れて、ウチは氷の中からメアリっちを見上げる。


まっすぐ落下するメアリっち。真下に待ち構える"黒蛍(くろほたる)"。


さあ、あと少し──




「ぐえっ」


──メアリっちに文字通り横槍を入れたのは、触手。

そのままメアリっちに巻きついて、"黒蛍(くろほたる)"を飛び越えて。

現れたのは緑の毛玉──"まりも壱号"。


「グリーンホール、ウィード階層以外ならそこまで遠くには飛ばせないんだな。流石に【調教(テイム)】した事は無いから知らなかったぞ」


最重要危険人物、ライズっち。そしてジョージちゃん。

──もしかして、ジョージちゃんを"黒蛍(くろほたる)"に吸わせたのって、ライズっちに足を渡すため?


もう既にストっちもアイコっちも荷台に乗ってる。タタタン(タツタダ)は普通に押し負けちったか。


瞬間、遠くの方で光の柱が落とされる。最近階層内で稀に見る光。ライズっち達はそっちを見て、次の進路を決めたみたい。じゃああそこにドロシっちがいるんかな。オフランス(ナシノツブテ)死んだ?


氷の花が割れる。自由になったけど、【夜明けの月】に届かない。

荷台から頭を出したメアリっちが、悪戯げにウィンク。




「楽しかったわよ! またね!」




──ウチらを飛び越えて、そのまま走り去る【夜明けの月】。


「……あーあ。負けちった」


ウィンドウを開いて、いつもの服装に戻す。和傘の無駄な重さも、高下駄の無駄な歩きにくさも、楽しい。


「おらテッパチ。タタタン。何寝てんの。

 オフランスの生死確認して追うわよ【夜明けの月】」


今回の戦犯テッパチの頭を突いてみる。なんか動かないけど死んで無いでしょ。


「……おれは恥ずかしいよ姉御。覚悟も何もせずに感情に揺られて、普通に負けて利用されて。いいとこ無しだ」


「いいとこあるっしょ。"前科がない"」


「犯罪者ギャグきちいっす……」


「諦めなきゃ何でもアリよこの世界は。オラ立て。まだまだこれからよー」


まだまだやってやんよ。闇ギルド仕込みの諦めの悪さ、思い知るといいし。



〜ジョブ紹介【衛生兵(メディック)】〜

《寄稿:【金の斧】タツタダ》


はいどうもぉ。タツタダさんだよぉ。

ヒーラー系第3職【衛生兵(メディック)】を紹介するねぇ。

【バトルシスター】上位職だからねぇ。前衛で闘う回復職だよぉ。【悪魔祓い(エクソシスト)】と比べて回復に特化してるよ。

相手を強制的にダウンさせる体術も何故か使えるよぉ。


・アビリティ

《衛生管理》

常に自分と周囲に弱体化を軽減する空間を展開しているよ。これがいっちゃん強いかもねぇ。

こっちはかなり微弱だけど、継続回復効果もあるよ。ちょっとした休憩の時は【衛生兵(メディック)】の周りに集まりなさいな。


・スキル

強制回復対位(ベッドメイク)

相手を無理矢理横倒しするスキルだねぇ。暴れる患者は一発KOだよ。

倒せるサイズは人間くらいだね。強制ノックバックみたいな感じで相手の動きを止められるよぉ。


【ナース】

回復魔法だね。詠唱の短さ、回復量どちらをとっても一級品だよ。複数同時に治療も可能だよぉ。


救護院(ヒーリング・ケージ)

回復結界の魔法だねぇ。発動中は動けないけど、良質な回復空間を展開できるし、外部からの攻撃を通さないよ。

でも耐久値が0になったら壊れるから、注意が必要だよ。

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