504.決着
──◇──
ようこそ【第120階層 連綿舞台ミザン】へ!
我ら【劇団シャム猫】があっちからこっちまで案内してやろう!
……む。なんだお前か。久しぶりであるな。
うむ。セリアンに頼まれたものでな。我ら【喫茶シャム猫】は休業。ひとまずはこのミザンに根を下ろしておる。
セリアンとナズナは一度帰郷した。
……ナズナについては、阿僧祇那由多監視の件で亡き者にされておった。つまり彼奴には戸籍が無い。
その辺諸々の手続きをしに行ったのである。
ちゃんと進めば、セリアンの娘として復活できるであろうよ。
我?
んや、離婚しておるからな。
別に遠慮とかはしておらんが。こうやって不思議な縁で巡り会えたのだし、普通に会話も出来る。
とはいえ離婚は離婚。距離は取るべきであろう。
という事で、我を慕う楽しい楽しい仲間達とスタッフ業に勤しんでおる。
折角だから見てゆけ【劇団シャム猫】初公演。
演目は火の輪潜り、火の輪潜り、火の輪フラフープである。
……うむ。今の所資金難につき赤色のフラフープしか無いのでな!
──◇──
おお、久しいな。
うむうむ、我々も元気だとも。
このサカズキは平和そのものよ。元より外敵もおらんしな。
"猫又九番守"も健在よ。あれから色々と、内部データ的な調整も可能になった故……"猫又試合九ツ番付"も強化されておる。
とはいえ、今後は新たな冒険者を次々迎え入れる事となるであろう。難易度の調整は考えねばならんな……。
調整は【バッドマックス】に手伝ってもらっていてな。
連中、とりあえずやる事が無いと居候しておる。
スタッフになる訳でもなし、そのうち現実に帰るとは言ってはいたが……まぁ、暫くは【Blueearth】に居るであろうよ。
いやしかし、ほぼ全員が現実に戻らんとは仲のいいギルドだな。……全員現実に帰りたく無い、というのはどうかと思うが。
うむうむ。それはそうと。そろそろ腹から離れてくれんかね。
玉乃条に見られたら何を言われるやら分からんのでな。
……そうそう、少し困っておる事があってな。
どうにも冒険者達の記憶が戻って、一気にチャーチ階層まで多くの冒険者が攻略を進めてからというもの……。
このサカズキに滞在する者が後を断たんのだ。どういうわけやら。
うん? 猫の魔力?
ほーん。そういうもんか。だが街中の成猫は割とイカつい者が多かろうて。
……そういうのも可愛い?
人間って恐ろしいのぉ。
……猫喫茶でも建てるかね。
──◇──
【第204階層クリア:login】
「【極光交差天河観測】──【サテライトキャノンfilaments】!」
弧を描き展開された複数のピットから【サテライトキャノン】が放たれ、木々も兵士も薙ぎ倒す。
……ゲームバランス終わってるわね。なにそれ知らない。
「ドロシーやるねェ。1人で全部やっちまえよ」
「いえ、相変わらず大振りで回避も容易い事でしょう。
急ぐべきはクローバーさんと僕の偽物です! 改良が進んだメアリーさんの偽物が【チェンジ】を使えたという事は──」
「最悪、今のドロシーレベルと敵対しなくちゃいけなくなると。そんなの誰残してもヤバいと思うけどね」
クローバーとスペードは地上戦。
ドロシーの取りこぼしと当たりつつ、スペードどの兵士が誰なのかを判断して周囲に指示する司令塔役。
「結局は天知調自体を殺さなくてはならないのだろう。接近・暗殺は俺に任せてくれ」
「対人なら私とジョージさんが最適です。メアリーちゃんは【チェンジ】で移動支援をお願いします」
「じゃあお姉さんは前衛で掻き乱してくるね。
ゴーストちゃんはどうする?」
「answer:私は隔離階層の保護を。System:"spatium"が無理なく発動できるようになれば、そちらで支援します」
「じゃあ後衛班代表として、あたしがゴーストちゃんとミカンちゃんに付くわ。
前衛チームのヒーラーが足らないんじゃない? リンリン、頼めるかしら」
「は、はいっ! この"無敵要塞"にお任せを!」
もうここまで来ると、相手がお姉ちゃんとか関係ない。
まるでその辺のちょっと厄介な敵を倒しに行くみたいに、するすると立場が決まっていって。
「……あれ、俺は?」
「ライズなァ……遠距離支援?」
「ドロシーのピット、32門全部から【サテライトキャノン】出てくるんだよ? ライズいらないよ」
「で、では、混戦のサポートを!」
「ドロシーちゃんとメアリーちゃんの支援を考えると、クローバー班とカズハ班で分かれた方が良さそうじゃないかしら?
あまり戦線をぐちゃぐちゃに掻き乱したら【サテライトキャノン】の巻き添え喰らうわよぉ」
「……ははは。こうなるから、最終的に俺は要らないんだよ」
自虐気味に笑うライズを──全員で蹴る。
「馬鹿言うな。お前は最後ぐらい、ちゃんとメアリーの盾やってろ」
「answer:現状マスターを守る役が不在です。マスターの防衛を要請します」
ここまで来て舐めた事言ってんじゃないわよ。
「随分と時間かかっちゃったけど。今度はあたしが前に出るわ。ついて来なさい、ライズ」
「……んだよ。既にヒガルあたりからずっと、お前が前だったよ」
「あたしがあたしの意思で前に出たのよ」
ぐだぐだ言ってるライズの手を取る。
──これが本当の最終決戦。思い残す事も無い。
「行くわよ! 【チェンジ】!」
クローバー班とカズハ班を別々に、戦士と騎士の中へ。
ジョージとアイコを、お姉ちゃんの目の前へ。
「【ビーストモード】──アイコ君と同じ、全身ダメージ判定だ。好き放題殴らせてもらうよ、天知調」
「【讃仙過海】──死も骨折も肉離れも無い世界にして頂き、ありがとうございます。
それ故の辛さはあるかもしれませんが……どうか、お許しを」
「ひえぇ。お手柔らかにぃ……」
あまりに恐ろしい挟み撃ち。
爆速でお姉ちゃんのHPが消し飛び、兵士が減る。
また何処かに飛んだみたいだけれど──
「──search:補足しました。スペード! そちらに飛びました!」
「OK。僕も一回くらいは殴りたかったんだよね、天知調! 【不可視の死神】!」
「ひぃ! 必中必殺は、ずるいぃ……!」
背後から刃を突き刺すスペード。猟奇的すぎる。
……ま、仕方ないわ。戦場に立ったのは、お姉ちゃんだもの。
「んいい……【私の愛した枢騎士】レベル48! こうなれば、クローバーさんを優先して──」
「その俺なら、もう潰したぜ。再展開して即当ててみるか? 早撃ちで俺に勝てるなら、の話だがなァ」
「ひぃん"最強"……」
ドロシーの強化された【サテライトキャノン】が。
カズハの二刀流が。
クローバーの集中砲火が。
次々と。
それはもう、あっけなく。
お姉ちゃんを守る騎士団を壊滅させていく。
「──そろそろね。行くわよライズ」
「おう。ここで使うなら、コレだよな」
最後の1人。
お姉ちゃんが孤立した所に──
「【スイッチ】──【焔鬼の烙印】」
「スロットセット──【紫蓮赤染の大晶鎌】」
この隔離階層を壊す、槌と鎌。
「──【チェンジ】」
「ああ、残念。もっと予習しておけば、良かったです。
──翔君が負けるなんてなぁ」
お姉ちゃんは、目を閉じない。
あたし達をしっかりと、その目で見届けてくれる。
「──【鬼冥鏖胤】!」
「【赤き大地の輪廻戒天】!」
世界を割る。空間を引き裂く。
全てに終わりを告げる、破壊の双撃。
色鮮やかな世界は、ツギハギの隔離階層は──終焉を迎えた。
──◇──
うわ。何の用だよ。
"カフィーマ・リバース"は休眠中だぜ。自我部分が運営するのはあくまでシステムデータ面であって、【Blueearth】側の"カフィーマ・リバース"が目覚めたらそのまま"拠点防衛戦"になっちまうし。
俺?
燃え尽き中だ。ゴタゴタしてる間に新生【月面飛行】で【Blueearth】の攻略自体は済んじまったからなぁ。今度こそ本当に解散だ。
【Blueearth】に残るか……ってぇと、ナシだな。
俺、そこまで【Blueearth】自体には執着してねぇんだよ。超えるべき壁も崩れてるし。
クローバー……アシュラとかは、新しいゲーム探しに行ったんだろ? 俺も現実世界に戻って適当に新しいゲームを探すよ。
……案外普通だろ?
ただの迷惑なクソガキだったからさ、これでプラマイ0じゃねーか?
ゲームが人を成長させる事だってあるんだなぁ。
……え?
ゲーム自体はむしろ俺の悪性を助長させた?
そりゃそうか。その結果があの【月面飛行】全盛期の俺だもんな。
じゃあなんでこんなに変わったんだろうな。
あー、アイコのおかげか。
すげぇよなぁ"聖母"。もっと早く会いたかったぜ。
……俺?
俺が自分で変わったから?
アイコが言いそうだなー。本当かー?
あんまし俺がどうにかしたって感じじゃねーんだけどな……。
ま、いっか。
お前、これからどうすんの?
またこういう遊びやってくれよ。文字通り、人生変えちゃう名作になるぜ。
俺みたいに救われる奴だっているだろうさ。迷惑かけちゃうとか気にすんなよ。その時怒られんのはお前だし。
……ははは! 悪い悪い。でもお前の周りには居ないだろ?
こんな無責任で適当で最悪なアドバイスするやつなんてさ。
もう会う事も無いのか、変なところで再開するのかわからねーけどよ。
次は勝つからな。よろしく!
──◇──
……む。来たか。
レイドボス連中の件、助かった。
彼らが丸ごと【Blueearth】の運営へと移行できたのはお前のおかげだ。我の願いも成就したというもの。
本当に感謝しているぞ。
……うむ。ああ、そうか。
【夜明けの月】の仲間として当然の事と。
ははは、正規メンバーでもなし。我を数えてくれるとは嬉しいものぞ。
フューチャー階層は2ボス体制でいこうと考えておってな。
"MotherSystem:END"も反省したようだし、アレを表のボスとして本来の形に近付けようとしておる。
我自体も相当システムの根幹に触れてしまったからな……我は裏ボスだ。
"エルダー・ワン"を模倣しようとして失敗した人造悪竜……といったところだな。
さて。レイドボスの問題は解決したが、別の問題があるぞ。
"まりも壱号""ぷてら弐号""うらしま参号"……あれらもまた、どういう訳か自我が芽生えておる。
うーむ。多分色々と例外枠である貴様らと共にいた事が原因だと思うのだが。ともあれ、そういったレイドボス関係ではない自我持ちの対処が必要であろう。
やる事が多くて敵わん。まぁ、これから長い付き合いだ。
いいようにやっていこうではないか。
……。
………………時に。
……カズハは、元気か?
──◇──




