503.*不正なデータを検知≠応答
──◇──
あやや。どうもお疲れ様です。
天国を見に来ましたか?私は地獄です。
天下のトップランカー【ダーククラウド】のサブギルドマスターに登り詰めたというのに、この仕打ち。あまりに過酷。しかし自業自得。year。
はい。皆さんの最強美人秘書シーナさんです。
エンジュにおいては元【飢餓の爪傭兵団:エンジュ支部】と【草の根】を束ねる監督役に就任しました。不本意ですが。
マーモット君はかなりマトモだからいいんですが、問題は【草の根】。
スワン終身栄誉会長は高らかに現実世界に飛び戻りましたからね。定期的に顔を出してきますが。
【草の根】はヒョウ爺さんが継ぐ事となっていまして。こちら隠居の爺さんながら世話焼きなもので、天職でしょう。私いらないでしょう。
……では何故私かと言えば、ほら。私は藤䕃堂財閥の最強爆裂美人秘書なので。
記憶を取り戻しておきながら五三郎ぼっちゃんを放置したり、藤䕃堂財閥に仇なす天知調勢力に肩入れしていたり……フューチャー階層で全員の記憶が戻ってからずっと顔出すように鬼電してきた監督役の通知をオフにしていたりと、その辺諸々が鬼……ヒョウさんの堪忍袋をズタズタに引き裂いたようで。
秘書、クビです。追放系。今更戻れと言われてももう遅いですが、戻りたいと懇願してももう遅い。無職のシーナさんです。
よって天国に居ながら地獄。ヒョウ爺さんの鬼教育再び。嗚呼無情。情状酌量の余地あると思いません?
あ、行かないで。さっきから鬼がこっち見てます。話が終わったらまた地獄再開。再会に花を咲かせましょう。
まって。おいてかないで。へるぷ。
──◇──
お。おーい、そこの。久しぶり。
ん? この格好?
マーフリー達が裁縫を覚えたものでね。スーツを仕立ててもらった。ちょっとカレイドチックだけれど、なかなか格好良くないかい?
【Blueearth】が正式なゲームとなるにあたってミラクリースのゲームバランスにも調整が入る事になった。それに伴い、運営側のお声が掛かってね。私は比較的暇だし、それもいいと思って手を挙げさせてもらった。
元のメンバーの殆どは現実世界に戻ったし、次にここに来る時は運営ではなくプレイヤーとしてだが。それでも【水平戦線】は不滅さ。
"ディセット・ブラゴーヴァ"とも話す機会が増えた。あれでいて良い奴だよ。
レインにいいように使われて……という事は無かったみたいだ。自我芽生えたてのレイドボスにしてはかなり賢く冷静な人だったよ。だからといってそこに甘えてはいられないがね。
大人として私の方がしっかりしてあげなくてはね。
ま、私も含めて【Blueearth】運営に回る人は少しはいるだろう。これからも宜しく頼むよ。
ん? そもそも私が誰かって?
おいおい酷いな。【夜明けの月】にとってはタルタルナンバンさんと並んで最功労者だと自負しているよ?
──そう、麿こそは!
ミラクリースを守護する自警団【水平戦線】最強究極大統領!
みんな大好きバルバチョフでおじゃる!
ほほほほほ!!!
おっと。口調が引っ張られた。
……うん? いや、元からあのキャラなわけが無いでしょ。
アカツキを全力でバカにするためのエミュだよ。
まさか本当にアレが素だと思ってない……よね?
──◇──
【第203階層クリア:password】
「──【次元断】!」
転移したお姉ちゃんを、そのままぶった斬る!
の、は、いいんだけれど──
「ふふ。やられちゃいました。
それでは戦士を1人、解放しましょう」
お姉ちゃんは腹から真っ二つ。
だけれど、その姿は光に消えて──また遠く、今度は森の入り口に転移した。
「【私の愛した枢騎士】再展開です。
七人の賢者。九人の騎士。十人の戦士。どうか私を守って下さい」
「……残機でもあるって事。これは……インチキね」
つまり、【Blueearth】進行度60%でやっと1人。
お姉ちゃん自身も含めたら、あと27回殺さないといけないってこと。
「勝ち目は最初から無かったの。ごめんね、真理恵ちゃん」
「ズルっこね、お姉ちゃん」
申し訳無さそうに眉を下げるお姉ちゃん。
……まだ。
まだ、お姉ちゃんから見たあたしは……脅威ではない、と。
じゃあ、もうそろそろいいわよね。
「ふふ。ふふふ。お姉ちゃん。このあたしをここまで追い詰めた事、素直に褒めてあげるわ」
「真理恵ちゃん……?」
お姉ちゃんは勘違いしている。
決して、お姉ちゃんはラスボスなんかじゃない。
正規のルールを無視して【Blueearth】に侵入し。
根幹システムである"無の帳"をハッキングし。
【アルカトラズ】に伏兵を送り機能を停止させ。
お姉ちゃんを、ここに引き摺り出したのは──
「──あたしがラスボスだ! お姉ちゃんの物語は、バッドエンド確定よ!
さぁ最後の階層よ、来たれ!」
空間作用スキルは1人一つ。
あたしはもう新たに空間作用スキルを展開できない。
でも、何事にも例外はある。
特例中の特例、【Blueearth】の外側。
そこに待機させた隔離階層を、近付ける事は出来る──!
「その……その鳥は!」
あたしの懐から飛び出すは、星のひよこ。
お姉ちゃんの管轄から外れた、ギャラクシー階層はレイドボス"カーウィン・ガルニクス"の贈り物。
星を紡ぐ事で力を得る……というのは今回はどうでもいい。
肝心なのは、"カーウィン・ガルニクス"が"テンペストクロー"のデータを模写したという事。
【Blueearth】では、完全同位体のデータがあればその中身を呼び出して同位体にぶち込む事が出来る。
そして、呼び寄せる誰かがそのまま、隔離階層の所有権を持っているのなら。
その隔離階層がまだ隔離階層として正式に認可されていない程に不安定であるならば。
"廃棄口"の荒れる波をかき分けてやってこれるほどの力があるのなら。
星のひよこは輝き、鳳凰と成りて飛び立つ。
彼らの影を残して──
「さあ、あたしの元に集いなさい! 十一人の共犯者!
"星辰獣【夜明けの月】"!
「まさか……まさか!」
このために、【ダーククラウド】戦では全員生存を前提としていたのよ。
良かった。ちゃんと全員生き残ってるわね。
「──【夜明けの月】11名。ここに駆けつけたぞ、マスター」
影は実体を投影する。
"旧廃棄口"に集っていたみんなは、"旧廃棄口"ごと全部ここに飛ばされる。
──【夜明けの月】が、またここに揃った。
馬鹿でかい"旧廃棄口"は隔離階層扱いだから──多分、もう一つ進んでしまうけれど。
「これで……【Blueearth】進行度80%達成だよ、真理恵ちゃん」
「ええ。崖っぷちね。全て終わるまで、あと1階層だもの」
「──え、そんなピンチだったのかよ! 勘弁してくれよマスター。状況は?」
「雑魚がたくさんよ。立ち上がらなくなるまで、お姉ちゃんを潰し続けなさい」
「中々過激なのです。──しからば、ミカンさんの役割はコレでしょうか。
何気に初披露なのです。【無頼神域天衝】!」
──森を、都市を、空を囲む城壁。
ジョブ強化スキル【無頼神域天衝】は、ミカンのレベルまで【キャッスルビルダー】を扱えるようになるものだから……ミカンにとっては無意味だったけれど。
ジョブ強化スキルとしての格を得た状態だと、この不安定極まりない複合隔離階層そのものに干渉できるみたい。
「進捗はミカンさんが抑えてやります。さっさとぶちかますのです、おまえら」
「──本当に頼もしいわね。
さあ、【夜明けの月】! 本当の最終決戦よ!」
たかがお姉ちゃんの二十数体、どうってことないわ。
だってここにいるのは、あたしの集めた【夜明けの月】なんだから!
──◇──
【第204階層クリア:login】
──◇──
あら、いらっしゃい。
密林の中歩くのは大変だったでしょ? 膝、貸してあげる。
勿論機械じゃない方ね。ほら、横になって。
……世話になったから、これくらいで良ければ。
獣臭くない? 或いはオイル臭いかも。
気にしない? ふふ、良い子。
……私の記憶は、【Blueearth】によって植え付けられたものだけれど。
この電子世界において、過去なんてその程度のものなのかもしれないね。
むしろ私は恵まれている方かもね。無理を通して"グラングレイヴ・グリンカー"を維持して、可愛い可愛いシギラも偶に遊びに来るし。
……そう。ジャングル階層もリノベーションしてね。ちゃんと私と"グラングレイヴ・グリンカー"が共存できるように調整したのよ。今しかチャンスなさそうだったから独断でやったけれど……余計な心配だったかも。ごめんね?
その代わり、私の役割が薄くなってしまったのだけれど。
まぁ、疲れたら私の所に来なさい。誰にも見られない森の中で、こうやって膝くらいは貸してあげるから。
……なんでそんなに優しいかって?
だって貴女、獣の事、好きでしょ。
ほんのり分かるのよ。多分シギラも。
……ふふ。また獣になってみる?
恥ずかしがる事じゃないわ。アドレにも獣になって毎日楽しい管理者がいるらしいじゃない。
そこまでマジじゃない? どうかしら。
……本当に、ありがとう。おやすみ。
──◇──
──はァイ!
【井戸端報道】局長タルタルナンバンでェス!
そしてここはミッドウェイの中心地からやや外れたそこそこな場所のそこそこな高さの二代目本社でェス!
やっっっっとお会いできましたねェ!
そちらから来て下さりありがとうございます!!!
こちら、【井戸端報道】の運営化に伴い色々と調整をしておりまして……。
元よりほぼ運営化していましたが、ちゃんと【Blueearth】のシステムに組み込むとなれば中々面倒でして。
特に前局長の存在とか、色々ありますから。
……はい? バロン元局長ですか?
ええ。【首無し】引き連れて【Blueearth】の裏ボスになる予定だそうで。【井戸端報道】はそのヒント役にもなる予定です。
兎にも角にもこのタルタルナンバン! また貴女とお仕事が出来て光栄です!
光栄ついでにまた取材させて頂いても?
あ、私、現実世界側でも【Blueearth】の攻略記事とかを発信するつもりなのです。
何事においてもそうですが、やはり情報というのは有効活用してナンボですからね!
……え? 前局長が指名した理由が分かった?
ウチはその辺まだ納得してませんけどね。ウチのどの辺が向いてるって思ったんだろう……?
まぁいいや!ジャーナリスト根性でこれからもやっていきますので!
……とりあえず! インタビューよろしいですか!?
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