502.*反映するデータが見つかりませんvol.3*
──◇──
うおー!!!
久しぶり久しぶり!
直接会うのは本当に久しぶり!
覚えてるよね?
"赤土の巫女"シギラ=ファングだよ!
諸々の事はシドを通してしっかり確認済み!
よく頑張ったね! ずっと見てたよ!
私とシドはね、【Blueearth】運営委員になったのだー!
バーナードから"カースドアース"本体も返納されたし、ドラドは一回根本的に作り直す必要があるんだよね。その辺、自我持ち現地人は便利だからって事で頼まれたんだ。
もうドラドに縛られる必要も無い! ……んだけれど、まぁ、岩戸には誰も入ってこないから。ドラドを拠点にするのは変わらないかな。
家出するほど嫌ってたのに、変だね!
……とりあえず、私もシドも突然無慈悲に消滅、なんて事にはならないみたい。本当にありがとう!
【Blueearth】と現実世界は同じ電子データだけれど双方性不成立プログラムがあるから、【Blueearth】のアイテムは現実には行けない。
だけれど、それも今だけの話! そのうち会いに行くね!
これはその実験の第一号! ……これ、というか、それ。
そう。私があげた爪。
それだけは現実に持ち出せるよ。
絶対忘れないでね。
約束だよ?
……じゃ、遊んでくる!
"グリンカー・ネルガル"さんとジャングル階層でかけっこするんだー!
え?お仕事?
そのうちやりまーす!
──◇──
……あ。
こんにちは。
こんな海底まで遊びに来たの?
……え。わたしがわかるの?
すごいね。だってほら、こーんなに大きくなったのに。
わかるんだ。ふふ。すごい。
ちょっとだけ、おはなし。
【Blueearth】のNPCが自我を持つには、膨大なデータ溜まりに突っ込んだりとかしないといけない。
だから根本的にデータが多いレイドボスは、必然的に自我を得る。
そしてここの"コスモスゲート"は、すべての階層の転移ゲートを司る……設定。
不可逆性の逆転。今から過去を作る【Blueearth】において、"設定"は"事実"になるよね?
だから、全てのゲートと繋がる事のできる"コスモスゲート"が自我を持たないはずがないんだよ。
でも、"コスモスゲート"はかんがえた。
この設定は、悪用されかねない。
だから自我をさっさと砕いて、幾つかの小さな自分に分離したんだ。
そう。それが"ネビュラウィンドウ"。
そして【夜明けの月】の旅の最中、わたしはすべての"ネビュラウィンドウ"と出会って、回収した。
その時は意識朦朧だったから。同位体と会いたいってだけだったけれど。
……まあ、そういう感じで。こうして新たなレイドボスに成り変わったんだよー。
これからは自我持ちじゃないと運営できないからね。
でも、それはわたしが勝手にやった事だから。
こうして、こっそり消えたわたしを探しにきてくれて、うれしい。
……クローバーが最初に来なかったのは、ちょっと"おこ"だけれど。
え? クローバーはこれまでわたしと出会った場所を総当たりに探してる?
そっか。わたしをわすれなかったんだ。みんな。
──それは、嬉しいな。
うん。わたしも【夜明けの月】の一員にしてくれて、嬉しい。
困った事があれば、何でも言ってね。
オーシャン階層レイドボス──"コスモスゲート皇"が、手を貸すよ。
とりあえず、帰り道くらいは開いてあげよう。
──◇──
【第202階層クリア:download】
「【スイッチ】──【召喚】"プチボム"!」
7人の賢者が囲む、その内側。
お姉ちゃんの目の前に転移して──ダメージ覚悟で爆弾を呼び出す!
「【私の愛した枢騎士】レベル18! 私を護って!」
遠くにいる戦士の一人が、あたしの前に現れる。
違う。これは──【チェンジ】。
「っ──【チェンジ】!」
そして咲くは氷の華。まだ威力は弱いけれど、これは──
「……その戦士は、あたしね?」
「正解! 【私の愛した枢騎士】は【ゲームマスター】のジョブ強化スキル……になるのかな?
改良を重ねれば重ねるほど、本来の姿に近付いていく。理論上は真理恵ちゃん一人じゃ勝てないんだからねー」
七人の賢者。九人の騎士。十一人の戦士。
戦士の一人があたしをモチーフにした存在って事は……。
「七人の賢者、ハヤテとツララを差し引いて九人の騎士、誰を差し引いてるのか分からないけど一人引いて十一人の戦士……って事?
確かにその方が効率いいわね。お姉ちゃん自体が戦うよりよっぽど優秀よ」
「ふふーん。私が戦っても勝てないなら、ここまで勝ち残った皆さんを使うまで。
どう?真理恵ちゃん。少しは歯応えがあるといいのだけれど」
「……ま、まだまだ!」
耐久戦なんて甘く見ていたわ。
このままレベルが上がればあたしじゃ対抗出来なくなる。
……けれど、奥の手はまだ使えない。
「ほら、また世界に突き刺す楔が固まるよ。
【黒き摩天の終焉】【金色舞踏会】インストール完了。
【Blueearth】進行度は60%を達成。世界が固定されてきた……!」
文明が芽生える。新たな、未知の世界へと空間が育つ──。
──◇──
【第203階層クリア:password】
──◇──
「……やってやるわ」
「あら、真理恵ちゃん。それは──」
真理恵ちゃんは、それまで使っていた紫の杖を大樹に立て掛けて──素手で、可愛らしく構えちゃってます。
「……それは、どうなの?」
「多分これが最適解だから。倒すわ、お姉ちゃん」
【私の愛した枢騎士】は発動と同時に賢者と騎士と戦士が展開されるスキル。
真理恵ちゃんはどこから攻めても、この全ての兵士を相手しなくてはなりません。
そこをショートカットできる【チェンジ】対策に、大急ぎで真理恵ちゃん戦士の固定化をしたわけですが……。
まさか、素手で突っ込んでくるとは。
とはいえ真理恵ちゃんは可愛い後衛。油断させて、どこかのタイミングで【チェンジ】するに違いありません。
いつ【チェンジ】してもいいように、指示を待機させて──
……あれ。
樹木で隆起した足元、まだ統率の取れていない戦士達。そして……熟練された足捌き。
真理恵ちゃんは、次々と戦士を掻い潜り、騎士も通り抜け──賢者越しに、私の前に。
「【夜明けの月】は全員、デュークとアイコに稽古付けてもらってんのよ。
いつまでも貧弱な子供と思わない事ね!──【チェンジ】!」
この【チェンジ】は、恐らく私への追撃。
私の真理恵ちゃん戦士の【チェンジ】と同時に発動。
逃げる私を元に戻すにせよ、座標転移を妨害するにせよ。転移は失敗──
──して、ない?
私はちゃんと、転移先のビルの屋上に。
だとしたら真理恵ちゃんは何を転移させた?
視線の先、湖に立つ真理恵ちゃんの手には──【紫蓮の晶杖】。
「纏めて! ぶっ潰れろ! 【風花雪月】!」
氷の華が咲き乱れる。本家本元、氷と風の最上級魔法は──賢者を、騎士を、戦士を砕く。
少しだけ、この天才の思考が止まります。
僅か1秒。でも、真理恵ちゃんの駆け抜けた世界ではその1秒は、とても長くて。
「【チェンジ】──」
私の真理恵ちゃん戦士が【チェンジ】できる距離は、当然真理恵ちゃんでも届く距離で。
私のお腹に、真理恵ちゃんの手が重なる。
「ぶっ千切れろ!【次元断】!」
光が私ごと、空間を引き裂く──。
──◇──
……げ。
いや、嫌な顔くらいしてもいいだろ。
どうも、面倒事ばかり巻き起こす【三日月】を掘り返したお騒がせ大将さん。
俺はまだ、あのタイミングでライズをここに連れてきたアンタの事が嫌いだ。
……なんてな。逆恨みだよ。
どん詰まりだった俺達を通りすがりに助けてくれたようなものだ。感謝している。立場としてはな。
俺個人としては、主にライズが嫌いだ。アンタはまぁ、そこから副次的に嫌い。そのくらいだ。
カヴォス呼んでこようか? 俺と話してもつまらんだろう。
……いい? 自分で行く? そりゃ結構。
…………。
……そういえば。ホーリー様、どうなんだ。
異星開拓に飛ばされた? 何故。
ああいや、人のいる所じゃ生きていけないか、あの人は。
あの人だけじゃないわな。犯罪者が死ななくなった世界……いや、誰でも犯罪を犯す確率が大幅に上がった世界になる。長く生きてりゃモラルは低下するってもんだ。
犯罪者をどう管理するのか、困りもんだな。
いや、俺は別に警察とかじゃないからその辺はどうでもいいが。
そうそう。俺は【Blueearth】に残るつもりだ。現実に居場所が無い奴にとっては都合が良いからな。
……なぁ。やっぱ会話続かないだろ。やめようぜ。
無理に仲良くしなくていいんだよ。これから長い付き合いだ。こういう尖った部分も、嫌でも削れるもんだ。
下流の石は丸いだろ? そんで俺が尖ってんのは仕方ない。
だって俺はフォースクエアだからな。
……忘れろ。冗談だ。
あ、カヴォスに言うなよ。絶対言うなよ!!!
──◇──
ん。
おお、嬢ちゃん。顔出しか?
随分と長旅だったな。黒木の兄弟喧嘩に巻き込まれて大変だったろう。そうだろうそうだろう。
あのアホ兄弟の事は良く知って……無ぇ、な。
なんか長い付き合いだと思い込んでたが、アホ兄貴の方だけだったわ、知り合い。
ライズの方は【Blueearth】で会ってるだけじゃねーか。あの兄弟が揃ってる所、殆ど見た事ねーじゃねーか。
っかー。何で俺ぁあのアホ兄弟のお目付け役みたいな事をやってたのかね。アホらし。
……あん? 今後?
どうすっかね。天知……っと、お前の姉ちゃんとは【NewWorld】設計のために組んだようなもんで……。
【NewWorld】設立メンバーは最早解散、なんだが。俺はその分野じゃそれなりに有名人だから、このままここに残るよ。
つっても俺達、基本的に天知調大好きチームだからな。あいつが新しい発明を思い付くまでは休暇みてーなもんだ。
……つまり、相当暇だと思うぜ。少なくともそれまではレイドボスやらせてもらう。
俺は案外しっかりものだぜ。あんま警戒すんな。
てか警戒すべきはアドレの美都だ。あいつあのボディ気に入り過ぎて現実世界に持ち出そうとしてんぞ。
あれでいて凄腕エンジニアだ。力づくで止めるか、ラビの嬢ちゃんを呼んどきな。秒で黙るから。
ソニアとヨネは現実世界と往復だな。
今回の騒動でちゃっかり新世界の土地を確保したヨネ婆さんに乗って、丸儲け中だそうだ。
ウチの財布チームはガチだぜ。怖い怖い。
アルスは……とりあえず家族と会いに行くって言ってたな。ガキが7人いるんだぜ、あいつ。
生まれたばかりのガキはどうやって成長すんだろうな。その辺、考えといてくれや。
つららは……やべ。あの殺し屋を放置しちまった。何処行ったアイツ!
え? ゴーストとファルシュと一緒に旅行? 何だそのメンバー。
……ま、いっか。アイツもまともな人間性を手に入れたんだろうよ。
──いや、世話係じゃねーよ。
ただ天知調も含めて、どいつもこいつも考え無しすぎるからよ。少しはしっかりしてねーとな。
……嬢ちゃんはその点、随分とマトモじゃねーか。
既にかなり気に入ってるぜ。これからもよろしくな。
──◇──




