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──◇──
あら、いらっしゃい。
随分と長い旅だったわね。顔を出したのはいつぶりかしら?
でも……アナタ達を送り出したのは、つい先日の時のように思い出せるわ。
頑張ったわね。
頑張ってる子の願いが叶う事ほど、素晴らしい事はないわ。
あと、ライズの事も……ありがとね。
アタシ、あの子と出会ったのはアドレに戻ってからだから。あんなに明るくて面白い子だって知らなかったのよ。
あの子を救ったのは、アナタよ。自信を持ってね?
……アタシ?
一度地球に戻ろうかしら。会社があるのよ。
どうしようもなくて愛らしいアタシの部下達が待ってる。土建業界も大きく変わるだろうし、色々と……ネ?
ココはモーリンに任せるわ。あの子は逆に、現実に帰りたくないんだって。
まぁ……アタシが帰るのは、最後になるわね。
ちゃんと現実に戻る子全員を送り届けてからにするわ。
だってアタシは……ここは、【祝福の花束】。
旅立つ者を祝福するためのギルドだもの。
ええ、もちろんアナタにも。
おめでとう。いってらっしゃい!
──◇──
やあやあ貴女様は!
ようこそおいでなさいました。今や【鶴亀連合】……いやさ、【朝露連合】もこのドーランにおいては縮小気味ですが、この【ゴルタートル】本店だけは死守しておりまして。
ええ、ええ。やはりあのナツの勢力には敵いません。あっちにゃレイドボスまでおりますから。
ですから、はい。
……何用でこちらに?
ナツなどは貴方様の友人でございましょう。あちらに挨拶なさればよろしい。
私など、貴女様の覇道のついでに轢き潰された小亀に過ぎないことでしょう。
……一応言っておきますが。悪巧みなぞしておりません。
いえ、商売と称した悪辣な事柄も、はい。
ああいうのは元手が要るものです。今の私ではどうにも出来ませぬ。
さっさと現実に帰して欲しいものですが、そこの所どうなんです?
……はい?
ああ、成程。
"特殊技能や才能に左右されず、印象誘導のみで1年間人を操り続けた技術"が欲しい、と。
いやはや。そんなものありませんとも。
ええ、ええ。なんの事やら。
……。
……クソ。ちょっとだけ教えてやりますよ。
そんな頼まれたら断れないでしょうが。
ああもう、ハニートラップは二度と通じないと思う事ですよ!お客様!
──◇──
【第201階層クリア:install】
特例ジョブ【ゲームマスター】
運営の権限をゲームに落とし込んだもので、要するにやりたい放題。
……でも、ちゃんと限度はある、はず。
元より、電子サーバー【NewWorld】を無理矢理ゲーム化するためのウィルスが【Blueearth】。
そして、ゲーム化していないのならその攻撃の一切を受け付けないというチート仕様。
だからゲーム化適応はそう難しくないし──ゲーム化したのなら、そこまで理不尽な事はできない。
全ての事象をゲーム内プレイヤーが力技で解決できるのが、【Blueearth】の強みだもの。冒険者としてここに落ちてきたのなら、あたしにだって戦えるはず。
「【チェンジ】──【風花雪月】!」
地上戦しかできない騎士と戦士は、【森羅永栄挽歌】の樹海と【チェンジ】転移を利用して避けながら魔法で潰す。
……大丈夫。MPにも余裕はあるし、まだ苦戦するほどじゃない。
「うーん……やや自重し過ぎですね。調整入ります。スキル発動!【オーバーホール】!」
瞬間、爆散する兵士達。いやエグいわよ。笑顔でやらないでよそんなの。
七人の賢者。九人の騎士。十一人の戦士。
賢者はお姉ちゃんを守って、騎士と戦士はガンガンあたしを狙ってくるけれど。みんな剣持った地上戦なのよね。
「改めまして。【私の愛した枢騎士】レベル2、発進です!」
兵士の数……は、変わらないけれど。
今度は戦士が弓矢装備してるわね。でも──
「お姉ちゃん。それがレベル2だとしたら、50になってもダメージ一つ与えられないわよ。もっとギア上げてよね!」
遠距離攻撃なんて散々演習してきたわ。
こっちにゃ銃撃戦のスペシャリスト【バレルロード】だって居たんだから。憂さ晴らしかってくらいに蜂の巣にされてきた。
こんな矢くらい、スキル使わなくても避けられる!
「あら。当たらない……」
「もっと盛ってもよかったわよ、お姉ちゃん。
スキルやジョブのスキルを多少強めにしたところで、お姉ちゃん自体の練度が足りてないんだから」
「言うようになったね、真理恵ちゃん。最弱ジョブで"最強"やってるクローバーさんの請け売りかな?」
「ううん。【朧朔夜】とか色々例外枠のバカ強ツール持ってんのに毎回ギリギリ所によっては負けを持ってくるライズから学んだのよ」
「ああ、まぁ、ほら。ライズさんも頑張ってたじゃない?」
それは知ってる。だから文句言ってるんだし。
……凡人極まる変態、ライズ。いい拾いもんだったわ。
まさかそれが、お姉ちゃんを変えたハヤテの弟だったなんて。運命的ね。
「……天知は黒木の血に縁があるわね」
「あ、そうね。そうかも。
ふふ。お互い、変な人を見つけちゃったね?
──ところで真理恵ちゃん。森だけってのは、寂しくない?」
空間が歪む。森の出口に、空と海──
「【蒼穹の未来機関】【白曇の渦毱】インストール完了。【Blueearth】進行度40%達成。階層は進むよ」
また、空間が確定していく。
──そっちからも改造できるのね。
「そう。つまり、時間制限付きなのね」
「ふふ。わざと言わなかったの。悪い事しちゃった。えへへ」
「悪い男に捕まったわねお姉ちゃん。ハヤテには責任取ってもらわないと」
たとえお姉ちゃんのゲームセンスがクソ雑魚だったとしても、時間制限いっぱい耐えれば勝手に【Blueearth】は完成する。
緊急避難的にあたしが逃げたとしても、お姉ちゃんはちゃんと冒険者になってるから……無駄か。
あの兵士共。攻撃においてはまだまだ雑魚もいいところだけど、こっちから攻めるとなると……ちょっと厳しい、かな。
「そのくらいのハンデがあって然るべしよ。大概、姉妹兄弟ってのは下の方がゲームは上手いもんなのよ」
「ふふふー。おいでー、真理恵ちゃん」
空間がブレる。先程までの世界を不完全にする。
お姉ちゃんは相変わらず……しばきたくなる、笑顔のまま。
──◇──
【第202階層クリア:download】
──◇──
あー!
こんな所に何しに来たし?
ウチ?
聞いて驚けぃ。ウチこそは!【金の斧】の二代目ギルドマスターのアゲハちゃん!なのだ!
うん。ナメローさん、警察組織の人だから。今後どうなるにせよ、とりあえず戻らないといけないって。
ウチは元々配信中心のモデル&ストリーマーだから、このまま【Blueearth】でもお仕事できるし。
って事で、丸々貰っちゃった!
【飢餓の爪傭兵団】は抜けたけどね。今は【朝露連合】の後押しがあるから。
……ウチね、ナメローさんとは、まぁ、それなりに関係あったの。
あ、いやそういう関係じゃなくて! もーそういうの、ナメローさんに悪いから!
やめてね。
それでね、そもそも、ナメローさんがずっと仕送りしてきたからモデル始めたの。
ウチはもう立派に稼げる大人だし。ってなもんで。
結局【Blueearth】前までは、それでも仕送りをやめてくれなかったんだけれど……。
ウチの頑張りを見届けてくれたから、もう子供扱いしないって!
これ凄いんだよ! ナメローさんが前言撤回するの、なかなか有り得なくてヤバめ!
……そうなれたのはさ、【Blueearth】のおかげ。
こういうキッカケがないとナメローさんも考え直さなかったと思うの。
ありがとう。
……え? 自分が【Blueearth】作った訳じゃ無い?
そんなの関係ねーし!
とりま、今後ともヨロ……って事!
──◇──
ぶちかましたりますわー!!!
あら、ごめんあそばせ。
わたくし、除雪中です。そんな所に立っていては埋もれてしまいますわよ?
……あら。貴女様でしたか。
お久しぶりです。ご機嫌バリバリ麗しゅう。
アホのプリステラに最後まで付き纏われてさぞ大変だったでしょう。宜しければ、お茶でもシバき遊ばせませんこと?
……あー……。
っぱ素面だとキチィわ……お嬢様。
ゴメン、ちょっと息抜きさせて? みんなの前じゃ素は見せらんねーから……。
あ? いやアンタはいいんだよ。隠してた方が後々面倒そうだし。
……そう。アタシはここに残るよ。
外じゃ不良崩れのアホ女。この"アイスライク・サプライズモール"の運営に就職って事にすりゃ、両親も納得してくれるだろ。
ふはっ。アンタ18だっけ。若ぇー!
いいじゃん。何でも出来るよ。何にでもなれるし。
何とかなる……なんてアドバイスは出来ないけどさ。アタシだって22……あ? これ年齢どうなんだ? ま、いっか。22だし。
何とかなるとは言わないけど、変な事は起きるよ。生きてりゃいずれ。
それも劇的なもんじゃなくて、ほんとにしょーもない縁とかがね。
例えば、ガキの頃の接点の薄い同級生とばったり再会して……そいつがいい感じの社長になってたり、とかね。
……あ? マツバ?
ま、そういう事。
あいつもあいつでパッとしない企業に行く所だったんだけど、どう考えてもココの管理人やった方がアドだから。引き摺ってやった。
ま、楽しくやんなよ。
大体の面倒事は、後々「なんとかなった!」って言うためのもんさ。
さーて、除雪除雪。
やったりますわー!!!
──◇──




