499.長い旅の果て
──◇──
"【Blueearth】争奪戦" 最終戦
【ダーククラウド】vs【夜明けの月】
【ギルド決闘】"東雲曉暒"
──◇──
【第199階層エンド:終焉帰郷アドレ】
複合隔離階層
「"グレーマーカー"!」
「いつの間に──【背面斬り】!」
どこのタイミングで付けられたか、近距離転移アイテム。でも大抵背後だよねそんなの。
【月詠神樂】を背中で受けて──反転、ライズを蹴って距離を確保。
取り憑いた影はすぐに振り払われるようになったけれど、それでもちゃんとHPを削っている。
なのにまだ倒れてないって事は……アビリティで自動回復とかを付けてるのかな。元よりHP削り自体はボクの十八番だし、対策していてもおかしくない。
だとするならどんどん攻めていかないと。
「行くぞハヤテ! 【スイッチ】【忘れじの灰晶短剣】!」
おっと来た、耐久値1の投擲短剣。
【朧朔夜】を抜くには7回以上の武器破壊が必要だからね。コレで一気に稼ごうって作戦か。
対策もバッチリだよ。スワンさんが用意した対策だけれどね。
「"二度振り厳禁"!」
「うおっ、何だその看板」
取り出したるは設置型アイテム……ただの看板。
「これがあるとね、同じ武器やアイテムを使えなくなるんだ。【忘れじの灰晶短剣】敗れたりー」
「うわ面倒くせぇ……が、まぁいいや。【スイッチ】……【スイッチ】」
あまり効いてなさそうだけれど。
いくらアビリティの自動回復でも回復は追いついてない、はず。多分。
だとすれば、これで詰みのはずだ。
「【ゴシックバイス】!」
「それはもういい。【スターレイン・スラスト】!」
突進するライズを、影を重ねて受け止める。
──【最終幻想】の影は、壁として使うと相手に取り憑けない。それはそれとしてボクに取り憑いてる方の影がライズに移るけど。
同時に顕現させられる影の数にも限度はあるけれど、差し引きで考えても全然困らない。そもそも"インビジブル・メア"の削りだってあるし。
【最終幻想】の影はヒーラー第3職でないと解けないレベルの呪い。ライズでは打ち消したり振り払ったりしないと逃げられない。
「素直に武器にダメージを蓄積させて破壊するのを待つかい? 間に合わないと思うけどね!」
「うるせぇ。【スイッチ】【灰は灰に】」
「もう見なくても分かるよ。【アビスチャージ】!」
「【ボイルスマッシュ】……っ!」
粉袋の槌による視界阻害も慣れたもの。ライズの位置は何となく分かる。
ノックバック系のスキルで少しずつボクを弾かないと"インビジブル・メア"の定数ダメージがあるからね。でも、ヒット&アウェイの長期戦ならボクが有利だ。
「【スイッチ】……【スイッチ】、【月詠神樂】【雪月花】!」
「そっちからおいで。【ゴシックバイス】!」
距離を取っても、煙に隠れても。
当たりたくない幽霊を飛ばせばライズは顔を出してくる。
今度は片手剣二刀流……?
「──【七星七夜】!」
「受けるよ。【連続剣】!」
二刀流同士のぶつかり合い。通常攻撃ならともかく、スキル同士のぶつかり合いならばライズでも互角か。
……おっと、【雪月花】を壊しちゃった。
まぁ一つ二つくらいは壊れちゃうか。ライズ自身へのダメージを避けている都合、多少は武器へのダメージの方が多くなるし。
「"グレーマーカー"」
「甘い!【背面斬り】……って、アレ?」
また転移アイテム。
でも、今度は……ボクの背後じゃなくて、それよりずっと後ろ。
「【スイッチ】……【スイッチ】【天国送り】」
「遠距離攻撃に切り替え? 届かないよ。【アビスチャージ】!」
影を盾に、急接近。
【パラレル】は武器や第3職スキルも使えるみたいだから、あまり火力の高い武器を装備させたままには出来ない。
やむを得ない。ここからもこんな風に遠距離から攻撃されてはキリが無いし。
──【天国送り】破壊。
「【スイッチ】【灰は灰に】!」
「それも懲りないね! 接近戦に持ち込む必要も無い!【グレイヴニードル】!」
凡その位置さえ分かれば、地面から突き出す影の刃で串刺しだ。勿論、影も付けて!
「【スイッチ】──【スイッチ】。【灰は灰に】も壊れたな」
今度は、二丁拳銃。
……おかしい。
「【デスペラード】2倍発動だ!」
「多少の被弾は怖くないよ! 【連続剣】!」
──【封魔匣の鍵】破壊。
……おかしいよ。間違えて無いはず。
全体的に武器耐久値が削れてきているのか、次々と武器が壊れていく。
けれど、だって。
いい加減にそろそろ計算が合わない。
何でライズは生きているんだ?
「"グレーマーカー"」
「くっ……【背面斬り】……空振りか!」
またしても"グレーマーカー"を逃げの転移に使って。
背後、それなりの距離へ。
「【スイッチ】……【スイッチ】【簒奪者の愛】──【バックナイフ】!」
「ぐっ……影で防ぐ、けど……!」
──【簒奪者の愛】破壊。
おかしい。
ライズの武器の脆さについては想定通りだ。
ライズはアビリティ"脆刃の底力"で、武器耐久値を捨てて火力に回している。これは【三日月】時代には使って無かったけど、【夜明けの月】として冒険を始めてからはずっとそうだと聞いた。
だから武器が脆いのは分かる。分かるけど。
どうやって、ライズは生きながらえている?
「【スイッチ】【月詠神樂】!」
「くそっ、【連続剣】!」
"インビジブル・メア"に【最終幻想】も重ね掛け。もう七つ目は諦めるけど、ここで全力で削る。白い劔も全力投入。
このダメージを受け切るには、多分7割近いHPが必要のはず……!
──【月詠神樂】、破壊。
ライズは──健在。
「これで七つ、だ。【スイッチ】──【朧朔夜】」
ライズの手には、疎ましい傘座の妖刀。
ボクの弟になんてもん渡してんだ。
忌々しい闇の焔が【朧朔夜】に纏わり憑く。
──弌ツ。己が命を闘争に奪われる事。
原因は分からない。でも考えても分からない。
今は課題が変わった。
あの必殺剣、ボクでは受けきれない。
対抗するにはコレしかない。
──弐ツ。七の同胞を失っている事。
「【最終幻想】──【アポカリプス】を、影と成りて!」
一瞬のみの、定数10割ダメージスキル【アポカリプス】。
ヒガルでの一騎打ちでは一瞬ライズの踏み込みが早く、タイミングをズラされた。そして今回もその可能性はある。
だから──どっちにしてもいいように、【アポカリプス】を影にする!
──参ツ。その一振りのみに全てを捧げる事。
ツララの置き魔法剣と同じ。【アポカリプス】を纏う事で、ボクへ突進してくるライズは定数10割ダメージを受けなくてはならない。
……抜け穴はあるけど、今のライズにソレが出来るわけも無い。来るというなら、迎え撃つ!
「【朧朔夜】──」
それは旅路に終止符を刻むもの。
月も霞む程の陰炎がその刀身を覆い隠す。
炎と怨に蝕まれた妖刀の、閃光の如き抜刀術。
──その影に。
鍔を上げ、鯉口を鳴らす瞬間、見えたもの。
怨黒の刃の、その裏に──
「──【焔鬼一閃】!」
焔の洪水が竜となりて──黄金に燃える。
闇を晴らし。
終焉の暗黒剣と、拒絶の白き刃は。
無数の影と、怨霊と共に二人の人影を覆い隠す。
──最高火力のスキル同士が、相殺される。
暗黒騎士の視界に映るは──折れた【朧朔夜】か。
否。
呪われた騎士が構える、隠された真紅の太刀──【厚雲灰河】。
「──【灰燼一閃】!」
黄金の焔が、赤闇の焔を掻き消して。
──暗黒騎士を、討ち滅ぼす。
──◇──
「──えぇ……どうやったのソレ」
うわ。まだ生きてる。
……助かる話ではあるがな。最後に話す時間があるって事だ。
へし折れた【朧朔夜】の刃を拾ってから、仰向けに倒れる兄貴の隣に腰掛ける。
「カズハにゃ悪い事をした。【厚雲灰河】抜きで戦ってもらったからな」
「あー……呪いを喰う刀。【焔鬼一閃】のデメリットを吸収できるんだっけ。それにしたって……」
「正確には、呪いのデメリット効果の反転だ。
【ゴシックバイス】も【最終幻想】も、呪いだろ」
「──あ、もしかして。一々視界の外で【スイッチ】連打してたのは……」
【最終幻想】の呪いは、振り払うまでずっと滞留する。
だから定期的に【厚雲灰河】を装備する事で逆にHPを回復していた訳だ。見られないようにするのは手間だったが。
「本来は【ゴシックバイス】を反転させて【焔鬼一閃】の後に1でもMPを残すための作戦だったんだけどな。【アポカリプス】とは元から相殺覚悟だ」
「【朧朔夜】前の打ち合いではほぼ全快状態だったかー。定数7割削ったのが、結果的に【朧朔夜】のHP条件を満たしちゃったか。
【アポカリプス】の定数10割は……もしかして【生命変換】?」
「そうだ。最後の一本前に、MPを9割くらいHPの最大値に回した。
【朧朔夜】時点で【厚雲灰河】との二刀流だったからな。HP50%以上になる前に【朧朔夜】の第一判定が終わりさえすれば後は全快しても関係無い」
まさか【アポカリプス】を纏うなんて戦法が来るとは思わなかった。それに呪い反転の回復込みでもHP101%ギリだった。あと数瞬速ければ【アポカリプス】と接触した瞬間に死んでたな。
「……あーあ。負けた負けた。でも勝ちだもんねー」
「予想は付いてたがな。セコい事考えるぜ」
俺とは真剣勝負。
つまりメアリーには、何かしているって事だ。
「勝っても負けても、なんて考えてないよ。ちゃんと勝つつもりで来た。
それでもさ、一応保険をかけるのが大人ってやつだよ、昇」
「俺だって大人だ。まぁ俺は保険も何も考えてないがな。……それどころか、ちょっと考えなしにやりすぎた。【朧朔夜】が折れるとはなぁ」
【ダーククラウド】に。
ハヤテに。
兄貴に。
──勝ったんだ。
今は、それでいい。
「ああ、負けた。悔しいなぁ。昇の前でも、ライズの前でも。あんまり情け無い所は見せたくなかったよ」
「……兄貴としてではなく、親友として関われたのは嬉しかったぜ。結果、血が繋がってなかったら結構関わりたく無い奴だって事が分かった」
「ひどい」
そんなもんだ。血縁なんて。
……親父の事もあるし。あいつ、元に戻るんだろうな。
実家に帰ったら半裸のまま、とかだったら縁切るぞ。
「さて。ちゃんと終わらせないとね。ライズ──」
「ああ。トドメ刺すまでも無いだろ。そろそろ呪いで死ぬ頃だ」
ちょっと早いけど。【ギルド決闘】終了のブザーが鳴る。
……いや、ほら。殴りたいとは思っていたが……。
「違うな。うん。……兄貴。
流石に、お前にトドメは刺せないわ」
「……はは。大人になれないねぇ、昇。
そのままとは行かないだろうけれど。健やかに育ってくれて、嬉しいよ」
3年の旅が。
それ以上の因縁が。
──黒木昇の旅が、今──終わった。
──◇──
"【Blueearth】争奪戦" 最終戦
【ダーククラウド】vs【夜明けの月】
【ギルド決闘】"東雲曉暒"
──勝者:【夜明けの月】
──◇──




