497.最終幻想
──◇──
"【Blueearth】争奪戦" 最終戦
【ダーククラウド】vs【夜明けの月】
【ギルド決闘】"東雲曉暒"
──◇──
【第199階層エンド:終焉帰郷アドレ】
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何も無い世界ではなく。
ここから好きに書き染められる世界だったのです。
私の旅はここで終わります。
ですが、貴方の旅はまだ続きます。
どう歩むも、帰るも、貴方の自由です。
どうか、思うがままに。
どうか、貴方のあるがままに。
さようなら、旅の人よ。
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「オラ追いついたぞハヤテ。観念せい」
「そうよ馬鹿ハヤテ。お姉ちゃんは渡さないわよ引っ込みなさい凡人風情が」
「当たりが強すぎなーい?」
アルトン同様、本当に何も無い階層。
ハヤテはここで待ち構え……たりはしておらず、全力で200階層にダッシュしていた。こっちに【チェンジ】使えるメアリーがいるので、むしろ先回りして道を塞ぐ形となっている。
本当に形振り構わないなこいつ。もうちょっとトップランカーらしい余裕とか見せてくれないのかよ。
「惜しかったなぁ。あともう少しだったのに」
「運営側だからって好き勝手してんじゃねーよ。流石にルールは守れ。いくらお咎め無いからって……」
「お咎めはあるよ。流石にルール無視して200階層に潜り込んだらね。このルール違反は僕の独断だから」
当たり前のように言っているが……どうにも、分からない。
もしハヤテの理想通りに動いたとして……。
「【Blueearth】の最終層は205階層だ。兄貴が200階層に滑り込んだとして、たった一人。しかも罰を受けるとか……どうやって攻略するつもりだったんだよ」
「ふふふ。そこが盲点なのさライズ。200階層から205階層はスライダー形式。ぶっちゃけ200階層に辿り着いた時点で自動で攻略確定なのだよ」
「そんなこと無いわよ。形状は確かにこれまでの階層とは違って垂直落下式のストレートだけれど、ちゃんと各階層にゲートあるからね?」
「えっ」
……まさか。マジで考えなしなのか、この兄貴は。
頭が痛くなってきた。やっぱ向いてねぇよ、ラスボスは。
「……じゃ、やるか。後はお前を倒せば全部終わる。
言っとくが、正々堂々1対1……なんてやらないからな。メアリーと俺で、全力で叩き潰す」
「そうだね。異論は無いよ。……勿論、それが出来るのならば」
ぽたり。
……黒い血が、空から滴って。
「特注品だ。何をしてでも、ボクは勝つ。
──最後の隔離階層。【鋒鋩哭濡果硯】」
ざりり、ざりりと音を立てて。
階層が黒に染め埋まる──
「早速かよ!【曙光海棠花幷】!」
「間に合う……?【森羅永栄挽歌】!」
──◇──
──数日前
【ダーククラウド】作戦本部
「まず開幕、キャミィ&クアドラの奇襲で全てを蹴散らします。勝ちです。ありがとうございました」
「いやいやシーナさん。そりゃあんまりにも楽観的すぎるだろう。いやまぁ、クアドラさんの火力を疑いはしないがね」
「……ゴローの意見は正しい軌道を描いているよ。【夜明けの月】は必ず対策してくる。
でなければ射出しない。ドロシーも、居る」
正直な話が。
【飢餓の爪傭兵団】と【真紅道】を倒した【夜明けの月】には、正々堂々とした決闘では勝てない。
なので逃げ切るしか勝ち目は無い。という事で、そのための作戦を考えていた。
「スワンさんの考える足止め策……そのためには、最低でもドロシーとクローバーは排除しなくてはならない、と」
「ドロシーはわたしが捕捉する、よ。【夜明けの月】だって、ドロシーでなければわたしに届かない」
「クローバーは俺に任せろ。嬉しいことに俺なんかを尊敬してくれてっからな。煽ればタイマンに持ち込める……と、思う」
「んー。しゃあないね。このババアがとっておきを出してやろうじゃあないか。ラセツがクローバーを足止め出来るなら、どうあってもクローバーがその先へ行けないよう対策してやるよぉ」
「となると他に危険そうなのは……」
……なんというか。
ボクの我儘で集めたメンバーだというのに、こうも纏まるとはなぁ。
「ハヤテ。ハヤテ? 何を呆けているんですか」
「ああごめん。何だっけ?」
「聞いてませんねギルドマスター。愚か。聴力測定再審査です」
シーナはともかく、エリバにまで呆れられてしまった。
いけないいけない。しっかりしなくては。
「……どうやって、貴方とライズさんを戦わさせるか。その話の最中ですよ」
「……え?」
そりゃあ、そうしたいけれど。
あんまり勝手な事は出来ないでしょ。
だって、一回負けちゃってるし……。
「ライズさんの最後の相手は……そりゃあ貴方だろうね、ハヤテ。譲るよ」
「いや、いやいやだって、ほら。ここでそんな……」
「そうと決まれば隔離階層の設定を進めないとねぇ。あどれすちゃん、作れそうかい?」
「ハヤテ殿の分だけならば、容易き事にて。急拵えながら組み立てまする」
「あぁどんどん話が進んでいくー……」
あれよあれよと準備が進む。
そう、そうみんなに願われたからには──
──今度こそ、応えなくちゃいけないじゃないか。
──◇──
──三種複合隔離階層
黒墨に塗れた世界……一見すると、あたしの【森羅永栄挽歌】やライズの【曙光海棠花幷】が反映されているようには見えない。
そして何より──あたし、一人。
「なーにか企んでるわね、こりゃ」
目が慣れてきた。めっっちゃ長い木造廊下。
……【鋒鋩哭濡果硯】。聞き覚えのない名前。まぁ十中八九、このエンド階層の隔離階層なんだろうけれど……。
向こうの都合の良いように作られてるのは間違いないわ。とりあえず、気をつけて進みますか。
「……ライズ。ちゃんと勝ちなさいよ」
この先がどうなってるかは……何となく、見当が付いている。
だからあたしは歩き出す。
……もう、会えないかもしれないわね。
──◇──
──黒墨の世界に、海堂の木が一つ。
枯山水の庭園は健在か。
「……なんだ。全部お前の領域って訳じゃないのかよ」
「そういうズルは、別の所に回していてね。キミ相手には真っ向勝負だ。インチキするまでもない」
「言ってくれるな馬鹿兄貴。……今回も軽装スタイルか?」
目の前に立つハヤテは……ヒガルの時に見た、鎧を捨てたスタイル。
しかも今度は開幕から、片手剣二刀流。
暗黒剣【ラグナロク】と……白の劔。
「容赦しないよ。トップランカーとして。【三日月】の旧友として。……兄として」
「そして、【NewWorld】設計チームの一員として。後は天知調の共犯者として……とかか?
立場なんてもうどうでもいいだろ。色々と抱え込み過ぎなんだよ兄貴は。
あぁ、あと一つあったな。"ヒガルで無様にも格下に負けたハヤテ君"……だけでいいだろ」
「かぁー。生意気吠えるねぇライズ。腹立可愛い」
「いいだろ。弟だぜ」
それはもう長い付き合いだった。
何の仕事をしてるのかも分からない兄貴は、まさかの世界一の犯罪者の一員になっていて。
そして全ての記憶を失った【Blueearth】で、俺を拾ってくれた"ハヤテ"だった。
……それから、【三日月】を経て。俺が"ハヤテ"を恨んでいる間も。
俺が"兄貴"を忘れている間も、兄貴は俺を……"黒木昇"を見ていた。
頭が上がらないな。下げるつもりもないが。
ゲームなんてそんな上手じゃなかった兄貴が。
──俺だって、そんな上手じゃないけど。
喧嘩なんてした事もない兄貴が。
──俺だって人を殴った事なんてないけど。
似たもの同士……とかじゃない。
何処にでもいる一般人だ。俺たちは。
天知調と出会ってしまって、変わらざるを得なくなった兄貴。
メアリーと出会ってしまって、変わらざるを得なくなってしまった俺。
……いや、やっぱ似たもの同士なのか?
いやいやこんなの箇条書きマジックだ。
似てない似てない。
「──とりあえず。コレを突破できんのかよ!【パラレル】!」
武器を、【Blueearth】での歴史を背に浮かべる。
ダメージを武器耐久値に肩代わりさせる【スイッチヒッター】のジョブ強化スキル。
近接戦闘が可能なジョブでの実質的な無敵化は例が少ない。しかも俺には【朧朔夜】がある。ぶっちゃけver.2よりよっぽど使いやすい。
ハヤテはコレを突破しない事には、俺と戦う事も出来ないんだが……。
「ふふん。とっておきがあるのさ。それはそうと、この白き劔はその辺無視して刺さるけど」
「白き劔ってやっぱ【アルカトラズ】の奴じゃん。ズルじゃん。ばーか」
「無敵引っ張り出してくる奴の方が馬鹿だぞ。──さぁ、【ダークロード】のジョブ強化スキルもお見せしよう! ここで初公開にしたくて徹底的に情報を出し渋っていたからね!」
白き劔と暗黒剣を天に翳すハヤテ。何を自慢そうに言ってるんだコイツは。
──影が、堕ちる。
ハヤテの身体を纏うように、影が満ちる。
剣に、腕に、身体に──影が絡まり浮かび、溶ける。
「──【最終幻想】。
どういう因果か、ボクの選んだ【ダークロード】は……唯一、【パラレル】に有効なジョブだったらしい。
始めようか。最後の喧嘩を!」
「【スイッチ】──【月詠神樂】。
……ああ。これで最後だ」
海堂の花が舞う。
影が廻る。
──剣と剣が。俺と兄貴が、衝突する──




