表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
終末宣言アルトン/エンド階層
496/507

496.慈母約結:愛は騙らず

この世の悪というものは、幻想に過ぎない。

いや、確かにそういったものは存在する。

そういう巨悪と、譲二さんは戦ってきた訳で。


僕が言いたいのは、そういった強大なる悪意とぶつかる事が出来るのは、譲二さんみたいな相応のヒーローだけであって。

僕たちのような一般人の範囲においては、そんなものは無い、という事だ。




僕たち一般人に与えられる悪意は、もっと濁っていて、やるせないものだ。




見えない"神様"に息子を捧げた母親。或いは信者達。

彼らは、祈りの時間以外では至って普通の人だった。

なんて事を思い出す事が出来たのは、僕を助けてくれた譲二さんが、僕の父さんを見つけてくれて、マトモな日常とやらを取り戻してから……僕に真っ当な倫理観が染み付いてからだ。

恨む心も無い。感情は理解できるけど、それが僕のものか、僕がそれを抱けるのかがわからない。

見えないものを信じて、見える人間に迷惑を与えて、死んでいった母親。

恨んだりすれば良いのに。まったくその辺りの事が、自分の心に入らない。




「エリちゃん、見て。バナナでタワー作った」


「……えっと、瞳ちゃん。食べ物で遊んじゃいけないよ……というより、高い。天井まであるね。脚立を1人で使っちゃいけないよ。何で気付かなかったかな僕も」


幼馴染の瞳ちゃんは、とにかく変な事ばっかりしていた。

お互い父親が忙しく、一緒に過ごす事も多かった。とはいえ彼女の破天荒さに慣れるのは時間がかかったもので。




「エリちゃん。見て見て。オモチャの電車で合体ロボット作った」


「うわぁ。動いてるけれどどうなってるのコレ。あと何で頭がワニのぬいぐるみなの」


「良い感じのパーツが無かったのよ」


「ええやんワニでも」


「喋ってない?」




……境遇が似ていた、というのはあまり関係無かったのだと思う。

きっと瞳ちゃんと一緒に過ごした人は、誰であれこのくらい仲良くなるのだろう。

それが偶々僕だったというだけの話で。




「今日は久しぶりにパパが帰ってくるのよ」


「あれ? そんな連絡あったっけ」


「パパのお友達の座一郎さん、いるじゃない?

あの人が言ってたのよ。パパの誕生日祝いに、早上がりさせるって」


「滑川さんが? 何処で知り合ったの瞳ちゃん」


「今やメル友よ」


「うわぁ連絡先が信じられない数。いつの間にこんなに人脈を……」


「みんな大切なお友達よ。おかげでパパのスケジュール、大体把握できるの」


「凄い大人になりそうだなぁ、瞳ちゃん」




……僕も、そのお友達の1人。

僕だけが特別なんて事はない。

恋愛感情だって、生まれようがない。


ただ。


瞳ちゃんが欲しいものは、全部用意してあげたいなぁ。

僕にとっては、唯一の友達だもの。




……そして、瞳ちゃんの事を忘れて。

【Blueearth】で僕は、変わらず一人だったけれど。


何か変われたのかな。

何か変えようとしたのかな。


分かる事といえば。

やっぱり、瞳ちゃんは僕が居なくてもやっていけるって事だね。




──◇──


"【Blueearth】争奪戦" 最終戦

【ダーククラウド】vs【夜明けの月】

【ギルド決闘】"東雲曉暒(しののめみょうじょう)"


──◇──




【第198階層エンド:摩楼天空の大剣山】

──複合隔離階層


エリちゃん、強いわねぇ。

アイコちゃんと同じジョブである以上は、地力の差がどうしても出てくるものだけれど。

フィジカル面では到底敵わないけれど、ゲームとしての【仙人】の性能をフルに活用して食い繋いでいるわね。


……【呪術師】であるあたしは、とても割り込まない。

呪いの殆どは無効化されちゃうからね。

でも、まぁ。それはゲーム的な話。


「……そのまま下がっていれば倒すのは最後にしたのにね」


「舐めた事言っちゃダメよエリちゃん。あたし、待ってるだけのお姫様は卒業したの」


──動かない、なんてする訳ないでしょう。このあたしが。


【呪術師】ジョブ強化スキル【崇徳変妖(すとくへんよう)】──呪いを具現化し、NPCとして使役する。

勿論、【仙人】には通用しないけれど──壁にはなる。


「【重石の想意思(ローリング・ストーン)】【落ち葉散る蘭(リーフ・サービス)】【脱兎の足跡(バッド・スタンプ)】!」


「残念ながら、手を振る価値も無いよ!」


3人の呪いはエリちゃんに掻き消されるけれど──その隙を、アイコちゃんが見逃すはずが無い。


「300%──【仙法:赫蓮華(せきれんげ)】!」


「見えていますとも!【仙法:武鎧橄欖(ぶがいかんらん)】!」


今度は翠の鎧を纏って、身体を回転させてアイコちゃんの攻撃を受け流す。さっきと違って赫も蒼も、まだ追撃出来る状態。こうすればアイコちゃんが退くと思ってるみたいだけれど──


「──な!?」


そこに割り込むのは、あたし。


パパにしっかり教え込まれた護身術。そんなのエリちゃんに通用する訳がないけれど──それが狙いだと勘違いさせる事はできる。

アイコちゃんからの追撃だって控えている。エリちゃんは半歩退くしかない。

──けれど、それはアイコちゃんも理解している。


「もう一度、【仙法:赫蓮華(せきれんげ)】!」


「うわぁ危ない!【仙法:春藍突波(しゅんらんとっぱ)】!」


蒼の"仙力"をキープしてたから、何とか受けきられちゃった。

でも。ここからがあたしの戦いだもの。


「エリちゃん」


「何ですか瞳ちゃん。今忙しい──」




「大好き」




昔のエリちゃんには通じないだろうけれど。

ドロシーちゃんと同じ事よ。人は成長する。

……エリちゃんだって、知らない内に……。


「──え?」


「ごめんなさい。【仙法:赫蓮華(せきれんげ)】!」


「うわぁ! ……っと、危ない! ひと、ひ、瞳ちゃん! 何を──」


「愛してるわ、エリちゃん。本当よ。──まさか疑ったりしてないわよね?」


「本心なのは分かってるよ! でも、今じゃなくても──というか、趣味が悪い! こんなタイミングで……!」


【仙人】同士の戦いは、一瞬の隙も与えられない。

時間さえあれば自動回復が入ってしまう。だから一撃で倒せる300%【仙法:赫蓮華(せきれんげ)】が必要な訳だけれど。

その隙を与えなければ、接近戦から外れなければ。

蓄積ダメージでも充分に倒し切れる、わよね?


まぁ、エリちゃんが普通の人間らしい感性を取り戻しているという事と、このあたしに惚れているであろう事を利用するのは……そう。悪趣味な事だけれど。


「──こういう所も、好きでしょう?」


「……あぁもう、酷すぎる! 絶対に答えないぞ瞳!」


とっくにエリちゃんはガタガタで。

アイコちゃんは申し訳なさそうに、最後の拳を振り上げる。


「ごめんなさい、エリバさん。──【仙法:赫蓮華(せきれんげ)】!」


「うっ、くそぅ、後で覚えておいてよね、瞳ぃ!」


──赫い花火が打ち上がった。




──◇──




「いやぁ、えげつない戦法ですねツバキちゃん。流石は最終兵器」


「……ま、こんなことに頼りたくは無かったけれどね。ちょっとした罰よ」


「罰?」


「……ライズも、ハヤテも、エリちゃんも。あたしの居ない所で成長するんだもの。

何か、こう……まるであたしが悪影響みたいじゃないのよ」


「……ふふ。そんなことありませんよ。

ツバキちゃんに迷惑をかけたくなくて頑張ってしまうのです。ジョージさんもそうでしょう?」


「つーん。仲間に入れてくれないんだもん。つまらないわ」




──◇──




【第190階層 終末宣言アルトン】


「お。帰ってきたぞ」


「みなさん集まっていますね。ラセツ。ちょっと殺してくれませんか?」


「エグい頼み事やめてくれエリバ」


無事……というかなんというか。

順当に【ダーククラウド】はボロ負けして、アルトンに逆戻り。

何処かへ連行されたフミヱ婆さんも、【コントレイル】に顔出ししに行ったキャミィも。ハヤテ以外の【ダーククラウド】は全員集合していた。


「愛だね、エリバさん。素晴らしいじゃないか」


「スワンは最後までブレなかったな……。んまぁ、納得の行く終わり方が出来た奴の方が少なかっただろ。

キャミィだってクアドラの脚係に徹したし」


「私はいいんだ。満足しているよ。

これで最後という訳でもなし。それより……【夜明けの月】は誰も帰ってきてないんだな」


「全員生存。()は情け無ぅ御座いまする。

スペードの一人や二人、ぷちっと潰し上げたく」


「あんなのが二人も居たら調ちゃんが困ってしまいます……。しかし、()()()()()感は否めませんね」


ツララの言う通り。どうにも……【夜明けの月】は()()()を見据えているように見えた。

だが、そうも行かないだろう。


「後はライズとメアリーだけ。俺たち【ダーククラウド】の仕事は大詰めだな。

……さーて、俺たちのギルドマスターはどうやらかしてくれっかね?」


「ハヤテ君、ヒガルで一度負けてるからなぁ。アレは予想外だった」


「レベル差有りで負けるような雑魚です。ライズさんに加えてメアリーさんまで居るのですからボロ負けボコボコボロ雑巾でしょう。敗北に2000万L(ラベル)賭けます」


「勝ち負けで測るものではないよシーナ。ハヤテはそこを観則していない……と、思う。

ハヤテにとっては……【ダーククラウド】としての仕事を既に終えている、と考えているのかもしれない」


クアドラの言う事は……俺にも分かる気がする。

【ダーククラウド】としてやらなきゃならない事が終わったなら、後は好きにできるもんな。

なんにせよ。もう俺たちに出来る事は無い。


「好きにやれよ、ハヤテ。最後なんだからよ」


最後に一言それだけ告げて、後は観戦だ。

……世界最後の兄弟喧嘩だ。楽しませてもらおうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ