489.死神接待
──◇──
"【Blueearth】争奪戦" 最終戦
【ダーククラウド】vs【夜明けの月】
【ギルド決闘】"東雲曉暒"
【夜明けの月】最前線走破中メンバー
メアリー
ライズ
ゴースト
アイコ
ツバキ
スペード
【ダーククラウド】最前線走破中メンバー
ハヤテ
エリバ
ツララ
スワン
紅きアドレス
──◇──
【第195階層エンド:天遺海原の海没街】
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無の世界に綴るは古今の記憶。
全てを忘れる前に、この地に刻む。
廃墟。否、遺跡。
なんであれ"見える"ということは、この美しい水平線に水を差すというものだ。
完璧を求めるあまり、万物を疎ましく思う。
この心が、人を争わせたのだろうか。
──ここは天遺海原。
─────
水平線に浮かぶ遺跡群。
にしても見晴らしは良好。"まりも壱号"が水陸両用で良かった。
──連中の背が、良く見える。
「──馬鹿兄貴! 追い付いたぞ!」
「待っていたんだよ。分かれ馬鹿弟」
【ダーククラウド】の移動手段、半馬半魚の霊馬"スケルケルピー"。それに轢かれるは和風装飾の台車……小規模ギルドだからって小さすぎだと思うが。
ハヤテが言う事に間違いは無いだろう。194階層から何の障害も無くスタートしておいて、ここまでたった1階層分しか進めなかった……とはならんだろうし。
「……メアリー。跳べるか?」
「無理。あの辺だけ座標がバグってる……っていうか、アドレスさんの周囲だけ空間が捩れてる。
ギャラクシー階層の"|カーウィン・ガルニクス《おじいちゃん》"と違って、本来人間サイズじゃないのに無理矢理あそこまでサイズダウンしてるみたいね。【チェンジ】じゃ跳べないわ」
ダメか。
……だとすれば、考えられるのは……この場で全面戦争、とか。
【夜明けの月】側の戦力で言えば、クローバー・カズハ・ドロシーとトップ3が欠けている。ここで潰すのはアリなのかもしれない。
だが……それだけ、な訳ないよな。
「──guard:それは通しません」
ゴーストが何かを弾く。
虚空に舞うは、小さな虹色の刃……の、破片。
そのくらい小さな、しかしちゃんとそこに存在する魔法の剣。
「──アハ。エヘヘ。失敗しました」
ずるりと、ひやりと。
屋台車に乗り込んでいたのは──死神。
"暗殺者"ツララ──天知調の同胞、霧切うらら。
ハヤテの方には……あっ、小賢しい。アイテムに布被せてツララを偽造してる。
ともあれ、狙いはこっちか──!
「壊します、殺します。私にはそれしか無いので! 【魔法剣山】!」
「ヤバい! 【スイッチ】【煉獄の闔】!」
ツララの戦闘スタイルは……華も元も子もない"暗殺者"。
【マジックブレイド】としての魔法剣はどこへやら、ただ刃の当たり判定だけを利用する小刀使い!
魔法の刃片が弾け飛ぶ。人間手榴弾だろ……!
ダメージだけは抑えられたが……屋台車が保たない!
「──マスター。ライズ。私が請け負います」
たった一言。
ゴーストは、それだけ告げて──ツララを抱き、屋台車から大海原へと飛び降りた。
──◇──
──side:【ダーククラウド】
作戦は上々。ここでツララを投げて相手の脚を破壊、或いは何人か倒す……という、割と単純な作戦。
ゴーストが釣れたなら……まぁ良しとしよう。
「急ぎましょうハヤテ。ここからはスピード勝負ですよ」
「そうだね……。先を急ごう」
ツララさんなら大丈夫だ。
魔法剣を置いているから、その除去が終わるまで【夜明けの月】は動けないし。さっさと行こう。
「しかして。宜しいので御座いましょうかハヤテ様。
己はまだ新人の身でありますが……ツララ様一人に任せて良いのでしょうか」
「大丈夫だよアドレスさん。ツララは強いから」
残ったメンバーの内、スワンさんとアドレスさんは新入りも新入り。というかツララさんについては【Blueearth】前を知ってないとよくわからないだろうからなぁ。
……【ダーククラウド】は、【夜明けの月】のようにメンバーのメンタルケアとかしてないから。ツララの抱える問題については、そのままだ。
治すようなものじゃないし。本人もとっくに受け入れているからね。
……ツララ──霧切うらら。今となっては懐かしいなぁ。
─
──
──◇──
──数年前
【NewWorld】開発研究室
「痛い痛い痛い痛い!!!!」
「我慢しろ翔。率先して突っ込んで傷だらけになるのアホすぎんだろ」
「いやだって矢面に立つのが僕の仕事だろ傘座! 一応警備員なんだから」
「信念は立派デスbut、全身筋肉断裂に頸動脈もザックリ。Ms.調のsuper治療薬が無ければ3回は死んでマース!」
ボロボロになりながら、アルス先生に手当てをされつつ(馬鹿傘座に煽られつつ)……なんとか、侵入者を捕まえる事に成功した。
業者さんに扮して研究所に侵入、ダクトを通じてこの秘密の研究室に飛び込み真っ先に調さんを強襲。
偶然近くにいたから庇えたけれど、場合によっては危なかった。ここまで調さんが明確に命の危機に瀕した事、そうそう無いよ。
……問題はどうしてここに調さんが居るとバレたのか。ちゃんとその辺聞かないと困る。
のだけれど。その暗殺者は……。
「すやぴ……」
簀巻きにされていながら、熟睡していらっしゃる。
マジ? リラックスし過ぎじゃない?
「黒木ぃ! まだなのかい!?」
「ヨネ婆。まだ入ってくんなよ危ねぇよ。女連中は調と一緒に避難してくれって」
「既に脱出済み(※調さん発明の空間収納シェルターに挟まったという暗号。実際はすぐそこのタンスの中に隠れている)だよぉ!
あっちにゃソニアも美都もいるからねぇ。あたいが様子見に来たんだよぉ」
体を張るなぁ。
とはいえヨネお婆さんは調さんの発明によって50代くらいまで若返っている。そして何故かやたら大柄で筋肉質。腕相撲大会だと僕が負けるくらいだ。安心感がすごい。
それにこの可愛らしい暗殺者さんを相手するのは、男連中じゃ難しいと思っていたところだ。
「……天知調は、ここにいないんですか?」
……起きてた。
いや、寝てる演技には見えなかったけれど?
アルス先生を見ると、小さく頷く。
「作為的に歪められた短眠体質デスネ。常にうたた寝程度の睡眠しか取れず、しかもその期間中でさえ周囲の言葉を認識できるものと見て良いでショウ。
──当然、貴女のような少女が独学で辿り着けるものではナイ。縛る際に多少触診しましたガ、実年齢は凡そ20代。However異常なまでの発育不全が見られマス。
恐らく幼少期──推定6歳程度の頃から、何者かによって改造されたのでショウ」
「……お父さんたちに教えられたんです。改造なんかじゃない。お父さんたちを悪く言わないで」
……言葉を失う。
まだ中学生くらいかなぁ、なんて思ってたぞ僕は。
こんな子が、ただのガラス片一つでここまで暴れ散らかすなんて。
「OK.OK.悪かったねぇお嬢ちゃん。お名前は?」
「22番!……違った。今は霧切うらら、ですっ!」
キツい。
これには傘座もアルス先生もお手上げだ。ヨネさんに任せよう。
ヨネさんはうららさんの隣に座る。
「調を殺しに来たのかい? ここまで来れた奴ぁ初めてだよ! 凄いねぇ」
「えへへ。すごい?」
「あぁ凄いよ。アンタの事、色々聞かせてくれるかい?」
「はい!」
……仲睦まじくお話している。片方は簀巻きだが。
ともなれば、こっちは作戦会議。アルス先生と傘座と顔を合わせる。
「……アレ、治るのか?」
「No.あそこまで改造が進んでいれば、最早アレが素と言えるでショウ。
……かつて滅びた超人育成機関のそれとは比べるべくもないお粗末なplanningデス。恐らくはソレを目指したミーハーの仕業でショウ。ハッキリ申し上げて、あと数年生きられるかどうか……。ちゃんと調べればもう少し正確に分かりますガ」
「そこまでしてやる義理は無ぇよな。……そうだ。無い。
……なぁ翔、お前人は殺せるか?」
「とんでもなく物騒! やめてよ傘座。流石に……」
「だよなぁ。だがどうする? ぶっちゃけあのガキは使い捨てだろうが、ここがバレたのならまた来るだろ。新しいの」
「ほぼ確デスね。Ms.フミヱを呼びまショウか? あのお方ならば組織ごと潰せるやもしれまセン」
「……その悪の組織乗っ取るだけだろ。なんなら元凶の可能性もあり得る」
あまりにも不名誉。
フミヱさんは稀に来るけど、そういう事まではしないと思うんだよなぁ。
……なんて、悩んでいると。
「……あの、ちょっといいでしょうか」
──暗殺対象が、のこのこやってきた。
「調! 何やって……」
「聞かないのよ。調の強情スイッチが入ったら私達はお手上げだわ」
「調様に危害を加える訳にもいきませんもの。お手上げですわー」
美都さんにソニアさんまで、ばんざいしながらやってくる。お手上げってそういう意味じゃないよ。
……うららさんに一番近いヨネさんも、一応の警戒態勢は取っているけれど。
僕も傘座もアルス先生も、何かが起きないように近付く。最悪は、うららさんを──どうにかするために。
調さんは、うららさんと目線を合わせるためにしゃがんで──
「私を殺したいですか?」
「……したい? しろって言われたけれど、したい? ……したくない、かも?」
本当に、可哀想な子だった。
善悪の区別とかそれ以前の無垢。
それ故に残酷で、強い。
一切瞬きすらせず、うららさんは調さんに聞いた。
「殺すのは、悪い事なの?」
──◇──
──
─
【第195階層エンド:天遺海原の海没街】
遺跡と共に、海の中へと沈みます。
ゴーストさんが手を離してくれないので。
とはいえ溺死もしないこんな海では、私がゴーストさんを殺す方が早い──分かっているみたいで、ゴーストさんは私を手放して距離を取ります。
「お見事ですゴーストさん。道連れでも私を【夜明けの月】から引き離すのは、とても良い判断だと思います」
「answer:貴女は──誰を殺すつもりだったのですか」
あれ。
ゴーストさん、NPCみたいなものだと思っていましたけれど。
随分と──押し殺した無表情。
演技、しているみたいです。
……アハ。
「いいえ、誰も。最早永遠の命を得た人類に、殺し屋の居場所なぞあらず。
罪人はただ老いて朽ち果てるのみです」
「question:老いる事も無いのでは?」
「では劣化と言いましょう。
──貴女もそうなのではないでしょうか。完全を捨ててしまった哀れなる咎人」
「answer:──ええ。そうです。私達は、似た者同士だったようですね」
双剣を構えるゴーストさんの背後は、既に海ではない。
──レイドボスと近い存在まで昇華したゴーストちゃんのテリトリー。隔離階層"廃棄口"。
いいでしょう。終わることの無い贖罪を、ここに進めるとしましょう──!




