487.忍賊転移
──◇──
"【Blueearth】争奪戦" 最終戦
【ダーククラウド】vs【夜明けの月】
【ギルド決闘】"東雲曉暒"
──◇──
【第190階層 終末宣言アルトン】
「──観則。双子星が、一つ足りない……よ」
「おやおやゴロー先生よ、姐さんはどちらに? まさか……やりすぎて粛正とかか?」
戻ってみれば。
我らが同胞、クアドラ君にラセツ君。つまり負けた訳ですね。
何もなかったアルトンですが、あっという間に【朝露連合】と【マッドハット】によって簡易的な宿やら屋台やらが立ち並ぶ。いやはや商魂逞しい。
「フミヱさんは……どこへやら。一緒に倒されたと思うんだがねぇ。詳しい人がいればいいのだが。
……それはそれとして、キャミィ君は?」
「【コントレイル】ん所に行ったぜ。……長い事手伝ってもらったが、キャミィはやっぱ【コントレイル】だよな。積もる話もあるだろうさ」
「キャミィの……"愛"が何色なのか、わたしは興味ある……よ」
「あんまし構い過ぎるなよ。キレたら怖いぜ鬼教官」
私に、ラセツ君に、クアドラ君。それにキャミィ君も。
【Blueearth】でもなければ出会わないような組み合わせだ。……いやラセツ君とは会う事もあったかもしれないな。【TOINDO】お抱えのeスポーツチームだし。
不思議な縁だ。……遠い昔に封印した記憶からやってきたフミヱさんとかも居るのだが。
合縁奇縁。いい機会を呼び込んでくれたハヤテ君には感謝しかないね。
「……ジジイ。負けたか」
「五三郎。ははは、情け無い所を見せてしまったなぁ」
「……いや、そうでもない。……隠居中だというのに……お勤め、ご苦労だった……」
我が孫──五三郎は軽く頭を下げて、愛する嫁候補の所へと帰って行った。
……いやはや不思議な縁だ。
【TOINDO】としても藤䕃堂財閥としてもとっくに隠居の身なれば、五三郎の現状に苦言を呈するような立場でもなし。むしろ天知調さんにいいように利用されて同情すらしているが……無事というかなんというか、楽しく暮らせているようで何より。
さて。負けた……となれば、今後はどうなるか?
何て事はない。【ダーククラウド】が勝っても負けても……我々はここまでだ。
200階層にハヤテ君が到達したのなら、後は消化試合だ。もうレイドボス……セキュリティシステム、ひいては【NewWorld】自体は、ほぼ降伏しているようなもの。たった5階層の攻略に手数は不要。
ともすれば。今後を考えるとしよう。
「……ラセツ君、クアドラ君。今後はどうする?
恐らく【Blueearth】は暫く解体される事は無い。【NewWorld】に基盤が出来て、現実の全人類を電子化するまではここに居る事になるだろう。
それがどのくらいかかるかはわからないが、直ぐに【Blueearth】から出られるという事は無いはずだ」
外部からスカウトしたメンバーは……例えばキャミィ君は【コントレイル】に帰化するだろう。
だが我々は、そういったものが無い。元々傭兵上がりだからね。
「んー……同じゲームを、同じ期間やれてんだ。俺は【Blueearth】が終わるまでにクローバーにリベンジしますよ。
日銭はまぁ、生きるに困らない程度にゃあるしな」
「……わたしは、先を覗けない。……とりあえず、ドロシーともう一度逢う。わたしはドロシーと一緒に居たい……」
「結構な事だ。だがちゃんと組織としてどこかに属した方がいい。どうなるかはわからないからね。
……ハヤテ君が許可するならば、【ダーククラウド】の組合を立ち上げよう。色々と便利に使ってほしい。
こういうのは手早く動くべきだ。ハヤテ君から【ダーククラウド】の資産も受け取っている事だし。
まずはベルさんとセリアンさんに相談に行こうか」
「うーわマジ商人モード。こういうの手ェ早いっすねゴロー先生」
そりゃあもう。こちとらゲーム業界最速の"先駆者"だからね!
──◇──
【第194階層エンド:失来荒野の磁気嵐】
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無の世界に綴るは古今の記憶。
全てを忘れる前に、この地に刻む。
未来無き無機質な世界に、廃棄された大自然が重なる。
かつて、或いは想定された未来ではどのような楽園があったのか。今となっては、無塵の荒野である。
──ここは失来荒野。
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「お待ちしておりました【夜明けの月】。
【ダーククラウド】副長、シーナと申します。お久しぶりーふぃんぐ」
艶やかなる美人秘書、口を開けば面白レディ。敏腕秘書シーナ。
……道のど真ん中に、仁王立ち。【ニンジャ】じゃなかったかお前。
「シーナさん。このまま轢いちゃうわよ?」
「無論、策はこの手に。今から空間作用スキルを使います。強い人を置いていってね」
なんと正々堂々としているのか。
……空間作用スキルに隔離すれば、実質的な足止めは可能。だが【夜明けの月】においては対隔離階層用のスキルがあるので……正直に受けてやる必要はない。
と、言う所まではシーナも理解しているはずなのだが……。
「では参ります。上へ参ります。エレベーターガールもお手のものです。【金色舞踏会】」
「それはマズい──【曙光海棠花幷】!」
空間作用スキルにおいて最も危険なものが【金色舞踏会】。
発動時の位置で観客席と舞台に分かれ、観客席と舞台間の攻撃は遠距離攻撃遠隔操作のみ有効という……わかりやすく詰む可能性のあるバカスキル。
多分調整ミスだと思う。最初の隔離階層だし。
ともあれ、発動を宣言されたなら後追いしなくちゃならないスキルだ……!
「──ライズ君、待って!」
……うん?
──◇──
空間作用スキル。
ひいては、隔離階層。
こちら、アドリブの突貫工事でございます。
事の発端はドラマ階層という、階層が【Blueearth】から半分離している非常に不安定な場所。
ここでレイドボス"ディレクトール"が既存階層をコピーし、【Blueearth】外の情報を固めて階層もどきを作った事が原因です。
天知調、困ります。
元より空間作用スキルの構想は存在しており、既存の階層の一部を書き換える程度のものとしていたのですが……初手例外の法則。ハンカチを取るのはアナタ。最初の空間作用スキルがそうなったので、天知調、便乗。流石天才。
そうして今の、外部からの隔離階層利用式空間作用スキルが生まれてしまったわけです。
功罪様々ですが、それはそれ。アレはアレ。
何が言いたいかと言いますと、要するにラグがあるのです。
一回別の階層に移動して、それが解除された場合。
「── 【鬼冥鏖胤】!」
──そこは、元の場所なのでしょうか。
神のみそしる、なのですよ。
──ライズの隔離に成功。
そして、放置します。所行無常。
「──逃さないよ! 【虚空一閃】!」
アレー??
カズハも釣れてますね!困る!
──◇──
やられた。
隔離階層に誘導して、こっちが隔離階層を破壊したら……元の座標がちょっとズレる。
そこに忍法による転移とかを合わせて、こっちを分断する作戦か。
「──まぁ、がっつり引っかかったわけだが」
「間に合って良かった、ライズ君」
荒野のど真ん中、残されるは俺と──カズハ。
随分遠くに飛ばされた……のか?
何も無い荒野すぎて位置関係がわからないが、見える範囲に"まりも壱号"が見当たらない時点で相当遠いはずだ。
「──ふむ。特記戦力であるカズハちゃんを隔離できたのならば、上々。それではお二人とも、ごきげんよう」
「逃すか!」
問題は機動力。
速度問題の都合、【ニンジャ】が逃げに徹されると……俺たちじゃ追いつけない!
故に、攻撃でたたみかける。カズハは【一閃】で攻めて、俺は──
「ライズ君は戦わない!
相手が決まってるなら、こんな所で消耗しちゃダメだよ」
──カズハに、制される。
気遣いは嬉しいが……!
「【スイッチ】【天国送り】──カズハ! 折角2対1の形にハメられたんだ。私情を挟むな!
俺は別に兄貴と決着付けなくてもいいって思ってるよ」
「……わかった。ごめんね」
カズハが【厚雲灰河】と【分陀利】の鯉口を、二度鳴らす。
……なるほど。
「お見事です。見事な夫婦漫才。しかし──二人なら私を抑えられると? 甘く見積もられたものです。
私、これでもトップランカーの副長ですよ。偉いし強い。どうぞ宜しく」
──間違いなく【Blueearth】最強の【ニンジャ】。
シーナは、短剣を片手にこちらに向き合う。
……向き合った。
「【曙光海棠花幷】!」
「えやっ、ぁえ? お急ぎ便です【金色舞踏会】っ!」
足の速い【ニンジャ】が立ち止まってこっちを見たなら、空間作用スキルから逃れる術は無い。
そして俺の【スイッチヒッター】のジョブ強化スキル【パラレル】はわかりやすく無敵化なので──シーナは急いで空間作用スキルを使わなくてはならない。
そして、その一瞬の隙に──カズハの錆びた刀【胡蝶之夢】が鈍く光る。
空間を引き裂く鈍色の閃き。対隔離階層用スキル──
「── 【夢幻醒了】!」
すぐさま結合した空間を破壊。
そして周囲が元に戻るより、早く。
──方向さえ合えば。空間作用スキル発動前に、遠くに見えた火花の方角。そっち目掛けて──飛び出す!
「──【チェンジ】!」
気が付くと、"まりも壱号"が轢く屋台車の上。
座標ワープはある程度成功したか。それでも少しズレて、メアリーに助けて貰わなくちゃだが。
「ライズ。カズハは?」
「合図通りだ。別れの挨拶も無かったが、仕方ない」
カズハが二太刀を同時に鳴らすのは、"1対1で戦う"という合図。その上でそれが通りやすくするため立ち回ったが……。
せめて一言だけでも残す時間は、欲しかったか。
……ん?
「……ギルドチャットにメール、届いてるわね。カズハから」
「おー。礼儀正しい文章がつらつらと。随分と余裕だね?」
……何してんだ、カズハ。




