473.憧れは剣を交える
どれだけ攻略をしても、その先にそいつがいた。
階層攻略における"絶対"──【真紅道】。
毎度毎度追い付くわけだが……つまり、その度に置いて行かれているとも取れる。
(違うわよ。アナタが毎回足踏みするからじゃないの)
そうだっけ。
んー……。それはまぁ、ある種の信頼だ。
どうせ【真紅道】が道を切り拓いてくれてるだろう、っていう。
【真紅道】は【Blueearth】の太陽で、誰からも注目される……"勇者"だった。
主人公ってのはああいう連中の事なんだろうなぁ、なんて思いながら。
俺は影である事を受け入れていた。俺の調査結果で【真紅道】が前に進めるようになった時、実は嬉しかったりした。
──【真紅道】は俺の憧れだった。誰だってそう思うだろ。
──◇──
どれだけ攻略しても、後ろには彼らがいた。
既に通り過ぎた道から毎度"何か"を見出して拾ってくる不思議な情報屋──【三日月】。
情け無いことに、毎度毎度行き詰まる度に彼らの世話になったものだ。
ある種、彼らに甘えていた節がある。
きっと彼らならば、我々が見落としたものを拾って来てくれると。
……それを惜しみなく共有してくれた事には、感謝してもし切れない。
あくまで私個人の話だが。
階層を隅から隅まで調べるライズさんの姿は、たった3人で楽しくマイペースに攻略をしている……楽しそうに攻略している【三日月】の姿は。
少し羨ましくもあった。
──【三日月】は、私の憧れだった。本人には言えないけれどね?
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
最終試合
【真紅道】
──グレン&バーナード
VS
【夜明けの月】
──ライズ&ツバキ
──◇──
【第180階層 祝福合奏ゴスペル】
【真紅道】"王道"グレン
【Blueearth】三種の神器と名高い攻防隙無しの最優秀ジョブ【聖騎士】──その中の頂点。
スタイルは正に"王道"たる、片手剣片手盾。
特徴──"不倒不敗"。倒れないから、負けない。
参考も対策もクソも無い。何をしても倒れないんだから、負けない。そんな化け物。小細工が通用しないので正々堂々と戦わなくてはならないのに、正々堂々と戦って勝てる相手ではないという理不尽。
そもそもクローバーが勝ってるのだって、正々堂々と戦った上での話。どうしたって、誰だって、グレンとだけは正々堂々と戦わなくてはならない。
……知った事か。
こっちは【夜明けの月】最弱、ライズ様だ。
何が何でも何としても、セコい手で足元掬って勝ちに滑り込んでやる!
目下最大の問題は、このチャーチ階層のレイドボス特権を持ち歩いているグレンと"アトランティック・クライス"の存在。それを補強する"カースドアース"持ちのバーナードという二重柵を、なんとか突破しなくてはならない。
グレンが手を抜くわけがない。この状況だと【真紅道】は空間作用スキルどころかジョブ強化スキルのver.2まで持っていけるだろうし、それをしない筈が無い。そしてそれを止める術は無い。
止める術は無い。
「お望み通り、始めよう!
──【凱歌響振聖金冠堂】!」
「……悪いなライズ。実は……ちゃんと作ってたりして。……【紅に芽吹く紫陽花】……!」
「おいおいオリジナルの隔離階層とかアリかよ。被らないのは助かるがな!──【曙光海棠花幷】!」
「そうねぇ。──【白曇の渦毱】!」
それでも発動する空間作用スキル。
──なんか、当たり前のように特注品振りかざしてきたが……被らないって事でヨシ!
──◇──
──観客席
「おいおい通しちまったぞ空間作用スキル! よくわかんねーけど、アレ通したら終わりなんだよな? その辺どうなんだブラウザ」
「はい。空間作用スキルと隔離階層についてのおさらいですね。
【Blueearth】外部に存在する小規模な階層──通称隔離階層を、【Blueearth】に呼び出す。それが空間作用スキルです。
隔離階層は複数が組み合わさる事で巨大化。3つを超えると、【夜明けの月】お得意の対隔離階層用スキルが通用しなくなります。
今回のように全員が同時に空間作用スキルを発動したならば、四人全員がジョブ強化スキルを発動する権利を得ます。
が……その階層のレイドボスの協力があった状態で、隔離階層を既存の攻略階層と一体化させる──通称"ver.2"が絡むと話が変わってきます。
隔離階層ver.2となればジョブ強化スキルの発動権は独占された上で、更にジョブ強化スキルもver.2へと進化するそうです」
「このゴスペルのレイドボスとしてのデータを持つはグレンが従えし"アトランティック・クライス"。それが合意したならば、同様にバーナードの"カースドアース"でもジョブ強化スキルver.2が発動できよう。
つまるところが、【夜明けの月】惨敗であるな?」
「そうとも限らないですよキング.J.J。我が運命が考え無しに動くはずがありません」
──◇──
──第二試合後。
世論の圧倒的支持によりスカーレットとバーナードの復帰が確定。
その対価としてメアリーが要求した事は、たった一つ。
まだ試運転段階だが──対抗するには、これしかない。
管楽器が並ぶ大聖堂に、紫毒の紫陽花が咲き乱れる。
ただの隔離階層だけではなく──そこには2人のレイドボスが居る。
が、だとするなら──同様の事をするのみだ。
「──来い! "MonsterSystem:ELD"!」
「手伝ってね。"焔鬼大王"!」
虹の衣纏う鱗無き怨霊の白竜が。
大地揺るがす悪虐の鬼王が。
この場に存在するはずがない、2人のレイドボス。
現地レイドボス特権は無いが──しっかり、そのまま本人だとも。
『実験は成功か。やったなライズ!』
『おおい! 俺まで巻き込むな! 俺ぁ天知調派だっての』
"エルダー・ワン"がフューチャー階層のレイドボス"MonsterSystem:ELD"へと変化した事で、色々とレイドボス特権が使えるようになった事。
ゴーストが"廃棄口"を2つ生み出した事で、ゴーストだけが自由に使える"廃棄口"を手に入れた事。
ついでに"焔鬼大王"がやたらと俺たちに協力的である事。
これらに加えて、メアリーが"アトランティック・クライス"と交わした約束。
"この先ゴスペルでver.2を発動する場合、土着の権利を主張しない事"が合わされば──
「これは厄介だ。クライスさん!」
『無理です。権利の主張も何も、他のレイドボスなんて混ざって来ないのが当然ですから承諾しましたがー、こうなるともう対等になってしまいますねー』
「そういう事だ。この階層にレイドボスは4体──ここからは綱引きだ!
行くぞ"MonsterSystem:ELD"!【パラレル】──」
『よかろう。散々重ねた思考を試行する時だ──"ver.2"発動だ!』
「合わせてね焔鬼。【崇徳変妖】──」
『仕方がねぇなぁ。あぁ仕方ない。これは裏切りじゃないぞ天知!──"ver.2"だ!』
嫌々協力する──というポーズを取る"焔鬼大王"。
ああは言うが、【夜明けの月】と【セカンド連合】最初の喧嘩で宝珠に触れた頃から、色々と準備を整えていたらしい。
【NewWorld】を作ったシステムエンジニア様だ。そりゃあもう出来の良いものなんだろうなぁ。
「……どうする……団長……」
「無論、受けるとも。どんな敵であろうと関係無い。
【真紅道】は振り向かない!ジョブ強化スキル【暗墓に咲く騎士の魂】発動!」
『──ここは私のホーム。簡単には巻き返させませんよー! きっちりかっちり、"ver.2"ですー!』
「……了解した。"カースドアース"は……目覚めたようだ。まだ言葉を発するには至らないが……手を貸してくれるようだな。
【DEAD MAN’s SEA ROVER】──"ver.2"だ……!」
隔離階層ver.2──隔離階層はゴスペルと一体化した。
そこには四人のレイドボスが存在し、唯一ゴスペルに適応する"アトランティック・クライス"は、その権利を主張する事を禁止されている。
つまり──レイドボス四人による"ver.2"の引っ張り合いが発生。均衡してくれればそれで良い。その間だけは、グレン達と対等に戦える……!
「これが俺の第一の策だ! まだまだやらかしてやるから覚悟しろよ【真紅道】!」
「……正々堂々……と、ズルをする。流石はライズ……!」
「なまじ正面からぶつかってくるから受けるしかないね! 応じるともライズさん!」
聖騎士のジョブ強化スキル【暗墓に咲く騎士の魂】は──上半身だけの巨大な騎士を呼び出し、自分と動きを連結させる。
のだが。
デカくね?
コロシアムの奥から──レイドボスもかくやというサイズの巨人騎士が、こちらを見下ろしてくる。
"MonsterSystem:ELD"も"焔鬼大王"も引いてるよ。
『やりたい放題だなver.2。我らと相手する事を想定しているレベルだぞ』
『こりゃあライズボロ負けだな。ご苦労さん』
「この戦い、負けたらお前を裏切り者として調さんに差し出すぞ。スペード関係の話とかするからな」
『やめろこの野郎! わーったよ、やるよ!』
よしよし。快い返事を頂けた。
スタートラインまでは辿り着いた。……なんとかして攻略するぞ、【真紅道】!




