472.伝説の続き
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
第一試合──勝者:【夜明けの月】
第二試合──勝者:【真紅道】
第三試合──引き分け
第四試合──勝者:【夜明けの月】
──◇──
【第180階層 祝福合奏ゴスペル】
──【夜明けの月】控え室
「ゴーストに助けられたな。ギルドマスターともあろうものが情け無い」
「やかましいわよ馬鹿ライズ。さっさと行け」
「ヤダー。相討ちでもいい?」
「ダメ。勝て」
「ひぃん」
ライズがどんどん小さくなってる。
……なんというか、こいつはこういう所あるよなァ。
ちゃんと対策は山ほど立ててるくせに自己評価がクソほど低いというか……。
「レベルは追いついてる。戦闘だって|この俺《"最強"》とジョージがずっと手ほどきして来ただろうがよ。お前の思うほど、お前は弱くねェよ」
「それはそれ、これはこれだクローバー。俺はどこまで行っても小市民だよ……あぁ怖い」
「仕方ないわねぇ……」
これにはみんな苦笑いだ。
……さて。見事に最終戦な訳だが……【夜明けの月】は12人。つまりあと四人だ。ライズは確定として、誰が出るか……。
──◇──
──放送席
「おい鮫ゴリラ。そっちのローストビーフ取ってくれ」
「これはダイヤの分である。おことわり」
「別にいいし。分けてあげなよハート」
「じゃあ全部貰ってくぜ」
「話聞いておるか???」
「総頭目。我のステーキをくれてやるからやめよ」
「いや多いんだよ。どんだけ食うんだよキング.J.J」
「腹一杯肉を食える事のなんと素晴らしい事か。【Blueearth】万歳であろう」
「知らんが。……まぁ貰えるもんは貰ってやるよ」
まるで特等席かのように【飢餓の爪傭兵団】のウルフさん、キング.J.Jさん、クワイエットさん、ブラウザさん。
元【至高帝国】のダイヤさん、ハートさん。
【象牙の塔】のイツァムナさん、ブックカバーさん、アザリさん。【バッドマックス】のマックスさん。ベル社長サティスさんその他諸々……。
「あのー、皆さん。狭いのでもう少し減らしてくれませんか?」
「いいだろ。ここが一番見晴らしがいいんだよ」
ああんワガママ。
……来る最終戦。ゴスペルに居る誰もが、この試合を待ち望んでいました。
黎明期を知らない者は、伝説を見届けるために。
黎明期に生きた者は、果たせなかったあの時代の一つの結末を見届けるために。
ウチもマイクを握る手に汗が……特にかきませんね。【Blueearth】なので。しかし気持ちは別問題。手に汗握るとはこの事です!
『──さァ! 残す所はあと……一試合となってしまいました!
現状【夜明けの月】二勝、【真紅道】一勝。この試合で【夜明けの月】が勝利すればその瞬間、この第二回"【Blueearth】争奪戦"に決着が付きます。
しかし! 果たしてそれは叶うのか。相手するは、【Blueearth】が誇る最終兵器!』
コロシアムに光が差す。
──荘厳なる鐘の音と共に、真紅の騎士が剣を天に掲げる。
『【Blueearth】黎明期より唯一! 常に最前線を走り続けた──言わばトップランカーそのもの!
我ら冒険者が誇る絶対! 退路なく邁進する"王道"──その先頭に立つ、赤き団長!
【真紅道】団長──"王道"の二文字を背負いし者! グレン様です!』
「──期待には、応えよう」
湧き上がる歓声。みんなこれが見たかった、と言わんばかりの。
しかし──ウチとしては。
尊敬するグレンさんもそうではあるのですが、やはり……ウチとしては。こちらに心が傾いています。
『対抗するは! 世界征服を企む悪の秘密結社【夜明けの月】──その創立者!
そして、誰もが恐る黎明期の"妖怪"! 伝説の数ならば【真紅道】にも劣らぬ、幾らでも語られる伝説のギルド【三日月】の創立者!
【Blueearth】において今日に至るまで! 全ての事象は彼が引き起こしたとまで噂されています!』
(言い過ぎじゃない?)
所詮は噂なので。流しているのはウチですが。
『──願うは【ダーククラウド】への復讐なのか。それとも、まだ底知れぬ陰謀があるのか!
ともあれ、この場においては──黎明期の伝説の続きを、綴ってもらいましょう。
【夜明けの月】参謀、"妖怪再鬼"──甦りし偏執魍魎! ライズさんです!』
(後で覚えとけよタルタルナンバン)
ライズさんのマイクはオフにしてあるので聞こえません。そろそろオンにしておかないと。
……控え室から、周囲の視線に背筋を正しながらも不遜に現れるライズさん。
ここに、伝説の続きが語られるのです!
「やぁライズさん。何はともあれ、まずは役者を揃えようか。
──【真紅道】が選ぶ、私の相棒は。当然君しか居ないとも。
来い! 我が右腕──バーナード!」
「……うむ……なんとも複雑な心境だ……」
「単純だろう。あるべき場所に戻ったんだ」
「だとよ。よかったなバーナード」
「……複雑、だ……」
バーナードさんもまた、【満月】の仲間でした。畏れ多くも……。
愛のために【真紅道】を捨てたバーナードさんですが、その待遇はあくまでも"休職"。【バレルロード】が実質的に【真紅道】に属していた事もあり、実際は【真紅道】にいつでも復帰できる状況ではありました。
スカーレットさんを守るという目的の都合、バーナードさんは一度も【真紅道】に復帰しませんでしたが……よく晩酌に同席させて頂いたおり、【真紅道】の思い出を語っていました。
だから【満月】としては、こうやって帰るべき場所に戻れた事は嬉しく思います。
……さて。私情はここまで。
【真紅道】二強であるグレン団長にバーナードさん。この怪物二人に対して、【夜明けの月】はあと3人しかいません。
と言えど、決まっているようなものです。
最強の【キャッスルビルダー】ミカンさんは……このコロシアム建築に全力を注ぎ込んでおり、現在おねむです。
やはりここは"無敵要塞"リンリンさんの出番でしょう。リンリンさんならば、グレン団長もバーナードさんも容易く突破は出来ない──
「【夜明けの月】が最後にお届けする刺客は、一人しか居ない。
──この試合が伝説の再現だと言うのならば。まだ役者が揃ってないよな!
我らが【三日月】の交渉人──ツバキ! 出番だ!」
──え。
ええ。ツバキ様?
「はぁい。あたしでいいの?」
「こいつらと決着付けるならお前しかいないだろ。……見てるよなハヤテ! こっちで勝手にケリ着けるからな!」
艶やかな黒髪。妖艶なる女店主。
【呪術師】──ツバキ様の降臨。
……いや、納得ではありますが。
あの【三日月】にして【夜明けの月】へ続投した二人ならば、【真紅道】と戦うに値するとは思いますが。
戦力としては、どうなのか──?
──◇──
──【夜明けの月】控え室
「……え、リンリンじゃないの?」
「は、はい。今回は控えておくよう言われました」
メンバーを選ぶのはメアリーとライズ。特段気にしてなかったから、僕たちは呼ばれるがままに出て戦っていたけれど──この最終戦に限っては、ライズ固定の都合で最初から誰が相方かは決まっていた……はず。
まぁ残ったメンバー的にリンリンだろうとみんな思っていたけれど……。
「まさか本当に【三日月】だからって理由じゃないよね、メアリー」
「半分はそうだけれどね。安心しなさいスペード。ちゃんと考えた上で選ばれたのが、偶々ツバキだったのよ」
グレンはともかく、バーナードの選出は完全に想定外だったはずだ。
……今の敵は、グレンとバーナード……だけじゃない。
グレンに手を貸すレイドボス"アトランティック・クライス"、バーナードに手を貸すレイドボス"カースドアース"。ぶっちゃけクローバーでさえ苦戦は必須(それでも勝てると信じてるけどね)。
「クローバーやカズハやリンリンより優先する理由があるのかい?」
「クローバーは勝手に出たったでしょ。……どっちにせよ、二戦目あたりに出すつもりだったけれどね。
ツバキはライズと相性が良いのよ。でもそれだけじゃ勝てないから……【夜明けの月】総動員で戦うわよ」
……総動員?
──◇──
【三日月】はいつも、最前線──【真紅道】の後を追っていた。
「思えば情け無い話だよな。【三日月】が居なけりゃ最前線はガタガタ。貴重な戦力は分散して、階層を突破するだけの戦力が足りなくなった、と」
「そうだね。正直言って、黎明期の一番の功労者は君たち【三日月】だと思っているんだ」
「……異論ない……」
だからなんというか、その【真紅道】がこうして褒めてくれるのは……むず痒い。
ツバキも同じみたいで、クスクスと笑っていた。
「……一つ言っておくぞグレン。
俺は【三日月】にして、今は【夜明けの月】の参謀。世界征服を目論む悪の秘密結社の参謀だ」
「今更悪役を羽織る必要は無いよライズさん」
「違う。そうじゃなくて……悪の組織らしく、なんでもするって事だ。
出し惜しみ無しだ。様子見してる間に倒されちゃ世話ないだろ?」
「……それはそれは! ははっ、流石はライズさん。
謝罪しよう。驕りがあったようだ。貴方は──あの時と変わらず、油断ならない大敵だ」
しまった。油断してくれるならその方が良かったんだがな。
……まぁ、そんな訳ないが。相手は天下の"王道"だ。最適解以外来ないと思うべきだな。
──スレーティーがマイクを握る。
遂に、最後の試合が始まる。
『では。双方揃いました。
"誇り交わす決闘裁判"──最終試合。始め!』
最後の鐘が、鳴り響く──。
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
最終試合
【真紅道】
──グレン&バーナード
VS
【夜明けの月】
──ライズ&ツバキ
──◇─




