470.姫は民の上に立つ
──かつてアドレには、数人の騎士がいた。
騎士は姫に仕え、その望みを叶えた。
姫の望む事ならば、何でも応えた。
だが、それは盲信ではない。
姫は誰よりも優しく聡明だった。
彼女の望みは常に、悩み戸惑う冒険者達のためのものだった。
騎士でない者も、多くが彼女に救われた。
ただただ小規模な人助けグループは、やがて大きくなってゆき……姫と騎士ごっこも、板について離れなくなってきた頃。
「階層攻略を命令します。全てを明かし、この【Blueearth】に平穏を齎しなさい」
姫の一言で、騎士達は動いた。
当然それもまた、冒険者を想ってのことであると知っているから。
──これが【真紅道】の原点である。
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
第一試合──勝者:【夜明けの月】
第二試合──勝者:【真紅道】
第三試合──引き分け
──◇──
【第180階層 祝福合奏ゴスペル】
──実況席
『……厳正な審査の結果、第三試合は引き分けと"審理"致しました』
『は、はい。いやぁ凄い戦いでした。しかしこうなると……』
『残る二戦、連勝した方の勝ちでおじゃるな。一勝一敗となればサドンデスか』
『また引き分けが起こる可能性もありますけどね。どちらにせよ、第五試合まではやらねばならない事が確定しましたね。……ライズは頭を抱えていそうですが』
『ははは。どうであろうかな。トップランカーまで上り詰めた【夜明けの月】の参謀であるぞ。堂々としておるかもしれんでおじゃる』
──◇──
──【夜明けの月】控え室
「あああああああああああ……」
「最終戦確定おめでとう参謀。張り切ってどうぞ」
「嫌すぎる。クローバー、俺に変装しないか」
「無理だしヤダ。身長でバレるだろ」
「ちょっとだけ低いだけだろーがよー。ちょっとだけ」
「search:クローバーは身長182.3cm。ライズは──」
「やめろゴースト! お願いだから」
クローバーの背が高すぎるだけだって。比較的高身長だって俺も。兄貴よりは背が高いんだから。
……などと緊張を和らげてもらったが、かなりプレッシャーだ。
だって第四戦が勝っても負けても、俺は勝たないといけないからな。サドンデスに期待するのはよろしくない。
……そして、更に頭の痛い事に……まぁそれはいいか。
そこで笑ってるメアリー。覚悟しろよ。
「ここまで来たぞメアリー。……やれるのか?」
「やってやるわよ。【真紅道】と戦う以上は……相手をしなくちゃいけないのは、【真紅道】だけじゃないもの」
言い得て妙。メアリーは心底嫌そうに……どこか楽しそうに、コロシアムへ向かった。
──◇──
──実況席
『運命の決まる第四試合が、始まろうとしています。
一勝一敗一分。このまま二勝したギルドが優勝となります。
──【夜明けの月】と【真紅道】の戦い。この一戦は、きっと【Blueearth】の歴史に残ります』
タルタルナンバンがマイクを握る。
……司会業も慣れたものね。あのナンバンが……。
『──そう。【真紅道】。
我々【Blueearth】の冒険者は、【真紅道】に夢を見せてもらいました。
そしてここは、【真紅道】の"王道"を指し示す最後の舞台となるかもしれません。
ならば! ──ならば、足りないでしょう!』
【真紅道】には、常に外聞が付き纏っていた。
グレンはグレンらしさを求められ、それに応えてきた。
【真紅道】は"王道たる騎士団"である事を求められてきた。
その民意は──相手をするあたし達【夜明けの月】にも適応される。
その民意のままだとあたしがグレンと戦うことになっちゃうから、ライズを身代わりにしたわけで。
──民意は、もう【真紅道】の意思では止まらない。【真紅道】はそれを受け入れてしまう。
闘技場に立つ人影が、2つ
……次は【夜明けの月】の先手なんだけれど。
『【真紅道】には彼女こそ必要でしょう! 己が道を敷き、遂に騎士の元へと辿り着いた若き女王!
──冒険者1000名以上の署名を受け! 特例処置として! 2人の冒険者が【真紅道】に復帰致しました!』
スポットライトが中央を照らす。
現れるは──真紅の姫君。そしてその騎士。
『【真紅道】"紅姫"スカーレット! そして"無言実行"バーナード!
ここに、【真紅道】完全復帰となりますゥン!!!』
──歓声が会場を轟かせる。
……この観客のうちどれだけが署名に協力したのよ。くそぅ。
とは言っても、あたしとしても──このまま終わりじゃ味気ないわ。
「──【夜明けの月】はその挑戦、受けて立つわ。1人目は、もちろんこの私。
逃げないわよね? スカーレット……!」
「ええ、勿論。いいわよねグレン?」
「我らが姫の仰せの通りに」
当たり前のように。あたしも闘技場の舞台へと上がる。
スカーレットはそれに応じて──バーナードは、後ろへと下がる。
「あら、バーナードはいいの?」
「……俺が求められるのは……ここじゃ、ない……」
ウチの控え室からライズがめっちゃブーイングしてるわ。
そりゃそうよね。今バーナードが引けば何処で出てくるのか……って話だし。
でもいいや。あたしの相方と言えば──
「【夜明けの月】2人目は、ゴースト。あたしの騎士よ」
「answer:yes.マスターの仰せのままに」
「じゃあ私の盾は──ホムラ! 久しぶりに供を許すわ!」
「は、ひゃい! 喜んでー!」
文字通り飛び込んで来た……大きな丸メガネのシスター。
噂の元No.2……"袖の下"ホムラさん。全く情報が無いのが困るのよね。
まぁ、ゴーストと組んだあたしが負けるはずないけれどね。
「あたしを後押ししておいて、随分と面の皮が厚いのねスカーレット」
「ええ、勿論。分厚いわよ私の顔は。なんたって我儘プリンセスだもの」
「役を羽織るのは、辛くない?」
「求められるのが嬉しいの。本当よ」
【真紅道】と戦うにあたって一番困ったのは、この周囲からの"役割"の押し付けだったと思う。
でも、グレンは、スカーレットは……それを受け入れて、楽しんでいる。嫌々ならともかく、それが好きだっていうなら何とも言えないわよね。
【ガンスリンガー】"最強の双銃士"スカーレット。
【悪魔祓い】"袖の下"ホムラ。
【リベンジャー】あたしの相棒ゴースト。
そして【エリアルーラー】……あたし。
【真紅道】にしては珍しく重量級の防御特化が相手じゃないから、ゴーストがタンク役を熟せる……はず。
後は立ち回りね。どう動くか、と言えば──
『では。双方揃いました。
"誇り交わす決闘裁判"──第四試合。始め!』
四つ目の鐘が、鳴り響く──。
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
第四試合
【真紅道】
──スカーレット&ホムラ
VS
【夜明けの月】
──メアリー&ゴースト
──◇──
「──【森羅永栄挽歌】!」
「action:【曙光海棠花幷】」
「来ると思ってたわ。【金色舞踏会】!」
「応じます。【黒き摩天の終焉】!」
──開幕、空間作用スキル重ね掛け。
スカーレットはあたし達とセカンド階層を抜けたのよ。そりゃ空間作用スキルも慣れたものよね。
隔離階層四つの複合。維持時間はおよそ20分くらいかしら。
充分すぎるわ。それに加えて、あたし1人の【紫蓮赤染の大晶鎌】だけじゃ壊せないけれど──
「出し惜しむ必要も無いわよね。【エアリアル・キューピック】!」
「違いないわ。【銃士たちの挽歌】!」
「action:ジョブ強化スキル【青き復讐の花】」
「【祓魔審判】発動します!」
当然、ジョブ強化スキルの応酬。
ここからが本番──に、なる、んだけれど。
ホムラ、その武器なに?
鉄球?
「【聖具:スフィア】です。行きますよ!
"認定"! 貴女達は──"悪魔"! そぉい!」
「危なっ!」
【悪魔祓い】ジョブ強化スキル【祓魔審判】──他者への属性付与と、それに伴う特効と耐性の獲得。
そんで鉄球は……分裂増殖。そんな鉄球あるか!
「……っでも、【エアリアル・キューピック】発動中は無敵よ。攻撃である以上は通用しない!」
「そうね。そんな事は織り込み済みよ」
スカーレットが二丁拳銃を重ねると──白く輝く刃となる。
「……何それ!?」
「【アルカトラズ】からの贈り物よ。バーナード鎮圧用の……【Blueearth】特効剣っ!」
「ふざっ、ふざけんな!」
剣を振るうも様に入るスカーレット。鉄球にビビってたらいつの間にか接近された──!
──◇──
──実況席
『あれ何ですかスレーティーさん』
『【アルカトラズ】発行の特殊クエストの報酬ですよ。ええ。至って合法です』
『haha.流石は灰の槌。しかしまぁ、適正なバランス調整が成されていないのも確かだネ。そのうちジョブ強化スキルの無敵は耐久強化へと変わっていくだろうケド……今日この時に限って言えば、こうでもしなければ貫通できないのも事実』
『うーん、まぁ【夜明けの月】側も色々とズルいと言えばズルいですし、このまま行きましょう。
今回の解説は【Blueearth】が誇る二大商会、【マッドハット】のセリアン総店長と【朝露連合】のベル社長になりますが……如何でしょうかベル社長。ジャングル階層ではメアリーさんとスカーレットさんと共に【セカンド連合】と戦った仲ですが──』
『オラー勝ちなさいスカーレット! ボコボコにしろ!』
『ウワー好戦的! 一体何故!?』
『アンタもスカーレットを応援しなさいよ。私達は【夜明けの月】に振り回された【満月】の仲間でしょ。
……【満月】は【夜明けの月】のオマケじゃないって所、見せてやりなさい! 目を狙え目を!』
『おおう、それはとっても魅力的。それではウチも。
がんばれースカーレットさん!』
『じゃあワタシも』
『では私も』
『スレーティーさんまで乗ったら【夜明けの月】が完全アウェーになるんですが!?』
『ふふ、冗談です。ちゃんと平等に実況しましょうね?』
『『『はい。』』』




