47.共生上手。折り合い付かず。
堅牢なる岩盤は道を閉ざす。
深き洞窟に追いやられた者達は絶望した。
我らが前に居場所は無く、我らが先に道は無い。
──不可侵の世界を穿つなら、それは神以外あるものか。
我々は神を崇め、神を信じよう。
地響きは神の声。風穴は神の息吹。
──ここは【第20階層 地底都市ルガンダ】
光なき楽園。神の通り道。
──◇──
「ここは鍛治の都市ルガンダ! 歓迎するよ、【夜明けの月】!」
アゲハさんの笑顔は、薄暗いルガンダでは少し蠱惑的に見える。
地底都市というか、くり抜かれた巨大トンネルに家建てて住んでるだけみたいな感じね。
「俺とドロシーは【金の斧】に顔出しだな。ジョージは《まりも壱号》を登録するためにアドレ兵拠へ。あとは自由だな。
……んじゃメアリー。これ宿までの地図な。予約してあるから俺の名前出してくれ。先にチェックインしてくれたら今日は自由行動な。20時に再集合しよう」
「ん。わかったわ。また後でね」
「では私はジョージさんと行動しますね。単独行動は危険ですから」
「うん。頼むよアイコ君」
……って事は、あたしとゴーストの2人行動ね。いつも通りだけどなんか久しぶりね。
──◇──
噴水広場を中心として城下町が広がっていたアドレ。
大樹の枝に沿って展開されていたドーラン。
それらと比べると、ルガンダは単純な構造ね。
馬鹿でかいドリルか何かでできたトンネルに、適当に家やらなんやら並んでるだけ。
「なんていうか、変わった街ね」
「そうでしょう、そうでしょう!」
「わひゃあ!?」
どこからか突然声を掛けられた。辺りを見回すも誰もいない──
「マスター。音源はこちらの方です」
と、ゴーストが抱え上げたのは──毛玉。
全身毛むくじゃらの、抱えて持てるくらいの毛玉。
「おほん! よくぞいらっしゃいました新たな冒険者さん。わしはルガンダの族長です」
族長さんだぁ!
よく見たらつぶらな瞳がちらっと見える。
「ごめんなさい族長さん。ゴースト、降ろして差し上げて」
「冒険者さん達と目線を近付けて話せますからわしは構いませんが……しかし我々ドワーフは重い。腕が疲れましょうお嬢さん。降ろしても結構ですぞ」
族長を近くの岩の上に降ろす。
ドワーフ。ドーランで言うドリアードやエルフみたいな原住民なのね。
「ここいらの山の地盤がかなり強固でしてな。掘削するのも一苦労なのです。故にわしらは、この大空洞をそのまま活用するのですわ」
よく見ると、壁に穴が空いてたりはしない。それほどに頑丈な岩壁なのね。
「わしらの技術を以てしても、この岩壁はそう簡単には崩せない。ですから我々は《おーむ様》を信仰するのですな」
「《おーむ様》って?」
「ふおっふおっ。この大空洞を作り出した我らの救世主ですな。アドレの方々は《ミドガルズオルム》と呼びます。
この硬く閉ざされた岩山世界を、おーむ様はたった独りで食い破っているのです」
「search:……《ミドガルズオルム》は、ケイヴ階層全域に生息する《ケイヴワーム》の進化種です。
ケイヴ階層におけるレイドボスでもあります」
レイドボス。ウィードでいうところのテンペストクロー。
……この大空洞を作り出す程の魔物って、どんだけデカいのよ。
「ですので、冒険者さん。このケイヴ階層において、《ケイヴワーム》の討伐は御控え下さい。我らが神の子なのです。
勿論、害を成してしまうのなれば構いませんが。できるのならば追い返す程度でお願いします。族長、このとおり」
ぺこり、と毛むくじゃらが折れ曲がる。
……来る冒険者に毎回こんな事言ってるのかしら。
「わかったわ。あたし達は侵略者じゃないからね。ちゃんとルールには従うわ」
「ほっほ。族長感激。ではでは、街を案内しましょう」
「待って族長さん。あたし達、先にホテルに行きたいの。この地図のここに行きたいのだけど……」
「ふむ。ここはナメローさんのちょっとお高めのお宿《ホテル丸儲け》。これならばわかりやすいですぞ。そら、あそこの壁際の高い建物です」
イカれた名前してた。
族長さんの指指す(ちっちゃい手が毛玉から生えてきて可愛い)先には、確かに壁に沿って縦長の建物があった。高層ビルみたいな宿なのね。
「わしの家もあっちにありましてな。良ければ道中案内させて下さい」
「ん……お願いします、族長さん」
「ふおっふおっふおっ。お任せあれ」
ぽてぽてと地上を歩くその姿は愛くるしい。
「とはいえ我々ドワーフは鍛治ばかりの仕事バカ。景観には拘らなんだ。その辺はナメローさんに任せております」
「ナメローさんって?」
「このルガンダの冒険者さんを統括してます【金の斧】の代表さんですな。冒険者ギルド以外にも、宿泊宿経営やわしらの武器の売買、日用品の輸入から街興しまで。ドワーフと冒険者の間を取り持っておる立派な方ですな」
すごいわね。ドーランで言えばカメヤマ的な人?
アゲハさんアイアン8さんの上司。【飢餓の爪傭兵団】参加ギルド【金の斧】のギルドマスター。
……このケイヴ階層での商業を取り仕切る、事実上の支配者。
なんかヤバい人じゃないでしょうね。これまで出会ってきた商人って人種はだいたいヤバい奴だったんだけど。
「……そうですな。このルガンダが誇る絶景といえば! この満点の蟲空ですな!」
「ああ、アレ。来た時最初に目に入ったのよね。綺麗な天の川。あれ何?」
「ふおっふおっ。お嬢さん方は気味悪がるかもしれませんがな。あれは夜星虫という虫なのですな。空気より軽いガスが好物で、天井に密集しているわけですな」
あれ一面全部虫かぁ。確かにちょっとキモいわね。でも綺麗ね。
「ドワーフも、夜星虫も、魔物も。全て、《おーむ様》がこの岩壁を壊してくれなければ生きていけなかったのです。ですから、我々にとって神様なのですな」
「そうなのね。随分といい奴なのね、《おーむ様》」
「──いやぁ、身内がいないから言いますがね、あれはただ食事をしているだけですな。我々が信仰しようと、ドワーフの味を覚えれば容易く食い尽くしに戻りますでしょう。あくまで一方的な信仰ですな。
まぁ魔物も良し悪しというわけです。我らを救う《おーむ様》もいれば、邪魔ばかりしてきて部品も素材にすらならん憎き古代兵の輩もおりますしな」
……随分とリアリストなのね。族長として必要な能力だけど。お気楽な種族ってだけじゃないわけね。
「こちらは中央広場ですな。来週には冒険者様に向けた大きなイベントが開催されます。もしご都合が合えばご参加頂けましたら」
「へー。イベントね。楽しそうじゃないの」
「ナメローさんが企画を手伝ってくれてからは参加者も増えましてなぁ。ふおっふおっ。
……さて、そろそろ到着ですな。あれが《ホテル丸儲け》です」
気の抜ける名前のホテルは、石造りながらも荘厳な高層ホテル。
その玄関口には、女性が一人。
「……族長さん。案内ありがとうございます。あたし達はこれで」
「ふおっふおっ。構いませんぞぉ。ルガンダを楽しんでいって下され。それでは」
族長が帰ったのを確認したら──【紫蓮の晶杖】を装備する。
ゴーストも両手に【無限蛇の双牙】を装備。警戒体制を取る。
……確固たる理由があるわけじゃないけど。あの女は、あたし達に用がある。
「ひどいね。ボク、何もしてないよ」
ポニーテールを揺らす女性は、敵意が無い事を示すためか、わざと両手を広げて近づいてくる。
──でも、その目は覚悟をしている。あるいは壊れている。条件か理由があれば、誰を殺すのも躊躇わない──ライズのような、何か倫理観のようなものが欠如した目。
武装解除はできない。ここまで明確で不明瞭な殺意を向けられた事は無い。
「怖がらないで欲しい。ボクは本当に、戦うつもりは無いんだ」
「何の用? ってか誰?」
ゴーストは既に臨戦体制。あたしもアビリティ《並行詠唱》で【風花雪月】の詠唱を初めてるけど、とりあえず対話はしなくちゃ。ゴーストが暴発する。
「……【夜明けの月】。少し、見てみたかったんだ。貴女が作ったギルドに、アレがいるんだから。ボクにとっては縁がありすぎる」
「──あんた、一体何者──」
「! マスター、失礼します!」
轟。
荒れ狂う嵐のように、突風が突き抜ける。
ゴーストが咄嗟に飛び伏せてくれたから避けれたけど、そうでなければ直撃だ。
突風の正体は──風の槍【壊嵐の螺旋槍】による【スターレイン・スラスト】。
即ち。
「──派手な挨拶だね、ライズ」
「──今メアリーに何をしようとした。ハヤテ!」
──鬼の形相のライズが、文字通り飛んできた。
ハヤテと呼ばれた女は真っ黒な盾で槍を受け、左手に赤と黒の混ざり合った剣を携える。
「【スイッチ】──【月詠神樂】【宙より深き蒼】」
「剣と盾なんてボクの真似か? 久しぶりの稽古もいいけど、こんな街中じゃ自警団が来ちゃうよ」
「うるせえ! 【七星七夜】!」
【月詠神樂】の専用スキル。七色七種の属性を帯びた連続剣舞。
──でも、ハヤテはそれを盾と剣で巧みに捌く。
「まだ何もしてないよ」
「だろうな! 次は誰を殺す? もう諦めたとは言わないんだな!」
「その辺も、今のキミになら伝わる話だ。まぁ会えば話にならないとは思ってたから無理か?」
「無理だな! 俺も大丈夫かもとは思ったが、実際に見ると駄目だ!」
「それは残念。ボクも本気で行こう。この【ラグナロク】で!」
黒の稲妻を纏う赤黒剣を振り上げた、その瞬間。
──風を切り裂く音と、一筋の光。
「──スタンだと──」
遥か先、ライズを狙うドロシーの姿。
神の奇跡! ライズは間一髪回避し、不可避のスタンはハヤテに直撃。
ライズはそのまま、一切油断するでも無く。
【月詠神樂】を、振り翳す──
「そこまでだ」
ライズの腕ごと剣を蹴り上げたのは、ジョージ。
またしてもリミッターを外して、アイコに投げ飛ばされて速度を確保したのね。
「ジョージ! 離れろ! 殺される!」
「ライズ君が何を恐れているからわからないが、今この状況で誰かを殺すとしたら君じゃないか?」
リミッター解除の弊害。修正はされたものの、ジョージは即座に動けないダメージを負ってその場に座り込む。
「そうだよ。ライズ。落ち着いてグハッ」
「貴方は貴方で素性が不明なので取り押さえます」
追いついたアイコのタックルによってスタンしたまま倒れ込み、そのままホールドされるハヤテ。
「──よし、アイコ。そのまま抑えてろ。俺は……大丈夫だ」
武器をしまい、座り込むライズ。
ライズがここまで感情剥き出しにキレたのは見た事無い。とにかく……。
「連行だ」
「……【アルカトラズ】。お早い到着だ」
「ああ。《拿捕》の輩。白き劔のブラン。ここに到着した。冒険者同士の争い、それもPKに繋がりかねない規模のものだ。双方一時身柄を拘束する。いいな?」
慣れた手つきでライズとハヤテを拘束し、有無を言わさないで粛々と連行するブランさん。
「……【夜明けの月】諸君は、このまま宿泊して待機してくれ。今晩中にライズの身柄は解放する」
そう言われて、あっという間にいなくなっちゃった。
残されたのは、状況がさっぱりわからないあたし達。ゴーストは走ってこっちに来てるし、ジョージは自分で行動できない。
……どうなってんのよ。
──◇──
──1時間後。
《ホテル丸儲け》最上階スイートルーム
「んじゃ、説明してもらうわ」
【アルカトラズ】から解放されるや否や、待ち構えていた【夜明けの月】に包囲される。
「ジョージは戦闘不能になってまでしてアンタを止めた。ドロシーは作戦とはいえアンタを狙った事を気に病んでる。アイコはスタン中とはいえ得体の知れない相手に掴み掛かった。
ちゃんと説明しろ。誤魔化したらもう許さないから」
一番キレてるのはメアリー。まぁそうか。茶化す余裕も無いし、失礼か。
全部は語れない。俺にもわからない事がある。だが、話せるだけは話そう。
「……あいつはハヤテ。俺の前のギルド【三日月】のギルドマスターで……殺人未遂のサイコパスだ」
〜地底都市ルガンダにようこそ!〜
《寄稿:【金の斧】盛り上げ隊長 アゲハ》
よっすよっす〜!
【第20階層 地底都市ルガンダ】常駐の【飢餓】傘下ギルド、【金の斧】の盛り上げ隊長! アゲハちゃんでーす!
今回はアゲハちゃんのホーム! ルガンダを紹介するよー!
まず外観ね! 建物自体は原住民のドワーフに合わせた石作りの小屋が並んでる感じ! 冒険者用のホテルは別でいっぱい用意してあるからそっち使ってね!
殺風景かもしれないけど、79階層から着想を得て作られた《提灯街道》は必見! 落ち着く雰囲気の提灯の灯に囲まれて、ドワーフ製のアクセサリーとかの露店を回れる楽しい街道があるんだよ!
天井で煌めく天の川は《夜星虫》っていう発光する虫なの! 鬼ヤバ! でも実際は光すぎて逆に姿わからんからキモくないよ!
ドワーフ用と異文化交流用に【金の斧】が作った公衆砂浴場があるよ! 地底では水浴びより砂浴びが主流なんだって! アゲハちゃんも体験したけど、砂めっちゃサラサラでめっちゃ気持ち良かった!
冒険者向けの蒸砂風呂とか、サウナとかもあるから是非来てちょーだい!
ルガンダでは原住民ドワーフちゃん達との交流に重きを置いてるんだよね! 気難しいと噂のドワーフ鍛治も、【鍛治師】以上のジョブなら弟子入りさせてもらえるようになったんだよ!
あとこれ別にルガンダには関係無いけど注意喚起! ケイヴ階層に出るうねうね《ケイヴワーム》は倒しちゃNGだかんね!
ドワーフ達泣いちゃうから! 飽きるほど言っておかないと新入りに荒らされちゃうからねー!
あとね、中央広場! 冒険者とドワーフが手を取り合うイベントを毎月開催してるんよ! めちゃ楽しいから寄ったら見てって!
もし訪れる事があったら、転移ゲート出て左手500mに【金の斧】があるから寄ってって! ルガンダの案内は得意分野だかんね!




