467.呪姫と聖母
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
第二試合
【真紅道】
──コークス&アピー
VS
【夜明けの月】
──カズハ&アイコ
──◇──
私は元傭兵。【真紅道】と一緒に攻略していたこともあった。
アピーさんもコークスちゃんも一緒に戦った仲だもの。ある程度の戦い方は知ってるつもり。
……コークスちゃんはかなり魔改造されてるみたいだけれど。
ともあれ、別に1対1で戦うわけじゃない。アイコちゃんがいるなら……この相手なら何とかなる。
「アイコちゃん」
「はい。交換しましょう」
……さすが察しがいいね。アイコちゃん安心感あるー。
基本的にこのルールは、先出しした相手に有利が取れる人を交互に選ぶ形になる。
だから私にコークスちゃんが有利で、
コークスちゃんにアイコちゃんが有利で、
アイコちゃんにアピーさんが有利……になる。
そして私とアピーさんで言えば……呪いが効かない私は、【呪術師】であるアピーさんに有利。
極端な有利不利があるのなら、やるべき事は一つ。
「行くよ。【虚空一閃】!」
「ギヒッ!【ウォークライ:ワイルド】!」
コークスちゃんは【グラディエーター】。物理攻撃に対する耐久性に限れば防御職に並ぶファイター。
【ウォークライ】系は攻撃誘導とターゲット集中のスキルだけれど……武器か何か知らないけれど、見た事ないスキルだ。
でも、範囲火力の全てを引き寄せる事は出来ない。余波はアピーさんに──
「【死期看取る屍鬼】──続けて【フレイムランス】!」
遠距離攻撃の弱体呪い。【虚空一閃】の余波はアピーさんに届かず、返す火の槍が飛んで──
「【瞑想】フルチャージです。お待たせしました──【仙法:波盾蒼海】!」
対抗するはアイコさんの蒼の"仙力"──波立つ布が壁となって槍を受ける。
そのまま着地したアイコちゃんの手に、私は飛び乗る。
「ギヒッ? ……やばい かも!」
「ごめんねコークスちゃん。また後で!」
──赫の"仙力"による筋力上昇。アイコちゃんは──私をアピーさん目掛けて、投げる!
ターゲット集中はある程度の距離を取れば解除される。これで、【夜明けの月】にとって有利な対面で相手が出来る!
「ひぇっ!? ……やるじゃないかカズハ。受けて立ってやるよぉ!【目取り足取り】"スライドギア"【フラッシュシャドウ】!」
視界と攻撃範囲減少の呪い。平行移動のアイテム。光による撹乱と分身作成の光闇混合魔法。流石アピーさん、手数が多い。
でも、私は呪いを喰らう"呪血"だもの。
「呪いを喰べて【厚雲灰河】!」
赫の妖刀は血を啜る。アピーさんの呪いは、私には通じない。
そんなことはアピーさんにも分かっているけれど──
「呪いを喰ってちゃ刀は振れないねぇ! かかってきな【分陀利】!」
「お見通しって事ですか。お望み通り──行くよ【分陀利】! 【灰燼一閃】!」
呪いを吸う【厚雲灰河】は、呪いを喰らう瞬間はスキルに使う事は出来ない。だけど私は二刀流、蒼の妖刀【分陀利】がある。
アピーさんの分身は4体。どれがどれだかわからないけれど──とりあえず無敵の【灰燼一閃】は出し得、のはず!
反応の暇無く金色の炎に斬り焼かれるは、老婆の分身。残る3体がこちらを向く──
「"呪い"が通用しない? 馬鹿言っちゃいけないねぇ」
「自分で自分に掛ける呪い以外は、その【厚雲灰河】で吸うしかないだろう」
「だったら逐一呪えば動きは半減だねぇ!」
「「「【目取り足取り】!」」」
【分陀利】は振り切った。【厚雲灰河】も抜刀済み。
【燕返し】で出す【灰燼一閃】は、【虚空一閃】と違って斬る相手がいないと不発になる──!
「くっ、もう一度吸って、【厚雲灰河】!」
「喰らいな! 【バーバヤーガ・ファング】!」
呪いを斬れば──私を囲むように、大地から牙が生えてくる。……避けきれない!
「【一閃】のプロなんて持て囃されちゃいるけどねぇ。そりゃ抜刀術以外大した事ないって事さね。
つまり明確な弱点さ。【真紅道】を相手するのにそんなもんぶら下げてちゃあダメだねぇ。当然突かれるに決まってるさね!」
アピーさんの高笑いが聞こえる。
……本当に、信じられないほどに強い。呪いメタの私を相手して、呪いで真っ向から戦うなんて。
それに戦術も極まってる。呪いと魔法の同時打ちはツバキちゃんも出来るけれど──そこにアイテム使用も併せるし、選択が一々的確で……要するに、強い!
──でも。
「──【迅雷一閃】」
「"スライドギア"──【アイススパイク】」
不意打ちの一撃も回避され、続く魔法は足場硬直の足止め魔法。──初速最速の【迅雷一閃】なら振り切れる。
「【燕返し】!」
「だろうね。【落ち葉散る蘭】!」
アピーさんを貫く紫電。──またも影となって消えるアピーさんの分身。あと2人。
貰った呪いは定数ダメージ。解除するのは訳無いけれど──その瞬間を狙ってアピーさんは攻撃してくる。
「驚いた。どうやって避けたんだい」
「視て避けました。これでもジョージさんの直接指導を受けていますから……!」
呪いの姫が、呪いに殺されるなんて洒落にならない。
ここからは最速。一手間違えればその瞬間終わる……!
──◇──
「──【仙法:赫崩】!」
「ギヒッ。【ラピッドパリィ】!」
赫の"仙力"による掌底も、コークスさんの短剣で捌かれ──返す棍棒を左手で受けるも、そのままノックバックで弾き飛ばされてしまいます。
着地と同時に加速接近しても、コークスさんはそれに追いついて対処する。……いえ、これは対処できている訳ではありませんね。ほぼ反射神経だけで動いています。
「──アイコさん 毒効かない 弾きも効かない 相性悪い!」
「そうですね。こちらが有利なはずですが……素晴らしいですコークスさん。貴女は本当に努力したのですね」
「ギヒッ。褒められた 嬉しい ありがと。
……でも このままだと 負ける」
【仙人】は常時状態異常耐性がありますから、毒の短剣は脅威になりません。このおかげで、硬直状態を続けられればこちらが押し切れそうです。
コークスさんは対応がほぼ反射神経に頼っているようでいて、その速度に思考が追いつきつつあります。とはいえそれは精神の疲弊に繋がる。休み無しで私の本気の格闘に対抗するのは難しい事です。
……とはいえ私も、コークスさんの速度に応じるために"纏い"のスタイルを崩せません。全身に薄く赫の"仙力"を纏うスタイルでなければ、全身をフルに活かさなくてはコークスさんのラッシュに追いつけませんし、"仙力"不足になってしまいます。
それはつまり決定打不足、という事にもなりますが──それでも長期戦に持ち込めばよし。
既に超高速のラッシュ。お互い空間作用スキルを使う暇がありません。
私のジョブ強化スキル【讃仙過海】は発動され出来れば常時"仙力"300%となって凄く強いのですが、発動に時間を要します。少なくともこの硬直状況では無理でしょう。
「ギヒッ。これは無理 逃げる」
「逃しません。【仙法:蒼鎧布】!」
「ウン。逃げない」
距離を取ろうとするコークスさんを蒼の"仙力"で拘束……しようとすると、コークスさんは振り返って回避。しまった。騙されました。
「ふっとべ! 【クラッキングノイズ】!」
棍棒が空を打つ。──衝撃波が、広範囲を吹き飛ばす。範囲型のノックバック……!
「蒼の"仙力"」
「エッ」
背中から、地面へ。突っ張りとして蒼の"仙力"を伸ばして。
筋力で踏ん張って、ノックバックを根性で耐える!
「ヤバ──」
「捕まえました」
呆気に取られるコークスさんを、右手で掴む。
これで逃げられませんね?
左腕に、ありったけの"仙力"を集中──
「アカン。【ラピッドパリィ】──」
「防御貫通です。100%【仙法:赫蓮華】!」
渾身の一撃を、全力で叩き込む。
顔面しか空いていませんから、お許しを!
「──ギヒッ」
──嗤うコークスさん。
ここに来て耐える、という事は、無いはず……。
「アイコ 強い。でも ババアも 強いぞー」
──肩に、死神の手が乗る。
ツバキちゃんとも相当数訓練をしてきた。だから分かる。
これは……死亡時発動の呪い、【焔鬼の葬賊】? 何故コークスさんが──
「そりゃ【焔鬼の葬賊】じゃないよ。それより弱い。【最期月虚蝶】って呪いさ」
肩の死神──いや、アピーさんが、私の首に鎌の刃を掛ける。
「違いは、よりダメージに寄ったもので──味方にかける呪いってところさね。
"仙力"を使い切れば、【仙人】にも呪いは通るだろう?」
ゆっくりと。死神の鎌が、私の首を──
──◇──
「アイコちゃん!」
アピーさんの姿が消えたと思ったら──いつの間にか、アイコちゃんの所に。
私にもアイコちゃんにも、呪いは通用しにくい。というか呪いが効く相手かどうかなんて、戦うまで分からない。
だからって、味方を呪うなんて! ……理にかなってはいるけれど! 味方なら間違いなく通るもんね!
──でも、距離はあるけれどまだ届く。アピーさんと1対1になるのなら、戦闘特化ジョブの私なら──!
「【虚空一閃】!」
「慌てすぎさね」
渾身の抜刀。荒れる刃の波を、アピーさんは──潜った。
──先入観。アピーさんは、これまで一度も激しく動く事は無かった。移動も何故か宙に浮いていた。
ここは【Blueearth】。老婆なら動けない、なんて事は無い。
「ほぅら届いた。【重石の想意思】」
──身体が重くなる。
防御減少、重量増加の呪い──!
「……っ、【燕返し】!」
「一度で充分そうさね。"スライドギア"──【テンペスト】」
返す刀はアピーさんには届かず。
迫る嵐を避ける脚が、もう動かない──
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
第二試合──勝者:【真紅道】
──◇──
「やれやれ。もう動きたくないねぇ」
「アピーさん 動けたんだ 意外」
「そりゃ動けるさ。あたいはゲームのキャラクターなんだよ? ……それはそうとコークス。あたいの事をババアと呼んだかい」
「わからない しらない だよね? アイコ」
「……ええ。私は何も聞いてませんよ?」
「じゃあ言ったんじゃないか。こっち来なコークス。お仕置きだよ!」
「アイコ! アイコひどい!」
「そりゃアイコさんは嘘吐けないよ……」
「ご、ごめんねコークスさん……」
 




