466.魔女の囁き
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
第一試合──勝者:【夜明けの月】
──◇──
クローバーの完全勝利。トップランカー時代から続く"お約束"ではある。
あるが……トップランカーの【ギルド決闘】は秘匿化されていたので、実際にクローバーがトップランカーと戦う所を見れたのは初めてだ。
それはここにいるセカンドランカーも同様。
フレアとフレイムは勝ちを捨てた訳でもないし、なんならクローバーにせよスペードにせよ割と同率に見ていたような気がする。
これを4対4でやってたんだよな、【至高帝国】。その上で無敗。そりゃ伝説だ。
高度な駆け引き、刹那の攻防。これでいて【真紅道】側はどちらも戦闘特化ジョブじゃないんだよな……?
「戦力を削る、とか考える意味無さそうね。クローバーに誰が当たったとしても、あのレベルで戦えるって事かしら」
「それこそ【真紅道】の強みだぜ。あいつらに単体で並ぶ実力ってのは【飢餓の爪傭兵団】だと10人くらいなもんだ。それが30人。やべーだろ。
まぁ複数人ならこっちの勝ちになるがな……」
当たり前のように【夜明けの月】の控え室に混ざるなウルフ。
……とはいえ、一番長く【真紅道】の相手をしてきた大先輩からの助言だ。ありがたく受け取りはする。
「次ぁ【夜明けの月】の先手だよな? 誰で行くんだ?」
「まだ考え中よ。……折角だから聞くけど、ウルフから見て危険な相手っている?」
「全員やべぇ。……ってのはナシだな、今更すぎる。
問題なのは誰がグレンの相方になるかだと思うぜ。
グレン一人でも化け物だ。そこに上澄み連中が混ざってくると本当に勝ち目が無くなる。
……最重要クソバカ破壊神バーナードとか、安定択の鬼ブレーグが不在なのは幸運だったな。
その辺差し引くと……ヒートが頭一つ抜けてんな」
「あとホムラさんも厄介だよー」
大量のパンを抱えてサティス登場。
お迎えだぞウルフ。
「あん? 引き篭もりの隠キャじゃねーか」
「ホムラさんは【真紅道】内部向きの働きばかりしていたからウルフは知らないだろうけれどね。あれでいてびっくりするくらい強いよー」
サティスが認めるほどの実力……。
ホムラは【真紅道】の裏方番長。外交から内政までなんでもござれの万能事務員だが、あまりにも情報が少なすぎる。
となると対策も容易ではない。ウチはほぼ全員選出だからな……。誰を残すか、ちゃんと考えないとな。
「ああ、あとこのルールならアイツだな」
「あー……あの人か」
ウルフとサティスが何か唸っているが……どうやら、もう第二戦の発表の時間だ。
選出を発表するのはメアリー。だがメンバーを決める際は俺も手伝う。そういう方針に決まった。
──◇──
『──さぁ! 続きますは第二戦! 宣言しますは【夜明けの月】より、となりますが!』
『そも人数が12名しかおらん【夜明けの月】が不利なのだよな、このルール。挙句ライズは固定で最終戦。
【真紅道】が後出し出来るのはかなり有利であろう』
『だからこそクローバーは先手で投げる最善手だったのですが、どうにも抑えが効かなかったのは痛いですね。クローバーを投げれば【真紅道】の後手は二人ともクローバー対策に回らざるを得ませんし』
『やらかしておるなクローバー。本当そういう所だぞ"最強"』
『協調性を学んでほしいですね』
『キング.J.Jさんとイツァムナさんからの熱い解説が光っていますが、残念ながらクローバーさんとスペードさんは現在お仕置き中で聞こえていない様子です。
……さて! それでは間も無くです! 第二戦先手【夜明けの月】メアリーさん! 発表お願いします!』
……好き勝手言ってるわね。
キング.J.Jの言う通り、このルールは先手側が基本不利なのに……そもそも人数差で【夜明けの月】が不利。
だから、最高で2回ある先手発表は"特定の相手を釣り出す誰か"で行くのが定石。
そのカウンターとして2人目を選出する……っていうのが一番良いと思うんだけれど……。
「ええ。【夜明けの月】二戦目1人目は──カズハ!」
「任されたよ、メアリーちゃん」
"呪血"の二刀流、カズハ。
元セカンドランカーにして、その実力は【サムライ】界隈でも最上位。こと火力のみ絞るなら、トップランカーに通用する超パワーファイター。
出し惜しみは出来ない。ヒートかホムラか、特記戦力が釣れるといいんだけれど……。
「ふむ。良い手だ。ではこちらからは──」
「だ、団長! えらいこっちゃです!」
【真紅道】側、グレンの方に現れたのは……ホムラ?
……何か話しているけれど……ここからじゃ聞こえないわね。
「……うん、分かった。メアリーさん、この試合の後でお話しが」
「あら八百長? ……なんて、そんな訳が無いわよね。構わないわ。それよりさっさと選んでもらえる?」
「あ、ああ。【真紅道】からは──というか、もう出てしまっているんだ」
カズハの前に着地するは、鎖で身体を縛っている小柄な女性。──目つき鋭く、カズハを睨む。
「【真紅道】第二戦、先発は"積石崩し"のコークス! 頼んだよ」
「うおおお! コークス! まぁた勝手に抜け出したでありますな! 戻ってこんかー!」
ヒートが絶叫してる。勝手に出てきたのね。……クローバーと同じ。
「メアリー。あの女、さっきウルフとサティスが言っていた要注意人物だ。
"積石崩し"……【グラディエーター】でありながらサブジョブの【バトルシスター】を活かして防御解除バフ解除を連打してくるリセッター。解呪も出来るだろうな。
……目に見えてカズハのメタだ。どうする?」
「そうね……。この振り分けは危険だけれど、やるしかないわね。
【夜明けの月】2番手は──アイコ!」
「はい、任されました」
カズハとアイコのペア。これは……およそ【夜明けの月】において唯一と言っていい、相性最悪のペア。
自分を呪うカズハには回復が通じない。【夜明けの月】において唯一の純正ヒーラーをここで消化するのはかなり危険。
……というか、ライズと組ませる第一候補だったんだけれどね。今回はまた話が変わってきちゃうから。
「では【真紅道】からは──」
「あたいだねぇ! ひぇっひぇっひぇっ!」
「ああまた勝手に……我らが副団長、"宮廷魔女"アピーを!」
現れるはヨネお婆様……アピー。コークスの背中をバシっと叩いて──ちょっと宙に浮く。
「副団長。アタシ いいの?」
「そりゃあ勿論さね。可愛い可愛いコークス。全員千切ってやんな」
「ギヒッ。お任せ お任せ!」
【呪術師】アピー。
2対2という少数戦において完全後衛というのは不利だと思うけれど……ヨネお婆様がそんな事分からないハズがないしなぁ。
「よろしくね、アピーさん。コークスさん」
「ギヒッ。カズハさん お久しゅう」
「ひぇっひぇっひぇっ。あたい相手に呪いは通用しないよぉカズハ」
「フォローします。カズハさんはどうか、自由に」
「うん。ありがとうアイコちゃん」
コークスは鎖を千切り──棍棒と、短剣を構える。随分と珍しい組み合わせね。
「アレが厄介なんだよね。"積石崩し"の本領だ」
ぬるっと現れるはサティス。それにウルフとベル。仲良し三人組ね。
「コークスは対クローバー、対【至高帝国】のために組み直した戦闘員だ。本来は、の話だが……。
【飢餓の爪傭兵団】も【真紅道】も、【至高帝国】をどうにかするための歪な成長を余儀なくされた。やがてどうメタってもクローバーに勝てないもんだから、その方針は諦めたんだがな。
【至高帝国】メタって本筋の攻略に影響するほどに弱体化してたら世話ねぇからよ」
「なんだけれど、コークスさんはその歪な戦術が肌に合ったみたいでね。通用しなかった対クローバー戦術を磨き上げてきた」
……さっきサティスとウルフは、コークスがこのルールにおいては厄介と言っていたけれど……。
バフを剥がす戦術というのは、確かにクローバーには有効でしょうね。聞いてみれば確かにその戦術そのものがクローバーメタか。……でも通用しなかったのよね?
「短剣は毒や呪いといったデバフを振り撒き、棍棒はノックバック効果で相手を吹き飛ばす。単純なヒット&アウェイ戦法だけれど、そこにコークスさんの性格が合わさると厄介なんだ」
「あいつはトップランカー【ギルド決闘】のために鍛えてきた先鋭だ。2〜6人程度の対人戦に特化してる。
……歪んだ成長に、全て高水準まで伸ばす【真紅道】の方針が合わさるとマジで厄介だ。
要するに、こういうルールにおいての戦い方を熟知してるって事だな」
それはつまり。
クローバーを相手にするためのバフ剥がしを持っていて、
スペードを見逃さないための広範囲の視野を持っていて、
ハートを弾き返せるほどのノックバックを持っていて、
ダイヤを捉え切れるほどの速度を持っている。
対【至高帝国】専用機。……でも【至高帝国】には勝てなかったみたいだけれど、ともかく……油断できる相手じゃないわね。
「こ、コークスさんが【至高帝国】に勝てなかったのは、素行不良が原因、だったそうです。コークスさん、戦いとなると話が聞こえなくなってしまいますから……」
「敵味方の区別も付かないのです。昔ミカンさんとリンリンちゃんが【真紅道】にお邪魔していた頃も、よくリンリンちゃんに間違えて攻撃していたのです。
……【真紅道】の被ペナルティ回数ダントツなのです。普段はヒートが取り締まっていましたが、アピー婆さんが相方なのですね」
狂戦士ねぇ。
……ただ単純に暴れるだけだったら、なんとかなりそうなんだけれど──
『では。双方揃いました。
"誇り交わす決闘裁判"──第二試合。始め!』
二つ目の鐘が、鳴り響く──。
──◇──
【ギルド決闘】"誇り交わす決闘裁判"
第二試合
【真紅道】
──コークス&アピー
VS
【夜明けの月】
──カズハ&アイコ
──◇──




