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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
祝福合奏ゴスペル/チャーチ階層

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457/507

457.小さな一歩は大きな変化


──侵略国家アルグライトにおいて、このゴスペルという地は重要な役割を果たす。

海底王国オヤンの支配するこの内海は、半分をアルグライトの支配する大陸、もう半分をアルグライトの敵対国の大陸に囲まれているが……オヤンと友好関係を結んでいるアルグライトは、この内海を横断する事が許されている。

とはいえ敵大陸まで直進するには物資が足らず現実的ではない。島国ジルヴィスは戦争に巻き込まない事とジルヴィスにおいて砂までしか踏んではならないという条約を締結しており、安定した中継地点が必要だった。


そこに現れたのが、不毛の大地ゴスペル。

いや元よりそこにあったのだが……敵国も上陸しないここが発展していた事を知れたのは、友好国のオヤンとジルヴィスのおかげだ。

だからアルグライトはこのゴスペルにおいて、力で支配しようとは考えていない。オヤンもジルヴィスも大切な友好国なのだ。


……とまぁ、それは国の話。

先陣を切って現場に立つのは、国ではなく兵である。


"アルグライト突波隊"ヴァンゼリア軍曹長は悩んでいる。

オヤンとジルヴィスと、我らがアルグライトはとても仲良くやっている。

兵も商人も変わらない。このゴスペルに差別はなく、魚人も宗教も受け入れられている。

だが、それでも薄氷の上だ。


武装船以外での内海航海は非常に困難を極める。

オヤンの助けを以てしても、輸送物資船は10隻にひとつは沈没してしまうのだ。

──果たして事故で済まされるか。

オヤンの中でも地の利を活かすならずものは少なからず存在する。

ゴスペルに居る"アルグライト突波隊"の中には、家族を海に呑み込まれた者も少なく無い。

だから、そういう者を抑えるのもヴァンゼリアの仕事なのだ。"アルグライト突波隊"においてヴァンゼリアより偉い者はいないのだから。


……だから、ヴァンゼリアを止めてくれる人は居ないのだ。




──◇──




【第180階層 祝福合奏ゴスペル】

海岸崖上

"アルグライト突波隊"軍事演習場


「よぉーアカツキよー」


「んだよメルト」


──元【月面飛行(ムーンサルト)】メンバーは、なんとなく演習を見に来ていた。

いや、何となくじゃないけども。ちゃんとお仕事の内なんだが。

ともあれ、アカツキにとっては比較的マトモに尊敬してくれる可愛い部下──しかし元暗殺者──メルトが、アカツキの袖を引く。


「もうさぁ、【夜明けの月】も【真紅道(レッドロード)】も足踏みしてるし出し抜こうよ。そしたら【ダーククラウド】の連中、潰せるぜー?」


魅力的な提案。アカツキは頭を捻る。

自重していたとかそんな事はない。まるでそんな事、考えていなかったのである。


「んー……やだ」


「どうしたビビってんのかアホアカツキ。私はいいと思うんだよメルト。天才」


「へへへ。嬉しい優しいありがとうヴァイズのチビ」


「アンタが言うなー。私の方が大きいんですけど?」


「ヴァイズも僕も世間一般的に見たらチビな事に変わりなくないー?」


「チビに論破されたー! アカツキ慰めて」


「お前らな……」


月面飛行(ムーンサルト)】名物、チビガキコンビのヴァイズとメルト。後々話したが、恐ろしいことに両方とも成人済みである。

……ともあれ、ともかく。そんな小動物に癒されている場合ではない。


眼前には──兵器。

軍艦が人の形を成している。


「……コレをどうにかしてからだっての」


「み、みなさん、私の後ろに」


リンリンが矢面に立つ。

……今の【月面飛行(ムーンサルト)】の役割は、【夜明けの月】の保護ってところだろう。

リンリンだけじゃない。ここにはトップランカーの【キャッスルビルダー】トップ3、ミカンにサカンにフレアが居る。さっさと市街地に送り返さないと市街が壊されるだろう。


「チビコンビ。エンブラエルが来るまで建築班を守れ。そんでエンブラエルが来てからはそのまま着いていけ。ヴァイズでもちっとは足しになんだろ」


「はー? 一丁前に私達を遠ざけようとしてます? 舐められたもんだねメルト?」


「そーだよアカツキ。僕たち揃ってれば負ける道理無し、だよー」


「そこまでやる相手じゃねーよ。役割分担だ。

特にヴァイズ。お前は【キャッスルビルダー】No.4だろ。先輩にイイ所見せてこい」


「ぅ……アカツキ生意気。アラカルトさん、しばいといて」


「ええ。それはもうボコボコにしておきます。だからお願いね」


「了解しましたー。僕はヴァイズの警備だねー?」


「おう。任せたぜメルト」


ミカン達と共に離れていくヴァイズとメルト。

……周囲の視線が痛い。リンリンでさえなんだその目は。


「……んだよお前ら」


「ちゃんとリーダーやれてますねアカツキ! HAHAHAHA!」


「そういう所……素直に褒めても、いいんじゃない?」


「うむうむ。立派なものよ。朕が褒めてやろう!よしゃよしゃよしゃ」


デビルシビルに問答無用で撫で回される。

痛い痛い。お前ヒーラーなのにダメージ与えてんじゃねーよ。


……戦力過多なのは間違い無いしな。【月面飛行(ムーンサルト)】だけでなく、【夜明けの月】の"無敵要塞"も居るし、なにより──




麿(まろ)は感動したでおじゃる! 笑いが止まらん!」




──【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】大統領バルバチョフ。旧友にして、あまり関わりたく無いタイプのアホ。

感動すんのか笑うのかどっちかにしろよ。


「オラ行くぞ。シャイニングは【スキャン】頼む」


「いいんじゃない?」


どっちだよ宝石皇后。やってくれんだろうけども。




──【スキャン情報】──

《ヴァンゼリア・コントラディクション》

LV169

弱点:水

耐性:地/風/火

無効:斬/打/突

吸収:


text:

大聖堂の演奏に狂わされた軍曹長。

隣人と手を取る事ができず、兵士である事を捨てて兵器となった。

ほぼ全ての攻撃に耐性を持つが、水属性の攻撃を受けると一定時間一つだけ耐性が解除される。

また、四つ耐性が解除されると自爆しゴスペルを火の海に変えてしまう。

────────────




「なんかヤバい事が書いてあるんじゃない?」


「ふざけんなよ……苦手ジャンルじゃねーか」


ヴァンゼリア軍曹長は軍艦と融合して、巨大な砲門をこっちに向けやがる。

……【月面飛行(ムーンサルト)】は少数先鋭。テクニックで色々と上手く立ち回るのは得意だが、単体火力っていうとどうにもなぁ。短期決戦は得意じゃねーんだよ。


「マリリン。今【サテライトキャノン】は……」


「50%以上は約束できるわよ。……いえ、あんなにデカい的なら65%はイケるわ」


ドロシーやらクアドラやらで基準が麻痺してるが、50%超えの出力を安定させられる【サテライトガンナー】なんて片手で数えられるほどしか居ない。火力として充分過ぎる。


「シャイニングは水属性要員だ。それで斬属性が剥げたら【サムライ】のアンダーと【聖騎士】のシュタイン、【グラディエーター】のナイスで一気に叩く。

突属性だったら【スナイパー】のアラカルト。足りねぇ部分は俺が行く。【スイッチヒッター】の本領発揮だな」


「ふむ。面倒でおじゃる」


平安貴族、前身。

……めちゃくちゃ嫌な予感がする。


「這い寄り出でよ"やぎちゃふ"!【四色魔統合(クアトロ・ショック)】でおじゃる!」


【デビルサモナー】バルバチョフの最高位悪魔、四本腕の山羊悪魔。

その四本の腕全てで同時に、四属性の魔法を唱える事が……できる……んだが……。


……全部水色だ。


「おい、バカ!」


「貴様もまたリーダーであろう。上手く指示してみせよ! ()()()()()でおじゃる!」


静止なんて通用しない。バルバチョフは止まらない。

悪魔が放つは、四度の水魔法。


水魔法を与えると耐性が解除される。

四つ解除されると自爆する。

じゃあ、それはつまり──


「バルバチョフ、何をするのよ! 軍艦が爆発するわ!」


「元よりこの戦力でマトモに相手など出来る相手ではないぞよ。というか誰でも無理であろう。

真っ当な攻略に慣れすぎでおじゃる。さぁ頑張れアカツキ!」


無茶振りしてくれやがるぜ平安貴族このやろう!

──時間が無い。考えろ。考えるな。動け。


「リンリン! デビルシビル!ナイス! 手ぇ貸してくれ!」


有効属性四つで自爆。ゴスペルを火の海に変える。

あまりにも条件が厳し過ぎる。無属性攻撃の【サテライトキャノン】でもなけりゃ碌なダメージも入らない耐性をしておいてそりゃないぜ。

──つまりバルバチョフが言いたかったのは、このボスは──自爆させる事が、最適解!


「──【ワイドシャッター】!」


リンリンには可能な限り大盾の防御範囲を広げてもらう。それでも軍艦の一部しか押さえきれないが──ここは崖の上だ。


「神託である。【剛力神羅】をナイスとアカツキとリンリンに。攻撃力のバフである」


「あと数秒も無ぇ! 一気に行くぞお前ら!」


リンリンの大盾で。

俺も大盾に【スイッチ】して。

ナイスは普通に筋力で。


──ヴァンゼリア軍曹長を、海に突き落とす!


「俺たちも行くぞアンダー! 【ピアッシング】!」


「おうよシュタイン!【巖烈一閃】!」


作戦もクソもねぇ。ただの力押しだ。

だが──なんとか、軍艦を弾いた!

ヴァンゼリア軍曹長は、海へと落ちる最中──光と共に、爆散!




──◇──




「うーむうむうむ。ようやったぞよアカツキ。ふほほ」


「テメェバルバチョフ! なんて事しやがる!」


「朕が居て良かったな。全員回復しておいたぞ。余波をマトモに受けていたら全滅であった」


「この無茶苦茶感、懐かしいデース! バルバチョフが【月面飛行(ムーンサルト)】に居た頃を思い出しマース!」


「【Blueearth】のちんどん屋扱いされてた頃の話はしたくないのだけれどね。ともあれ、よくやったわ皆。リンリンさんも巻き込んでごめんなさい」


「い、いえ。アカツキさん、楽しそうで何よりです」


「楽しくない! ……事は、まぁ、無いが。うん。

他人様に迷惑かけた事は謝れよバルバチョフ。リンリンは【夜明けの月】の人だぞ」


「誠に申し訳御座いませんでした」


「あっはい」


「……お、おう。ちゃんと謝れんじゃねーか。次は俺に謝れ」


「ごめんちゃい」


「誠意を見せろ大統領!!!」

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