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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
祝福合奏ゴスペル/チャーチ階層
453/507

453.奏でるは決戦の狼煙

【第180階層 祝福合奏ゴスペル】

──【真紅道(レッドロード)】仮拠点


最前線を進軍する【真紅道(レッドロード)】の拠点はいつもテントである。

それは攻略が停滞していた頃も、ゴスペル滞在が決定したこの2ヶ月でも変わらず。スカーレットの命を受け進軍する【真紅道(レッドロード)】にとって、根を下ろすような拠点は許されない。

そもトップランカーとは【真紅道(レッドロード)】の事を指していた。そこに対抗する傭兵やソロプレイヤーが集まり形となったものが【飢餓の爪傭兵団】。その後に生えてきた【至高帝国】【ダーククラウド】【夜明けの月】もまた、変わらず。

唯一たるトップランカー。その誇りが【真紅道(レッドロード)】の結束を強めていた。


真紅道(レッドロード)】の組織形態は、騎士王グレンをトップとした縦社会。とはいえ【飢餓の爪傭兵団】のように部隊分けされ徹底的に軍事的管理されている訳ではない。

真紅道(レッドロード)】は言わば全員が部隊長。内何人かで固まっても、即座に連携が取れる。

それを成し遂げるは、鍛え抜かれた個々人の責任感。そしてスカーレットやグレンといった、崇拝に近い絶対的存在。


と、言っても……人は二人も集まれば必ず先導者が生まれるもので。

副団長たるアピーは主に経営の資金繰りが役割で、人を纏めることは好まない(ちなみにやる時はめちゃくちゃ上手く纏める。皆が認める年の功である)。かといってグレンが全て纏めるというのは不健全すぎる。

こういう時、かつてはグレンの右腕であるバーナードや、或いは純粋な経歴順でグレンやアピーと話しやすいブレーグなどが代表者を買って出た。ブレーグは【首無し】であり、刑期は満了したが【真紅道(レッドロード)】を脱退。バーナードはご存知、気付いたら【バレルロード】で姫と合流している。


古株といえば【キャッスルビルダー】のフレアや【ビーストテイマー】のフレイムだが、二人はかなりの裏方気質でそもそもリーダーをしない方が良かったりする。万が一の緊急動員に回されやすく、リーダー業を全うする事ができないので。


だから、今の団員にとっての現場指揮者はグレンではなく──ある一人の女性である。


悪魔祓い(エクソシスト)】ホムラ。かつて【神気楼】に在籍し、ソニアと覇を競ったハンマー使い。

真紅道(レッドロード)】としては比較的新入りに当たるが……彼女は今日もテントに引き篭もっていた。


「ホムラさん。団長はどちらに?」


「あぁヒート先輩。団長は定例会議に。あの宝箱についての話ですね、たしか」


「協力感謝であります! とうっ!」


駆け足で立ち去るは爆裂軍人ヒート。会議は参加自由だが、突撃しないだろうか。


「フレイムせんぱーい! 会議室にこちら届けて頂けませんか?」


「おっ頑張ってるねホムラ。お易い御用だ!」


ヒートはフレイムを尊敬しているからこれで大人しくするだろう。フレイムは元より変な事はしない。

爆弾解除。危険を予防。

資材管理・経験値調整・情報統制・各ギルド各拠点との取引調整──

これら凡そ一個人が請け負うような仕事ではない激務を、ホムラは二つ返事で請け負った。故にNo.2。

果たして何故、彼女がここまで出来るのか──




(推しに囲まれていて仕事できるの最高すぎ〜!)




──人間関係把握の鬼、地獄のカプ厨ホムラ。

真紅道(レッドロード)】29名、既に脳内でカップリング成立済み。




──◇──




──大聖堂裏

真紅道(レッドロード)】【夜明けの月】打ち合わせ用完全中立会議室


「……で、見つかったのがコレか」


五つの派閥、五つのダンジョン。

その奥地で発見された宝箱が、五つ。

……一つ壊れているが。


「これが恐らくは"アトランティック・クライス"を復活させるためのアイテム、なのよね?」


「そうなるはずだね。新しいクエストが発生したという報告もないし」


民間クエスト80件、全部クリアしてようやく現れたダンジョンクエスト。その報酬が全部同じというあたり、レイドボスに関わっている可能性は高い。

……が、ここに"アトランティック・クライス"の分霊はいない。ひとまず【真紅道(レッドロード)】と【夜明けの月】だけの話である。


「で、どうするのよグレン。持っていくんでしょ?」


「いいのかいメアリーさん? 【夜明けの月】主導でクエスト進行しなくて」


「いいわよ。これ【真紅道(レッドロード)】からの提示条件だったし」


レイドボス"アトランティック・クライス"と関わり始めたのは【真紅道(レッドロード)】が先だ。クエストの進行も【真紅道(レッドロード)】に任せた方がいいだろう。

……こういう色々と不透明な時は、片方だけで進める方がいい。共倒れになるのだけは避けたいからな。


「じゃあ貰って行くとしよう。……そして、そろそろだろうね。クライスさんが復活すれば一先ずの心残りも解消される。そうなればようやく【夜明けの月】と【真紅道(レッドロード)】の正々堂々たる決闘だ。

待たせてしまって申し訳ない」


「いやここまで大ごとにしたのはウチのライズだから……。そこはトントンでいいわよ」


「んだよ。【飢餓の爪傭兵団(ウチ)】の時より平和的じゃねーかメアリー」


「やかまし。アンタらは抜け目も遠慮も無さすぎるのよウルフ」


珍しく会議に参加していたウルフだが、何か口出しするわけでもない。同じトップランカーとして、【真紅道(レッドロード)】の決定を見届けに来たのだろう。


「あんま信用すんなよな【真紅道(レッドロード)】を。いい子ちゃんじゃ済まないぜ?

そもそも始動のきっかけは正義じゃなくて妹の我儘じゃねーか」


「ははは、耳が痛い。それを言われてしまったらなんとも……。

一つ言えるとすれば、それもまた正義である……という事だよ」


宝箱を回収する【真紅道(レッドロード)】一行。

このまま大聖堂に向かう事になるわけだが──。


「クエスト、興味あるんでしょ、ライズも連れて行って貰いなさいよ」


「ええー? いいのぉー?」


「白々しすぎる……。ことの些細を共有するのが伝聞というのも非効率的だ。良ければどうぞ、ライズさん」


「さすが天下の団長殿だ。じゃあメアリー、ちょっと行ってくるわ」


「アンタのストッパーが要るわね。……ジョージ、頼める?」


「ああ。俺も興味あるからね。是非とも」


真紅道(レッドロード)】と俺とジョージ。違和感の無いメンバーだ。疑われる事もない。

……だから、()()()()()が出来るわけだ。




──◇──




「"アトランティック・クライス"殿はいつも通り、大聖堂にてお待ちであります」


宝箱を運ぶ【真紅道(レッドロード)】は数名。合流したヒートとフレイムを加えて10名だ。

そこに俺とジョージ、足すことのバーナードとスカーレット。最近この二人はずっとグレンといるな。


「……ライズ……」


「どうしたバーナード。何か気掛かりか?」


「……いや……そろそろ決闘となるだろう。お前、ずっとゴスペル改装に力を入れていたが……ちゃんと鍛えているのだろうな……」


「大丈夫大丈夫。【満月】の鍛治グループも到着して武器強化まで万全よぉ」


「……そうか……」


バーナードは慎重な男だ。

真紅道(レッドロード)】の影の顔、団長の右腕。

王道たる【真紅道(レッドロード)】で唯一、"悪行"ステータスを要する【ヴァイキング】を選んだ男。

思慮深く、要するとあらばどのような事もやらかす……その辺は黎明期からサバンナ階層での出来事まで、これまで散々見てきたが。


だが、今はまた微妙な立場だ。


真紅道(レッドロード)】は抜けたものの、かつての親友グレンも愛するスカーレットも見捨てる事はしないだろう。

……そういう義に厚い男だから、【夜明けの月】にも多少の好意があるのかもしれない。あってほしい。


「やあクライスさん! お待たせしたね!」


そう考えている間に、もう辿り着いてしまった。

荘厳なるパイプオルガン、その足元──鍵盤の精霊。

このオルガンの方がレイドボスの本体なんだよな?


「あ、お待ちしておりましたー」


「ははは。時間こそかかったが、これで何か変わるはずだ。どうぞ」


まず一つ。宝箱を開けると、そこには──


「──これは……?」


水色の、フルートだろうか。

宝箱の中に押し込められたそれは、淡く光っており幻想的な存在感を放っている──




「……ダメ、です」




ぽつりと、"アトランティック・クライス"が呟く。

言葉の後、全員はクライスの動向を窺っていたので──()()に気付いたのは、ジョージだけだった。


「全員撤退! ()()()()()()()()()()()!」


──瞬間。

轟音を鳴らし、パイプが空から──巨大な手となって襲い掛かる!


「に、逃げてくださいみなさん!」


明らかに遅れた"アトランティック・クライス"の反応だが──ジョージのおかげで間一髪。全員大聖堂の入り口まで飛び退いた。


「ライズ君、宝箱は!?」


「無理だった。……が、()()()だ! どこまでがアレの領域か分からないな……。退くぞ【真紅道(レッドロード)】! 異論無いよな!?」


「ああ。私達なら倒す事も出来るだろうが……それが彼女のためになるかどうかは分からない。一度退却しよう」


大聖堂を壊す巨大なパイプの怪物。

【孤独なる聖譜 アトランティック・クライス】──その本体が、聞くに耐えない絶唱を奏でる。


大聖堂を背に、市街地を走る。大聖堂を拠点とする"オリジン協同教会"は今、3日に一度の家庭内黙祷日である。全員がこの2時間だけ、家に帰って祈りを捧げているはずだ。

だからこの日この時を選んだ訳だが。万が一に備えてよかったな。


「──団長!ライズさん! ホムラから通信っす」


フレイムがわざわざ俺にも緊急メールを見せてくれる。

真紅道(レッドロード)】の影の功労者、根回しのプロ"袖の下"ことホムラ。既に【朝露連合】その他ゴスペル内ギルドとの交渉により情報網を張り巡らせていた。この速達も画像付きだ。仕事が早い。


「……これは……」


映されていたのは、海岸の写真。

……大量の魚人が、武器を持って上陸している。


「"オヤン海巡警邏"はどうしている?」


『hey.ライズ! また何かやらかしたネ?』


音声通信が繋がるは、現在商業中の【マッドハット】セリアンから。

半魚人といえば海底帝国オヤン。そこと商売している商人チームが不安だったんだが、通信繋げられる程度には大丈夫、なのか?


「無事かセリアン!」


『ワタシと商品は無事だネ。【喫茶シャム猫】の穀潰し共にボディガードさせているから。

but.ビジネスパートナー達は無事とは言えないナ。オヤンの連中、突然暴れ出したものだからネ。

商店の方は何とか鎮圧した。処分まではしていないから安心したまえ。指示を待つから早めにネ?』


『ライズさん! 私です、ナズナです!

"オヤン海巡警邏"はゴスペル中を巡回しています! 恐らく70名近くは商店の外にいますから、そちらはカバー出来ていません!

一応()()()()()()冒険者の警備班が何とかすると思いますが、被害は出ると思いますよ!』


【マッドハット】元副店長のナズナもしっかり動いているようだ。良かった良かった。

……とりあえず目下、ゴスペル内部の方は大丈夫そうだな。


「ライズさん、これは一体……」


「まぁ保険だ。その辺は後で話すから……とりあえず逃げるぞ」


海からの襲撃もある。対処しなくちゃならない案件は山積みだ。

……そうこうしている間も、大聖堂からは鈍い演奏が奏でられている。まるで何かを呼ぶように──

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