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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
祝福合奏ゴスペル/チャーチ階層
451/507

451.見えない蜘蛛糸

【第180階層 祝福合奏ゴスペル】


定住を拒む"試しの大地"──信徒信者を失った空虚なる大聖堂。

繁栄を呼ぶは超常なる冒険者。人の居る所に人は集まり──出店は商店となり、やがて交易都市となる。


「灰しかない不毛の大地だが……人が持ち寄れば商売は出来る。現実的に見てとても不可能だが、冒険者はルール無用って事か。

つまりゴスペルは冒険者によって栄える拠点階層という訳だな」


「ゴスペルに魔物は寄り付かないらしいし、ここは海に近い。海の先までは多分設定されてないだろうけれど……船商にとっては航路の途中にある安全地帯として扱われているようだね。

船便が多くなれば巡礼者も増える。大聖堂の利用者も多くなってきたよ」


ジョージとツバキと一緒にゴスペルを巡回中。

"アトランティック・クライス"は大聖堂でノリノリで演奏中みたいで、オルガンの音はゴスペル中に響き渡っている。


この2ヶ月で色々と変わったが……いよいよクエスト開始だ。

ちなみにギャラクシー階層の"カーウィン・ガルニクス"はレイドボスとしてもセキュリティシステムとしても復活した。ひよこの事を聞きに行ったところ、出力を落として戦闘用アイテムとして"星辰獣(セーマ・シリオン)"を他の階層でも使えるようにしたらしい。その実験体があのひよこだそうな。

"カーウィン・ガルニクス"は……随分と不貞腐れていたが、恨んだりはしていないそうだ。ギャラクシー階層に滞在しないならどうでもいい、らしい。


なのでひよこはとりあえずベルに渡しておいた。今の所一番強く使えたのがベルの"星辰獣(セーマ・シリオン)ウルフ"だからな。


「クエストの内容は、殆どが新規住民のお悩み相談だ。住民増える→お悩み相談増える→信用を得て踏み入った相談を受ける、の王道コンボだな」


「新住民達も組織立ってきたわねぇ。三つの国の交易商会、大聖堂を利用する信徒、この"不毛の大地"の開拓者の子孫……大きく分けてこの五つかしら」


「いやはやなんとも泥沼な土地の奪い合いが始まりそうだが、そこは【朝露連合】と【マッドハット】が先手を打ったからね。商会は実質冒険者が支配、宗教側は放置で問題無し」


海の先にある三つの国。

密林の島国ジルヴィス、海底帝国オヤン、大陸の侵略国家アルグライト。

ジルヴィスは魔術と呪いに長けたタトゥーが特徴の人間族、オヤンは半魚人が人間との交流交渉用として上陸。アルグライトは武装した兵団だが、意外にも友好的だ。

信徒や開拓者の子孫はこの三つの国に散り散りに存在するらしい。つまりかつてはこの三国が手を取り合ってこの"不毛の大地"を開拓したらしいが……。


今ゴスペルに存在する派閥は五つ。

呪具や魔法具をアルグライトに、加工した木材や石材をオヤンに売る島国ジルヴィスの"ジルヴィス運船会"。

安全な海路と海上魔物の抑制をタネに両国と交渉する海底帝国オヤンの"オヤン海巡警邏"。

武器や鉄資源を惜しみなく提供してゴスペルを中継港にしたい"アルグライト突波隊"。

大聖堂を利用する巡礼者達の総称"オリジン協同教会"。

開拓者の子孫の集まりらしい"ゴスペルラード・フロンティア"。


この派閥のうち、【朝露連合】と【マッドハット】は"ジルヴィス運船会""オヤン海巡警邏""アルグライト突波隊"を。

真紅道(レッドロード)】は"オリジン協同教会"を。

俺たち【夜明けの月】は"ゴスペルラード・フロンティア"を中心に調査している。


……とは言っても、どこもそこまでドロドロって事はない。特に"ゴスペルラード・フロンティア"の半数は三国の厳しい環境から逃げてきた世捨て人で、ここを"楽園"と呼んで慎ましく暮らしている。

今日はそんな"ゴスペルラード・フロンティア"のトップである爺さんに会いにきたわけだ。


小高い丘の上の山肌沿い。大聖堂からも港からも離れたゴスペルの端っこに建てたテント風の家屋群。

その中の一つにお邪魔する。


「おぅ、よぅ来たな冒険者の方々!」


見上げるほどの巨漢。

傷だらけのヘルメットからツノが突き破っている。

全身傷だらけの大男──アルグライト出身、鬼人族ヴォルカルグ大親分。


「テメェら! 大恩人のお客さんだ! 茶の一つでも出さねぇか!」


「「「ヘイ、親分!!」」」


人種様々ながら柄の悪い部下達。

……いや、温厚な奴らなんだよ。ほんとほんと。


「いやー懐かしさすらあるね、こういうの」


「ジョージは丸暴じゃ無かったんだよな?」


「いやはやははは」


誤魔化すな。




──◇──




「──冒険者の皆さんが再開拓してくれたおかげで、俺たちもこうしてもう一度この大地に帰ってこられた。……って言っても、誰もここに来た事は無いがな……」


バケツみたいな湯呑みに並々注がれる熱湯。

ヴォルカルグ大親分を含め、あくまで子孫を主張している"ゴスペルラード・フロンティア"はこの土地の事を知らない。

元はと言えば、各国のしがらみから抜け出すためにヴォルカルグ大親分が、実家の書庫から見つけた先祖の手記を頼りにここにやってきたと言う。

その性質上、特殊クエストが発生するならヴォルカルグ大親分で間違いない。ないのだが……。


「何か掘れたのか?」


「まぁそうと言えばそうだな。冒険者さん達にゃ定期的に洞窟の魔物退治を依頼させてもらっていたわけだが」


ヴォルカルグ大親分の手記には、山の中にある財宝の話があったそうで。大聖堂の結界の届かない洞窟に沸いた魔物を討伐するクエストがよく発令されていた。

受ける度に洞窟が広がっていくから、多分そのうち何かが見つかるんだと思ったが……ビンゴだったな。


「山を掘ってりゃ空洞に貫通する事なんて日常茶飯事よ。だが今回はまた変な所に繋がってな……」


「変な所、というと?」


ヴォルカルグ大親分はテントの外を見る。

真っ直ぐ正面の大聖堂からは、ここまでオルガンの音色が届いていた。




「大聖堂の地下通路か何か、なんじゃねぇかな。

小綺麗な通路……いやアレは迷路だった。ヤバい気配がしたから引き返したよ」




──◇──




──大聖堂裏

真紅道(レッドロード)】【夜明けの月】打ち合わせ用完全中立会議室


「……地下の大迷宮か。突然きな臭くなってきたねライズさん」


【夜明けの月】と【真紅道(レッドロード)】、全員ではないが参加出来る奴は毎日この報告会に参加してもらっている。土地だけは有り余っているからと、すり鉢状の講義室みたいなバカ広い会議室を作っていてよかった。

報告はどこも似たようなものらしく……二つの共通点があった。


「商会組も似たようなものだネ。"オヤン海巡警邏"からは海中からの地下水路の発見。"アルグライト突波隊"からは海岸沿いの魔物発見報告」


「"ジルヴィス運船会"からは()()()()()()()()呪いの報告。後を付けたところ、見たことのない洞穴に入って帰って来なかったらしいわよ」


「"オリジン協同教会"からは井戸から謎の声がするとの報告が。ちょっと落ちてみたけれど、未確認のダンジョンを確認したよ」


体張ってるなぁグレン。

……とにかく、これらの報告は全て今日発生したものだ。


「発生が同時だったのは、多分ゴスペル内の人数然り好感度然りが一定に到達したからだろう。つまり五つの派閥それぞれじゃなくて、ゴスペル全体の状況でクエスト発生は管理されているって事だ。

後は……"アルグライト突波隊"だけよく分からないが、どれも何かしらで突然ダンジョンが現れたって所か」


特に不気味なのは"ゴスペルラード・フロンティア"の洞窟奥の迷宮。

"ゴスペルラード・フロンティア"の本拠地は大聖堂の逆端だ。つまりゴスペルの地下の端から端まで迷路が広がっている……可能性があるわけで。


「ゴスペル自体は発展したし、クライスさんも街に出られるようになったけれど……まだデータは復旧されていないみたいだね。恐らくこのダンジョンを攻略すれば戻るんじゃないかな」


「そう見ていいだろうな。……だがまぁ、魔物が出る可能性は高い。せっかく冒険者がいっぱいいるんだ、アイツらにも手伝ってもらうとしよう。

500人いるんだ。一つあたり100人で潰せば間違いない」


「人海戦術が過ぎるね。容赦ない。流石ライズさん」


不本意だ。そもそも黎明期は一緒にやってきただろ人海戦術。


「……それで。"アトランティック・クライス"を復活させたら、決闘する。それでいいのよね? グレン」


「ああ、そうだ。ここまで大掛かりになるとは思って無かったよ。ごめん」


「いや構わないけどね。お陰で色々と準備できるし……。

でも、どうして"アトランティック・クライス"のためにここまでするの?」


真紅道(レッドロード)】はグレンの善性に惹かれて集まった連中と言える。

だから俺はいつもの人助けだと思っていたが──メアリーには、違うものが見えたらしい。


「……そりゃあ当然、困ってる人は見逃せないだろうとも。私は【真紅道(レッドロード)】の団長なのだから」


「困ってる人、ってより()()()()って感じよね。

……ここまでサード階層のレイドボスがやらかしてきてるのよ。あたしとしては、今のままレイドボスとして何も出来ない状況に抑えておきたいのだけれど。

勿論、今更ひっくり返すつもりは無いわ。ちゃんとクライスの復活に協力するけれど……"正義"ってのは、クライスの復活なの?」


「……」


言葉を発さないグレンの表情は、依然変わりなく凛々しいまま。

だが──酷な話では、ある。


「レイドボスが暴れたところで俺たちなら何とか出来るだろ。あんまりいじめてやるなよメアリー」


「……そう、ね。ごめんなさい。無神経な言い方だったわ」


「いや、正論だ。何をするかわからないレイドボスを復活させる事は正義とは言い難い。

だが、目の前で困っている人を見捨てる事もまた正義とは言えないだろう。

……私は正義を捨てて正義を取った。せめて選んだ正義だけは折らないつもりだ」


──瞳は揺らがない。

それを見て、メアリーは……一瞬だけ、眉を顰めた。




──◇──




──グレンは、ゴスペルの異常性に気付いている。


冒険者が増えたら増えるNPC。

拠点階層に発生するダンジョン。

一向に復活しないレイドボス。


その上で"アトランティック・クライス"を選んだ。

それは、つまり──




「どこかで崩れるわね、この平和」




絶対の正義なんてものは無いのよ。

だから、"折れない正義"なんてものを掲げる奴は……厄介なのよね。

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