45.新たなる選択肢
【第14階層フォレスト:黄金の花園】
一面に広がる黄金の花畑。
しかしその正体は全て《スタンシード》。
「槍以上の距離で攻撃すると《スタンシード》のスタン付与部分がアイテム化します」
ライフルを構え、通常攻撃の3連射。
ドロシーの射撃は的確に花を撃ち抜き、3つの種となった。
「触れるとスタンしてしまいますので、バックを投げます。バックに接触してインベントリに格納された事が確認できたら拾います。
インベントリ内操作ならスタンしないので、別枠でインベントリを圧迫している《スタンシード》達をスタックに纏めます」
とんとんと慣れた手付きで《スタンシード》を回収するドロシー。普通に取引ができないため高額な《スタンシード》を惜しげもなく使っていたのは、こういう裏技があったからか。
「結局インベントリから出す時にスタンするので一度に売れる量には限りがありますから、金策にはなりにくいです。それでも少しでも【エルフ防衛最前線】のために細々と売ってましたけど……」
「ドロシーちゃんが定期的に出かけていたのはここに来てたからなんですね。単独行動が多いから心配してたんです」
……なんというかドロシーは、ゲーム勘が強いな。
俺も記憶復活前に効率重視の攻略方法を考案したりしたが、それはあくまで倫理より効率を取っただけの理屈がある。
ドロシーのアイテム化ライフル狙撃だの、《スタンシード》射撃だの、《スタンシード》捕獲術だといった……ゲームの小技みたいなテクニックを思いつくのはすごい事だ。
だって全部記憶復活前の発明だもんな。
「すげーじゃんドロっち! 天才かー?」
「《スタンシード》を素材要求してくるスタン回避装備が安く作れるな。新たな商品として【金の斧】で使えるか……?」
「んやーここは流石に【ダイナマイツ】管轄じゃない? ウチからじゃ遠すぎっしょ」
「だが物作りは俺達の領分だろう。新たな【朝露連合】にとってもいい食い扶持になる。ボンバさん経由で提案するのは?」
「あんま【飢餓】優位なやり方すると【朝露連合】の立場悪くならん? 【ダイナマイツ】落ち着くまでは大人しくした方がよくね?」
「んぅ……一理ある」
アゲハさんとアイアン8君は一転商人の顔になって真剣に協議している。あまりに真面目すぎてメアリーがビビってる。
「なにあれ。アゲハさん、お金に頓着なさそうだと思ったけど」
「【金の斧】は【飢餓】傘下としての仕事の他に、ルガンダでの商業を独占してる。【飢餓】唯一の領域なんだあそこは。だから彼らもやや商人の気質があるんだろうな」
アドレは実質【井戸端報道】が、ドーランはかつて【鶴亀連合】が、そして30階層以降は【マッドハット】が階層での商業を取り仕切っている。
唯一20階層のみ【飢餓の爪傭兵団】傘下が中心となっているのだ。これは色々事情があるのだが、まぁ割愛する。
「──よし! この案件は持ち帰り! ドロっち、今の特許は? 起源主張しちゃう系?」
「あ、えーと、メアリーさん」
「あー、そうね。ドロシーの好きにしていいわよ」
「あ、じゃあ、それで作ったアイテムを1種類につき1つ、【夜明けの月】に納品お願いします」
「……おけまる! ルガンダ着いたらギルマスに相談してから誓約書出すからそん時に本契約でおけ?」
「おけ、です」
「あざ! じゃあ本契約までの担保ね。アゲハちゃんの髪留めを貸しちゃる。これ一目惚れして買っためっちゃ高いやつだから無くしちゃ泣いちゃうかんね」
……しっかりしてるなドロシー。びっくりした。
そしてアゲハさんもしっかりシビアだ。あんなナリしてしっかり商人だ。危ない危ない。
──◇──
【第15階層フォレスト:蹂躙されし廃工場】
機械生物を生み出す古代技術の自動工場は、木々の成長よって入り口が開かれてしまった。
主なき廃工場は今も自動で、魔物を改造し生産する。
次の階層に進むには工場内のどこかに生成されるボタンを押さなくてはならない。複数人で別れて探索する事になった。
戦力が偏るが、俺とブックカバーとメアリーで一組。ブックカバーきっての頼みだった。
「蜂やら芋虫やらは散々出てきたが、こっからはもっと面倒だぞ。爆弾バッタとか、チェーンソーカマキリとか」
「その頭悪い組み合わせの化け物共はなんなのよ」
「機械を利用した古代技術である。フォレスト以降よく見つかるものだ。自動運転で原生生物を機械化し周囲を襲う」
「生態系を崩壊させるかっていうとそうでもない。そのくらい近代の魔物は強くなってるって事だなー。しっかり共存してるっぽいぞ」
古代技術……つまり機械技術。かなり高度な文明で、【Blueearth】全域に工場が未だ残っている。
その入り口が開かれているのは大体偶然だが。伸びた植物がこじ開けたり、壁ごと大型魔物がくりぬいたり。
「……で、それはともかく。何の用だよブックカバー」
「んむ。即ち提案である」
魔物を片手間に吹っ飛ばしながら、本筋を確認する。
……なるほど。メアリーに相当入れ込んでるな。一応メアリーを俺の後ろに下げる。
「言っておくが──」
「わかっておるわ。流石に引き抜きまでは提案せん。
メアリー嬢。誇り高き魔導の原石。貴女には【夜明けの月】がある事は重々承知している。
提案は、即ち……ジョブの勧誘である」
天下に轟く魔法使いギルド【象牙の塔】。全てのマジシャン系第3職を研究している。特定のジョブに関する研究ならば、マジシャン系列が最も確かであるのは、彼らの功績だ。
ギルド勧誘でないなら良しとするが。変な提案だ。
「口出しする謂れもなかろう。老骨の戯言と聞き流すも良し。だが耳には入れて欲しいのだ」
「……ブックカバーさんの貴重な講舌を聞き逃す程、耳も脳も腐ってないわ。是非聞かせて」
「頼むぜおせっかいおじさん」
「【テンペスト】」
「馬鹿おまえ馬鹿!」
「冗談である。次は無い」
結構本気だわ。こいつの前で実は【テンペスト】防ぎきれない事だけはバレたく無いんだよ。やめてくれ。
「……即ち。メアリー嬢が真っ当に進むならば吾輩の探究する【大賢者】一択。ライズもそこを想定した育成をしておろう。最終的に《魔力の真髄》を獲得する【大賢者】ならば、特定の属性のみ伸ばせば属性適正がそこで統一される」
うんまぁそう。個人的に俺が1番詳しいマジシャン系が【大賢者】だったのもあるが。
「だが……これを吾輩が言うのもアレだが、やがて頂点へ登り詰めると言うのならオススメしない。何故なら吾輩がいる。2年間集めに集めた集合知、同じ土俵では楽には勝てまいよ」
ブックカバーがかなり言葉を選んでいる。短気で短絡的なこいつがここまで落ち着いて話しているあたり、結構真面目だ。
「つまりだ。やがて敵対するのなら知識も魔導書も揃っている【大賢者】では無理が生じる。それより別の──メアリー嬢にしか出来ないような難解なジョブを、紹介したい」
「難解?」
「うむ。複雑すぎて真っ当な研究ができておらんジョブが3つある。
まずは知識を操る【図書官】。我らが枢機イツァムナによって研究された、"情報で戦う"ジョブである。必要技術は膨大な知識の暗記。だがこれは先日イツァムナが至った所であり……吾輩を相手するより恐ろしいだろうな」
ブックカバーに【大賢者】の席を譲ってから始めたイツァムナの【図書官】探究は先日実を結んだようで、ブックカバーを超えマジシャン第2位へと成り上がった。
頭の出来の良さでメアリーに勝てる相手など天知調しかいないだろうが、ことジョブの運用においてはイツァムナには勝てないだろう。幾つものマジシャン系第3職を渡り歩き研究してきた探究のエキスパートだ。
「第二に属性を操る【ジオマスター】である。これは現在我らが三賢者が一角が探究中だが……芳しく無い。絶賛スランプ中である。
万物に付与された属性を操り、【ジオマスター】にしか扱えぬ《純無属性》を生み出す事ができるのだが……まぁ上手い使い方がわからぬ。ジョブには所謂ハズレというものがあるが、我々はそこで思考放棄する事はできん。少しだけ、頭の片隅にでも入れてほしい」
三賢者。ブックカバーと、マジシャン最強の【ロストスペル】担当、そして【ジオマスター】研究中の人の3人。
ブックカバーが言うには、強さより研究を優先するという3人目。【象牙の塔】に出入りする事を渋っていたから会うことは無かったが、もしかしたら気が合う相手なのかもしれない。
「そして第三。空間を操る【エリアルーラー】である。これは専門の研究担当が【象牙の塔】を脱退して以来碌な研究が進んでおらん。吾輩が最も推薦したいのはこのジョブである」
【エリアルーラー】は希少ジョブ。とはいえジョブ解放自体はそれほど困難では無く、ただ扱いにくいという一点のみで敬遠されている。
「例えば吾輩とライズの位置を変えるだの、岩を頭上から落とすだのといった魔法が使えるのだが……その全てに、座標の把握が必要となる。マトモに使えば座標把握で時間を取られ、発動の頃にはもうズレて使い物にならぬ。
かつての担当は唯一座標把握速度が実用圏内であったが、人に教えるのがクソ下手っぴであった。故に【象牙の塔】でも研究は進んでおらん。
……攻略ギルドとしてではなく、ジョブ探究としての【象牙の塔】としては、メアリー嬢が【エリアルーラー】を選ぶというのなら全面的にバックアップする。どうだろうか」
どうしよう、とメアリーがこっちを見上げる。
どっちでもいいぞ、と頭を撫でる。
手で弾かれた。なんやねん。
「……じゃ、やるわ【エリアルーラー】。アドレでのブックカバーさんの暴れっぷり見たけど、アレに追いつくのは時間かかりそうだし。独自路線は悪くないわね」
「聡明な即決。感服する。ではこれを」
ブックカバーから渡されたのは、5×5のルービックキューブ。
「ランダム生成のキューブである。3分以内に6面揃えられれば【エリアルーラー】昇格の称号が手に入る……」
「終わったわ。この称号:《立方を理解する者》で合ってる?」
もう終わってる!
早すぎるだろ。てか3分って短すぎるよな。再挑戦にペナルティとか無いからいつかはできるんだけども。
「……うむ。では後はレベル50になるだけであるな。ライズの元なればケイヴ階層中に到達できるであろう。
【象牙の塔】基本拠点は第30階層にある。話は通しておくので、到達したら顔を出して欲しい。今あるだけの【エリアルーラー】の知識を全て授けよう」
「すごく気前良いけど、いいの? 一応ライバルなんですけど」
「それは階層攻略としての【象牙の塔】の話である。【象牙の塔】総括としての理念はマジシャン系列の探究と地位向上。有望なる稀子に協力は惜しまん。
……初志貫徹。時が経とうと、掲げた志を忘れるような事は、あってはならない」
「そうだな。説得力が違うな」
「じゃかぁしい。貴様には容赦せんからな」
初志貫徹ね。こいつにも思うところがあったのかね。
……今こうして仲良くしてるのが不思議なほど、大変だったもんな。昔は。
ブックカバーが建前を気にしてるのも、あの辺の経験が基になってるのかもな。
──◇──
【第16階層フォレスト:巨大花壇】
人が乗れる程の巨大な花。
上を通れば花粉に誘われた巨大虫や飛行する機械虫に空爆される。
下に降りれば獰猛な爆弾アブラムシや軍隊蟻の群に袋叩きに遭う。
見た目のファンシーさとは裏腹に、フォレストきっての危険地帯である。
「というわけで絶対落ちるなよ」
不安定な足場のなか、ゴーストがあたしの腰を支えてくれる。ライズは既に浮遊能力のある【天国送り】を装備して、間違っても地上に落ちないようにしている。
「人は乗れるが《まりも壱号》では重量オーバーか。下を通るか徒歩で行くか、どうする?」
「いや、《白兵アント》と《爆裂アブラムシ》の相手はマジで面倒だ。経験値もカスいし連中の討伐クエストも無いし。何か隠されてる訳でも無いし。何日も連中に追われながら探索し尽くした俺だからわかる」
花の隙間から見える下の世界では、アブラムシを爆弾代わりに投げ合うアリ兵士。戦場やん。こんなところ探索してたの? ばかなの?
「ねぇねぇライズっち。テッパチばっかり贔屓してんじゃーん。アゲハちゃんにもアドバイスちょーだい?」
「姉御。あまり雇い主を困らせるな」
「えーいいじゃんいいじゃん! ギルマスと知り合いなんでしょ?」
アゲハさんがライズに飛び乗って甘えてる。アイザックさんみたいな墜としにかかってる肉食獣みたいな感じじゃなくて、距離感バグってる同級生ギャルJKって感じね。
ライズにはどっちにしても特効みたいだけど。女耐性無さすぎない? ハニートラップとかどうすんのよアイツ。
「俺はかまわんよ。そうだな……アゲハさんは才能タイプだから戦い方のアドバイスは難しいな。
だがその場で魔物を【調教】する戦術なら、ダメージより【調教】の成功率を上げる方がいいな。魔法攻撃力を上げる方向に伸ばすといい。サブジョブは魔法攻撃力に補正が乗ってバフデバフが使えるマジシャン第2職の【エンチャンター】がいいだろうな」
「うーわ先生じゃん。教えるの天才系? たすかりー!」
「はっはっは。可愛い」
「だしょー? 先生に褒められちったー!」
一瞬で絆されてんじゃないわよ。
……裏表のない陽キャに見えて、意外としっかりしてるのがアゲハさんなのよね。ちゃっかりタダでアドバイス手に入れてるし。
「ねーねー、ウチのギルマスの昔話聞かせてよ! あんまり教えて組んないからさーギルマス」
「そこまで大した話じゃないぞ。俺が第20階層に着いた時に拠点にさせてもらったってだけだ」
……ボンバさんといい、そういう人ばっかりね。しかもまた【飢餓】の傘下ギルドの人じゃないの。
「……あれ、ジョージどこいった?」
「あの女児なら先程、身体が疼くとか言って下に降りたぞ」
「自由! 戦場が肌に合うとかバーサーカーかよ! 回収ー!」
「アイコさんも降りました」
「戦闘民族共!」
──────────
パーティ 10/10 ▼[レベル順]
【大賢者 : ブックカバー:150】
【スイッチ: ライズ:115】
【リベンジ: ゴースト: 99】
【ニンジャ:タルタルナンバン: 61】
【テイマー: アゲハ: 50】
【ナイト : アイアン8: 46】
【バトシス: アイコ: 40】
【ガンナー: ドロシー: 39】
【ウィッチ: メアリー: 38】
【ライダー: ジョージ: 35】
──────────
~【飢餓の爪傭兵団】ある日の会議~
【第110階層 不夜摩天 ミッドウェイ】
空きビルの最上階に、数名が集まる。
【飢餓の爪傭兵団】特別会議室。参加者はそうそうたる顔ぶれだ。
──最前線斥候部隊隊長《最強の復讐者》フォルシュ。
──大幹部が一人、《絶対王権》のキング.J.J。
──情報班総司令、《三重返し》ブラウザ。
──通りがかったソロプレイヤー《最強の宙銃士》クアドラ。
──机に骨一本を置いて欠席。全軍総頭目《軍頭の孤狼》ウルフ。
そしてこの会議を開催した、大幹部が一人《餓狼のサムライ》サティス。
私の在籍する【飢餓の爪傭兵団:ミッドウェイ支部】の一員でもあるが、事実上の実権は彼にある。
私は一応このミッドウェイ支部を任された二代目支部長のイタコタイコ。ここまでビッグネームに囲まれるのは初めてだ。
緊張して涙が出てきた。なんでウルフさんいないの。あとクアドラさんは今どっちかっていうと【真紅道】側じゃなかったでしたっけ。
「みんな、よく集まってくれた。ブラウザは特に。忙しい中済まない」
「私は構いませんよ。サティスさんからのお誘いは断るようにしていますが、フォルシュちゃんにも同様のお誘いが来ていたようなので。
緊急の呼び出しだとわかりました」
「そうそうフォルシュちゃんサティスはんの守備範囲外やからなー。ってやかましわい」
浮遊する本を椅子にする少女──《三重返し》ブラウザ。
【象牙の塔】を裏切り、ある傭兵連合を裏切り、【真紅道】を裏切って平然とやってきた外部戦力。
来る物拒まずの【飢餓の爪傭兵団】は居心地がいいのか、あるいは裏切りのタイミングを探しているのか。
そして赤毛の活発スレンダー女子、《最強の復讐者》フォルシュ。
【井戸端報道】のセカンドランカー諜報員だったが、そのコミュニケーション能力と実力を見込まれた外部戦力。
裏切りと陰謀の渦巻く最前線の清涼剤だ。隠れファンも多い。私もファンだ。
「流石に大幹部全員最前線を空けるわけにはいかん。我とウルフだけで我慢してもらおう。
と言いたかったが、ウルフが来るわけなかったな。そっちの椅子座っていいか?」
「……J.Jにはトップの椅子は大きすぎるよ。椅子に沈むハムスター。宙から観れば一つの個だけど」
王冠を被る大柄な男は大幹部《絶対王権》のキング.J.J。
自分が王でなければ満足できない、絶対の王。自分より強いやつには誰にも彼にも噛みつくライオン。
だがその気高い心は前線の士気を高めている。フォルシュちゃんの直属の上司でもある。
そして何もない天井を見上げているのはトップランカー希少種、ソロ攻略勢《最強の宙銃士》クアドラ。
【飢餓の爪傭兵団】と【真紅道】どちらにも肩入れする謎の冒険者。どこにもふらふらと現れる神出鬼没の不思議少女。
だが彼女が情報を横流しした事は一度たりとも無いという。
「うん。ウルフはいない方が都合がいいな。
今回は僕の重大発表に集まってもらって感謝する。早速だけど──」
「──僕は【飢餓の爪傭兵団】を抜けるよ」
説明された内容は他愛ない話だった。
ドーランの方でブイブイ言わしてる【鶴亀連合】。その頭目との縁で協力するという。
それにより不義理になるから、【飢餓の爪傭兵団】を抜けると。
「何言っとんねんサティスはん! 不義理だ不忠だのはブラウザん役目やで! 見てみぃこの一切悪びれてない顔!」
「フォルシュちゃん後でえげつない嘘のウワサ流すからね。それよりサティスさん。本気ですか?」
「認められるわけがなかろう! 貴様は──」
「わかっている。僕が今ここにいるのはウルフと仲が良かったってだけだ。野放しにもできないしいい加減お荷物だろう。
君たちの邪魔はこれ以上できない。これを言い訳に、どこかに消えるとするよ」
……確かに、私としては必死にサティスさんの存在を隠すのは大変でしたけど。
だからってこんな極端な事を……!
「済まない。これは確定事項だ。ウルフはまあ、気にしないだろうけど。あとはよろしく頼む」
「ふざけるな! 者ども囲め!」
全員が一致団結(クアドラさんはお昼寝始めたけど)し、サティスさんを包囲する。
気持ちはわかりますが、そこまで力技に出なくても──
「貴様がいなければあのウルフの面倒は誰が見るのだ!」
「せやで! 既にここ数カ月サティスはんがおらんだけでガタガタやねん!」
「サティスさんがいないから頭目が好き勝手しているんですよ! 先日は情報室のテーブルの上で昼寝していました!
せめて頭目も持って行ってくださいよ! 私が総頭目代わりますよ!」
「抜け駆けするな! 次の王は我だ! が、良いこと言った! そうだウルフ連れてけアホ!」
「そーだそーだ! ペットの散歩くらいちゃんとせんかいアホ!」
「いやだ! 逃げる!」
「逃がすな追え! 場合によっては殺せ!」
ばたばたとどこかへ行った一同。
あれぇ? 思ってたのと違うぞ?
取り残されたのは私と、お昼寝中のクアドラさん。
「……みんな仲良し。茶番もコミュニケーションだね……むにゃむにゃ……」
……帳簿整理してこよ。




