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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
竜星大河ピッド/ギャラクシー階層
442/507

442.狼は群れの先頭に立ちて

【ギルド決闘】"最果ての(ボイジャー・フォー)観測隊(・ヘリオロープ)"


最前線走破中

【飢餓の爪傭兵団】22名

【夜明けの月】16名(残機持ち4名)




──◇──




【第177階層ギャラクシー:龍肩グルミウム】




雲海の上。

銀河が立ちはだかる。


「さあ【飢餓の爪傭兵団】。一日一度のチャンスだぞう」


星見の老人──"カーウィン・ガルニクス"。

ギャラクシー階層のレイドボスが【飢餓の爪傭兵団】の前に現れる。


「ようジジイ。今日こそ殺すぜ」


「うむうむ。……しかし"星辰獣(セーマ・シリオン)"のルールを知ってなお、"星辰獣(セーマ・シリオン)"を紡ぐとはな。しかもギルド全体で。

リスクとか考えんのか?」


「リスクなんか無ぇよ。誰が"星辰獣(セーマ・シリオン)"を使おうが、()()()()()なら関係ねぇだろ」


「やれやれ。酷いリーダーだのう。【飢餓の爪傭兵団】も苦労する」


「その辺はもう、リスクを承知で着いてきていますので」


──【飢餓の爪傭兵団】の狙いは、"カーウィン・ガルニクス"の撃破。

ウルフの解放を狙いとするならば当然の事。

……だが、そこまでしてウルフを必要としていたのだろうか?


「ウルフを置いて先に進めばいいのでは? そこまで深い絆でもあったのかのぅ」


「舐めるな老骨。我ら【飢餓の爪傭兵団】にそんなものは無い。

我らを結ぶものは絆ではなく"力"である」


キング.J.Jは刃を老人に向ける。

誰よりも力を求める者。非道こそ王道。

そのキング.J.Jが【飢餓の爪傭兵団】に在籍している、たった一つの理由。


「ウルフは【Blueearth】最強の()だ。故に貴様を喰らう。それだけの事」


「総頭目。ここで"星辰獣(セーマ・シリオン)フェンリル"を使い切ってしまっても構いません。全力でどうぞ。

我々は我々の勝手に動きます」


「おう。手ぇ出すなとは言わねぇよ。勝手にしろ」


カリスマなどあるものか。

仲間意識なぞあるものか。

ウルフが勝手に暴れて、周りも勝手に振る舞うのが【飢餓の爪傭兵団】だ。


()()()()()()()ジジイ。

──"星辰獣(セーマ・シリオン)フェンリル"!」


星狼、吼える。

星河の竜を噛みちぎり、足場ごと"カーウィン・ガルニクス"を呑み込む──


「ウルフに続け! 【飢餓の爪傭兵団】前進!」


【飢餓の爪傭兵団】22名。

先鋭揃いの人海戦術。レイドボスとて倒せるだろう。


──だが。

狼を砕き、その顎から現れるは──星の竜。


「ぬるい。まだ育ちきっておらんな」


「──うるせぇ。()()!」


嵐の短剣が竜の首を刺し貫く。

逆鱗なんのその。刃は深く深く、ウルフの腕ごと突き刺さり──


「──【致命の刃(コルデー・アイ)】!」


短剣上位火力スキルが、喉笛を引き裂く。

が──星竜の中から飛び出すは鮮血ではなく、老人。


「まだ足りん。もっと紡げウルフ!」


「ガタガタうるせぇよジジイ。見たけりゃ幾らでも見せてやる──!」


"カーウィン・ガルニクス"が天に跳ぶ。

足場であった星の大河は分岐し、無数の竜となる。


「ウルフ! 雑魚は我らに──」


「"星辰獣(セーマ・シリオン)フェンリル"!」


問答無用。

星狼は竜を喰い破り──ウルフは老人に牙を突き立てる。


「逃がさねぇ!【王の簒奪(キングスティール)】!」


「ほっ、私自身にはそこまで戦闘能力は無いんだがのぅ。これはマズい!」


【盗賊王】専用スキル【王の簒奪(キングスティール)】。武器引き寄せの"窃盗"攻撃で、相手が巨大な存在で武器を持って居なければ──逆にウルフが敵に引き寄せられる。

ウルフはこの性質を利用し、絶対に敵の首に届く必中の一撃と解釈した。

飛行して逃げる"カーウィン・ガルニクス"だが、ウルフの刃が届くまで追跡は止まらない。


「仕方ない。ああ仕方ない。こうなれば仕方あるまいよ!」


──ウルフが求めるものを、"カーウィン・ガルニクス"は持っている。

"カーウィン・ガルニクス"は【夜明けの月】に真実を告げていない。

だが。

だとしても。


ウルフの言う事に従う理由にはならない。


「──【太陽嵐】!」


「チッ、一度解除か……!」


熱風がウルフを襲う。追尾するというのなら方向が固定され、攻撃を通しやすいという事でもある。

一度【王の簒奪(キングスティール)】を解除し、ウルフは近場の雲に着地する。

すかさず"カーウィン・ガルニクス"は手を伸ばす。一瞬で星が集まり──


「"星辰獣(セーマ・シリオン)アイスピラー"!」


──巨大な氷の柱を紡ぐ。

こんな単純な質量攻撃、ウルフにとって敵ではない。

……なかった。


「おや、回避するのかいウルフ。()()()()()()()()()()?」


「──!」


ウルフの背後。

……言葉に流されてしまった事も反省点だ。ウルフの振り撒く先には──


「──ベル」


これまで切り捨ててきた無数の()()

そのうちの一人。それだけの存在。


「さぁ、受けてもらうぞウルフ! それとも見捨てるのかな?」


氷の柱が迫る。当然、ここまでの大きさの攻撃を受け切れる力は無い。

ウルフは──




「──舐めるなよ、ジジイ」




──ベルを蹴り飛ばした。


「ほう……」


「ここにベルは来てねぇ。"星辰獣(セーマ・シリオン)"かなんかだろうがよ」


氷の柱に跳び乗り──そのまま、"カーウィン・ガルニクス"へ向けて走り出す。

あと僅か。遂に"カーウィン・ガルニクス"の喉笛に届く──




「"偽物だから"切り捨てられたのなら。

──こうなると、どうなる?」




"カーウィン・ガルニクス"の目の前に。

ウルフの目の前に。

ウルフの刃の向かう先に──ブラウザ。


「今度は本物だよ、ウルフや」


「馬鹿らしいですね。総頭目、やっちゃって下さい」


首根っこを掴まれながらも、堂々とするブラウザ。

そうだ。それが【飢餓の爪傭兵団】。

俺達の間に絆など無い。

このままブラウザごと"カーウィン・ガルニクス"を引き裂けば全て解決する。




「……何でだよ」




手が滑った。

ウルフの手から、短剣が離れる。

ここにきてなんと初歩的なミス。

許されないミスだ。


「──総頭目!」


ブラウザの声に、意識が戻る。

"カーウィン・ガルニクス"は微笑んで──その背後にて、星の竜が顎を開く。

ダメだ。間に合わねぇ。

クソが。くだらねぇミスをした──




「【チェンジ】!」




鈴の音がひとつ、響く。


竜の顎の前に、人影がひとつ。


「──【虚空一閃】!」


竜の顎を横に薙ぎ──老人の前に辿り着きて、刀を斬り返す。

【サムライ】の十八番。かつて【飢餓の爪傭兵団】で最も恐れられた男の、正確無比たる斬撃。


「続けて──【燕返し】」


"カーウィン・ガルニクス"の身体を両断──ならず。恐らくは分身。本体は星河に飛び込んでいたようだ。


【サムライ】とウルフは共に着地する。同時に星河から"カーウィン・ガルニクス"が現れる──苛立ちの表情を見せて。


「何のつもりかのう」


「失礼。挨拶が遅れたね。

僕は【夜明けの月】連合筆頭、【満月】の戦闘員。そして──」


鈴付きの刀──【瑜伽振鈴(ゆがしんれい)】を納刀する。

その男は、ただ名乗った。




「【飢餓の爪傭兵団】大幹部。名前をサティス。以後は無いだろうが、宜しく頼むよお爺さん」




──◇──




わからん。


何で俺はあの時、手を滑らせたのか。


何故、サティスがここに居るのか。


何も分からないが──そういえば、空からブラウザが落ちてきてんな。


「わぁぁぁぁあ……あうっ。え、総頭目?」


「……おう」


丁度手頃な位置に落ちてきたからキャッチしただけだ。

サティスにも、女性に優しくしろとか言われてきたし。意味は分かんなかったが。


とにかくだ。こいつが何考えてんのか分からねぇ。


「おいサティス。テメェ……」


「弱くなったねウルフ。でもカッコよくなったじゃないか」


「うるせぇ。何のつもりだ」


「お前が僕の脱退を拒否したんだろー? だから僕は【夜明けの月】だし【飢餓の爪傭兵団】だ。何か問題でも?」


「……いや、屁理屈すぎんだろ。じゃあ今すぐに【夜明けの月】皆殺しにしてこいよ」


「そーれは無理だぜウルフ!」


……暑苦しい声。聞き覚えがある。

散々勧誘を蹴っておきながら無駄に喧嘩しに来た【バッドマックス】のマックス。

振り返ってみりゃ……ムカつく顔が並んでやがる。


「hi.ウルフ。ご機嫌麗しゅう。物資足りてるかイ? 高く売るよ?」


「いやいや中々壮観だね。あの【飢餓の爪傭兵団】が苦戦してるよ」


「セリアン。スペード。冷やかしかよ」


「全くもって」

「その通りサ!」


殴りたい。

……いや、おかしいだろ。何でこいつらが……。




「本隊は先に行ったわ。【飢餓の爪傭兵団】が追い付きたければ、ここで"カーウィン・ガルニクス"を倒すしかない」




──小さな、高い、ガキの声。

そんな事は承知の上で、世界に反逆するような、強い女の声──




「"カーウィン・ガルニクス"討伐は、私達が個人的に協力してあげるわ。だからさっさと潰しなさい、ウルフ」


「──ベル」




今度は本物だ。

間違える訳がないだろ。


……どうして、とか色々聞きたいが。そんな暇は、ない。

ベルは俺の隣までやってきて──俺が落とした短剣を手渡す。


「ちょっとは成長したみたいね。偉いわよ、ウルフ」


「何様だよ。……クソ。聞いてる暇が惜しいな。

分かったよ。()()()()()


考える必要は無ぇ。

元から好き勝手するのが【飢餓の爪傭兵団】だ。




「……それが答えか、【夜明けの月】!」


「どれの事かな、"カーウィン・ガルニクス"。多分君の頭じゃあ僕たちの考えなんて見抜けないよ。

いい加減、君の()()に付き合うのも馬鹿らしい。ここで終わりにしようか」


「偉そうに──何様だ、スペード!」


「【Blueearth】を脅かすバグの根源……だった、一般人だよ。君には叶わない所に辿り着いた、ね」


「──貴様!」


"カーウィン・ガルニクス"は吼える。あの人を小馬鹿にしたような、余裕面がどこかに行ったようで。


「やっぱ祭りは派手じゃなきゃなぁ!」


()()()()スペード! ワタシ達は好きにさせてもらうからネ!」


「はいはい。面倒事は僕に任せてねー。……【飢餓の爪傭兵団】もね。気にせず暴れなー」


こいつら……【夜明けの月】はいつもそうだ。

勝手に殴り込んで、騒いで、それが許されるんだから困る。

……馬鹿らしい。


「【飢餓の爪傭兵団】! 標的は変わらず"カーウィン・ガルニクス"のジジイだ! 【夜明けの月】のアホ共に獲物を取られるような真似ぁすんじゃねーぞ!」


「──了承! 【飢餓の爪傭兵団】前進!!」


キング.J.Jの轟が飛ぶ。

非常に遺憾ながら。やってやろうじゃねぇの共闘。


「ベル。下がってろよ」


「は? 誰に命令してんのよアンタ」


「ベル、下がった方がいいよ」


「サティス。アンタまで何よ」


「ウルフは笑顔見られたくないんだよ」


「は? 何の事だよちげーよ馬鹿」


「じゃあやっぱり下がらないわよ。ばーか」


「うるせー馬鹿。勝手にしろ馬鹿共」


何故か、昔を思い出す。

……何故か、あの時みたいに。

何でも出来る気がするのは、何故だろうか。

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