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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
竜星大河ピッド/ギャラクシー階層
424/507

424.速きを失するは罪となりて

【第0階層 城下町アドレ】


冒険者支援ギルド【祝福の花束】


「始まるぞ。始まるぞアイザック」

「見えてるわよミーミル。大丈夫だから」


レストランにもなり、冒険者も原住民も入り乱れるようになった【祝福の花束】。

本日はその一角を占有──貸切にしている。


アドレ担当【飢餓の爪傭兵団】傘下ギルド【蒼天】は、酒場の壁に映し出された映像の前に張り付いていた。

近年の階層攻略ブームとアドレの非暴力派鎮静融和に伴い加入数が増加した【蒼天】だが、記憶復活に次ぎ"【Blueearth】争奪戦"が始まると攻略の優先度は下がっていった。どのギルドでもそうだが。

今攻略したとて、【Blueearth】と【NewWorld】と……世界の命運を握っているのは、トップランカーと【夜明けの月】だからな。


「随分と真剣ねぇ。どうせ数日かかるんだから、気を抜いたら?」


「気なんて抜けないわよ。私達の元締めが無くなるかもしれないんだから」


「実際大事。それに相手は【夜明けの月】だ」


「……ま、そうね」


【夜明けの月】は【祝福の花束】から排出した(程になっている)ギルド。【祝福の花束】が送り届けた無数のギルドの一つ。

とはいえ、特に丸一年世話をして世話になったライズの事は【祝福の花束】にとって家族同然。【祝福の花束】としても興味深い戦となろう。


「む。やっているようだな。オレ様も相席よろしいか」


「うへーむさくるしい。アイザックさんの隣を空けな男衆。あーしが座るし」


最近はよくアドレ内を闊歩する、生ける伝説【至高帝国】。

上裸のサメ頭、美食家ハートはレストランとしての【祝福の花束】によく来店していたが……最近は同僚のダイヤも連れて来るようになった。

黄金のギャル女王に、半裸の変態。あまりに目立ち過ぎる。


「スペードはおるか」


「……あっ、あそこに居たし。良かった、生きてた」


「ふふ、同僚が心配? でも【Blueearth】で死ぬなんてあり得ないでしょ? これはサービスね」


「あ、ども。……サービスでフルコース?」


「ハートさんは常連だからね」


「採算取れてんならいいけど、こんなゴリラに気ぃ遣うことないし。店長優しすぎ」


「いいのよぉ。うふふふふ」


……近年、特にグレッグ店長が活き活きとしておる。

グレッグ……暮石礼司はあれでいて土建屋の社長。地元のチンピラを締め上げて労働力とする恐るべき男であるが、要はガキの面倒を見るのが好きなのだ。

目下混沌とした【Blueearth】において、彼奴のお節介が発揮……されるかに思えたが、あらゆる野望陰謀の被害を受けたアドレのギスギス時代を乗り越えたアドレ在住冒険者はかなり精神的に成長しており、思ったより混乱は起きず終い。

やや不完全燃焼の頃、やや人間不信めなダイヤが来店してからは猫可愛がりである。俺としても、まさかトップランカー【至高帝国】の姫がここまで対人を恐れるものかと驚いているが……。


「ベルグリン! 厨房の手が足りないから手伝って〜!」


「ええいモーリン、貴様が頑張ればよかろうが!」


「使えるものは使うべし〜。魅せてよ大鍋二刀流!」


「アレは余裕がある時のパフォーマンスだ!」


……仕事だ。業務報告は以上である。

──【祝福の花束】経理担当 ベルグリン




──◇──




【第170階層 竜星大河ピッド】

──"星辰獣(セーマ・シリオン)オメガ"尾先

星見の広場──12:00


「……定刻です」


【アルカトラズ】"審理の輩"灰の槌スレーティーが槌を鳴らす。

──アイテム確保はベルと【朝露連合】の尽力によって無事完遂。

【飢餓の爪傭兵団】から提供されたピッドの階層情報については、【真紅道(レッドロード)】のアピーと【ダーククラウド】のゴローに監修してもらった。特に師匠で元上司であるアピーにブラウザはたじろぎ、随分と素直に情報を吐いてくれた。多分アピーとゴローは【Blueearth】最高齢だと思うが、圧が強い。大地主と大企業元社長……一般人ならとても関わる相手じゃないが、なんというか"生き残った"猛者の圧を感じた。

ともかく、これで戦いの準備は整ったが……。


「……メアリー、そのひよこ連れて行くのか?」


「離れないのよ……。まぁ"星辰獣(セーマ・シリオン)"は使わなければ大丈夫らしいし、"使える"っていう選択肢はあるに越したことないし。

……しかしアンタ、そんな大層なもんには見えないけどねー」


メアリーの指に突かれて空中でくるくる回るひよこ。パタパタと俺の肩に逃げてきた。


「なんだ可愛いやつだな」


「耳たぶ食われてるわよ」


「おいやめろ害鳥」


戯れている場合ではない、ないのだが……まぁこのくらい気が抜けていた方が【夜明けの月】らしいというもの。


「──では、最終確認です。今より【飢餓の爪傭兵団】60名【夜明けの月】26名を171階層へと転移させます。

位置はそれぞれ1000m以上離した地点に。そこより179階層のゲートまで"ゴールドディスク"を送り届けたギルドの勝利となります」


「【飢餓の爪傭兵団】異論無ぁし」


「【夜明けの月】も異論無いわ」


「両名承認。それでは──

──【ギルド決闘】"最果ての(ボイジャー・フォー)観測隊(・ヘリオロープ)"──開始します!」


光が溢れ、視界を覆う。

──転移が始まる。




──◇──




【第171階層ギャラクシー:龍尾ギャウサル】


──────

観則されるは龍の尾。

願われるは森林の追憶。

あの日通過した森の深き闇の恐ろしさが──


─//─不要なデータは排除されました…//…


光景以外の情報は不要です。

──────




「──森?」


ピッドで見てきた星の集まりとは違う……本当に森林だ。

だが天上は宇宙、足元も……木の根の下はそのまま星河の道となっている。


「情報通りだな……。ピッドの攻略階層は"コズミーダスト"が願った光景になっている。ただ真っ直ぐ進むだけと言ってもそう簡単にはいかなさそうだぞ」


目下、すべき事は──【飢餓の爪傭兵団】と接触せず進むための脚だ。

ジョージが"まりも壱号"を、ミカンが移動要塞"ベラシート"を用意してさっさとこの場を──




「──っ、ライズ! ()()わよ!」




ベルの叫びに近い忠告。

何が、と聞き返す間も無い。その必要もないが。


「マックス、バーナード、フェイ! 方角は──」


「ヒリ付いてきやがる! あっちだな! 【キャノン:ファイアワークス】!」

「……【ドロップアンカー】!」

「え、あっち?【フルバースト】なのだ!」


爆撃隊による先制砲火。まだ敵の影も見えていないが──それでも、理解はしている。

【飢餓の爪傭兵団】がどう動くか。連中なら、何をやらかすか──


「──温い、温いでぇ【夜明けの月】ぃ!」


爆炎を掻い潜り、或いは何かしらの防御策で防ぎ。

影から飛び出すは──無数の暗殺者。戦闘を走るは赤き流星──ファルシュ。




「【飢餓の爪傭兵団】最前線斥候部隊12名! ()()()()や!」




【飢餓の爪傭兵団】最前線斥候部隊。階層攻略において先遣隊として階層中を調査する、スピード全振りの部隊。

人数がいれば尖った構築も可能になる。【飢餓の爪傭兵団】は、それぞれが一分野にのみ絞って考えれば【Blueearth】最強の集まりだ……!


「──【建築ビルド】! ミカンさんを、舐めるななのです!」


最速の対応。ミカンの瞬間建築で城が築かれる。

──【建築ビルド】は建築段階で人を巻き込む事は出来ず、エレベーターやバネなど動くものを造る事は可能だがそのギミックに人を乗せた状態では建築できない。また、出口の無い構造に閉じ込めた場合は著しく耐久性が落ちる(そのため普段は出口のある迷路にしている)。

よってここまで接近されては全員を弾き出すことは出来ない。ファルシュを含めた3人が城の中へと侵入した──。


「速いやんけ! 流石はサカンはんのお師匠さんやな!」


「舐めんな! 紙耐久のローグ系が3人なんざ囲んでフクロなのです!」


侵入者は──【リベンジャー】"赤き流星"ファルシュ、【ソードダンサー】"電光石火"ベネロ、そして【盗賊王】"蜂の巣"イタコタイコ。

その速度は恐ろしいが、倒せない相手じゃない。26対3だ──。


「打ち倒される前に何人か持ってきゃ上々! 狩りの時間や!」


「どっちの話だよ──【スイッチ】【煉獄の闔(ケイオス・エイギス)】!」


「勿論──アンタらが狩られる側や!」


ファルシュが城の壁を跳び、俺の背後を取る。

──それに追い付くアイコがファルシュの手を止めようと蒼の"仙力"を伸ばす──

──それを妨害しようとイタコタイコが割り込み──

──それをジョージが防ぎ──




「──【建築ビルド】!」




──城壁が壊された!


「──なっ、び、【建築ビルド】!」

「【チェンジ】!」


応急補修に向かうミカン。同時に予想外の事態に意識がズレ、ファルシュの短剣が刺さりそうな俺を転移させてくれたメアリー。


城壁は、直っては崩れてを繰り返している。

──ファルシュの奴、適当言ったな?


「サカンも連れてきたのですか! ええい小賢しいのです! 不意打ちでないならミカンさんに及ぶなどと思うなぁ!」


【飢餓の爪傭兵団】拠点防衛部隊隊長"夢遊病"サカン。

ミカンお墨付きの【キャッスルビルダー】が……最前線斥候部隊と一緒に来ていたのか!

その狙いは、恐らくミカンに対抗するため。【キャッスルビルダー】同士の戦いなら、建造物の破壊が可能!


崩れた城壁の隙間から、くたびれた男の瞳が覗き──




「……無論、思ってませんよ師匠。故に──【黒き摩天の終焉(Dooms.Day)】!」


「っ、発動できる奴は発動しろ!」


「させへんで! お前らァ!」


空間作用スキル。それはマズい……!

いきなり潰しに来るとは全力過ぎるだろ!


「【金色舞踏会(こんじきぶとうかい)】です!」

「【金色舞踏会(こんじきぶとうかい)】……oh!?」


「【朱盗(あけと)りの紫界(しかい)】や!」

「……【朱盗(あけと)りの紫界(しかい)】……む」


「くそっ、させないわ……【森羅(ヴァン = )永栄(ジャダブ・)挽歌(マ・ジュリ)】!」

「【森羅(ヴァン = )永栄(ジャダブ・)挽歌(マ・ジュリ)】……チッ。やられた」


「【白曇(しらくも)渦毱(うずまり)】!」


ファルシュとイタコタイコが、俺たちより先制して空間作用スキルを使った。緑はメアリーが先、そして【夜明けの月】が独占している白は確定。

やっぱり、空間作用スキルの争奪戦になったか……!

黒、黄、紫、緑、白。5つの隔離階層が融合する──!




「……【無頼神域天衝(エターナル・バベル)】! これで同格です、師匠」


「生意気言うな。追い越す気概くらいは見せろなのです!」


【キャッスルビルダー】ジョブ強化スキル【無頼神域天衝(エターナル・バベル)】。瞬間的な建築の規模が拡大──一言で言えば、"ミカン化"する。

それでも同格なミカンは怪物だが──この状況においては、同格だと困る。ミカンの建築が、その場凌ぎの壁が意味を成さなくなる!


「覚悟しぃや! 【青き復讐の花】!」

「行きますよっ!【冷酷で残忍な(クルーエル・)砂漠の太陽(ナ・バ・クー)】!」


2人がジョブ強化スキルを展開する。

──マズい。【飢餓の爪傭兵団】にはまだ前線戦闘部隊も後衛支援部隊もいるってのに……!


この化け物共を、壁に頼らず短時間で相手しなくちゃならないのかよ!

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