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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
氷砂先陣ブルード/デザート階層
419/507

419.拾った命のはなし

どうも者共。

バーナードに住み着く美しき呪氷の叛竜、"スフィアーロッド"である。


最近大人しいとお思いか?

ふふん。全て計画のうちよ。


先の"拠点防衛戦"によるスペードの蛮行。我は見抜いておった。

どうあれバグの力はどこかへ流れてしまう……と。

故に、こっそりと"アル=フワラフ=ビルニ"側に乗り移っておったのだ。バーナードは気付きもせんかったがな。あと"アル=フワラフ=ビルニ"も気付いておらなんだ。


そこまでして何がしたいかと言えば……当然、データのかっぱらいである。

我はスペードと繋がる"アル=フワラフ=ビルニ"からこっそりバグのデータを抜き取って持ち帰り、バーナード内の"カースドアース"内部にてそれを研究。

我も"カースドアース"もバグに深く関わっておるが故の事よ。確証はあったのだ。


そして、遂に……"カースドアース"に囚われておったバグを復元したのだ!


『……今更私を復活させてもなぁ』


というわけで、こちら"カースドアース"の内部にいたバグ。我はその辺の騒動が終わってからバーナードアパートに入居したからなぁ。初めまして。


『はいどうも初めまして。それで、私に何を求めているのですか?』


それは勿論! 新たなるスペードとしてバグを──


『扱えるバグの範囲が少なすぎますな。そも我らが祖が近くにいるのにそんな事する訳ないでしょう』


おのれ狂信者! その祖ってスペードであろう、彼奴今はバグではないぞ。


『関係ありません。あの御方は私の祖に変わりありません』


……チィ。とんだ無駄足であったな。


『……と言いつつ、私を消そうとしないあたり優しいのですな』


うるせー。我は不貞寝する。おやすみ!


『ええ、おやすみなさい』




──◇──




【第163階層デザート:冷風砂牢の第三幕】


──────

三つ進むは砂牙の檻。

背筋を伝うは冷たい寒気。

見返る事なかれ。

退路は無し。

──────




スペードです。

ものけのから、がらんどう、やくたたずのスペードです。

……今更人間になったって、どうすればいいのか。メアリーもライズも励ましてくれたけれど、モチベーションがガタ落ちだ。

天知調は接触すらしてこない。もう敵でもないってかー。


163階層の砂の柱がゆらゆらと、僕の心を映すようにゆらめいて……。

……あれ。


「しまった……ぼーっとしてたな」


砂嵐で周囲が見えない……探知が妨害されている。

逸れちゃった。これはマズいぞぉ。

ここまで【夜明けの月】の徹底的な管理があったから気を抜いていたけれど、【Blueearth】の攻略は甘くない。誰か1人でも死んじゃうとその人は拠点階層まで戻されて、それはつまり"仕切り直し"か"見捨てる"かを選ぶことになる。


……まぁ、見捨てられても仕方ないか。


「見つけましたよ、スペードさん」


うげ。

ドロシー君は今一番会いたくなかったなぁ。


「そう言わない(思わない)で下さいよ……」


読まれるんだよなぁ、ドロシーには。

敵にせよ味方にせよ……一番厄介だったのは間違いなくドロシーだった。

なんたって異常精度の読心術。しかも共感タイプだから、こっちの感情を読み取ってくれる。悪巧みしようものなら一瞬で看破してくるんだもんなぁ。


「お察しの通り、僕も迷子です。この階層はそういうもののようですね」


「なぁんだ。僕の落ち度じゃなかったか」


「そうですよ。()()()()()()()()()()()


「………………何のことやら」


魔物の気配はない。……が、ドロシーは歩いて僕を見つけた。だったらとりあえず歩くしかないよね。

砂嵐の中、2人だけで歩く。


「スペードさんは、最初……ヒガルで出会った頃から、割と好意的でしたね」


「あの段階だとクローバーを利用して隠れ蓑にするつもりだったからね。そりゃ好意的だよ」


「僕を警戒して記憶を無くしたりもしていましたね」


「そうだったそうだった。あまりにも酷い包囲網だよね。日中はドロシーの思考盗聴、ドロシーの目を盗んだら不眠の"人類最強"が見張ってるんだもの」


「こちらもスペードさんを警戒しなくてはならなかったんです。……とはいえ、バグを使えば多少の強行策にも出られたのでは?」


言われて、振り返る。

バグの力はデューク……イシュテルに盗まれて、それを取り戻したら取り戻したで、もうそういう感じじゃなくなったんだよね。

なんでだろう。裏切っちゃえばよかったのに。


「……ドロシー。僕は、僕が思うより【夜明けの月】の事を気に入っていたのかな?」


「そうかもしれませんが……僕が見るに、スペードさんはバグを手放したかったのではないでしょうか」


……手放す?

笑えないね。冗談なんて言わない子だって分かっているから、なおさら。


「僕はバグそのものだよ。手放せば消えてしまう」


「消えてないじゃないですか。……"スフィアーロッド"はレイドボスとセキュリティシステムを投げ捨てても健在です。"自我"というものは、意外にも強固なものなんですね」


僕という存在は──。

天知調の反証として発生し。

天知調を打ち破るべく暗躍し。

そして、最後には敗れてしまう。

それが僕の役割。


メアリーが【Blueearth】を、【NewWorld】を支配したのなら……その矛先はメアリーに向くだろう。

()()()()存在なんだ。それは仕方ない。


……"仕方ない"で済ませられなかったのか。


「……僕はスペードさんほど頭は良くありません。でもスペードさんの感情だけは理解できます。スペードさん以上に……。

諦観の中に、責任感。そしてそれらを捨ててしまいたいという破滅願望。【夜明けの月】に協力するようになってから、スペードさんの心には……"葛藤"が読み取れました」


「葛藤……?」


「すごく、すごく単純に話す必要がありますね。

……僕は、【夜明けの月】は……僕達()

あなたとまた旅ができて嬉しいですよ、スペードさん」


照れくさそうに、ドロシーがはにかむ。

……そうか。嬉しかったんだね。


「……そっか。それはいいね」


あと少し。

【夜明けの月】がトップランカーを倒して、天知調と対峙するまであと少し。

……せめて、そこまでは全力で手を貸してあげよう。


その後はどうなるのかな。……あぁいや、それを恐れるなら尚更メアリーに協力すればいいだけか。


"廃棄口"でゴーストが呟いた一言が、ここにきて僕の心に響いてくる。




──()()()()()()




「……人間ってこんな恐怖を抱えながら生きてたんだねぇ。ダルいなぁ」


「案外大した事ないですよ。頑張って下さいね人間ルーキーさん」


生意気言いおって。

……まぁ、早い老後だけれど、楽しむとしよう。

──"人生"を。




──◇──




【第164階層デザート:温湖地震の第四幕】


──────

四つ進むは流砂の荒波。

揺れる大地は流れゆく。

流される事なかれ。

足跡は無し。

──────





「……かなりヤバかったな」


163階層突入と同時に全員バラバラになるとかいう初見殺しに見舞われ……それでもなんとか、欠員無く164階層に辿り着いた。

ここはここで、流砂が大河の如し。どこ渡ればいいんだ。

新たな階層攻略ルールとして、基本的に新しい階層に到着したら全員一旦休憩としている。


「アレも何かしら攻略手段があったのかしら」


「……まぁ……魔物自体はそこまで弱かったからな。アレで適正な挙動だったんだろ。うん。

そしてここはここでどう渡ればいいんだ」


「トップランカーから貰った資料があるんじゃないの?」


「それはそうなんだが……コレ」


メアリーに資料を見せる。

【飢餓の爪傭兵団】情報班総司令ブラウザから受け取った、とても信憑性のある資料だ。


──────

『沈んだら死ぬ。沈む前に突っ切った』

──────


「……どうすりゃいいのよ」


「どうすりゃいいんだろうな」


あのアドリブの化身共を甘く見ていたかもしれない。

適正外攻略を根性でやってのける連中だぞ。


「……わざわざ流砂を突っ切るってあたり、空路はナシみたいね」


「【真紅道(レッドロード)】のフレイム然り、一流の魔物使いはいただろうから選択肢が無いって事はないだろうにな。そしてわざわざ言及していないあたり、試しはしたんだろう」


「そして失敗したんでしょうね。あたし達も引っかかって欲しいのかしら」


ブラウザなら充分ありえる。

おのれブラウザ。


「流砂……"まりも壱号"は通れるかな」


「扱いは"水上"ってより"底なし沼"じゃない?」


「んー……凍らせる……のは気温的にダメそうだな。となると、だ」


「ミカンさんの出番なのです」


ぬぬっと小動物。ミカン登場。

ここは【Blueearth】随一の"ギミッククラッシャー"に頑張ってもらおう。


「攻略条件は特に無し。この流砂を"まりも壱号"の速度で7時間程度だ」


「ふむふむふむむ。妨害は?」


「サカンとフレアが道を舗装したが、()に壊されたらしい。空中もナシだ」


「なるほどなるほど。理解したのです。

ジョージぃー。"ぷてら弐号"と"うらしま参号"を出すのです」


「相わかった。"まりも壱号"はいいのかい?」


「今回は休憩なのです。【建築ビルド】」


ミカンが片手間に作り出したものは……砂岩でできた、一枚板。それが二枚。


「砂上をソリで滑る方針でいくのです。"うらしま参号"は砂を泳ぐ事はできませんが、回転飛行ができますし短期間なら流砂に着水できます。

二班に分かれ、砂中の魚と空中の魔物を誘き寄せつつ進む……というのはどうです?」


「おおー。それは中々ハードモード。悪くないな」


どこまで飛べばペナルティの魔物が降ってくるのかは分からないが、地上付近でソリを滑らせる程度なら問題無い……ないし、問題があったとして相手をすればいい、と。

そも走りながらであればそこまで多くの敵に囲まれる事もないからな。


「よーし、出発!」


と、流砂に乗り出した瞬間──砂原から、何かが飛び出す。


──【スキャン情報】──

《すなばみおおぐち》

LV160 ※レアエネミー

弱点:

耐性:火/氷

無効:打

吸収:地


text:

デザート階層の流砂に潜む超大型クジラ。地上にある固形物を全て呑み砕き砂にする。

建造物は触れるだけで破壊され、丸呑み攻撃は即死技。常に同個体と連絡を取っており、倒すと複数体で報復にくる。

────────────




──魚じゃねーじゃねーか!!!




──◇──




──【飢餓の爪傭兵団】仮設拠点


「あれ、なんで【夜明けの月】に渡す資料がここにあるのですか。何か知ってますか総頭目」


「あん? ブラウザ、オメー資料が無い資料が無いって騒いでたじゃねーか。俺がテキトーに書いて渡したぞ」


「……取引材料を! テキトーに書いて! 渡すなー!」


「んだよ。珍しくちゃんと書いたってのに。1行」


「何書いた! あぁもう信用問題! 総頭目は頼むから大人しくして下さい!」


「はいはい」


「はいは一回!」


「うぇい」




「……サカンよ。あの資料はなぜここにあったのだ?」


「ファルシュ隊長が尻に引いていましたよ。気付いて無かったのでしょうが」


「……なるほど。会議後に気付いて、こっそり机の上に置いたというわけか……」


「は、はぁー!? んな訳あらへんやろがい! ちょっとチョロまかそうとしただけやで!」


「その方が問題では……?」

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