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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
氷砂先陣ブルード/デザート階層
402/507

402.だってできるから

デザート階層

──氷の城


灼熱の砂漠。

絶氷の柱。

デザート階層をデザート階層たらしめる"渇き"。

故に唯一、この氷の城には水が流れる。

氷と水の城──"湿潤"の象徴。


「……まさか、そこから来るとは思いませんでした」


「同感。なんで噴水の中に転移するかね」


びっちゃびちゃだよ。

もうちょいマトモな場所に出られなかったのかな。


……目の前、階段の上の氷の玉座に座るは件の魔女。

氷を身に纏った褐色の女王──"アル=フワラフ=ビルニ"。

玉座から動く様子は無い──それもそのはず。既に彼女は自分で動けるような状態じゃないはずだ。


「ごめんなさい。折角の客人をもてなす事ができず」


「こちらからそっちに行く。動かなくていい」


「そうですか。感謝します。

……どうか、貴方の名前を」


「そうだね、女王を前にするならばちゃんと名乗らないとね」


想像していたよりも状況は悪そうだ。変に嘘をついて時間をかける訳にもいかない。


「【夜明けの月】としてブルード階層に突入した冒険者スペード。そして、【NewWorld】のバグそのものでもある」


「はい……レイドボスの連絡網で聞いています」


「この世界の破壊者として?」


「……"信頼できる仲間"と」


……"エルダー・ワン"だな。あいつ言ってくれるねー。

"アル=フワラフ=ビルニ"の目は、僕をまっすぐ捉えて離さない。


「………………そうだね。助けに来たよ"アル=フワラフ=ビルニ"。僕に任せてくれる?」


「ええ。こちらにどうぞ」


そんなに時間も残されていない。せめて彼女だけは治さないと。

"アル=フワラフ=ビルニ"の隣まで階段を登る。ここまで近ければ、大体は理解できるとも。

……内部データが酷く破損している。これは……確かにバグってはいるけれど……。


「君、変なデータを受け入れてるね? ……いや、というより……自分のデータを誰かに譲渡して、その穴を無理矢理埋めた。それでバグったか」


「流石です。もうそこまで見抜いたのですか」


「そりゃあね。……しかし、そうなると……だ」


データの譲渡先は──"クイーンアント"。

受け入れたデータは……170階層のレイドボスのデータの一部と、まだ【Blueearth】化していないそれ以降の階層のデータ……?

いや、多分受け入れるデータ自体は何でも良かったんだね。無作為に、無秩序に──ただバグを生むためだけに受け入れている。




「……僕を騙したね。氷の魔女」


「あら。もう気付いてしまったのですか?」




氷の檻が、玉座を塞ぐ。

自分諸共閉じ込めたか。狡猾だなぁ。

……苦しんでいるのは間違いなく本当なのにね。


「我々セキュリティシステムは、先の"MotherSystem:END"の騒動で……事実上、【Blueearth】に敗北したと言って相違ありません。

ですが。どうせ散るのならば……最後にセキュリティシステムとしてのやり残しを済ませたいのです。

世界のバグ、スペード。貴方を抹消するために」


「その体たらくで、できるの?」


「できます。できてしまう。

……誘われていると知って、ここに独りで来たのでしょう?」


「一人で来てほしいって言ってるようなものだからね。真意は会うまで分からなかったけど。

それで、どうやるの?」


「単純な事です。私は何もしませんよ」


この場で僕に消されることも覚悟している……覚悟の目つき。

あー……そういう事。


「天知調か」


「ええ。【夜明けの月】を裏切った貴方を、天知調が許すはずがないでしょう。

貴方の善意を利用して申し訳ありませんが……ここで貴方を倒せると分かっていて放置すれば……後の世界で我々が消されるかもしれません。保身のためです」


「そう。"クイーンアント"も共犯者なんだね」


「……彼女は悪くありませんよ。私が立案して、私が騙した。彼女は被害者です」


「そうかなぁ。察しがついていた感じだったけど」


セキュリティシステムは、もう【Blueearth】から【NewWorld】を守れないと判断している。

だから"エルダー・ワン"のように、次の事を考えなくてはならない。

新世界における今のセキュリティシステム達……自我を得てしまったレイドボス達の処遇を。


このタイミングでこうすれば僕を処分できると、彼女は気付いてしまった。

気付いたからには、やらないとねぇ。

道理だ。自分が助かるために自分を削ってしまっては本末転倒だけど。


「……私を利用する事もできませんよ。もうレイドボスとしての殆どのデータはありませんし……間も無く私は消えます。

私を砕くチャンスは今だけですよ。善意を利用して自分を殺す、憎き私を」


「……そう。じゃあ──」


"アル=フワラフ=ビルニ"は目を閉じる。

……舐められたものだね。




「とりあえず、バグの進行を止めようか」




「……え?」


発生したバグそのものは大した事はない。これ以上放置すれば"アル=フワラフ=ビルニ"は霧散するけど、データを"廃棄口"に流してる訳でも無いからね。全然回収可能だ。

まずはバグを切除吸収して、足りないデータは適当にコピーして穴埋め……いや、折角だしここは……。


「ま、待って下さい。何故?」


「いやだって、このままだと死ぬよ君。死んだ事ないだろうから教えてあげるけど、生命って死んだら終わりだよ?……僕は一回死んでるけどね」


「いやそうではなく! 何故私を助けようとしているんですか! 私は──」


「だって()()()もん。

君だって()()()と気付いちゃったからこんな事したんでしょうが」


「──それ、は……」


黙っちゃった。

納得はしてないみたいだけど、反論もできないか。


「幾つか理由を付けてあげよう。まず、君がこんな事しなくても僕はゆくゆくは【夜明けの月】を裏切らなくちゃいけなかった。丁度いいきっかけだったね。

天知調と喧嘩したかったし。両得だ。

あとは、そうだね……君の見た目は、多分クローバーの好みだ。助けてあげないと僕が殺されちゃうよ」


「……ふふっ。なんですかその理由」


あ、笑った。しかし美人さんだなぁ"アル=フワラフ=ビルニ"。"クイーンアント"は蟲形おばちゃんなのになぁ。


「あと、絶対にメイド服は着てはならないよ。頼まれてもダメだよ」


「どういう警告ですかそれ」


「ウチの参謀まで壊されちゃ【夜明けの月】が立ち行かなくなるからね」


頭に疑問符浮かべてるね魔女。可愛い。

……さて。色々と想定外だったけど……実は、準備は済ませてある。足りない分は彼女から借りるとしよう。


「よし。じゃあ始めようか【夜明けの月】。

──最後の喧嘩といこう」


「……あ、あれ? スペード、貴方もしかして……」


「うん。今の君の不足分のデータに割り込ませて貰ったよ。よってここに(勝手に)"拠点防衛戦"を発令する!」


「ちょ、ちょっと勝手に──あぁ身体が勝手に動きます!」


"アル=フワラフ=ビルニ"が立ち上がる。噴水の水が噴き上がる!

おお派手だなぁ。檻の中だけど。


「あ、あの、長丁場になりそうなので……檻を解除しても?」


「一応最後まで僕を殺そうとしていた方がいいんじゃないの? そうすれば僕に利用されただけって申し開きが立つし」


「なんでそんなに優しいんですかぁ!」


ぺちぺちはたかないでほしい。氷の塊もガンガン当たってるんだよなぁ。




──◇──




【第160階層 氷砂先陣ブルード】

──2日目 6:45

地上転移ゲート前


side:クローバー


「んー……"拠点防衛戦"かァ」


視界を埋め尽くすは……地平線の先、氷の魔物の軍勢。

そしてこちら側は、穴という穴からわんさか出てくる"フワフアント"の兵士たち。

典型的な原住民協力タイプの"拠点防衛戦"みてェだが……当然、問題もあらァな。


「ベルは……タッチの差で帰れなかったか。残念だったな! はっはっは!」


「やかましいわマックス。……クローバー、これどうにかなるの?」


「難しいだろォな。そもミラクリース以降じゃ"拠点防衛戦"そのものがほぼ発生して無ェが……どこで発生したとしても無理ゲーだろうよ」


ここが【Blueearth】というゲーム世界で、"拠点防衛戦"というレイドイベントが存在するという事実。

【Blueearth】のプレイヤーは初期5000人から補充も脱落も無いという事実。

それが重なった結果……後半の階層になればなるほど、冒険者の人数は少なくなるという問題が現れる。

多人数想定のレイドイベントだが、このブルードにいる冒険者は俺たちだけだ。スペードとジョージを抜いたら24人。

"カフィーマ・リバース"の時のそれとはワケが違ェ。"拠点防衛戦"のシステム次第では、こんな少数でどうにかなるもんじゃねェってのが普通だ。


「デザート階層での"拠点防衛戦"は……当然、初めてよね。まずはメアリー達と合流する?」


こっちの駒は……。

俺、リンリン、ドロシー、アイコ、ツバキ。

サティス、スカーレット、プリステラ。

エンブラエルにマックス……この10人がレベル上げチームで、そこに逃げ損ねたベルを足して11人。


女王の間んチームは……。

ライズ、メアリー、ゴースト、カズハ。

バーナード、コノカ、フェイ、ソニア。

ジャッカル、セリアン、ブックカバーにイツァムナ。

12人だな。


あとはジョージとミカンが宿。スペードはどこか。

このタイミングで"拠点防衛戦"が起きるなら……レイドボスによる干渉だよなぁ。


「チャット届きましたクローバーさん。スペードさんはレイドボス"アル=フワラフ=ビルニ"の所へ行ったそうです」


「ん。……スペードに限ってレイドボスにやられたって事ァ無ェだろうな。むしろレイドボスを取り込むまである。

……よし。メアリーと連絡繋げてくれドロシー」


「はい。繋げました」


はやっ。流石ドロシー。

空中に浮かぶ画面の先は、女王の間のメアリー。


『クローバー。ベルとは合流してる?』


「ああこの通りだ」


「不服ながらね」


ドロシーが繋げたウィンドウなのでちょっと位置が低い。大人組が全員中腰で画面を見てるのが……なんかおもろいな。


「"拠点防衛戦"だが、俺ァこのまま分かれて様子見をした方が良いと見た。"フワフアント"の兵士達は戦力になるだろうし、それぞれちゃんと回復役も分かれてるしな。

向こうの狙いが何なのかわからねェが、"拠点防衛戦"って事はルール上冒険者がレイドボスに出会う手段があるって事だ。これをチャンスと見たぜ」


『……なるほど。"拠点防衛戦"ならミカンの手助けが必要ね。あたし達はブルードの奥の方に居るから地上にはすぐには出られないわ。ミカンを拾ってから地上に向かって、ブルードへの進行を阻止する。

アンタ達はこのまま"フワフアント"達と一緒に進軍して"アル=フワラフ=ビルニ"を探して。指揮はクローバーに任せるわ』


「承ったぜマスター。とりあえず様子見から入るから、俺たちもそこまで奥には行かねェつもりだ。地上に出て城壁組んだら連絡くれ」


『わかったわ。この"拠点防衛戦"がどのくらい仕組まれているのか分からないから死ぬのだけは阻止しなさい。ベルは悪いけど、しばらくそっちを面倒見てくれる?』


「……はぁ。分かったわよ。あんま期待するんじゃないわよ」


役割は決まった。ベルもしぶしぶながら拒否は想定すらしていない。

さて。やるか、"拠点防衛戦"!


「相手はどいつもこいつも格上だ。無理せずリンリンを盾にしてゆっくり前進していくぜ!」


「は、はい! お任せ下さい……!」


「人聞きが悪すぎるわね……」


変則チームで初見攻略ってのは……ゾクゾクするな!

やってやるよスペード。ちゃんと胡座描いて待ってろや!

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