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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
大樹都市ドーラン/フォレスト階層
40/507

40.その男、人類最強。



その男の名前は、谷川譲二。


一介の現役警察官。しかしその名を知らぬ者は無く。

齢42歳にして筋力衰える事なし。あらゆる身体能力は未だ成長中である。

視力、聴力、嗅覚に至るまで常人の比では無く。

動体視力、反射神経その他諸々は当に人智を超えていた。

あらゆる護身術を収め、あらゆる武器を学んだ。

人呼んで《最強の人類》。大天才天地調と並ぶ、現代最強の一角。




──天地調の国際指名手配より半年。

現世は混迷を極めていた。

数千人の人質を取った天地調を前に、国連さえ手出しが出来ず。

既に30回を超える回数のハッキングが試みられたが、悉く失敗。

そして国連は遂に奥の手に出た。


国際ハッカー組織、《ノワール》の協力を得たのだ。

表向きには追う者と追われる者。だが共通の敵が、二つの組織に手を取り合わせたのだ。


「我々もリーダーを奪われている。今回だけは協力する。

 今回のハッキングでは、頑丈な人間が必要だ。

 切り札を切ってくれ。あの男を、《最強の人類》を呼んでくれ。

 彼でなければ不可能だ。彼でダメなら、人類では不可能だ」


そうして招集を受けた譲二は、快諾した。

正義感? 否。

彼の心には正義より重いものがあった。


天地調のいない世界において最高の機材を揃え、

天地調のいない世界において最高のメンバーを揃えた。

人類最後の決戦。

第38回【Blueearth】潜入作戦が開始された。




──◇──




「現世の心残りがあるとすれば、あなたです」


一面の白い世界。顔のない兵士の死体の山の上で、俺は遂に捕らえられた。


「私が私の為に生み出した武力機構──《拿捕》の輩を、たった一人で壊滅させるとは」


標的──天地調がその姿を現す。

惜しかった。あとはこの兵士達を束ねる白の美女だけだったが。


「申し訳ありません、マスター……。白き劔が、維持できない……」

「ゆっくり休んで下さいブラン。アレは規格外です」


口一つ動かせない。この距離なら唾でも飛ばして……まあ失明程度なら狙えたろうに。残念だ。


「最強の人類、谷川譲二。私の才能が頭脳に宿ったように、その肉体に才能を宿したもう一人の天才。

 ここはあなたを捕らえるための空間。二年──いや、半年に及ぶ門前払いの末、ここへのガードだけを緩めればここに来ると思っていました」


どうやら人類は騙されたようだ。狡知なる天地調。人類の敵。


「今から発言を許可します。……行動は慎重にお願いします」


──喉の拘束が解除された。

さてどうしたものか。この美女に唾を吐くか?

うん。やっても無駄だろう。やりたくない。


「実際に会うのは初めてだな、天地調。映像越しより美人だ」


「……ええと、まあ、はい。ありがとうございます」


「照れている姿も可憐だ。人類の宝とはその頭脳ではなく、貴女の美しさを称したのだろうか」


「あぅあ、な、なんなんですかぁ」


「マスター、お下がり下さい。恋愛耐性が低すぎる」


天地調を庇って前に出るは好敵手。ブランと呼ばれし美女。


「ブランと言ったか。なるほど穢れ一つない(ブラン)とは貴女の事か。

 白く気高く、何物にも染まらない揺るがない意思を感じたぞ」


「あぁぁ、ま、負けませんよ」


「もうだめです。《審理》にかけなさい」


二人して真っ赤になって、再度喉を拘束される。

うむ。羞恥する表情も芸術品のように美しい。




──◇──




裁判所のような場所に連行された俺の前には、灰の法衣を纏う美女。

美しい。女神をまた見つけてしまった俺は幸せ者だ。


「聞こえております。少々、静かにお願いします」


恥じらう様も美しい。どうやら読心が可能なようだ。皮膚に出た筋肉の緊張から思考をある程度憶測する事なら俺もできるが、それより精度がよさそうだ。


「【アルカトラズ】《審理》の輩 灰の槌のスレーティー。ここに、谷川譲二への審議を行います」


随分一方的な裁判だ。が、本来なら即処刑だろうに次々と刑が緩和されていく。

天地調とブランが異議を唱えるが、スレーティーは譲ろうとしない。

天地調はブランを武力機構と呼んだ。なればスレーティーは裁判機構か。


「スレーティー。公正たる純潔の女神。発言の許可を頂きたい」


「……どうぞ」


「一つだけ、天地調に尋ねたい。その返答によっては、いかなる罪であろうと認め、断罪を受け入れよう。

 俺は貴女達を脅かす敵だ。同情する必要はない」


俺の心を読んだのであれば、きっと困ったのだろう。

スレーティーの役割はおそらく、俺に判決を下し罪人として処刑する事か。

出来レースでしかないが、それでも公正であろうと減刑を図っていたのだろう。

その気持ちだけで十分だ。


「……許可します」


「感謝する」


女神の許可も頂いた。たった一つだけ、俺がここに来た本当の目的を、聞く。




「俺の娘は、幸せか?」




たった一人の、俺の娘。俺の家族。妻の忘れ形見。

【Blueearth】に取り込まれた俺の娘。

もし奴隷のような扱いを受けているのなら許しはしないが……

俺でさえこのようにちゃんと審理して罪を決めているのだ。不当に扱いはしないのだろう。

ただ、娘が幸せならば。それで十分だ。


「貴方の娘、──ちゃんは……

 はい。幸せだと。そう思って生きています。今も」


ああ。


ならば、何もいらん。

俺の存在さえ、娘にはもう不要だ。


「判決を下します。

 ──谷川譲二を、《禁獄》送りとします」


苦しそうに、それを表に出さないように判決を下すスレーティー。

バレバレだ。俺に視力を残せばそのぐらい読み取れる。


ありがとう、優しく不平等な裁判官。

美しき天秤の女神。




──◇──




──それからどれくらいの時が過ぎたか。


俺は監獄へ送られた。

とは言っても、何もない真っ黒な部屋というだけで監獄のような感じではない。

窓もある。こちらからは開かない扉もある。

照明は無いが、相応に明るい。あくまでテクスチャで、この部屋には何もないのだが。


俺は拘束されていない。この部屋で大人しくする事が、俺に対する処刑だった。


「クフフ。入るぞ罪人(ペット)


あかない扉が開くと、ここの獄長──絶世の美女がお出ましだ。

黒基調に金の差し色が入った看守服。美しい脚部を強調するタイトスカートの下は、鮮血より赤いカラータイツ。

金の髪は風にたなびくストレート。白色と銀色のチョーカーは、姉二人を象ったものだと言う。


「貴様のご主人様。《禁獄》の輩 黒き檻のネグルが調教にきてやったぞぉ?」


鋭い切れ目を嗜虐的に歪ませて、精一杯の決めセリフ。最初よりはサマになったな。


「上手い上手い。これで犯罪者も泣いて従うだろうさ」


「……本当ですかぁ? くふふ、うれしい。ねぇ、怖かったです?」


「いや。どこまでいってもネグルは可愛いよ」


「ふわぁ……」


この獄長、この監獄《黒の棺》において絶対的権力を有しているにも関わらず、「どう罪人に過ごしてもらうか」なんて考えていたので、アドバイスをしたのだ。


『扉、窓、照明といった物質を部屋に置くな。割るなり削るなり加工すれば鍵くらい作れてしまうぞ』

『ベッドもトイレも食事も不要だ。何もさせるな。良心が痛むなら、空腹と睡眠欲を切ってやれ』

『最強の刑罰とはなにもさせない事だ。面会巡回は毎日同じ時間ではなく、数日空けて不定期に。体内時計を狂わせれば発狂など容易い』

『基本的に命乞いには耳を貸すな。口を開く余裕があると思え』

『暗いのが可愛そうなら、常時昼間に設定しよう。日出日没なんて都合いい時計を与えるな』


《理想的な監獄》会議を繰り返すうちに、何やら気に入られた様だ。俺もこんな美女と話せる事は嬉しい。


「だが、いつも無防備すぎるな。罪人と出会う時には拘束しろと言っただろ?」


「ジョージ以外はちゃんと拘束してます。ジョージは特別です」


「特例は特例を生む。いい監獄には相応しくないな」


「そこは大丈夫ですよぉ。くふふ。明日わかりますから」


ニコニコ笑顔なのはいいが、困った。

心が読めてしまった。どうしよう。そんなことされるとな。

でも指摘したら悲しむよな。困ったな。




──◇──




──翌日。


「罪人、谷川譲二。出ろ」


仕事モードのネグルに連行され、両手を拘束されて部屋から出る。

《黒の棺》から出る。

《灰の法殿》から出る。

【Blueearth】から出る。

天地調のモニタールームに到着する。


いやどこまで移動するんだ。

天地調、ブラン、スレーティー、ネグル。美女四人が揃い踏みだ。

天地調が大きなため息一つ、俺の拘束を解除する。


「えー。【アルカトラズ】三大権力全員からの強い要望により、非常に不本意ながら貴方を解放します。

不当な《拿捕》《審理》《禁獄》を、私天地調より深く謝罪しますぅー……」


ええ。ええ……。


「つきましては貴方を改めて【Blueearth】へ招待します。

 現世には返せません。現実側に、ここから出る貴方を受け取るだけの技術が無いので」


なんか知らないが、自由の身になった。

三人の美女は天地調の後ろで、してやったりと満足気だ。


「あまり天地調をいじめるなよ……」


何のことやらと笑顔の三人。女性は強いな。

俺も妻にだけは勝てなかったものだ。


「それでですね。あなたをそのまま冒険者にするとバランスが終わってしまいますので、調整させて頂きます。

 あと記憶改変はしません。あの話聞いた身としては娘さんの記憶奪うなんてできませんから。

 その代わり、専門家に監視してもらいますから、あまり派手な事はしないように!」


ほう、専門家。記憶持ちの冒険者も少なからずいるという事か。

まあせっかくの機会だ。娘が無事とわかっているのだから、楽しく遊ばせてもらおうか。




──◇──




──そして現在。

【第10階層 大樹都市ドーラン】

【土落】繁華街裏の空き地


「そういうわけでドーランに着いたら、そのまま『散歩』と称して逃亡です。

 次やったら消しますよほんとに」


「すまない。初めてのゲーム世界に興奮してしまった。お前を悲しませてしまって済まない」


「ぐえ」


天地調が押されている!

あの天地調が、押されている!!


信じられない怪物だ。これが新時代の頭脳(ソフト) 天地調に対抗できる唯一の人物。

──新時代の肉体(ハード) 谷川譲二か。


「そういう訳でよろしく頼む、専門家。名前を伺っても?」


「……ライズだ。責任者はこっち」


「メアリーよ。裏切り者は死だから宜しく」


初耳だぞそのルール。


「ははは。そう緊張しなくていいぞ気高く美しいリーダー。

 実質的な進行役はライズ君かな。色々聞きたい事があるんだが」


すらすらと歯の浮くような言葉が出てくる最強の人類。

しかしその見た目はロリ大和撫子である。脳がバグる。


「ああ……まあ、細かいルールを教えないといけないよな。これからよろしく頼む、()()()()


と握手すると、インベントリが光り──




《ネームタグを使用し、対象の名前を【ジョージ】に変更しました》




あ。

え、こいつも!?

以前はゴーストにも起きたミスだが、外部参加者はこうなるのか。


「すまん。名前が……」


「見た目には合わんが、間違いではない。別にいいのでは?」


肝が据わりすぎでは?




──◇──




なんやかんやで《最強の人類》女児Ver.ジョージが加入した。


「ので、さっそくだがジョブ会議です」


情報を外に流したくないので、《簡易ログハウス》にて作戦会議。


「俺は初期レベル20。第2職まで解放できるのか」


「一応強い要望があれば聞くが?」


「いや、そちらに任せる。恐らく俺に頼みたい仕事があるんだろう?」


話が早すぎる。まあ助かるが。


「冒険者の多い序盤のうちに確保しておきたいのがクリエイター系とサモナー系。特に急を要するのは移動係だ。

 だからサモナー系第2職【ライダー】になってもらう」


本人が言っているだけなのでどこまで本気かはわからないが、ジョージは戦闘に積極的に参加できないらしい。

非戦闘要員としてなら、今まさに欲しいポジションに育てたい。


「身体機能が著しく制限され、素手の格闘は厳しくなった。体格差があるし、単純にリーチの差が致命的だ。

 俺は人の二倍速く動けても、歩幅が二倍短ければ意味がないという事だな。

 できる事といえば軽くなった体重を利用して逃げ回るのが関の山だろう」


本当か?


──とにかく、ジョージは足の確保として【ライダー】を選び、サブジョブが解放されたら【クリエイター】の方向も伸ばそうという結論になった。


「あと、服装だな。ゲーム世界だからか着物でも動けない事は無いが、もう少し機能性が欲しい」


「その辺はうちのファッションリーダーに頼む。どうだアイコ」


「──譲二さんの服、とはまた畏れ多いですね。頑張ります」


アイコも緊張してる。アイコだって《最強の女子》と名高いのだが、相手は正に《最強》だ。

……アイコですら怯むのなら、どれほどの実力差があるのだろうか。




──《最強の女児》 ジョージが仲間になりました!



~魔物図鑑・フォレスト編~

《寄稿:【象牙の塔】イツァムナ》


やあやあ未来ある愛児(まなこ)達。

わたしがイツァムナです。


今回はフォレスト階層の魔物について紹介していきます。

フォレストでは擬態・奇襲を覚えた魔物が多く生息しており、木々に阻まれ視界が悪い状況では攻略が上手くいかないことも多いです。

まずは低階層低レベルの敵を確実に倒し、経験値を稼いでいきましょうね。


《スパイダー:スカイフラワー》

【第11階層フォレスト:新緑の出入口】に多く生息する、比較的高レベルなエネミーです。

巨大な大蜘蛛。空飛ぶスカイフラワーの花弁を蜘蛛の巣に装飾し、《スカイフラワー》に擬態します。

基本的には高い位置に生息するので、無理に戦闘する必要はありません。

が、花が下を向いているタイプには注意が必要です。直下を通った冒険者を奇襲してきます。

もし戦闘になった場合は、弱点の炎か氷魔法で動きを鈍らせ、槌などの打撃で倒しましょう。

逃げる場合は高圧発射する蜘蛛糸の矢に気を付けて。多少タイムロスでも木々の合間を縫ってジグザグに逃げた方が安全です。


《タイラントフラワー》

サバンナ階層から紛れ込んだ捕食植物です。人間の脚のような根を持ち、地上を走りながら獲物を追います。

上半身は催眠と麻痺の状態異常を振りまく花です。近くに寄るだけで状態異常になります。

こいつは自分から近寄って弱らせてから捕食する性質があります。アクセサリやアビリティなどでデバフ対策していれば楽に倒せる相手です。

イツァムナはこいつ嫌いです。脚が綺麗すぎます。


《ホッピングボマー》

フォレスト階層に生息する機械生物。背中に爆弾ドローンを乗せた巨大バッタです。

自身が高くジャンプし、ドローンを同高度の水平展開。適切なタイミングでドローンから爆弾を投下します。

ドローン発射タイミングはジャンプ前に設定します。ジャンプを妨害すれば地上に爆弾とドローンをばらまき自爆する事もあります。

また、遠距離から炎属性攻撃を加えれば大爆発します。ジャンプ前に処理するよう注意しましょう。


《ブリーズパサラン》

静電気で自力浮遊可能になった綿毛の魔物です。複数匹が集合すると雷属性の魔法を放ってきます。

フォレストの関門、空中戦にて厄介となる敵です。遠距離攻撃ができないパーティだと容易く完封されます。

対策として、遠距離攻撃で倒す他、風属性攻撃で吹き飛ばす事も有効です。自力で移動できるといってもまだ風に流される綿毛に過ぎません。

固まり過ぎるとレアエネミー《パサランキングダム》へと変質します。こうなると吹き飛ばしが通用しなくなってしまうので気を付けましょう。




未知の魔物と遭遇した場合の対処は様々です。本稿のように情報誌を手に入れたり、現地の土地勘のある傭兵を雇うなどしましょう。

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