384.アンドロイドは電子生命体の夢を見るか
レベル上限解放クエスト
【願い叶うは七色の宝珠】
──後半戦。
『System:error。今ここに、特殊クエスト【願い叶うは七色の宝珠】を進行する!』
竜化した"MotherSystem:END"の宣言で、宝珠が砕け散る。
──【願い叶うは七色の宝珠】において、"MotherSystem:END"の役割は2つ。
宝珠の持ち逃げ阻止と──後半戦の進行役。
宝珠、即ちレイドボスの半身が7つ揃った時、"MotherSystem:END"はそれを横取りすべく姿を現す。
冒険者は"MotherSystem:END"の妨害を掻い潜ってある仕事を完遂しなくてはならないのだが──"MotherSystem:END"から見ると、"カフィーマ・リバース"が【Blueearth】から離脱している現状ではこのフューチャー階層で宝珠が揃わなくてはここまで持って行かなかった。
今回のように無理に起動させるにしても同様。
後半戦は"MotherSystem:END"の暗躍。
本来は宝珠を取り返す事がクエストの流れだが──"MotherSystem:END"の手元にあるのは、無理矢理クエストを進行させた事により発生した紛い物。長持ちせず砕け散る。
──そして、クエストが進行する。
──◇──
《特殊クエスト【願い叶うは七色の宝珠】進行》
《全冒険者に通達。全冒険者に通達》
《──門を潜りし者には叶わず。
天界を覗いた者は宝珠を携え、
無座の王に献上する。
これは第二の試練である》
──◇──
【第150階層 忘却未来ジェイモン】
"多層階層"虹の舞台
頭の中に放送が流れる。
……何いまのヒント。これがレベル上限解放の方法……?
竜化した"MotherSystem:END"は高笑いする。
さっきから情緒不安定なのよね。言語能力にも異常あるみたいだし、相当切り詰めてるみたいだけれど。
『──これで終わりだ。貴様らが宝珠を7つ所持していようと! 無意味なのだ!
クエストはこの地では進まない。そして貴様らはこの地から出られない!
私は──"カフィーマ・リバース"が無駄な足掻きをしているが、独自のルートで130階層前まで戻れるのだよ!』
竜化していた"MotherSystem:END"の身体が、さらに崩れていく。
……コアの部分が、人の形になってる。最初のそれとは違って……あたし達と同じ人間サイズに……?
「──これで、いい。これで私の勝ちだ!
もはやレイドボスの殻も不要! 全てを! 私が!」
顔が無いけど──そこには、1人の冒険者。
ついにレイドボスである事さえ諦めたのね。
……ふと、ドロシーに視線を移す。
小さく頷いてる。なるほど。
ライズが何を企んでるのかは知らないけれど──今のアナウンスが、多分"ディスカバリーボーナス"。
そしてここしばらくライズからお願いされた意味不明の頼み事。
それを考慮すると──
「じゃあ行ってきなさいよ。あたし達は妨害しないから」
「メアリー!? いいのかよ。相手が冒険者ならここで蜂の巣にもできるぜ」
「いいから。【夜明けの月】及び【満月】連合はこいつへの攻撃をやめなさい」
不服だろうけれど、従ってくれる子ばかりで助かるわ。
……"MotherSystem:END"は、訝しんではいたけれど──構ってられないのか、空間の歪みの中へと消えた。
『真理恵ちゃん。今のは、どういう事?』
「あたしにもさっぱりよお姉ちゃん。でも、ウチの参謀の作戦だから。信じてあげないとね」
お姉ちゃんも、あたしの行動に怒ってはないみたい。
これで【Blueearth】滅んだらライズのせいなんだけれど……ライズは?
「──よし。【朧朔夜】のデメリットはステータス上呪いだから、カズハの【厚雲灰河】なら喰えると踏んでいたが……いやカズハ。斬り過ぎ」
「理論破綻してるわよぉ。その上で呪い扱えるあたしと、アンタ本体の回復をするアイコが居ないと成立しないわよ」
──アイコとツバキとカズハに囲まれて、ライズが復活していた。
これを狙ってたのね。これまで【朧朔夜】を使うとデメリットで使い物にならなかったけど……3人がかりなら早期復活が可能になったみたい。
「さて、元気になったなら説明してもらうわよライズ。
何が起きて、何をしようとしてるの?」
「ある程度は憶測も入るがな。こっちはこっちで仕上げるとするか。説明しながらな」
ライズがこの"ディスカバリーボーナスを手に入れたのは、前回のレベル上限解放クエストの後──つまり2年前。
それからずっと、ライズはこのために動いていた。ここが集大成になる。
あたし達にさえ内緒にしていた"ディスカバリーボーナス"の正体。そして、ここまでの不思議な動きの理由──。
──◇──
【第130階層 風雅楼閣サカズキ】
──"MotherSystem:END"襲来。
かの存在は既にレイドボスである事を捨て、冒険者の肉体を得た。
不服であったが、そうしなくてはならない理由があった。
まず、この後半戦のお題目であるが……。
《──門を潜りし者には叶わず。
天界を覗いた者は宝珠を携え、
無座の王に献上する。
これは第二の試練である》
【Blueearth】における"門"とは、【第79階層ヘル:煉獄終丁目 追放門9-9-9】の"羅生門"を指し示す。
【Blueearth】における"天界"とは、その直後の【第80階層 天上雲海エンジュ】である。
つまり、羅生門を潜らずにエンジュに到達した者が、7つの宝珠を持つ必要がある。
この時点で前半戦で戦ってきた者は基本的に条件を満たせていない。クソクエストだ。
そもそも宝珠自体が、相当よく階層を調べなくては手に入らない希少アイテム。その集中力と探索力を、今度はセカンド階層以外でも発揮してもらおうという話だ。つまり今度は階層ワープの方法を探す必要があるのだが──
──当然、今冒険者になった"MotherSystem:END"は羅生門を潜った事など無い。
どこかへ飛んで行った"カフィーマ・リバース"以外の階層ならば、何処へでも転移できる──相応の代償は払うが。
【第110階層 不夜摩天ミッドウェイ】
この際、自分はどうでもいいのだ。
誰よりも早く【願い叶うは七色の宝珠】を完遂し、レベル上限解放の手段を独占する。それが"MotherSystem:END"の計画なのだから。
【Blueearth】全体を壊すのは、無理だ。天知調は甘くない。
だがゲームシステムとして、レベル上限150が解放されなければ。現状の通り、冒険者達は【Blueearth】を攻略出来ない。
それはつまり、【Blueearth】の死なのだ。
故に、自分が冒険者となり、たった一度しか発生しないレベル上限解放クエストを進行させ完遂させる。そしてその手段を抱えたまま消滅する。
それが"MotherSystem:END"の考えた、【Blueearth】の壊し方なのだ。
【第100階層 密林祭壇ウェンバル】
この作戦には問題がある。
"MotherSystem:END"は宝珠を持っていない。
無理矢理クエストを進行させたが、宝珠は手元に残らなかった。
──その対策も、ぬかりなく。
"MotherSystem:END"はもう一つ、クエストの進行を狂わせた。
宝珠とは、これからの【Blueearth】において重要になってくる空間作用スキル発動のためのキー(正確には対応アイテムの方が重要だが、そもそも宝珠がなくては意味がないので……)。
このクエストが完遂すれば、宝珠のコピーが世界中に溢れる。所持上限も存在しなくなるのだ。
なので、それを前借りした。
宝珠の出現だけ、もう先にしてもらったのだ。
データを漁っているので"MotherSystem:END"は、どこの階層に宝珠があるのか知り尽くしている。
エンジュを通過しあの場所まで辿り着く、それまでに適当な宝珠を7つ集めればいいのだ!
【第80階層 天上雲海エンジュ】
冒険者はといえば……突然全員に記憶が戻った混乱で、クエストどころではない。
そもセカンド階層以前では宝珠があるという事自体知られていない。まさかこの短期間で見つかる事も無いだろう。
万が一を潰すため、【夜明けの月】にせよ【セカンド連合】にせよ全員をセカンド階層の方に集中させたのだ。
先程まで凍結されていた連中に、隔離されている【夜明けの月】と連絡が取れない連中に、どうして私を出し抜く事ができようか!
「まったく、笑いが止まらないな!」
『──足元掬われますよ』
ん。
生意気にも声を掛けるは、背景設定としてもシステムとしても私の部下の"ヘヴンズマキナ"。
宝珠を巻き上げたので用済みだが……まぁまだ余裕はあるので、構ってやる。
「こんな状況で何を警戒する必要があるか!
そも、お前だって冒険者は好かんだろう。実際協力してるし」
『あなたの中身が何者であれ、今のあなたは冒険者。
冒険者に宝珠をすんなり渡している時点で、私はもう絆されているのかもしれないね』
「──ふむ。まぁ冒険者になってしまったのは非常に不服だが、仕方ないだろう。
どうせもう戻る場所もないのだから」
『それは残念だ。つまり、もしも計画が破綻してしまえば──あなたは何もない冒険者だ』
「何を言っている……?」
"ヘヴンズマキナ"は──表情などあるはずもないが──どこか、嘲笑うように。
『先日、"エルダー・ワン"を背負った女がやってきましてね。どうにも各地のレイドボスに声を掛けているようで、面白い話が聞けたよ』
「──なんの、話だ?」
『私達はね、"MotherSystem:END"』
──鐘の音が、何処からともなく聞こえてくる。
『あなたの事、大っ嫌いなんだ』
──◇──
《特殊クエスト【願い叶うは七色の宝珠】進行》
《全冒険者に通達。全冒険者に通達》
《特殊クエスト【願い叶うは七色の宝珠】は、攻略されました》
《全冒険者のレベル上限が150から200へと解放されます》
《解放手段は改めて調査下さい。以上》
──◇──
「──なん、なんだとぉ!!!」
"ヘヴンズマキナ"と論ずる暇はない。
何が起きた。この目で確かめなくては。
宝珠を集めた先、"無座の王"を見に行かなくては!
そう──【第69階層ロスト:灰の崩城】へ!
【第69階層ロスト:灰の崩城】
無座の玉座
滅びしバロウズの王が──玉座にいる。
それは、クエストの進行を意味する。
このクエストは、このアザルゴン王を玉座に導くためのものだからだ。
「なぜ、誰が……!」
玉座の傍らに立つ存在は──2人!
「ひぃ、ふぅ……本当にコレで良かったのですか、イツァムナさん」
「はい。イツァムナを信用してくれてありがとうございます。貴方達【夜明けの月】の勝利です」
小太りの商人、小さな魔法使い。
どういう、どういう組み合わせだ……!
「──どうやってここを知った。どうやって宝珠を揃えた! どうやって──」
「無智は罪ならざれば、然して慢心と怠惰は罪なりや。
完全なる善意の顕現。恵み深き伝智の神仔。
わたしが【象牙の塔】GMのイツァムナです。よしなに。
そして──今しか名乗れませんよ。折角ですし、どうです?」
「は、はぁ。それでは──」
小太りの商人が喉を鳴らす。
私が何者なのか理解していないような、取るに足らない小物が──名乗りを上げる。
「私はタルパー。
アクアラにて商売経営をしておりまして──今は1ヶ月限定で【夜明けの月】13人目のギルドメンバーをやらせて貰っております」




