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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
忘却未来ジェイモン/フューチャー階層
382/507

382.砂城の王子

【第150階層 忘却未来ジェイモン】

"多層階層"虹の舞台

──side:メアリー&ライズ&クローバー


アカツキ。

セカンドランカー最強ギルド【月面飛行(ムーンサルト)】のギルドマスター。

【Blueearth】の歴史の中でも最大人数のギルド連合【セカンド連合】の創立者。

……構うまでもないチンピラのようでいて、時たま見せる勘強さ。

総じて"よくわからん"男だ。


「俺さ。正直アンタの事は眼中に無かったぜ。

持て囃したところで結局は途中下車した奴だ。そんなのセカンドランカーでは山ほど見てきた」


「そりゃそうだ。というか、今は違うのか?」


「【夜明けの月】全体を見直した。カフィーマじゃ迷惑かけたからな」


「……迷惑を理解できるようになったのか」


「ひでぇ。……ま、お陰様でな」


なんとも、やりにくくなった。

自信に満ち溢れるクソガキだったアカツキは、多分アイコのカウンセリングのお陰か随分と落ち着いた様子だ。

……カフィーマでの【月面飛行(ムーンサルト)】一斉解雇。それによる"宝珠争奪戦"の結末の先送り。

それは即ち、"カフィーマ・リバース"が懸念していた"MotherSystem:END"の悪事の先送りでもあった。

宝珠が7つ揃った瞬間に、"MotherSystem:END"は何かを企んでいた。だからそれを回避するために──或いは、仲間がこれ以上利用されなくするために。


「随分とリーダーらしくなったな。ある種魅力半減だ」


「安心しろよ。俺はまだしっかりカスだ。

……別にお前らに肩入れするつもりはねぇよ。負けたら渡すが……勝ったらちゃんともらうぞ、宝珠」


「デカい口を叩くように……いや、そこは元々か」


さて。

困った。

……実際問題、【スイッチヒッター】としては元からアカツキの方が強いんだよな。

しかもカフィーマで見た感じ、ちゃんと【スイッチ】も戦術として取り入れるようになってる。

……ここでも、既に読み合いに負けてるしな。ここは……出し惜しみはできなさそうだ。


「【スイッチ】【壊嵐の螺旋槍(タービュランス)】!」

「【スイッチ】【黒葡萄(ダークグレープ)】!」


距離を詰めるための神速の槍。

対するアカツキは接触起爆の爆弾槌。

相性不利──だが、通す!


「──【スターレイン・スラスト】!」

「来るかよ! なら受けて立つ!」


黒葡萄(ダークグレープ)】は片手槌だが、アカツキの左手には何もない。片手槌だけ設定している?

とりあえず目に見えた武器じゃないなら何とかなる。流星を纏う突進は、爆発によって押し止められ──お互いに武器を弾かれる。


「「【スイッチ】!」」


近距離での殴り合い。アカツキは剣を出すだろう。

先ずは手を奪う。【簒奪者の愛(ゲットバッカー)】と【影縫(かげぬい):猿飛(さるとび)】の短剣二刀流。この近距離なら最速の攻撃だ──!


「──なんちゃって」

「え」


──アカツキの武器が、変わってない。

宣言しただけなら、【スイッチ】宣言分──アカツキの方が速い。


「【兜割り】ぃ!」

「ぐげー!」


単純な振り下ろしスキル。だが爆弾棍棒だ。

爆発で吹き飛ばされる──こっちから攻撃できてないから、武器を奪う事もできてないな。

死にはしなかったがしっかりダメージを受けたな。


なんというか、うん。もしかして俺って単純なのかな。


「次だ! 【スイッチ】【道化師の隠し銃(ジェスター・リップ)】!」

「やべ──"スライドギア"!」


アカツキの獲物は片手銃。

一度弾いた俺を一方的に攻撃できるからな。そりゃそうなる!

だがどんな体勢からでも並行移動するアイテム"スライドギア"なら回避できる。

距離はあるからな。こっちも銃を選ぶしかないが……。


「【スイッチ】【封魔匣の鍵(パンドラ・カリギラス)】!」

「【スイッチ】【サンダーボルト】!」


アカツキが持ち替えるは、雷の槍。

おっとそれはまずい。またしても相性不利──


「行くぜライズ!【スターレイン・スラスト】!」

「クソァ!──【ゼロトリガー】!」


出の早い超高速突進スキルだ。適当に【ゼロトリガー】しても勝手にクリーンヒットしてくれる。

……片手銃だとこれレベルじゃないと相殺できない!


相殺。だが【スイッチヒッター】に武器弾きによるクールタイムは無い。


「「【スイッチ】!」」


──立て直しが必要だ。片手槌【灰は灰に(アッシュ・マッシュ)】に盾【ゴルドバックラー】。煙幕焚いて一度距離を──


──おい。ここも読まれるのかよ。

アカツキが選んだのは──この近距離で、両手銃かよ!


「防御貫通だ! 【デッドリーショット】!」

「クソッ、いい加減にしろよ……!」


黒い稲妻が横一直線。戦場を走る──




──◇──




アカツキは、これまでまともに【スイッチヒッター】を鍛えてこなかった。

そも第3職を渡り歩く変人。【スイッチヒッター】としての練度自体は、正直な話がライズを上回る事は無い。


彼が彼を"最強の武操者"たらしめているのは、武器の扱いではなくジョブの扱いである。


相手の土俵で勝ちたいというあまりにも無謀なバトルスタイルに、特別負けず嫌いな性格。それが産んだ副産物。

──あらゆるバトルスタイルの超高速習得。即ち、その場での情報習得。

"同じジョブ"との戦闘経験に関しては、アカツキの右に出る者はいない。そしてそうなった場合、最も有効なのは──如何に相手の嫌がる手を知っているか、に限る。


アカツキという男は、そのジョブを選んだのは全くの偶然だったが──正に【スイッチヒッター】を天職とする存在なのだ。




しかし、これまではその素質に気付いていなかった──別に今も自覚はしてないが──。

アカツキが【スイッチヒッター】として修練を積み始めたのは、【夜明けの月】がミラクリースにいた頃──【夜明けの月】と【水平(ホライズン・)戦線(フロントライン)】の"宝珠争奪戦"を見てから。

かつての仲間バルバチョフが、映像の先から言っているように感じた。


──()()()()が、お前を潰すぞ──


その時点でアカツキは現実世界の記憶を取り戻していたが──ブックカバーやマックスのように想い塞ぐほどの過去は無く。

ただ、諦観があった。

このまま【夜明けの月】から宝珠を奪い返したとして。宝珠の力を得たところで。

……トップランカーには勝てない。そう、心のどこかで諦めていた。

そんな時にバルバチョフの発破である。悩む暇もくれない。さっさと本気を出せと、言われた気がした。


──それから。人知れず、こっそりと。【スイッチヒッター】としての戦い方を学び始めた。


コツは"後出しジャンケン"だ。

相手の嫌がる手を見抜いて──それが無理ならなんとなく感覚で──素早く、可能な限り同時に近いタイミングで繰り出す。

【スイッチヒッター】同士の戦いにおいては、それが最大限活かされる事になった。


実際、ライズは武器も命も一方的に削られている。

明確な有利対面だ。

アカツキという男は、後で確実に調子に乗るために、戦闘中は調子に乗らない。

冷静に、ライズにできる手を見抜いていった。




アイテムを活用した手数の多さ。なるほどそりゃ厄介。

だが──それ込みでも、まだ予測の範疇だ。


ライズにゃ()()()()()()がある。

少しでも突出した火力を見出すために、ピーキーな武器やアイテムに頼っている。だがそんなマイナー装備、大抵は厳しい発動条件とかその辺があるんだよ。

だからライズの手は、かなりガタガタだ。奇策もまとめてバランス良く手札を揃えているせいで、奇策に偏った部分の手札が結果的に弱くなっている。


そこを突く──のは、二流だ。そこまではライズもわかっているから。

そこは()()()程度に。あくまでライズ自身が考えた手を読んで、そこに返し手を合わせる。バランスの悪い部分に誘導すれば、弱いとわかっていても手を誘導させられる。


「──さあ、次はどうするよライズ! もうお手上げか?」


「るっせぇ。【スイッチ】── 【忘れじの灰晶短剣(ロスグラス・ナイフ)】!」

「【スイッチ】【クレイガード】!」


投擲に強い盾。ライズが呼ぶのは一撃で壊れる短剣。

分かりきった不利対面でも、今のライズの位置と俺が見せた装備からはこうするしか無い。


……なんか、おかしくないか?


ふと、違和感を覚える。

あまりに上手く行きすぎている。

いや、俺の方が上手なのは間違いねぇけど。

そうじゃなくて、ライズの行動は──




──まるで、後先考えてないみたいで──




「──流石はセカンドランカー最強。簡単には勝てないな。

【スイッチヒッター】の先輩としては脱帽だ。"最強の武操者"の称号は貰えそうにないな」


ライズは──武器を構えない。

となるとアイテムだ。まだ見せてない何かを出すつもりだ──!


「【スイッチ】【サンダーボルト】──」

「"ミステリータイム"!」


──僅かに、視界が揺らぐ。

違う。俺そのものが空中に固定されて、ゆっくりと回転している……?


「発動条件は……"時計の針を一周させる事"。だがこの時計は1時間進むためには……その度にお前に接触しなくてはならない」


ライズの首に下げられていたロケットの蓋が開いている──懐中時計だったのか。

ヤバい。……いやヤバくない。

この停止はそこまで長くもたないはずだ。そして武器も削られまくったライズには、俺を一撃で倒せる手札なんて──




「【スイッチ】」




──弌ツ(ひとつ)。己が(HP)を闘争に奪われる事。




「──うそだろ。どうして」


あり得ない。あり得てはならない。

だって、お前、そりゃソレなら俺を倒せるかも知れないけど──




──弐ツ(ふたつ)。七の同胞(装備)を失っている事。




「分かってんのか! それやったら、お前……"MotherSystem:END"にどうやって対抗すんだよ!

()()倒せねぇんだぞ!」


「ピーピーうるさいぞガキンチョ。俺は、お前に勝つ」


詳細を知ってからずっと馬鹿にしてきた、ライズの必殺技。

火力不足が泣きついたネタ装備。俺はそう思っていた──別に今もそう思ってるけど。

そのデメリットは──言うに及ばず。




──参ツ(みっつ)。その一振りのみに全て(MP)を捧げる事。




「【朧朔夜】──」




それは一つの闘争の終焉。決別の敬意。

月も霞む程の陰炎(かげろう)がその刀身を覆い隠す。

炎と怨に蝕まれた妖刀の、閃光の如き抜刀術。




「──【焔鬼一閃】!」




──蛮勇を讃える赫の亀裂が、ひとつ──

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