377.サバイバー・デイズ
【第150階層 忘却未来ジェイモン】
"多層階層"青の舞台
──side:リンリン&ミカン
対"スフィアーロッド"撲滅戦なのです。
戦闘力が足りない我々"無敵要塞"ですが、別に戦えない訳ではないのです。
リンリンちゃんは実は大剣だって振るえるし、【リアクティブカウンター】でダメージ稼ぐ事だって出来るのです。
ミカンさんもまた、やり方次第でいくらでも戦える……というか、これまで結構やってたのです。
【夜明けの月】に入ってからは、戦う必要が無くなっていたので控えていましたが。
「【建築】──"千年王城壁"!」
創り出すは城壁。投石器とバリスタのオマケ付きなのです。
……これはかつての"イエティ王奪還戦"で使ったのですが、暴走する"スフィアーロッド"を倒し切る事はできなかった。
『またもソレか! 今更スキルでもない物理接触がこの我に通ると思うな!』
「うるせーのです。さっさとかかってこい冷え冷えトカゲ」
──クリックで【かまくら】として活動している間は、ほぼ"スフィアーロッド"と出会う事は無かったのです。"拠点防衛戦"に全振りだったので。
しかしその"拠点防衛戦"の裏にはこいつがいた。なんとも因縁深く感じてしまうのです。
……質量攻撃。【Blueearth】において、サイズは武器なのです。
人間同士なら片手剣と両手剣の鍔迫り合いで両手剣が勝つように……デカい方が勝つ。当然なのです。
人が押し潰されるほどの釣り天井も、例えば"スフィアーロッド"ほどデカければ小石が頭にぶつかる程度。それでは大したダメージにならない。
投石もバリスタも、"スフィアーロッド"には大したダメージにならず。その尾が城門を容易く両断して、城壁の上に立つミカンさんは落下してしまうのです。
……ので。
「──【建築】!」
『──なんだと!?』
そんな事は分かりきっているのです。
この城門は、投石器は、バリスタは──お前に壊させるためのもの!
クリエイター系ジョブスキル【建築】。
インベントリ内の資材を消費して何でも作れる万能ジョブ。【キャッスルビルダー】ともなれば周囲の物質も使用できるのです。
欠点としては、既製品の再構築が難しい事──それでもミカンさんは最強なので、他人の建築物だって容易く再構築しちゃえるのですが──自分で【建築】したものの再構築は、あくまで既存建築物の補修延長の範囲。
ミカンさんの立つ足場であれば永遠に再構築を繰り返して何処までも伸ばす事が可能ですが、そこまで大きな質量を突然動かしたりは出来ないのです。
だから。
一度"スフィアーロッド"が壊した瓦礫を利用するなら、最初からの【建築】になるのです!
「──"逆さ大聖堂"!」
創り出すは、"スフィアーロッド"よりずっと巨大な大聖堂──を、逆さまにしたもの。
城門の上にいたミカンさんが、新たに【建築】したなら──本来なら遠くて届かない"スフィアーロッド"の頭上にだって一瞬で建築してやるのです!
「潰れるのですオチビ!」
『ぬおおおお!? ……負けるかぁ!』
"スフィアーロッド"は腕も脚も翼もある、しっかりとした身体のある竜。流石は10階層マラソンを想定されたボデーなのです。
必死こいて両腕で大聖堂を抑えて──首を上に向けて、ブレスで大聖堂を貫く!
『──ははは、これで──』
「もう一つ、仕込んでおいたのです」
──ブレスは、途中で止まる。
地上にあった城門を、空中で大聖堂に再構築。なのでついでに一つ拾い物をしたのです。
"スフィアーロッド"もようやく気付いたみたいなのですね。
『……お前一人で充分って言ってたじゃん!』
「んなもんお前を油断させるための罠なのですマヌケ。ミカンさん達は戦闘本職じゃないんだから、なんでも利用するに決まってるのです」
ブレスを受けるは──【Blueearth】最硬、"無敵要塞"リンリンちゃん。
「──【リアクティブカウンター】!」
真上からの、全力ブレスのカウンター。
つい両腕が緩んだか──大聖堂の残骸に押し潰されて、フィニッシュなのです。
──◇──
「──ミカンちゃん、無事!?」
「ミカンさんはトランポリン創ったので。リンリンちゃんは……あの高度から落ちて瓦礫に埋まっても無事そうなのです。さすがぁ」
「えへへぇ」
『……いや、普通におかしいからなソレ』
──◇──
"多層階層"金の舞台
──side:カズハ&"エルダー・ワン"
"エルダー・ワン"……ここでは、ロスト階層に残ったレイドボスの"エルダー・ワン"の事だが。
彼に自我は無かった。ただの災害として、ただの呪いとして、ただ永遠を王で遊ぶものであった。
やがて生まれた自我はセキュリティシステムが持っていき、レイドボスとしての彼は自我を放棄した。
元よりそこまで深く考えるほどのものでもない。結局はでかい悪霊だ。セキュリティシステムとしての責務も無いなら、自我などいらない。
のだが、目の前にはかつての片割れ。今に限り"エルダー・ワン"はある種の自我を取り戻したかのように思考できるようになっていた。
システムとしての自分には、そこまでの力は無い。
だが先日、目の前にいる片割れが自分の前に現れた事を思い出した。
もしや、自分は声掛けられたらなんでも手伝ってしまう存在なのではないか。
当時の自分がやった事は──自分の事ながら──少々軽率が過ぎる気もする。
「──じゃあ、やってみよう!」
片割れがご執心中の女は、二刀流を構える。
ロスト階層にそこそこ長くいた女だ。自分もやや覚えている。
……"エルダー・ワン"とは、かつて存在していた竜の魂。凍土にて生き絶える事を認められなかった悪霊が階層を超えてロスト階層へと到達したもの。
悪霊だからか、少々下卑な考えもよぎる。好い女だ。そりゃ片割れも惚れる。
──が、この"エルダー・ワン"。そこを最後に思考を捨てる。
目の前の女に、すべてが集まる。
それが重力の中心かのように、全てがあの女に引き寄せられ──ては、いない。
何も動いていない。何も変わらない。
なのに引き寄せられているのは、何故か。
「空間作用スキルver.2──相乗りには成功したね、"エルダー・ワン"ちゃん」
「うむ。行けるぞカズハ」
それは、この空間では起こり得ない現象。
女の背後に──"エルダー・ワン"の亡霊が映る。
「【サムライ】ジョブ強化スキル。
──【巌流観們試合】」
──◇──
空間作用スキル。
7つの【Blueearth】外部隔離階層を呼び寄せ、今の階層の内部に定着させる。その空間内部に限り、冒険者はジョブ強化スキルを発動・適応させる事ができる。
隔離階層は単体では不安定で小さく、複数の隔離階層を同時に発動させれば結合してしまう。
更にレイドボスとの協力があれば、空間作用スキルver.2へと進化。
隔離階層は今の階層全域と密接に結びつき、発動者以外の隔離階層を寄せ付けない。ジョブ強化スキルも独り占めできる。
しかもそのジョブ強化スキルも強化される、使ったら勝ち確定まであるチートスキルである。
──このver.2には、2段階ある。
というか"隔離階層と階層の結合"と"ジョブ強化スキル強化"は別物と考えてもいい。
リメイン階層の騒動の際、"カフィーマ・リバース"は"隔離階層と階層の結合"を重視しており、9人の協力者全てに通常のジョブ強化スキルの恩恵を与えたが……ジョブ強化スキルver.2までは使えなかった。
そこより遡る事ドラマ階層では、セリアンと"ディレクトール"のコンビによる完全なver.2を見られた。セリアンだけが、ジョブ強化スキルver.2を使いこなした。
これらを別枠と捉えるならば、ある仮定が生まれる。
──隔離階層を持たない、セカンド階層以外の階層のレイドボスでもver.2の真似事が出来るのではないか。
起案はライズ。実証は"エルダー・ワン"とカズハ。
そもこれが可能なレイドボスは少なく、どこまで出来るのかはまだ未知数である。
そもそも"エルダー・ワン"はセキュリティシステム側であり、レイドボスとしての能力は無いため理論上は不可能だが──そこのネタばらしは、ここでは控える。
ともかく、今起きた事は。
ver.2であり空間作用スキルが発動できないこの状況で、カズハがジョブ強化スキルを発動出来た、という一点である。
「──我は隔離階層を持たん。誰かの隔離階層にタダ乗りしなくてはジョブ強化スキルは使えん!
しかしジョブ強化スキルver.2までは届かんか……しかもそのジョブ強化スキルも長持ちしないやもしれぬ!」
「大丈夫だよ"エルダー・ワン"ちゃん。火力だけならクローバー君にも負けないんだから」
【厚雲灰河】と【分陀利】が妖しく光る。
──【サムライ】ジョブ強化スキル【巌流観們試合】。
ジョブ強化スキルは、非戦闘ジョブや後衛・支援ジョブに無敵などの強力な付加効果が付く事が多いが、逆に近接前衛ジョブにはそういった長所が与えられにくい傾向がある。
このスキルも例に漏れず、カズハそのもののHPが強化されたり無敵になったりする訳ではない。
ジョブ強化スキルとは、読んで字の如くジョブを強化するスキル。潜在的長所を伸ばすものである。
【サムライ】の長所といえば、近接戦最強格。速度も火力も高水準で、防御性能を捨てた超高火力高速アタッカー。あまりにも使われ過ぎていて忘れがちだが、主流である二刀流は両手剣二刀持ちである。そりゃ火力高い。
……そこの強化ともなれば、即ち果し合い。1対1ならば負ける事は無い、見切りの一手。
「──行くよ。瞬きしないでね」
発動中、カズハは強制的にターゲット集中状態となる。全ての敵は、ここからカズハとの速斬り勝負に勝ち続けなくてはならない。
即ち、【一閃】を武器相殺で受け続けなくては生きられない。
【巌流観們試合】発動中は、納刀中に防御バフが重なり続ける。つまりカズハが抜刀している間しかマトモにダメージは通らない!
「──【灰燼一閃】」
我が半身を襲うは黄金の焔。恐怖の幻影。
──【一閃】中はダメージ判定が存在しない、無敵攻撃である。
えげつない組み合わせだ。特段意識して与えたスキルではないのだが……ご愁傷様だ。
「【燕返し】──【灰燼一閃】──【燕返し】!」
四方八方から黄金の斬撃に切り刻まれる我が半身。
すまん。理論上、カズハは無敵になったのだ。
無駄に高いHPを恨め。我は恨むな。
──◇──
「──あ、時間切れ?」
「うむ。だが倒せたな。……しかし、この多層階層でもう一度発動するには時間がかかりそうだ」
「ちゃんと使えるように宝珠も持ちたいね。何色がいいかな?」
「そりゃあ赤であろう。ライズとお揃いの」
「もう。ライズ君となんでもくっつけたがるの、少しおじさんくさいよ"エルダー・ワン"ちゃん」
「──何故かわからんが、深く傷ついたぞ」
「自業自得だよ?」
 




