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BlueEarth 〜攻略=世界征服〜  作者: まとかな
忘却未来ジェイモン/フューチャー階層
375/507

375.そこは全ての【夜明け】まえ

【第150階層 忘却未来ジェイモン】

"多層階層"赤の舞台

──side:ライズ&ツバキ


枯山水に、赤瓦の塀。木造の門。

()()見てきた光景だな。


「【Blueearth】に来て3年……ここにいたのはせいぜい3ヶ月ってとこだが、なんか落ち着くんだよな。心の故郷ってやつか」


「あたしはアンタとハヤテに置いていかれたから丸一年ここに居たけど?」


「ごめんなさい」


マジで言葉を間違えた。猛省しております。

……更に正確に言えば、ここはヒガルじゃないんだろうが……それっぽい背景な上に、アイツがいるからなぁ。


見上げるほどの巨体。地獄の閻魔大王の様な姿の、ヒガルの支配者。


──【獄炎の裁定者 焔鬼大王】

或いは、天知調の共犯者 那桐(なとう)傘座(さんざ)


『……より正確に言えば、そのコピーだ。那桐(なとう)傘座(さんざ)はレイドボスの中でも例外中の例外。中身をここのコピー体に投影する事はできなかった。

俺ぁ那桐(なとう)傘座(さんざ)のデータを写した劣化コピーだ。本体様は凍結されたヒガルで寝てんよ』


天知調をサポートするためだけにレイドボスへとその存在を固定させた、超例外措置の男。

"MotherSystem:END"の誘いには乗らなかったか、乗れなかったか。例外枠すぎて分からないが……。


「じゃあ喧嘩するか」


『問答無用すぎないか?』


「いいじゃないの。"焔鬼大王"なんでしょ?」


『コピーなんだが……』


「こっちからしたらどっちでもいいんだよ。俺達は"焔鬼大王"と喧嘩がしたいんだ」


そも、コピー云々はもうあまり関係無い。

【Blueearth】でなくとも、人類電子データ化自体は世界中で了承された現代だ。テセウスの船はテセウスの船。

記憶があるならお前も()()だ。そして俺達はお前を殴ってみたいんだ。


「だから本物とか偽物とか気にしてないでちゃんと相手しろよ。お前考えすぎなんだよ」


『……わかった。それもそうだな。じゃあ殺すか』


一息の間に、振り下ろされる錫杖。

スケールがデカすぎて、予備動作が小さすぎる。回避は出来たが……!


「ツバキ! 有効な呪いは?」


「【焔鬼の葬賊(エンド・ノート)】も焔鬼から貰ったものだからねぇ……。呪い全般には強いんじゃないかしらぁ?」


"焔鬼大王"との戦闘データはかなり少ない。自分で戦う事をとにかく嫌がるからな。

とはいっても、"ヘヴンズマキナ"みたいなそもそも戦闘データが存在しないタイプじゃない。あの巨体は、ちゃんと倒せるはずだ。


「【スイッチ】── 【壊嵐の螺旋槍(タービュランス)】!」


"焔鬼大王"……人間体型の巨体は、とにかく縦に長い。自由に飛ぶ事は出来ないから、とにかく上へ移動するのも一苦労だ。


『飛び上がるつもりか。許すか──【餓鬼道】!』


地面から──いや、地面そのものが小鬼に変貌していく。これが"焔鬼大王"の戦い方か……!

だが、これなら任せられる。小鬼共を無視して、槍を天へと向けて照準を合わせる。


「【更地の松(ロンリー・ロング)】……こっちよ」


ツバキが()()()重ねた呪いはターゲット集中の呪い。小鬼共の注意を惹きつける事で、俺へのマークが剥がれる。


『──ぬ。来いライズ!』


「今行くぞ。【スターレイン・スラスト】!」


俺は空へ飛ぶ流星となる。

焔鬼は錫杖を構えて受けるが、撃ち落とされなけりゃそれでいい!

錫杖と槍がぶつかり、相殺。俺が宙に残る。


「【スイッチ】【天国送り(エンジェル・バトン)】!」


『浮遊すれど落下はするだろう! 空中戦なんて柄じゃないよなライズ!──【天道霹靂】!』


物理的に叩き落とす訳ではなく、焔鬼は錫杖を天に掲げる。

一瞬で雷雲が立ち込める──雷か!


「【スイッチ】【宙より深き蒼(ディープ・ブルー)】……っ!」


初見の技は威力がわからん。

あれでいて【サテライトキャノン】レベルの火力の可能性もあるが……複数人での長時間戦闘を想定しているレイドボスの攻撃が即死であってほしくは無い。

"ミドガルズオルム"は触れたら即死だから楽観視は出来ないが、とりあえず対魔法用片手盾で受ける!


「……いや、痛すぎるだろ!」


HP半分持ってかれた。しかもそのまま地上まで落とされた。

モーションは理解出来たが、アレなんとかしないと焔鬼に届かないな……。


『その程度かライズ。今度はこっちの手番だな……!

続く地獄は【畜生道迦楼羅(カルラ)】!』


焔鬼が錫杖を横に構えると──地面が隆起する!

……いや、これは牙か!


『そいつは紛れもなく即死攻撃だぞ。逃げろ逃げろ!』


「くそが!【スイッチ】【壊嵐の螺旋槍(タービュランス)】──【スターレイン・スラスト】!」


牙なら、口ならば閉じるまでの猶予がある。今の俺に出来る最速の移動手段はコレしかない。

それでも牙が閉じる速度はギリギリだ。なんとかすり抜けたが……まだまだ牙は残っている。


「……武器だけだと、やっぱ足りないな」


【スイッチヒッター】の──いや、俺の弱点。

──オールラウンダー故の決定力不足。


対人でさえ厳しくなってきた俺が、レイドボスを倒すにはどうすればいいのか。

……未だ模索中だ。だがいつだって人類というのはそういうもので……。

やらなければならないタスクがある時、なぜか部屋を掃除してしまうんだよなぁ。




「……"グレーマーカー"!」




──◇──




──2日前

【夜明けの月】のログハウス


カフィーマの背中側を見に行こうとカフィーマを脱獄し、ジョージに捕獲され両腕と首をひっくり返されてログハウスに叩き込まれたライズ。

【Blueearth】だから死にはしないけど、痛いもんは痛いでしょうに。


「馬鹿ねぇライズ」


「ん、ツバキ。お前一人か?」


「ええ。呪具を整理してたのよ。カズハちゃんでもないと、とばっちりで呪われちゃうからねぇ」


「……呪具……【呪術師】は呪われていれば魔法もアイテムも使えるよな。ある種幅が広いってもんだ」


……なるほど。

昨日、【夜明けの月】の戦力分析をみんなでしたけれど……地味にダメージ受けてるわねライズ。ぶっちぎり最下位だった事。

あんなもの、あくまで総合的なランキングってだけの話だし……そもそもランキング決めたのライズ自身なのにねぇ?


「アイテム以上の事は出来ないわよぉ。トップランカーともなれば、システム上の限度を超えた一芸が必要って事だけれど。あたしはそこまで出来ないからねぇ」


「普通そうなんだよな。……ツバキは呪いの数で勝負する事になるよな。【Blueearth】中のあらゆる最新の呪具が勝手に集まるから」


「システム上普通に戦ったとしても、あたし以外持ってない呪具を使えば個性になるからねぇ。アンタもそうすればいいじゃないの」


「そうって、俺しか持ってない武器は色々あるが……普通に火力不足だ。武器は最前線で拾った高品質なものの方が強くなっていくからな。火力そのものは武器強化で補えるが、性能とかがなぁ」


あらゆる武器を扱える【スイッチヒッター】の強みは、最先端最前線の装備でなければ発揮出来ない。

……でも、()()()()強みは別よねぇ?


「じゃあ火力関係ないのを使えばいいんじゃない?」


「どういう事だよ」


「アイテム使いなさいよ。【草の根】の"スライドギア"然り、実用的なアイテムはあるでしょ?

……【三日月】時代の遺産がまだ部屋に溜まってるじゃないの。一つ二つくらい使えるもの、あるんじゃない?」


「……それだ!」


慌ただしく自分の部屋へ走るライズ。可愛いわね。

やれやれ。いい加減あの汚部屋も整理して欲しかったのよね。




──◇──




【第150階層 忘却未来ジェイモン】

"多層階層"赤の舞台




大地の牙が俺を閉じ込めようとする一瞬。


「"グレーマーカー"!」


灰色のチョークを握りしめると──焔鬼の錫杖まで瞬間移動する。

ロスト階層の特殊クエストの報酬"グレーマーカー"。

マーキングした場所まで一方通行でワープできる優れもの。マーキングは一箇所までで、1時間で消える。


「【スイッチ】【天国送り(エンジェル・バトン)】──【デッドリーショット】!」


『なっ──ぐえっ!』


地上の俺を注視していた事もあり、見事に焔鬼の顔面に一発ぶち込んでやった。

不意打ち上等だ。ここからは手数勝負だ!


『おのれ──【修羅道:天網恢々(てんもうかいかい)】!』


次の一手は、闇の焔による飛び道具──数が多すぎて灼熱風だな!

対処するなら──アレでいこう。


「"宇宙鱗"……で、【スイッチ】【壊嵐の螺旋槍(タービュランス)】!」


オーシャン階層の海底で拾った、"コスモスゲート"の鱗。アイテムどころか素材だが、高純度の水属性のためアイテム化して出現させれば、一瞬だけ炎属性攻撃を無効化させられる。

あとはいつもの槍で──


「【スターレイン・スラスト】!」


──一気に突進して、熱風を突き抜ける!


『撃ち落としてくれる!【地獄道:臨終】!』


焔鬼の次の一手は──錫杖を剣へと変えてのフルスイングか! マトモには受けられないな。


「"呪竜の聖皮"!」


──ロスト階層で"エルダー・ワン"の足元を彷徨いて見つけたアイテム。最初は意味が分からなかったが、カズハの【灰燼一閃】を見て使い方が分かった。


半透明の黄金皮は、俺を包むと──一瞬だけ、俺を透明にしてくれる。

黒い焔を纏った剣が俺を通過する──"エルダー・ワン"の特権、一時霊体化!


「"スライドギア""打ち上げ花火"!」


剣を避けたなら、位置取りだ。上へとスライドしてから、"打ち上げ花火"を素手で掴んで上方へと加速!


「【スイッチ】──【月詠神樂(ツクヨミカグラ)】【雪月花】!」


七色の剣と、氷の剣の二刀流。

──ジョージお墨付きの、高所からの振り下ろし戦術。


『ぐ……来い、ライズ! 【地獄道:臨終】──』


「【更地の松(ロンリー・ロング)】。こっちも見てよ、焔鬼?」


焔鬼の剣は、地上のツバキから離れない。

──最後の詰めの一手だけ、ツバキは俺に協力してくれる。


高度よし。高さ1m刻みで一つのダメージ判定を追加する【炎月輪(レッドムーン)】の、二刀流版強化スキル!




「──【(ブラッド)(ムーン)(・イク)リプス】!」




赫蒼双つの円閃が、闇焔の大王を両断する──!




──◇──




「……倒したか?」


『負けた負けた。色々やるようになったなライズ』


どっこいしょ、と巨体で尻もちをつく"焔鬼大王"。

全然ピンピンしてるように見えるが、倒したっぽい。納得できんが。


しかし、色々やる……か。

"商人殺しのパンドラボックス"もそうだが……俺の【三日月】時代の遺産は、もうかなり擦り切れている。俺だけが持つアドバンテージは、どんどん減っている。

それでも限界ギリギリまで使い切らなきゃ損だよな。


「……で、どうすりゃいいんだ。成り行きで倒してはみたが」


「ちゃんと消滅するまでボコボコにする?」


『やめてくれー。こっちが降参したら道が開くんだよ。ほらあっち。さっさと行け』


焔鬼の示す先には、いつもの転移ゲート。

攻略階層の転移ゲートを流用してるのか?


「──じゃあ、焔鬼。行ってくる」

「またね焔鬼。今度はお土産持って行ってあげる」


『俺に言っても本体には届かないって……ま、行ってらー』


やる気なく手を上げて送ってくれる焔鬼。このくらいが丁度いいよな。

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