370.決着:我儘の物言い
【第140階層 飛翔遺跡カフィーマ】
──"カフィーマ・リバース"背面電波塔
【夜明けの月】vs.ハイパークレイマンロボ
「──神の啓示である。【天の幕】をシュタイン、ヴァイズ、朕に。【祝福凱歌】をシュタインに。
……この空に【暁の誓い】を!」
巨大粘土ロボの頭の上、最強のサポーターデビルシビルが補助魔法を回し始める。
こうなるとデビルシビルをどう倒すかの話になってくるが──
「──チッ。学習したかよヴァイズ!」
『物覚えは良い方なんだよねー!』
──巨大粘土ロボの膝下あたりでクローバーが戦っているが、クリティカル演出の集合体である光の壁を受けても尚、粘土ロボはピンピンしている。
……良く見れば外殻となっている煉瓦の壁が剥がれている。被弾直前に接続を解除してダメージを肩代わりさせてるのか。
「ライズさん、一撃回します! 92%【サテライトキャノン】!」
座標攻撃──粘土ロボの上に立つデビルシビルを直接狙う光の柱。
だが──空にかかる緋色のオーロラが、【サテライトキャノン】を受け止め威力を減衰させる。
「無駄である。して、次はどうする?」
──空間対象の防御スキル【暁の誓い】。
場所指定の防御だからその外で仕留めれば良いだけなんだが、今回はこの電波塔から動けないからなぁ。
ともなると、俺の出番だな。
「【スイッチ】──【天国送り】!」
「朕を狙うか。それが如何に困難か、忘れた訳ではあるまい」
「そうでも無いと思うぞ!」
移動手段は限られるが、空中浮遊可能な【天国送り】ならまだ近くへ行けるはずだ。
それが分かっていて見逃す【月面飛行】でも無い。
「狙いの的じゃない? 【フレイムランス】!」
粘土ロボの口と目から炎の槍。
まぁ来るよな!
「【スイッチ】【宙より深き蒼】!」
即座に青盾で魔法を防御。空中浮遊ボーナスが無ければ落下するだけ、だが──
「い、行きます! 【シールドバッシュ】!」
地上でリンリンが、何かを打ち上げる。
この距離だとそこまで打ち合わせはできなかったが、デビルシビルは要注意人物。誰が対処するかは、事前に話していた。
飛び上がるは──灰色の竜、"ぷてら弐号"。
「ぬ──撃ち落とせシャイニング」
「当然じゃない? 【テンペスト】!」
対巨大飛行生物にはよく通る、暴風の質量攻撃。
セオリー通りではあるが──好都合。
風に煽られ、"ぷてら弐号"に乗っていた一人がそのまま飛び上がり──デビルシビルの前へと着地する。
「……ツバキ殿」
「久しぶりねぇデビルシビルさん。踊りましょう?」
──最強のバフには、最強のデバフ。
ツバキは──恐らく"最強の呪術師"であるアピーを除けば、唯一──デビルシビルを完封できる存在!
「天啓である! 【虚像の巨像】!」
「【更地の松】」
何も起きない。起こさない。
【虚像の虚像】は自分へのデバフを跳ね返す、対呪い用の最上位魔法。
それに対して【更地の松】はターゲット集中と防御力上昇の呪い。
つまりツバキの読み勝ちだ。ツバキは呪いを返されたが、【更地の松】にはこれといったデメリットは無いからな。
「ぬ……【銀の使い魔】!」
「【愛し憎し】」
「ぐぎぎ……!」
顔を顰めるデビルシビル。いつも通りのツバキ。
──【愛し憎し】。対バッファー用に見つけた、【三日月】時代の骨董品。
バフを反転させる呪いだが、有効射程と猶予時間が短すぎる。相手がバフを掛けた瞬間に目の前にでも居なくては使えないが──今のツバキなら、じゃんけんに持ち込める。
デビルシビルがバフを掛けたなら【愛し憎し】。それを読んで反射をして来たのなら、デメリットの少ない呪い。
読み合いにおいてツバキは、ドロシーに次ぐ共感性を遺憾無く発揮出来る。目を閉じてもじゃんけんで連勝できるんだぞ。
「ぬ……ぬぬ……!」
『デビルシビル! 一旦ロボの中に戻りなー!』
対面不利。直情的なデビルシビルにとって相性最悪の秘密兵器。
それを良しとする【月面飛行】ではない。粘土ロボの頭が最小限に開く──
── 【更地の松】によるターゲット集中、それに伴う物理的な視線誘導。
そしてその前の【テンペスト】による目眩し。【夜明けの月】が無駄に【テンペスト】に慣れている事。
即ち、リンリンが打ち上げた本命の出番だ。
「失礼するよ、デビルシビル君」
するりと。
隙間を縫うように、影が実体化したかのように。
デビルシビルより先にその亀裂に入り込む存在。
「──上におったのか……! ジョージ!」
「もう下だけれどねぇ?」
「ぬぬ……ぬぬぬ! 分離せよヴァイズ!」
デビルシビルは降りない。
上に残ってツバキの相手か、ジョージと一緒にロボに戻るか。どっちも危ないが、とりあえず生きる可能性の高い前者を選んだか。
そしてロボ自体の解体を指示。するが、ヴァイズはアドリブ効かせられる余裕は無い。ずっとクローバーが張り付いてるからな。
だから、あと一瞬。デビルシビルはそこに残る。
「【スイッチ】──【月詠神樂】【雪月花】」
上空。【テンペスト】を利用して高く高く飛んだジョージの足場になったのは、俺。
高度があって、デビルシビルが俺の方を向けないのなら。
「── 【炎連月蝕】!」
赤と青の双円月。高度の分だけ火力が上がる片手剣二刀流の必殺技。
「──ライズ! 来おるか!【虹の導き】ィ!」
「【愛し憎し】」
「おあああああああ!!!!!」
最後のバフも、ツバキに反転される。
……真っ向勝負じゃなくて悪かったなデビルシビル。お前相手に正々堂々なんてとても無理なんでな!
──◇──
──"カフィーマ・リバース"頭部
リメイン階層の各個撃破とは異なる。
【月面飛行】四人での連携は、【夜明けの月】にも……トップランカーにだって負けないと、自負していたわ。
「──カズハの姐さん! 行きますぜ!」
「おいでアンダー君。【迅雷一閃】!」
「受けて立つ!【鍔迫り返し】!」
最高火力のアンダーは、同じく相手側最高火力のカズハと相打ち。あれはもうほぼ個人戦ね。横槍を入れさせないよう立ち位置をじわじわと遠くにズラすとして……。
「──アナタ、人間ではありませんネ?」
「哲学的だね。肉体は動かし始めて3年目だ。お手柔らかに頼むよ大先輩」
前衛アタッカーのナイスも、どうにもジョーカーなる奴に苦戦している。
助太刀の遠距離火力は全てミカンの【建築】で邪魔される。個人戦から抜け出せない……!
「アラカルトちゃん。来るわよ」
「──ええ。撃ち落とすわよ」
マリリンと共に、警戒すべきは──【Blueearth】最高速、【コントレイル】の繰り師エンブラエル。
その背に控える悪魔、メアリー!
こっちの銃撃の隙間を縫うようにすり抜けて、まるで減速せずに。
──あと数瞬で、私達の首に喰らいつく。そんな勢いの中、私は……。
(……なにも上手くいかなかったな)
私一人では、この過酷な【Blueearth】を進む事は出来ない。
誰かを利用しないといけない、惨めな寄生虫。
だから、一切罪悪感を覚えずに済むアカツキは最高の相棒だったのよ。
なのに。
ビジネスで繋がっていた私達【月面飛行】には、決してあってはならない感情が。
私の心に残って、生まれて……。
「──アラカルト」
迫り来る竜の顎を弾く、盾の衝撃。
片手剣に盾。あまりにシンプルで面白みの無い──ずっと見せつけられてきた背中。
「……アカツキ。どうしてここに……!」
顔は見せない。私だって見たくない。
助けに来た訳が無い。あのアカツキだもの。
最悪で最低な男の、最後の一言は当然──
「──お前ら、クビだ」
──◇──
"カフィーマ・リバース"と【月面飛行】は契約した。
……と聞いていたけど、ギルドマスターのアカツキ抜きでそんな事が出来る訳が無い。無理な契約の結果として、リメイン階層内部のver.2問題もデビルシビルの代わりにアカツキを倒す事で解決しちゃったくらいの無理矢理感だったんだから。
──【マッドハット】のセリアン然り。団員がギルドマスターを追放するのは難しい。けれど、逆ならば。
アカツキならば、容易く【月面飛行】の団員を追放できる。
「──さあメアリー! 俺が【月面飛行】だ!」
「そうね。スロットセット── 【紫蓮赤染の大晶鎌】」
杖を鎌に。
アカツキに弾かれる直前に、あたしはエンブラエルの背から飛び降りて──アカツキへと大鎌を振るう。
「そして俺は! お前と戦わねぇ!」
「そう。じゃあ潰れなさい!【赤き大地の輪廻戒天】!」
無抵抗の格上。
セカンド階層に辿り着いてから長く続いていた"宝珠争奪戦"の幕引きとしては拍子抜けすぎる。
きっと観客は非難轟々ね。
……でも、まぁ、アカツキのやる事だし。
気兼ねなく、頭から真っ二つにしてやるわ!
──◇──
──背面電波塔
ライズさんがデビルシビルさんごとスーパークレイマンロボをぶった斬りました。が、そうなると地上まで落ちてしまうと言うことで。
「──多分、ここと、ここかな?」
残された僕──ドロシーは、飛び出す直前のライズさんからのアイコンタクトを読み取りました。
やたら大きくなった発電機ですが、あと少しのところまでライズさんは復旧したようで。
あとは……"赤のコードを繋ぐ"だけのはず、ですけれど……どれ?これ?
……えいっ。
「あ、動いた……」
なんとも拍子抜けというか、それでいいのかという感じですが。
……まぁ、これでもいいでしょう。たまにはね?
──◇──
──"カフィーマ・リバース"再就寝。
リメイン階層"拠点防衛戦"──完了
──◇──
【第140階層 飛翔遺跡カフィーマ】
──腹部、ハニーマッドの集落
「【セカンド連合】は解散する!」
まだドローンが回ってるけど、アカツキが堂々と宣言する。
【夜明けの月】も【満月】連合も、マックスもブックカバーも。当然【月面飛行】も一旦集まって、これからどうしようか……って時に。空気読まないのは美徳かもしれないわねアカツキ。
「じゃあ敗北宣言ね。紫の宝珠をよこしなさいアカツキ」
「いやだ!」
なんでよ。
「俺は、【月面飛行】は【夜明けの月】と戦ってねぇ!
勝手にアラカルト達が好き勝手やっただけだ。そんでアラカルト達は【月面飛行】じゃねぇ!」
あまりにも堂々と。
見苦しく。
清々しく。
アカツキに負い目無し。反省無し。
「よって"宝珠争奪戦"の決着は──続く150階層にて行うものとする!」
ざわつく面々。あたしは、こうなるだろうなぁとは思っていたけれどね?
ライズも頷いてる。アカツキが素直に負けを認める訳が無いわよね。
「……まぁ待てアカツキ。【セカンド連合】の解散は認めんぞ。複合ギルドである【セカンド連合】は貴様の一存で解散できんからな」
「そうだぜ。とりあえず惨めに散ってから解散と行こうぜアカツキ!」
「散る前提やめてもらえるかマックス! クソッ、今に見てろよテメェら! 大逆転してやっからなぁ!」
捨て台詞。そうとしか言えない。
アカツキは半泣きでゲートを潜って消えた。
「……さて。もう一踏ん張り頑張りますか」
予定調和。あとはアカツキを倒すだけ……。
それはそれとして、アカツキが負け犬よろしく敗走する姿は【井戸端報道】に大々的に取り上げられたのだけれど。アカツキが怒り悶える様は、誰も見られないのだった。




