364.RE:RE:RE:RE:[すれ違い]
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【スナイパー】ジョブ強化スキル
【エンフィールドゾーン】
所有武器を複製・浮遊させ、同時に射出させる。
全ての銃の位置へと転移する事が可能で、複製された全ての武器が幻影であり実体。
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【第149階層リメイン:『遺跡の起源!その髑髏が伝説の真実だ!』】
「死ねぃアカツキ!」
「効くかよそんな攻撃ィ!」
浮遊する銃──トップランカーとの交渉で手に入れたとっておきの両手銃、【コンドルカスタム】。
アラカルトは常に【月面飛行】で最強の両手銃を持つ様にさせていた。俺が【スイッチヒッター】になってからは唯一の特例だ。全武器種で一番強いのはとりあえず俺が持つ様になったからな。
それが複製……合計10丁。宝珠については基本的に俺が独占していたから【エンフィールドゾーン】の仕様は初見だが、リンリンの防御のおかげで見る時間だけは確保できた。
「10丁あろうと転移しようと、その銃達はお前が持っているヤツの照準先にしか撃てないし、同時にしか撃てねぇ! たった一度の攻撃さえ防御すりゃいいなら、リンリンの支援もいらねぇな!」
「攻め手に欠けるのは変わらないでしょう! 油断したら撃ち抜くわよアカツキ! 【デッドリーショット】!」
黒い雷。両手銃最高火力スキルが四方八方から俺を狙う。
──複数方向からの攻撃。防御は出来ても回避は厳しい。だからこその防御貫通最高火力か。普通なら詰みレベルだなオイ。
だが、俺様相手にゃ温いぜ!
「"スライドギア"──そんで【クロックタイム】!」
まずは輝かしき【草の根】の成果、並行移動アイテム"スライドギア"。瞬間移動は勿論の事、一度射出されたスキルを回避するのにも役立つ。
そして俺の武器──アラカルトのお下がり【クロックワークシステマ】の専用武器スキル【クロックタイム】は、僅か数秒のみの超加速……というか、意識の加速。
"スライドギア"で集中砲火の中心地からズレたなら、【デッドリーショット】の射線は良くて2.3本くらいだ。意識を加速させりゃあ、回避は可能だ!
「……随分とギリギリねアカツキ! 私相手にそんな全力でいいのかしら!?」
「うっせぇ! 自分だけジョブ強化スキル使ってんのにミリもダメージ与えられてねぇってのはどうだよ!
昔っからお前は俺に勝てなかった! ここまでしても変わらずだな!」
「うるさいわね馬鹿! 馬鹿アカツキ馬鹿! 死ね!」
10丁の射撃は全て同時で、最短クールタイムも共通。速射がウリのスキルは使いにくくて、クソカス高燃費のバ火力スキルが使いやすくなるな。
……アラカルトも初めて使ってんだろう。色々模索中か。
「そんな舐めた戦法じゃ死にたくても死ねねぇよバーカ! 降りてこい!」
「降りるか馬鹿! 蜂の巣になれ! 【フラッシュショット】!」
全方位からの拡散弾。これはヤバいな。
……だが、ちゃんと防御してりゃどうって事はない。
「いて、いててて! ……まだ死なねぇぞアラカルトォ!」
「うるさいのよ馬鹿アカツキ! 何で……何でまだその銃を構えてんのよ! 私に両手銃で勝とうっての!?
烏滸がましいんだよ馬鹿が!」
「それが俺のスタイルだって褒めてくれたじゃねぇか!」
「お前を持ち上げてただけに決まってるじゃない馬鹿! そんな安いプライドなんてさっさと捨てて真面目に戦いなさい!
そうすれば、お前は……っ! オラァ!」
「ぶべっ」
銃を投げつけてきた。まさかの直接攻撃──
「アカツキさん! 防御!」
「へ? ぐばぁ!」
──直後。俺に投げつけた銃の位置に転移したアラカルトが、バットみたいに銃を握ってフルスイング。馬鹿痛い。
アラカルトは──やっと近くで見れたアラカルトの顔は、どういう表情だよそれは。
怒ってんのか、悔しいのか。俺はそこまで人の顔見て過ごしてきて無いから分かんねぇよ。
「──お前がもっとマトモになれば! トップランカーなんて楽勝でぐちゃぐちゃに出来るのに!」
アラカルトの銃暴力戦法は、あくまで近距離に接近した相手をノックバックさせて距離を取って撃ち抜くためのもの。大したダメージじゃない。
だから、という訳じゃないが。ボコボコに殴られておく。
「なんで真面目に戦わない! なんで勝ち目を探しに行かない! お前なんて、そうでもしないと勝てないって分かってたじゃない!
何度負けても反省も後悔もしない! 何度も【聖騎士】でグレンに挑んで、何度も【盗賊王】でウルフに挑んで! 使い熟せる訳が無いのに【ラピッドシューター】でクローバーに挑んで!
何回負けてると思ってるのよ! 良い加減学べ!
せめて、マトモになれ!……って、思ってた!」
……もう銃捨てて直接殴ってる。
避ける訳にはいかない。反撃する訳にはいかない。
何にでも噛み付いてきたのは、ムカついたからだ。
こんなの、腹を立てられる訳が無い。
「──何で! 【月面飛行】から離れて、ちょっとしか経って無いのに……マトモになってんのよ!
私達の努力は無駄だった訳!? 馬鹿にするんじゃないわよ!」
「泣く事はねぇじゃねーかよ……。どうすりゃいいんだ」
「うっさい泣いてない! 馬鹿死ね馬鹿!」
「ぶえ」
最後に顔面に一発。その後は空中の銃まで転移して、顔を背けながら銃口を向けてくる。
……マトモになんてなった覚えはねぇが……まぁ、そりゃこれまで一緒にいたお前らからすりゃいい気にはなれねぇよな……。
「アラカルト! 言いたい事はそれだけか!」
「それだけって……それだけってねぇ!」
「その辺全部受け止められるだけの度胸も器量もねぇんだよ! だから、後で聞く!
今は馬鹿やった身内の不始末を何とかするんだよ!」
俺が【月面飛行】のギルドマスターである事。ここのレイドボスが【月面飛行】と契約を結んだ事。
つまり、そういう事だ。
「──【パラレル】!」
宙に浮かぶは俺の武器。
【スイッチヒッター】ジョブ強化スキル【パラレル】。
「何で──」
「俺は【月面飛行】のギルドマスターだぞ! 当然使える!」
「そんなはずは無い! "カフィーマ・リバース"は、私個人と──」
そこん所はよくわかんねぇが……多分、そこまで細かくは分別出来なかったんじゃねぇかな。
単純に頭悪そうだったし。
「……俺は馬鹿だから色々わからねぇけどよ。【パラレル】発動してから、何となく分かったぜ。
どうやらデビルシビル以外はもう倒されたみてぇだな!」
「何を──!」
「【デッドリーショット】!」
「【風花雪月】!」
意識外からの、致命の一撃。
アラカルトは転移で回避した……いや、喰らってから逃げたか。しっかりダメージは受けてるな。
「遅ぇぞ【夜明けの月】!」
──到着するは、ライズにジョーカー。そしてメアリーとカズハ。【夜明けの月】の武闘派ばっかだな。
「……3手に分かれたはず! 完全に籠城したデビルシビルの階層を、どうやって抜けたの!」
「階層研究が足りてないわねアラカルト。蛇人間さんが抜け穴を用意していたみたいよ?」
……蛇人間?
【第144階層リメイン:『謎の洞穴!蛇人間は実在した!』】
【第146階層リメイン:『帰ってきた蛇人間!蛇の巣は実在した!』】……。
この二つが実は繋がっていたって事か? 流石は階層探求お化けのライズが育てただけはあるな。
「こっちでシステムは解析したわ。階層配置って言ったって、"カフィーマ・リバース"と協力してる合計9人の【月面飛行】を倒せばいいっぽいわよ!」
「……なるほどな! そりゃあいい!」
「ver.2まで持ち出して! こんな所で負けてられないのよ! 【デッドリーショット】!」
集中砲火の狙いは──俺のまま。それはそれでいいが、もう詰みだ。
「【チェンジ】」
10の銃口が一点のみを狙う以上、俺の位置だけを確実に転移させられるメアリーがいればそれだけで完封。
──メアリーの事だから、この後も考えてんだろ。
転移先には、銃の幻影が一つ。
ライズが二つ。
ジョーカーが一つ。
カズハは……直線上に三つ。
メアリーは、多分残り三つ。
「全部を壊せばいいのよね、アカツキ!」
「そうだ! しくじるなよ【夜明けの月】!」
システムは【パラレル】と似た様なもんだ。
10丁すべてを壊せば、【エンフィールドゾーン】は終わる!
「【炎連月蝕】!」
「【シャークバイツ】!」
「【灰燼一閃】!」
「【風花雪月】!」
9丁の【コンドルカスタム】が破壊される。
つまりは──俺の前に残る最後の一つに、アラカルトが飛ばされる。
「アカツキ──」
「ちょっと眠っとけ。──【デッドリーショット】」
黒雷に情け無し。一撃にて、銃を破壊する。
──時間は無い。そのまま、アラカルトに背を向けて──こっちへ向かうカズハに向けて、両腕を広げる。
「ごめんねアカツキ君」
「どうにも死にはしないみてぇだしな。バッサリいけ!」
「うん。【燕返し】!」
黄金の焔が、バッサリ一刀両断! 全然容赦ねぇな!
──これで、俺とアラカルトがやられた。
「……【夜明けの月】! カフィーマまで戻れ! これは"拠点防衛戦"の一種だ!
俺達を9人倒したら、最後に戦うのは"カフィーマ・リバース"だ!」
「分かってるよ。リンリン! 撤退だ!」
「は、はいぃ!」
やっぱすげぇな【夜明けの月】。聞き返したりしないんだもんな。
あっという間に消えちまった。多分、あいつらなら何とかしてくれんだろうなぁ。
「……離してよ、アカツキ」
「ダメだ。せめてあいつらが149階層を出るまでは離さねぇ」
アラカルトを抱きしめるような形になったのは……悪いとは思うが。
この何も無い空間にたった二人。……なんとも切ないもんだ。
「……最後になるからよ。何か話そうぜ」
「何かって何よ。話せるほど立派な過去でもあるの?」
「無いなぁ。マジで普通のガキだったぜ、俺」
「……私も。てかアンタ何歳よ。私17」
「ハァ!? ガキじゃねぇかよふざけんな。俺様24だぜ」
「アンタはガキじゃないの!? 大人なのにそんな馬鹿だったの!?」
「うるせー。現場じゃまだまだガキ扱いだったんだよ」
「え、高卒?」
「現場監督だよ。ちゃんと大卒」
「嘘つけ。アンタがマトモに働ける訳ないでしょ」
「多少馬鹿でも現代日本ならある程度は働けんだよ……生意気なガキだぜー」
「年齢勘取り戻してからは、絶対アンタ年下のガキだと思ってたわ。チビだし」
「身長は……ほら、イジるもんじゃねぇじゃん……」
「はいはい、悪かったわよ。……あほくさ」
他愛無い会話だ。
現実の記憶があったところで、まぁこんなもんだろう。
もうちょっと会話しとけば良かったなぁ……。
──◇──
【第147階層リメイン:『失われた文明。黄金都市は実在した!』】
「誰も来んな! やれやれ拍子抜けぞ【夜明けの月】! ふはははは!」
デビルシビルは一人で吼える。勝利の雄叫びだ。
147階層は階層管理権限によって閉ざされた。これにより【夜明けの月】は147階層に侵入出来ず、ひいては149階層へと到達出来ない。
……これで良いのか、と考える事など無い。デビルシビルに後悔は無い。
その力を"影の帝王"に利用されども、【需傭協会】に取り込まれようとも。
今出来る事をするだけ。後悔などして良い立場では無い。
しかし。
【夜明けの月】にとって、今となっては撃破する必要すら無くなっている事をデビルシビルは知らない。
「ふはははは! そろそろちょっと寂しくなってきたぞ【夜明けの月】! ふはははは!」




