354.驚愕!不可避の罠
【第142階層リメイン:『衝撃!縦横無尽な落石の罠』】
──────
探検隊が辿り着いたのは、死の大橋だった!
重力に逆らい縦横無尽に飛び落ちる落石達!
次々と切り替わる重力が探検隊を襲う!
あまりの衝撃に探検隊が一人酔ってしまいリタイアとなった。
探検隊は残り8名。どうなる探検隊!?
──────
(これ、最終的に探検隊1人になるわね)
「どうしたメアリー」
「何でもないわよ。で、ここは?」
到着したのは、またしても大空洞。
今度は奥まで繋がる縦長の空洞、芯を通す様に円柱状の橋がまっすぐ掛かってるけど……。
……いや、ナレーションで大体分かるけど。
「まー見たまんま、重力がこの円柱を下としてコロコロ切り替わるんだよな。落ちない様に進むだけなんだけどよ……どうせ誰かいるんだろ! さっさと出てこい!」
元も子もない。そりゃ誰かは当てがわれてるだろうけど、わざわざ出てくるとも思えないわ。不意打ちだって想定しないと……。
「るっせぇぞアカツキこの馬鹿野郎!」
出てきたわ。
真上から堂々と、アカツキ目掛けて突撃。
ジョージもアイコも気付いていたみたいだけど、放置。アカツキはちゃんと【スイッチ】で盾を呼び出して受けた。反応はいいわね……。
「……あ。アンダー君」
姿を現したのは、大太刀を構える高身長の男。やや日焼けした金髪で、なんというかチンピラ臭い。
反応したのがカズハって事は……。
「おぉカズハの姉御! 【大太刀廻り】以来だな、お久しぶりです」
あ、ちゃんと頭下げてる。礼儀正しいわね。奇襲してきたけど。
「カズハ、知ってるの?」
「元【大太刀廻り】の創立メンバーだよ。モナールオ君の弟子だったんだ。サティス君とモナールオ君の下で大太刀一刀流を極めていたよね?」
「勿論、姉御やラセツの兄御みてぇな二刀流も研究しています。使うのは専ら一刀流ですが、研究の大切さはサティスの兄御に叩き込まれましたんで」
サムライギルド【大太刀廻り】。【Blueearth】最強格の【サムライ】が集まったヤバいギルド。その創立メンバーって事は……黎明期メンバーって事よね。
構えにも無駄が無いわ。アカツキレベルじゃなかったら奇襲一発でお陀仏ってことね。
「わざわざ出てきちゃ話になんねェな。俺の事、甘く見てんのか?」
問答無用。銃撃とクリティカル演出による光の壁。
クローバーの射程範囲に出てくるならそうなるわよね。
実際、アンダーは倒れて──消えた。違う、影の魔物になった!
「もう戦闘は始まってるってわけね。総員戦闘態勢!」
「楽勝!」
さっきまでアンダーだった影は、クローバーが処理。普通の魔物ではあるみたいだけれど……。
──【スキャン情報】──
《錬金術の塵影》
LV145
弱点:風
耐性:
無効:斬
吸収:闇
text:
かつてカフィーマで発展していた錬金術によって生み出された塵に意思が宿ったもの。
未だ存在しない賢者の石に成ろうと姿形を変えるが、本質が変わらないため意味が無い。
模倣中は弱点や耐性が変わるが、風属性を受けると塵に戻る弱点だけは変わらない。
────────────
「……多分、【月面飛行】はそれぞれ何らかの特権を与えられている。マリリンは浮かぶ足場の操作。アンダーは……」
「……この塵の操作、ってこと?」
中央の一本橋に。
外壁のあちこちに。
……すごい数の、アンダーがいる。
「そういうこった」
「俺単体じゃクローバーや姉御の足元にも及ばないかもだけどよ」
「百人いれば、ちったぁいけんじゃねぇかな」
……モブならともかく、【月面飛行】メンバーがこんなにいるとか、ふざけないでよね。
さっきからやたら殺意高いわね【月面飛行】!
「──【虚空一閃】!」
「【イージスフォース】!」
開幕。まだ橋に足を踏み入れる前に、アンダーの一人が飛んでくる。
迎え撃つはリンリン。ダメージはリンリンにも、後ろのあたし達にも通らない。
「……わたしが、守ります! "ブルドーザー"で、行きましょう!」
リンリンの作戦の一つ。物量戦でのある種の十八番。
確かに、まっすぐ進むだけならね。
「いかに"無敵要塞"と言えど、【Blueearth】でも最高峰火力の【サムライ】だぜ!」
「耐えられる訳が無ぇだろ!【破紋一閃】!」
複数のアンダーが、リンリンを狙う。実際その通りではある。凡百な雑魚ならともかく、相手は実力者。
だから、あたし達がサポートするんでしょ。
「【虚空一閃】──リンリンちゃんの邪魔はさせないよ、アンダー君」
カズハが一気に数体、アンダーを吹き飛ばす。
他もそれぞれ。クローバーはいつもの事として、刀相手に素手で立ち回るアイコ、単純に刀を避けて反撃に出るゴースト、スペード。
取り囲まれてボコボコにされているアカツキ。それを放置するライズ。
「──リンリン、行きます!【ワイドシャッター】!」
作り出すは魔法の大盾。防御範囲を広げる事で広範囲攻撃を防ぐスキルだけど──
「"まりも壱号"準備OKだよ」
「簡易荷台完成なのです! さあさあ轢かれたくなきゃどくのです!」
リンリンを戦闘に。"まりも壱号"と荷台に全員乗り込んで──一気に発進!
「これが"ブルドーザー"です!」
「おらおら手数がなんぼのもんじゃーい! どきなさい通しなさい!あっはははは!」
幾人ものアンダーを轢き飛ばしながら、大きく前進。
普通なら外部衝撃で減速するけれど、リンリンの防御力の前にはそんなもの無力。
ただ前に進むだけならこれでいいのよ!
「くそっ……だが、肝心のステージギミックがまだあるぜ!」
──外壁が回転する。
いや、階層そのものが回転している。でも、結局はこの柱に沿って行くだけ。
問題があるとすれば……落下物ね。
「行くぜ!【虚空一閃】!」
「【パリィ】……うん、カズハ君との訓練が活きたな」
「は!? 片手剣で弾、え?」
降ってくるアンダーに対して、ジョージが片手剣で弾く。攻撃カウンタースキルだけど、片手剣で両手剣攻撃を弾くのは……ギリギリセーフって所。
まあうちは【Blueearth】の中でも最強の【一閃】使いと修行しまくってるから、妥当ではあるけれどね。
「さあさあ進むわよ! いけいけどんどん!」
──◇──
困った。
どうにもこの手の攻略戦に強いようだね、【夜明けの月】は。
どうしたものか、どうしたものか。
「俺を使ってくれ」
使っているとも。
これ以上なく、使っているとも。アンダー君。
「違う。俺達はお前と協力関係にある。力の代償として、このリメイン階層のギミックでなけりゃならねぇ。
だから、俺からはできねぇ。お前がやってくれ」
……わかって、いるのかな。
つまり、君は──死のうとしているわけだが。
「本当に死ぬわけじゃねぇだろ?」
まあ、うん。
全部が終わるまで元に戻れないだけだよ。
「だったらそれでいい。どのみちこのままじゃぶち抜かれておしまいだ」
……わかったよ。
じゃあ、さようなら。
「ちゃんと元に戻せよ!」
わかった、わかった。
ちゃんと勝つよ。ちょっと待っててね。
──◇──
──地響き。
最初に変化に気付いたのはミカンだった。
「浮いてるのです! 重力がおかしい!」
やがて、全員が実感するほどの変化。
車輪が浮き、陣形が崩れ──橋が崩落する。
「おい、流石にコレはシステムとしてどうなんだ──」
「アンダー!」
アカツキの叫ぶ先。
無数のアンダーはいつの間にか消え、崩れる橋の近くに、同じく崩れ行くアンダー。
「俺はよくわかんねぇが、どうにもこの階層は役目を全うできなくなった。
だから崩れる。階層と繋がった俺も、同様にな」
「何言ってんだ! 俺様を巻き込むな!」
「そこじゃないだろアカツキ。心中目的か?」
「いや、そこまではしない。ただ、こっちが勝てるよう動くだけだ!」
──重力がかき混ぜられる。
感覚が狂う。ジョージとかなら対応できるのか? 俺は無理だ──
「近くにいる奴同士で掴まれ! 孤立するな!」
「さあ、楽しい楽しいリメイン階層探検の時間だ。とは言っても、出口は塞がれているがな!」
アンダーの声も分からなくなってきた。まずい。
ここで階層を捨てて、俺達を孤立させるつもりか──!
──◇──
階層の崩壊が止む。
橋の上での攻防ってのがシステムである142階層において、橋の崩壊はあってはならない事だ。
だから、142階層は崩壊したが……これ以上は崩す必要も無ぇ。
要するに143階層側だけ崩しておけばいいんだ。帰ってこれなくなりゃいい。
崩れたついでに、他の階層とも一時的に繋げて【夜明けの月】を分断したらしいが……まあいい。
とりあえず、崩壊も止まった事だし。のんびり待つかねぇ。
「question:階層の崩壊は、貴方の任意によるものですか」
……驚いた。
メイドの姉さん、確かゴースト。何があったか、ピンピンしてやがる。
まるで最初からそこに居なかったみてぇじゃないか。
「……俺が願った。だが俺がやった訳じゃない。つまり、もう戻らねぇよ」
どうあれ、もう遅い。こっちに居る以上は、もう奥に行っちまった連中は助けられねぇ。
だが、メイドの姉さんは眉一つ動かさず──双剣を構える。
「question:救う気は、ありますか」
「……そりゃどういう意味だい」
答えは無い。無表情の瞳の奥に何があるのかわからない。
──が、やるってんなら仕方ねぇ。
「折角の喧嘩だってのにモブ扱いで辟易してたんだ。ちったぁ遊んでくれんのかよ、姉さん」
「answer:あまり時間は割けませんが」
「デカい物言いだな、後輩!」
これでも【Blueearth】第五位の【サムライ】だぜ。
本気で相手してやるよ!
──◇──
落ちる落ちる、縦穴の中で。
「カズハ。カズハよ、聞こえるか」
──カズハの協力者。"エルダー・ワン"が声を掛ける。
「うう……うん。大分良くなったよ。ここは……」
周囲は、意識を失っているのだろうか。
目を閉じたままのメアリーとミカンが、一緒に落下していた。
「ここは階層同士の狭間。落下しているように感じるが、正確には転移中だ。意識を持てない空間だな」
「なのに私を起こしてくれたの? 無茶してない?」
「……無茶はした。そして、ここからもする。だから起こした」
"エルダー・ワン"は既に、カズハに対して嘘偽りは吐かないと決めている。無意味だからだ。
第一にこちらの身を案じてくるような女だ。邪険に扱えない。たとえ邪竜だとしても。
「……本来のリメイン階層は一般的な階層と同様、1から9へと順番に繋がっている。
だがここのレイドボスはそのルールを無視し、我々をバラバラにすべく無理に他の階層と繋げたようだ。だからここがチャンスだ」
「……レイドボスの所に行くんだね。お姉さんも行こうか?」
「いや、今なら単独行動できそうだ。それにカズハはそこの二人を守った方がいいだろう」
「わかった。無理はしちゃうんだろうけれど、絶対に帰ってきてね」
「ううむ。わかった、約束だ。フラグではないぞ」
「疑ってないよ」
ここまで来て、リメイン階層のレイドボスは姿を現していない。
【月面飛行】の撃破も重要だが……レイドボスは必ず最後には敵としてぶつかってくるだろう。
そのための布石と、カズハも理解はしていた。
それはそれとして、見送った者が帰ってこなかった寂しさも良く知っている。
「……ライズは何をしているのか。なぜライズは身を挺してカズハを守らなかったのか」
「まーたそういう事、言っちゃだめだよ。ライズ君はライズ君で頑張ってるんだから」
「あいつは一度酷い目に遭うべきなのだ。カズハは未だに心配しているのだろう」
「もー、早く行って!」
「ははは。では、またな」
軽口で締めなくては、気持ちが入らない。
──このリメイン階層に流れるレイドボス用の回線には、"恐怖"や"焦燥"があった。
ここのレイドボスは一体、何を恐れているのか。
或いは、もう戻れなくなるやもしれない。だから最後にと起こしたのに。
最後になれなくなってしまうとは、どうにも。
──"エルダー・ワン"は微笑み、光の中へと消えていった。




