353.危険!逆転する大地
【第141階層リメイン:『常闇の遺跡!水晶髑髏は実在した!』】
──水晶髑髏の球洞
球形の大空洞、その中心の水晶髑髏を目指すステージ。
だがその中央には、スーツの似合うおじ様──【月面飛行】のマリリンが浮かんでいた。
「マリリン! テメェが何しようとしてんのか知らねぇが、こっちは【夜明けの月】がいるんだよ! 数の不利はどうにもならねぇだろうが、さっさと降りて来い!」
「あらぁん、真後ろに敵がいるのに気付いてないダケかと思ったけど、寝返ったのかしらん?」
「寝返ったのは! お前ら! だ!」
うーん。これが【月面飛行】でのアカツキの平常運転か。弄られてんな。
流石に話が進まない。アカツキの話だと、まもなく床がせり上がり、魔物が次々と出て来るらしいし……。
今のうちに確認しておくか。
「おーい! 今言った通り、こっちは戦闘するつもりだ。クローバーもいるぞ、どうするつもりだ?」
「あらんイイ男。アテクシ、頼り甲斐の無い男の方が好みなのよねん」
「そりゃ結構。アンタもイイ男だと思うぞ」
「んん連れないわね! いいわ、説明してあげる。
アテクシ達【月面飛行】10人!……アカツキのアホを除いて9人は、ここのレイドボスと手を組んだわ! 階層一つに一人。その階層の支配権を与えられた!
アテクシは最早この階層そのものと言って過言無いわ。ご納得頂けたかしら!?」
……思ったよりズブズブだな。だが、今の会話である程度把握できた事もある。後ろのメアリーが声を抑えて耳打ちしてくる。
(つまり、ここのレイドボスは攻略階層を操作できる立場にある訳ね。自我持ちかしら)
(恐らくはそうだな。厄介そうだぞ……)
【月面飛行】9人という個人的な所に接触してきた事は、明らかにレイドボスとしての挙動ではない。例によって自我持ちだろうが……ディレクトールに万誑命といった友好的な自我持ちレイドボスから話を聞く限りはほぼ回線に浮上して来ない、暫定自我無しだったはずだ。
……ってかセカンド階層のレイドボス、ここまで一人残らず自我持ちなんだが。外的要因が多いとはいえなぁ。
「……おいライズ! マリリンは【サテライトガンナー】だ。つっても【サテライトキャノン】の精度に難があって、ほぼ【スナイパー】みてぇなもんだけどよ。とにかく、距離取られてる今はキツいぜ。 雑魚でさえレベル145だぞここは」
「散った方が良いか。アカツキ、お前【サテライトキャノン】は避けられるか?」
「散々クアドラの喰らってきた。マリリンのカス精度の【サテライトキャノン】なんて当たらねぇよ」
「よし。速度に自信の無いメンバーはメアリーかリンリンの近くに。雑魚敵の処理もあるからクローバー以外は単独行動するな!」
「了解。一丁行くかァ!」
大きく地響き一つ。球体の壁からいくらかの足場が中央へ向かって浮上し──その下、足場の裏に……蜘蛛っぽいのがいる。きしょい。
──【スキャン情報】──
《スパイダー:アンチグラビデイ》
LV145
弱点:光
耐性:地/火/打
無効:
吸収:
text:
遺跡に住み着く大蜘蛛。隙間の多いリメイン階層に適合し、巨体の割に全身が柔らかく色んな隙間に潜り込める。
一度隙間に隠れ索敵範囲から逃れると、一瞬で出産増殖する。無限の兵力を持つ代わり、縄張りの外には出て行かない。
また、飛行は出来ないが、どんな高さからも着地できるため落下ダメージを無効にできる。
────────────
「……マトモに相手する必要無さそうね。ジョージ! "ぷてら弐号"出して!」
「相わかった」
呼び出すは巨大灰竜、俺達の頼れる"ぷてら弐号"。
空中戦ならこの暴れ竜が頼りになるか。
「拠点防衛型とここの蜘蛛は相性悪いわ。ミカンは"ぷてら弐号"の操縦に回って!」
「わかったのです。遠距離火力のドロシーを連れていっても?」
「それアリね。任せたわ」
「はい、お任せを」
手早く手早く。蜘蛛が足場を裏から回ってきて……気持ち悪くなってきた。
「あくまでも抵抗するのね。なら容赦しないわ【夜明けの月】!──【サテライトキャノン】!」
マリリンが放つ光の束。
それは天からでは無く──マリリンの正面から、こっちに向かって。その規模は──
「──100%です! 皆さん、回避を!」
──話が違う!
「【チェンジ】!」
「【ミスリーディング】!」
「【建築】!」
転移、或いは質量防御。リンリンレベルに尖った防御性能でもないと、防御無視無属性バカ火力の【サテライトキャノン】なんて受けられない──!
「あらん。一人もオチてないのねぇ」
「ふざけ……ふざけんなよマリリン! これまでは手ぇ抜いてたのかよ!」
砕かれた足場。
俺、カズハ、ゴーストはリンリンとミカンに守られながら一つ下の足場に落ちた。
ツバキは咄嗟に"ぷてら弐号"に乗ってドロシーと一緒に離陸。スペードは数瞬前の位置で、ギリ【サテライトキャノン】圏外へ。
クローバーはアイコが担いで別の足場へ。メアリーとジョージは転移とフィジカルで回避。
アカツキは……どうやってか、或いは自分だけ逃げられる位置にいたか、なんか生き残っている。
「違いますアカツキさん。どうやらマリリンさんは、座標軸を操作できる様です!」
「どういう事だよチビ!」
「つまり、常時100%【サテライトキャノン】を撃てる状態にあります!」
ドロシーからの端的な説明。
──この空洞は、中央を上に、外壁を下にと特殊な重力が発生している。座標関係のスキルは相当使いにくそうだ。
そしてその階層を支配しているというなら、機械的に座標を操作出来るって事か? システムの力を使えるってことは、【サテライトキャノン】も100%で撃てると。ふざけてんな。
「目がいいのねぇ、イイ子じゃない? アテクシ、女の子も範囲内よ」
「申し訳ありませんが、男です。そして──貴方を倒す【夜明けの月】の【サテライトガンナー】、ドロシーです!」
ドロシーは【天使と悪魔の螺旋階段】の銃口をマリリンに向ける。
ふざけた口調のマリリンは──すっと、目を細める。
「アラ──そう。それじゃあ負けられないわね」
「みなさんは現状維持と、流れ弾に注意して下さい! ここは僕が!」
"ぷてら弐号"の背から、ドロシーの声。
【サテライトガンナー】同士だからってわざわざぶつかる必要は無い。相性の良いジョブを当てた方が良い。
が、ドロシー本人がそう言うのなら。こっちは任せるしかないな。
「ツバキさん、任せました」
「……いいわよ。遊んでおいで?」
ツバキは何と反応するでもなく。"ぷてら弐号"は首を曲げ──上空、マリリンに向かって浮上!
「挑戦かしら。10秒のインターバルあれど、火力は他にもあるのだけれど?」
マリリンの正面には、まるで壁になるかのように足場が展開される。その裏側、つまりドロシー側には蜘蛛がいるわけだが。
「ぷてらちゃん、回って」
──高速浮上中の方向転換。クイックターンするかの如く身を翻し、蜘蛛を足蹴に急旋回。そのまま今度は下降──!
「逃げるしか無いわよねぇ!」
「そんな事はありませんよ」
──回転する勢いで。
"ぷてら弐号"の背からドロシーが射出され、マリリンの目の前まで肉薄する!
「──【アステラ・ピット】!」
「甘いです。【デッドリー・ショット】!」
慌てて展開されたピットの隙間を縫うように。
黒き雷がマリリン──の頬を掠め、背後の水晶髑髏を撃ち抜く。
ピットからのレーザーは、半数が直撃。狙いは元から、そのホログラムだった。
「ホログラムというのは本当みたいですね。ですが、触れましたよ」
「──ぬぬぬ──可愛さ余って、憎さ百倍ねぇ!」
足場移動によって、ドロシーを横へ薙ぎ払う。あまりに痛々しいが、落下ダメージ軽減のドロシーにおいて足場で攻撃してもダメージにはならない。
マリリンの視界の端、【夜明けの月】が来た位置とは真逆の位置の床が開く。──システムと化した以上、ある程度のルールには逆らえない。
「でも、タダで行かせはしないわ──」
「もう遅い、ですよ」
別の足場に乗ったドロシーは、依然【天使と悪魔の螺旋階段】の銃口をマリリンに向ける。
マリリンの視界の端を飛ぶ灰色の竜は──【夜明けの月】とアカツキを乗せて、一瞬で次の階層の穴へと飛び込んだ。
──◇──
──空洞──次の階層へと続く道。
「おい! チビを拾い忘れてんぞ!」
"ぷてら弐号"に噛みつかれたまま運ばれてるアカツキ。良かった、敵判定で噛み砕かれたりはしていないっぽい。
「マリリンは141階層と結びついてんだろ!じゃあ141階層に放置しとけばいいって! わざわざチビを置いていく必要無ぇだろ!」
「あくまで各階層の支配権を割り振られただけだ。別の階層に移る可能性はある。だから、ちゃんと倒しておかなきゃならないんだよ」
「倒すっつったって、あのチビがマリリンに!? 平時でも勝てねぇだろ! しかも今はあのバカのホームグラウンドだぞ!」
正論ではある。カフィーマ突入前に散々、タイマンで戦うなって指示してたし。
……まぁ、他の連中なら、って話だ。
「あれでいてウチのNo.3だ。何とかしてくれるだろ」
「──おいおい、【夜明けの月】の戦力も底が知れるなって痛い痛い! このトカゲ、身内の悪口に反応してんのかよ! NPCの癖に!」
「そりゃちゃんと生き物で仲間だからな。あんまりそういう言い方するのやめとけアカツキ」
「いやだって……うーん……NPCは生きてんのか?」
その辺はもう哲学の世界だ。自分で納得いく答えを出すしかない。
……ともあれ。一人にしたのは……もしも負けて奪われた場合の被害を減らす目的でもある。勝たなくていいから死ぬなよ、ドロシー。
──◇──
──水晶髑髏の球洞
マリリンさんは【アステラ・ピット】を展開。まだ攻撃には移るつもりは無いようです。対話の意思はあり。銃口は下げず、会話に移ります。
「──マリリンさん。いや、【月面飛行】の皆さん。随分と物騒な狙いをしているんですね」
「あらん。心でも読めるの? それとも、当てずっぽうかしら?」
「……実は未来が見えるんですよ。この先に起きる事を見てしまったので」
嘘……であるかどうかは、あまり興味が無さそうです。
マリリンさん、ふざけた発言の割に中身はずっと冷静です。あまりに急ぎだったので情報共有できませんでしたが……。
「ここから逆転とは、随分と豪胆です。……【月面飛行】の、【セカンド連合】の敗北は覆らないのでは?」
「宝珠が欲しいなら勝手に持っていきなさいな。【月面飛行】は、その後全てを手に入れるわ」
【月面飛行】は、先を見据えている。
利害の一致……という建前のくせに、その実アカツキさんが心配な保護者集団です。
そんな彼らがアカツキさんを追放した理由は、一つです。
「……【Blueearth】を、壊すつもりですか」
「場合によっては、ね。どちらにせよ、このままじゃ滅びるわ」
──また【Blueearth】の危機ですよ、聞こえてますか天知調さーん!




