352.懐疑!怪しき協力者
【第141階層リメイン:『常闇の遺跡!水晶髑髏は実在した!』】
「ぶぇあああああ」
「鳴き声が汚ねぇ……」
アカツキを捕獲……保護?した。
天下の【月面飛行】ギルドマスターがなんだこの無様は。外のブックカバーとマックスが知ったら殴り回されるぞ。
……ジョージとアイコに周囲を警戒させ、ドロシーと一緒にアカツキの尋問を始める。
とは言っても、こちらが何をするでもなくアカツキがぺらぺら話し始めたのだが。
「もう宝珠も集まりきらねぇからよぉ、ここで不意打ちでもしてせめて【夜明けの月】の思い通りにはならないようにしようとしたんだけどよぉ」
おい。
「……仲間全部、あいつに奪われた。もう用済みだって、殺されかけた!
頼むよライズ! ここで死んだら俺、カフィーマにリスポーンしちまうよ! そしたら負けたのバレちまう!」
「なんでそこまで情けなくなれるんだお前」
「頼むよライズ! 何もできねぇし何もくれてやれねぇけど助けてくれよぉー! 人助けだと思ってさぁ!」
「せめて宝珠よこせ」
「奪われたんだよぉ!」
ううん役立たず。教育に悪いという理由でドロシーは後ろに下げられた。まぁこの期に及んで嘘言えるような精神状態じゃないだろう。教育に悪いのは本当にそう。
「……ここまで来て宝珠をすんなり手に入れました、じゃ世間は納得しないでしょ。ちゃんと正々堂々公衆の面前でボコボコにして奪い取るわよ」
「舐めんなチビ。俺がお前なんかに負けるかよ」
「どつくわよ」
「痛い! やめてよー、弱いものいじめだー!」
……メアリーも退場。多分話が進まない。
「……で、何が起きたんだよ。愛想尽かされて逃げられただけじゃないのか?」
「その方が現実味あるけどよ、てかそうなのかもしれねぇけど! でも違うんだよ!
ここのレイドボスがずっと不在なのは知ってるか?」
「一応、知ってる」
デュークからの情報でもあるが、【草の根】の調査記録からも調べた。【井戸端報道】のコラムを介してジョージが【草の根】と仲良くなったもんだから、色々と情報が入るんだよな。
「このリメイン階層でお前達【夜明けの月】と対峙するなら地の利を得たい。そのためにレイドボスを探してたんだよ。で、見つけた」
「見つけたのか。凄いな」
「うちの仲間は優秀なんだよ。……149階層に隠れてやがったんだ。フロアボスとレイドボスが通じていたんだよ。フロアボスは【災禍の秘宝 コロネル・マリッジ】って言う水晶髑髏でな、そいつを通じてレイドボスと対話できたんだ」
色々と突っ込みたくはなるが、筋は通っている。この期に及んで不意打ち前提なのはどうなんだ。
「で、レイドボスと話をしていたんだよ。"いいから手ぇ貸せよNPCがよ"って。そしたらキレられて、仲間が全員敵に……!」
「やっぱ見切りをつけられたんじゃないか?」
「だとしても俺にまだ利用価値があんのに全員揃って殺しにかかるのはおかしいだろ! 【月面飛行】なんて俺を利用しようとする連中の集まりなんだぞ! 仲なんて最初から悪いし、喧嘩こそすれ一々殺し合いしてたらとっくに潰れてるわ!」
「なんだその自信」
……レイドボスが何かやらかすパターンは、少なくない。ここのレイドボスが結局何者なのか分からないが、とにかく……149階層まで行かないといけないのか。
「……お前、戦えるのか?」
「は? 舐めんなやれるし」
「いやそうじゃなくて、体力的とかメンタル的な話」
「逃げてたのは俺サマ一人じゃ勝ち目が無ぇからだ。むしろ戦闘行動一切取ってねぇからフルパワーだぜ。
メンタルってのはどういう事だ? 洗脳されようと俺に牙を剥いた馬鹿に手加減なんてしないが?」
「そうか。わかったよ」
……もうこいつと話すの疲れてきた。
とりあえず、とりあえずだ。
「149階層まで行ってレイドボスと話を付ける。道中の【月面飛行】は撃破する。アカツキは……いらないな。ここで切り捨てた方がいいか?」
「待ってくれよぉ! 死にたくねぇ! 普通に戦力になるって!」
「裏切らない?」
「………………」
「クローバー、撃て」
「裏切らねぇよぉ! 冗談じゃねぇかよぉ!」
土下座。簀巻きのまま土下座。芋虫みたいだな。
……非常に、非常に気が乗らないが。仕方ない。
「単独行動しない。勝手に喋らない。裏切らない。いいな?」
「おう、任せとけ!」
不安だ……。
しぶしぶ拘束を解除。アカツキを自由の身にする。
……とりあえず、この時点で襲ってきたりはしないみたいだ。
「マジ感謝する。俺様、なんたって【スイッチヒッター】最強だぜ。頼っていいんだぜ」
「うるせぇ〜……」
「実際頼りにはなるだろうよォ。ちゃんと目ェ付けとけ。普通に逃げるだろ」
「まさかそんな! 俺様、忠義にあついんだぜ!」
白々しすぎる。本当に大丈夫なのかこいつ。
──◇──
カフィーマの秘密。
カフィーマの神秘。
カフィーマの悪意。
──カフィーマの謎。
秘めるだけ。それだけで、餌は寄ってくる。贄は集まる。
容易い、容易い。
セカンド階層セキュリティシステムの通信は傍受していた。
自我は発現していない、フリをしていた。
なぜなら、私はあまりにも不利。
皆が先に動くのを待つ必要があった。或いは、後ろに控えたあの怪物へ譲ることすら検討した。
幸い、私は冒険者にバレていない。レイドボス達は次々撃破されているし、私も撃破される必要はない。
のに。
あまりにも都合が良すぎた。
私から宝珠を奪った愚物が、堂々と宝珠を私に捧げに来た。
或いは。
或いは、かの怪物にすら届きうるやもしれない。後ろの怪物を冒険者達が撃破したならば、私がセカンド階層セキュリティシステムの王となるのだから。
とはいえ。
まさかこの愚物、何も考えていないはずがない。
私に自我がある事を確かめに来ているのか。見え見えの挑発をしてくるし。
今の私に出来る抵抗は……"財宝魅了"程度だ。
しかし、ここまで来て仲間の絆と財宝の魅力を天秤にかけ、財宝を取るような奴はいない。
この魅了は、失敗する事を想定された……やられ役の技なのだ。
まあ、試してみるか。
効いちゃったよ……。
え、困る。どうしよう。
うーーーーーーん……。
仕方ない。ここで挑むか。
【Blueearth】を、私が手に入れてみせよう!
──◇──
──side:ライズ
「ところで、アカツキの装備はどんなもんなんだ」
純粋な好奇心。
アカツキ曰くこの階層は相当距離をただの階段が占めているとのことで、半分信じない程度にゆるく警戒しながら先を進んでいた。有り体に言えば、暇だ。
【スイッチヒッター】最強、その実力を知りたい。味方のうちしか分からない事もあるだろう。
アカツキの【スイッチヒッター】としての立ち回りは、ヒガルで戦った時によく理解した。
あらゆる相手に対して、わざわざ相手の土俵に合わせてジョブを切り替え、そしてボコボコにされてきた経験。それにより得た多くの武器戦闘経験を活かし、目の前の相手と同じ武器を選択。それで勝つ。
だがプライドが高くプライドが無い残念さんなので、容易く前言撤回。暇があれば【スイッチ】して武器を切り替えてくる。
戦術にも武器にも執着が無い。そのくせ相手と同じ武器でたたきのめしてやろう、なんて底意地の悪さを見せつけてくるスタイルだ。言い方は悪いが、無意識的に臨機応変でありながらそれを感じさせない頑固さを装っていると言うと策士のように聞こえる。
「デフォは二丁拳銃だ。クローバーを倒すつもりだったからな!」
「おーおー言ってくれんじゃねェの。ずっとボコボコにされておきながらまだギラついてんのかよ」
「挑み続ければ、いつかは勝てる!」
「実績が残せなけりゃ努力とは呼べねェんだぜ。見せてみろ……おいおい、強化してねェのかよ」
「弾丸の方を強化したんだ。銃の方はすぐ壊れるから【スイッチ】で使い潰すから一々強化してらんねぇんだよ」
……少しだけ正論ではある。一ギルドである【月面飛行】に大量の武器を強化する資源も資金も時間も無いか。
そして戦略に【スイッチ】が入ってる。乱暴だが、かつてよりは真面目に【スイッチヒッター】やってんな。
「お前ら好き勝手やってくれて【セカンド連合】はズタボロだ。お前ら嫌い。
……だけどよ、バルバのアホとかマックスとかが盛り上げてんのを見て……どんどんハードルが上がってきてよ。迷惑な話だ。
だからちょっと頑張ってみたのによー! てのひら返して馬鹿にしやがってよー! 【月面飛行】はオワコンだってのかよー!」
「言ってないって」
「そう思われてるって話だろーがよー!」
しまった。
こいつ面倒くさいぞ。
「アカツキさんは随分と仲間想いなのですね」
「は? ちげーし」
たまらずアイコが割り込む。多分外見に気圧されているのか、アカツキがやや大人しくなってる。
「我々はよくバルバチョフさんのお世話になりましたが、あの人はいつも貴方を案じていましたよ」
「あいつの勝手だろ。勝手に割り込んできて、勝手に消えやがって」
「引き留めなかったんですね?」
「慣れたもんだ。お遊びじゃねぇんだ【月面飛行】は。
使い使われ、利害関係だけなんだよ。引き留める必要はねぇ」
「利用価値があるなら手放さないのでは?」
「……それもそっか。でもよ、俺はあいつらの事、いてもいなくてもいいって思ってるぜ」
「旅立つ人に罪悪感を与えないため、そうふるまっているんですよ。優しい子ですよ、アカツキさんは」
「……んんんんん……そうか?」
「いえ、アカツキさんは味方を切り捨て自らを不利に立たせる愚かな飾り物の王です。やさしさなんてありませんよ」
「なんだこのガキ!」
ドロシーステイ。落ち着け。アイコは誰にでも優しい。
「……っと、そろそろだ。
141階層……ってかリメイン階層はアスレチック要素が強ぇんだ。階層単体は広くねぇが、乗り物での移動は向いてねぇと思うぜ」
アカツキの案内の先、大きな広間──というか、大空洞。
球体の部屋の中央に、水晶の髑髏が浮かんでいる。
「あれ、ホログラムなんだ。でもあそこまで行けばクリアになって次の階層に行けるんだよ」
「飛んでいけばいいって話か?」
「いや、ここは重力が不安定なんだ。壁──そこから見たら床、だな。ともかくそれが浮かんでいく。で、その下に隠されていた魔物がわんさか出てくるからそれを倒しながら上に行く……縦スクロールだな」
「成程な。お前、結構ゲーム好きか?」
「サムライ”アシュラ"に言われたら答えにくいけどよ……そりゃ好きだよ。ここ【Blueearth】だぞ、ゲーム好きしかいないに決まってんだろ」
宝珠によって記憶が復活しているアカツキだが、特に深い過去は無いようだ。ただのゲーム好きなガキ。多分クローバーからの好感度は高くなったぞ。
「……重力がどうあれ、【チェンジ】でズルできそうね。さっさと行ってくるわ──」
「お待ちになりなさって、そこのレディ!」
甲高い、いや、野太い声。
どこだ? 上か?
ふと見上げれば水晶髑髏の隣に……ビシッとしたスーツ姿が似合う、イケオジ。
え、あれが今のセリフを?
「あいつは……マリリン! てめぇそこで何してやがる!」
「まりりん」
「あーら誰かと思えばアカツキのアホ! まだ生きてたのねぇん。アテクシが引導を渡してやるわ!」
「あてくし」
ダンディなイケオジの口から信じられん喋り方が出てきて脳がバグる。
「デビルシビルといいバルバチョフといい、なんなんだ【月面飛行】は。ちんどん屋が!」
「うっせぇ! その辺の連中が例外なんだよぉ! うちは! 硬派な! ギルド!」
「そうよそうよぉ! 【月面飛行】はカチカチなのよぉ!」
「ちょっとお前黙ってろマリリン!」
早くも頭痛がする。こんなのがあと何人いるんだよ。
 




